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ゲーム脳盗賊、闇を狩る。  作者: 土の味舐め五郎
第一章 ~カマルナム王国脱出~
15/93

メインクエスト:小目標『荷馬車の主を助けよ』1


   ◇


 今俺がいる所からは、荷馬車と繋がれた馬、そして人間が一人いるのがかろうじてわかる程度。

  

 ここからじゃさすがにわからないな。声をかけるにしても、もう少し近づいて様子を確認してからにしたい。

 

 ある程度の所まで近づいてから再び目を凝らしてみる。するとはっきりと様子が伺えるようになった。馬が二頭と、その後ろの荷台には汚れた焦げ茶色の布がかぶせてあり、商人と思しき男が荷台の脇に屈んでいるのがわかる。

 そこまでわかったところで違和感に気づいた。


 見えすぎている。俺は目は良い方だが、ここからはまだ随分と距離がある。


「おかしい」 

 

 そう呟くと、タイミングを見計らったかのように、チュートリアルの画面が視界に浮かび上がる。


〈盗賊のジョブボーナスによって、現在の視力は通常よりも良くなっています。このボーナスはプレイヤー本来の視力の良さによっても変わります。さらに、目をよく凝らしたり手をかざすなどの動作をすることにより、ズームすることも可能です。実際に試してみてください。ちなみに、これらの視力や視界に関する能力はスキルポイントを消費することで強化もできます〉


 城でナビゲートされた時と同じ電子音にどこから安心感を覚えながら 促されるまま目を凝らしてみる。

 しかし、変化はない。


「ああそうか。さっきはもう目を凝らしてたからな。これでさらに手をかざしたら……?」


 見える。さっきよりも景色は拡大され、荷馬車の主の様子が鮮明になる。


 主と思われる男は屈んで荷馬車の車輪を触っているように見える。こちらに背を向けているから表情はわからないが、車輪に異常が生じて動けなくなり困っているといったところだろう。

 

 状況はある程度わかった。


 「あそこに近づけって事は、助けろってことだよな」


 チュートリアルの声に対して質問をするように呟いてみるが、返答はない。


 まあ答えてはくれないよな。でも仮に助けろと言われても、車輪を修理するような技術は俺にないぞ?大丈夫か?


 若干の不安を感じつつも、少しづつ荷馬車へと近づいていく。残り20mくらいまで進んだ所でこちらも屈んで姿勢を低くする。視界の下部に『隠密状態』と一瞬表示され直ぐに消え、代わりに小さな横棒のような表示に変わる。


 よし、ちゃんと隠密状態になった。この表示なら全然気づかれていないはずだ。……それはいいんだが、なんて話しかければいい!?知らない男が一人山の方から降りてきてこっそり近づいて来たら、それこそ山賊か何かと間違われるんじゃないのか?


 声をかけるには近づきすぎてしまったかと後悔する。ゲームであれば気にせず近づいて会話ボタンを押せばいいだけの話。決められたセリフを聞き、必要に応じて選択肢を選ぶ。しかしこれは単純なゲームの世界ではないから、同じように肉薄したらまずいことになるかもしれない。


 せめて選択肢はあってほしい。


 ガメスの恩恵で会話の最中の重要な部分では選択肢が表示されるようになったりはしないんだろうか?それから、こういう状況に対応するために『遠くから話しかける』みたいなコマンドがあったらいいんだけどな……。いや、コマンドも何もそこは普通に自分でやれば済む事だ。


 その時、例の『パァ~~!』という効果音が流れる。


 またこの音か。いったい何なんだ。


「ん?」

 

 ふと視界の左上に文字が浮かび上がる。よく見ると〈GNPを2ポイント獲得〉と小さくログが表示されている。


 これがGNP!この効果音はGNPを取得した時の音だったのか!えーっと待てよ。この音がしたのは……確か地下の訓練場の時と、ダメだ。そこしか思い出せない。それに具体的なタイミングもいまいちはっきりしない。いやいや、まずは思い出すより今のポイントだ。特に俺何もしてないのにポイントが入った。会話の選択肢と便利なコマンドのことを考えてただけだぞ?思考も判定されるって、さすがは神様ってところか。……じゃなくて、GNP取得条件を判明させないと。


 考えていると〈遠くから話しかけてみてください〉という音声が聞こえてくる。

 

「さすがにコマンドで処理はできないか」


 仕方がないと思いつつ、荷馬車の主の背中を見つめる。すると視界にうっすらと鍵括弧付きの文字が表示される。


 ・「おーい!」


 とても短いが、セリフのようなものが出てきた。

 

 これを読み上げればいいのか?たったこれだけ?


 ヤギリは立ち上がり、意を決して話しかけた。

   

「おーい!」


 屈んでいた男は驚いて立ち上がるとこちらを振り返る。


「な、なんだ!」


「すまない!助けてくれないか!」


 続けて表示されたセリフをそのまま口にする。なるべく焦っているように、大きい声で。


 背の低い草が茂る野原を歩き、もう少しだけ荷車の方に近づく。

 商人らしき男は少しタレ気味の目と整った口ひげが印象的で、顔は老けているように見えるが身体はガッシリとしている。それなりに良い拵えの衣服を着ているが土で汚してしまっている。

 

 男は険しい表情をしていたが、俺のボロボロの服装を見てなにか思うところがあったのか不憫そうな目をした。


 「助けてくれだって?まさか山賊にでも襲われたか?」


 「ああそうなんだよ!攫われかけてたんだが、死に物狂いで逃げ出してあっちの山からやっとの思いで下りてきたんだよ!」


 このセリフは選択肢に出ていたわけではない。自分でも驚いているが、山賊に襲われたことにすれば都合がいいと思ってとっさにそれっぽい説明が口から出てきた。それに、攫われて必死に逃げてきたのは間違いではない。


 「そりゃあ災難だったな。いや、逃げられたから運がいいともいえるな。いや待て。……逃げてきたって事は山賊共がアンタを探して追ってきてるんじゃないのか!」


 「た、確かにそうかもしれない。逃げ切ったとは思うんだが、もたもたしてたらここに来るかもしれない……」


 来ないと否定したいところだがそれは不自然だ。かといってこの流れはあまり良くない気がする。山賊が仲間割れして殺し合ってる隙に逃げてきたって言うべきだったか?もう遅いか……。


「おいおい……勘弁してくれ!今車輪がイカれちまって動けなくなってんのに。いや、アンタが悪いわけじゃねえが。こっちも助けて欲しい状況でな」


 失敗したかな?どうする……まずは俺が一番焦ってるように見せないといけないが。


「俺にできることがあれば手伝う!なんとかならないか!?」


「そうは言ってもお前さんには無理だと思うが……」


「車輪が壊れたのか?」


「だと思うんだがな、パッと見どこもおかしくねえ。そこにあるちょっと大きめの石ころに一瞬乗り上げたのが悪かったのか、ガッて音がして急に回らなくなりやがった……クソっ!」


 どうしろって言うんだこの状況。俺にはどうしようもないぞ。


「こっからもう少し先に行ったところに小さな村があるんだが、せめてそこまで行ければ……。そうだあんた!この馬を一頭貸すから、村まで人を呼びに行ってくれないか?盗賊からは一旦離れられるだろう?まあ、アンタがいなくても山賊に見つかったら危ない状況なのは変わらんがな」


「俺はそれで助かるけどいいのか?それに村で人を呼んでも来てくれるかどうか」


「フドの村はいつも通る村で仲の良い知人もいる。荷車の車輪がイカれて動けなくなっていると伝えてくれれば来てくれるはずだ。それと、俺の馬でぶっ飛ばせばすぐ着くだろうが、着いたら村で休ませておいてくれよ」


「そういうことならわかった。えっと、あんたの名前は?」


「ボレックだ。ツラタンの商人ボレックが困っていると、村長のサウンに言うんだ」


「わかった。急いで戻る」


 ボレックの提案に従い、フド村へと行くことを了承する。

 荷車に繋がれた馬の一頭に乗っていざ出発、とおもったのだが。


「すまない……じつは俺、馬には乗ったことが無いんだ」


「ああ……そうかい。いや、まあ大丈夫だ」


 いざというときの為に用意していたという鞍を馬に装着していたボレックは、それほど驚いた様子はなくむしろ納得したような口調だ。


「安心しろ。俺の馬はとてつもなく賢いからな、今ここで話していた事もだいたい理解しているはずだ。乗ったらしっかり手綱を握って、少しだけ前に体重をかけたらいい。止まる時は後ろに体重移動しろ。それだけ気をつければなんとかなる」


「……わかった」


 不安はあるが、正直なところ馬に乗るのは楽しみだ。動物は好きだし馬に乗るのは長年の夢でもあったから。

 覚悟を決めて勢い良く馬に跨る。一度で上手く乗れたことに感動を覚えた。


「それじゃあ行ってく」 


 言いかけたところで馬は勢い良く走りだした。

 慌てて前を向いて必死に手綱を握る。本当にぶっ飛ぶような走りに圧倒され、騎乗を楽しむ余裕などなかった。気を抜いたらあっという間に馬上から放り出されそうな恐怖に身体が強張る。


 さすがに怖すぎる!


「急いでくれよー!」


 やや愉快そうなボレックの声が後ろから聞こえる。その声に反応して、馬はさらに速度を上げた。


 確かにこれは賢い。だが勘弁してほしい。


 荒ぶるように駆ける馬の肉体に必死につかまりながら、早く村に着いてくれと祈るのであった。


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