5話
伝説の剣二号店の経営は、滑り出しから非常に順調だった。
ママの思惑通り、一号店に増えた三十台から四十台の客がそのまま二号店にスライドしたのだ。
開店と同時に様々な客から開店記念の花輪その他贈答品があって、店の前には『元勇者パーティーSSSランク○○(職業名)様』『元勇者パーティー影の実力者様』などの花輪が大量に並んで、店への道は並んだそれらにより人工の花道と化した。
「ママ」
今、そう呼ばれるのは、ロリサキュバスだ。
呼ぶのは彼女がスターティングメンバーとしてスカウトした18歳以上の12歳の少女たちだった(ヒトの世界だと水商売で働けるのは18歳以上からなのだ)。
勇者パーティーからの追放者が集い、全員に職が与えられる休息地では、その特性上、経営者ばかりが増えていく。
なので現在『経営者向けの商売』が最も熱い。
逆に観光客を見込んだ宿屋などはどこもカツカツの状態であり、そういった店は二代目に継がせることもできず潰れていく。
ロリサキュバスが目をつけたのはこの『経営不振の宿屋の二代目たち』であり、彼女らに安定した収入を与えることができればきっと従業員が引く手あまたになるだろうと思っていた。
さらに百万人規模の村なので顔見知りも多く、12歳で18歳以上にならねばならない少女たちの事情――主に家庭の経済状況――を察してくれる者もおり、このような『訴えられたらまず負ける』レベルで違法な営業も目こぼしされているのだ。
なにかあっても、『魔族がやりました』で済む。
そこまで考えて18歳以上の12歳を従業員にスカウトしたとしたら、ロリサキュバスの手腕は見事なものだろう。
実際のところはどうだかわからない。
ただ、『自分と同じぐらいの年代の少女の方が、自分の引き連れてきたお客には受けるだろう』というだけの判断だったのかもしれない。
ともあれ経営は順調な滑り出しで、少女特有のぎこちなさと、喫煙、アルコールNGのなごやかでクリーンな空間が草食系三十台、四十台に受け、そのスナックは健全なお店として次第に周知されていった。
最初はカウンターしかなかったその店はあまりに行列ができるので次第に拡張され、半年も経つころには近隣の潰れた宿屋の家屋を改装した、大ホールを有する二階建ての、女の子三十名超、ボーイまでいる一大店舗へと成り上がることになる。
「もはやスナックではない。女の子がいて、ジュースやお茶を飲んだりして遊べるお店……そう、『ガールズ喫茶』とでも呼ぶべきだ」
誰かが提唱したこの言葉が広く受け入れられ、ロリサキュバスがママ(スナック 伝説の剣一号店のママ)の強いすすめで独立をするころには、彼女の店は『スナック』ではなく、『ガールズ喫茶 伝説の盾』と店名を改めることになった。
順調な経営。
行き場のなかった『潰れることの確定した店舗の二代目たち』の働き先として機能したその店は古参の者からも信頼を獲得し、村(人口百万人)の閉鎖的な社会でも着実にその立場を確立していった。
閉塞感漂っていた休息地の未来に差した、光。
だが、光あるところに影が生まれるのは必定。
ロリサキュバスのもたらした輝ける夜に、暗雲が立ちこめることとなる。
そう、温泉街ではおなじみ、殺人事件だ。