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ゲーム脳盗賊、闇を狩る。  作者: 土の味舐め五郎
第一章 ~カマルナム王国脱出~
18/93

メインクエスト:小目標『ムッタの銅貨を盗む』


   ◇◇


 はっきりとしているようでぼんやりと霞んでいる世界。

 

 俺は林の中を歩いている。

 

 どこかで見たような景色の中を歩いていると小屋が見えてきた。


 わかる。あの小屋だ。俺が寝ていた山小屋。


 中を窺うとそこには誰も居ない。

 少し慌てたように辺りを見回し、地面を注意深く観察している。足跡か何かを見つけようとしているのか。


 そこでなんとなく感づいた。これは別人だ。そして、俺を探している。


 やがて何者かは山を下り始める。 


 速い。


 木々の生い茂る道なき道を駆けている。障害となるものは全て薙ぎ倒して、大小さまざまな木の枝が身体にぶつかっても意に介さない。


 もしかしたら、気を失った俺を運んだのはこの人物なのではないか。


 あっという間に開けた場所に出るが、目の前は崖だ。しかし視界の主は迷わず跳躍。


 まずいと思い咄嗟に目を閉じる。


 重力に引かれる感覚が無いことを疑問に思い目を開ける。

 

 今度は黒い霧が立ち込めた場所にいる。石のレンガが敷き詰められているのがわかるが、ほとんど廃墟のような場所。少しずつ、黒い霧が視界の全てを覆い隠していっていき、霧の向こうからは邪悪な気配を感じる。


 何か良くないものが来る。


 恐怖と焦燥が心を満たしていく中、熱を感じる。体が少しづつ焼けていくような感覚。

 熱いが、震える足に力を込められる。もう少しで立って逃げられる。

 だが、黒い霧がこちらに手を伸ばし引きずり込もうとする。


 ちくしょう!もう少しだったのに!! 


 諦めかけたその時、隕石のような巨大な塊が目の前に落ちてきて、霧を粉砕した。

 

 隕石のようなそれは巨大な爪だった。

 

 竜の腕のようなものが俺の背後から伸びている。

 霧は遠のき薄くなってゆく。代わりに、鮮やかな若緑の光が火の粉を散らしながら辺りを包み込み、揺れていた。


 俺は後ろを振り返り……。


 そこで目が覚めた。


   ◇


 炉の火は消え、小さな窓からは月明りが差し込んでいた。

 煩かったボレーとルバロのいびきは聞こえず、家の中は静まり返っている。

 どうやらまだ真夜中のようだ。

 それほど長時間寝たわけではないはずだが、不思議なことに酔いはすっかり覚めており日中の疲労もほとんど感じず、体が軽く感じる。


 これは、なんだ?怖いくらい身体の調子がいい。自分では起きたつもりでいて本当はまだ夢の中だったりするのか?


 そう思ったのも束の間。不意に鼻を衝いた酒臭さが、これは現実だぞと教えてくれた。


 どうやら夢をみてるわけじゃなさそうだ。それなのに、少し眠っただけでこれほどの疲労の回復度合いは生まれて初めてだ。


 特別なアイテムを使ったりしたわけじゃない。寝ただけだ。むしろそれが理由か?屋根のある場所の寝床を利用して休息をとることで、肉体の疲労や状態異常が取り払われるシステムなのかもしれないな。なるほどそれならゲームらしい。寝る前に十分な食事をしているなければまた変わってくるのかも。


 脳内に〈パァーー〉という効果音が響き、GNPが1付与された。


 重要な事をすっかり忘れていた。このポイントについてもっと調べなきゃ。幸い、今は考える時間が十分にある。


 だが同じタイミングでクエストの小目標も更新された。


・『ムッタの銅貨袋を盗む』


「な……」


 何を驚いているんだ俺は。盗賊ならこういう事もあるってわかっていたはずだろ?みんなが寝ている今の内がチャンスだ。それにムッタ婆さんも言ってたじゃないか、俺に銅貨をあげようかって。ちょっと順序がおかしくなっただけさ。 

 

 やるせなく首を振る。


 自分の心にどれだけ言い聞かせても、気は乗らない。


 今更ながら、なんで盗賊などやろうと思ったのか。いや、そもそもこの世界に来た時点で盗賊というジョブは決まっていたはずだ。よくよく考えれば、自分のよう決して神経の太いわけじゃない男が盗みを働いて生計を立てようとするなんておかしな話だ。全く持って向いていないじゃないか。


「今更遅いか……」


 小さく呟く。

 

 諦め半分で姿勢を低くする。隠密状態に加えさらに用心して忍び足で、ムッタが寝ている部屋を探す。

 標的は難なく見つかった。

 ムッタはすぐ隣にある部屋のベッドで、壁の方を向いて寝ていた。ボレーやリーベは別の部屋らしい。これならまず気づかれないだろう。

 銅貨袋はすぐには見つからなかった。が、スキル『目星』のおかげでベッドの下の暗がりに巧妙に隠されているのがわかった。幸いなことに発見しづらいだけで面倒な防犯対策はされておらず、銅貨袋はあっさりと手に入った。


 窃盗の経験値が上がり、『盗賊の目』に関するスキルポイントが1増えた。


 盗みが成功し、小目標に『さらに家の物を必要なだけ盗む』と追加される。

 

 俺はそれを無視してすぐに自分の寝床に戻って毛皮を被り目を瞑った。


 △


 翌日早朝。

 目を覚ましたムッタはベッドの下に隠してあった銅貨袋を確認するとこっそり懐に入れて、何食わぬ顔で台所に向かって湯を沸かし始めた。

 リーベも少し遅れて台所にやってきて朝食の用意をする。入れ替わりにムッタは家畜の世話をしに家の裏へ。最後に男たちが目を覚まし始める。


「今日もいい朝だね」


 遠くの空を見上げてムッタが呟く。


 陽の光が東の空から漏れ出し、まだほとんど群青色の世界を照らし始めた。


「おはようムッタ婆さん。やっぱり農家の人は早起きだね」


「そういうあんたも早いじゃないかカゲミチ」


「昨日はやけにぐっすり眠れて、身体の調子が良くってさ。餌やり手伝うよ」


 ヤギリは岩鶏と呼ばれる鳥の家畜に餌をやり、ムッタはその間に卵を拾う。

 

 ぐっすり眠れたというヤギリの言葉は半分嘘である。

 あの後、ヘタレの新米盗賊は結局盗んだ銅貨を元の場所にもどした。良心の呵責があってどうしても恩人の物を奪うことができなかったのだ。


 代わりに『回数』はそこそこ稼いだ。

 

 適当な物品を盗んでポーチに入れ、再びそれを元の場所に戻すという事を時間が許す限り繰り返した。


 そのおかげで、窃盗の能力値とレベルの上昇によるパラメータ変化、アチーブメントの取得などがなされた。 本来であればこっそり家を抜け出して他の場所でも経験値を稼ぐことが可能だったのだが、今のヤギリにとってはこれが精いっぱいであった。


〈アチーブメント〉

 ・初めての泥棒

 ・初めての看破

 ・合計で10回盗む

 ・合計で20回盗む

 ・初めてのスリ

 ・寝ている者から盗む

 ・スリ10回

 ・スリ20回


 ヤギリは「どのみち返すんだからやれることはやっておこうと」途中からは多少開き直り、寝ているムッタを実験台にしてスリのやり方を練習していた。これは実際に相手に触れる必要があるため、相当ドキドキしながら試行を重ねることになった。


 20回ずつで切り上げ、ヒヤヒヤしながら再び寝床に就くヤギリだったが「バレないよな?」という不安でなかなか眠れないまま時間が経ち、やっと意識を手放した時にはほとんど朝型である。それでも、ガメスのシステムにより疲労の回復が行われているので目覚めはすっきりというわけだ。


 手伝いが終わり、ボレー一家と軽い朝食をとるヤギリ。


 岩鶏の新鮮な卵を使った目玉焼きをヤギリは気に入り、「それならいくつか持って行きな」とムッタに言われ貰うことに。岩鶏の卵は名前の通り、殻も岩のように固いためちょっとやそっとじゃ割れない。だから袋に入れて持ち運べるし、いざという時には武器にもなる。ちなみに、産んだ直後の卵は柔らかく、時間経過とともに岩のように硬くゴツゴツし始めるのだ。


 ボレー一家はやがて農作業に向かい、ムッタとヤギリが茶を飲み始めた所にボレックがやって来た。

 

「カゲミチ。荷が積み終わったからそろそろ出発するぞ」


「今行きます。それじゃあムッタ婆さんお元気で。ボレーさん達にも世話になったとよろしく伝えてください」


「またこの村に来ることがあったらこの家に寄るんだよ。またあんたの故郷の話を聞きたいからね。それからボレック。またお願いするわね」


 ムッタはいつのまにか書いていた孫への手紙をボレックに渡した。


「はいよ。それじゃあまたな」


 ヤギリとボレックは村長の家へと向かった。すでに荷馬車が用意されていて、いつでも出発できる状況になっている。


「乗り心地は良くないと思うが、荷物と一緒にで我慢してくれよ」


「贅沢は言いませんよ」


 村に来る前よりも若干空いている荷台に颯爽と乗り込むヤギリ。


「昨日のスプライタスの背中よりは安全ですからね」


 スプライタスは「悪かったな」と言わんばかりにヤギリを一瞥して軽く鼻息を鳴らした。


 ヤギリも「怒るなよ」と言い、ボレックは笑う


 そして村長に見送られ、商人と盗賊はコサの町へと旅立った。


 

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