4話
黒いヒモビキニに申し訳程度の腰巻きだけつけた褐色ロリサキュバスのいる店は、連日通りの繁盛を見せていた。
ママにとっても誤算だったのだが、ロリサキュバスは比較的早くヒトの常識を覚えた。
そのことにより彼女が『性的対象』ではなく『看板娘』的扱いをされることになったのが、いい方向に働いたゆえの繁盛だろう。
特にロリサキュバスは三十台から四十台の男性に突き刺さったようで、それまで店のメイン客層が五十より上(ママと同年代かそれより歳上の層)だったのが、ロリサキュバスのお陰で客層の若年齢化が進んできた。
これは店舗にとっては好むべき新陳代謝である。
だが一方で、若者(三十台でも五十台↑からすれば若者なのだ)が増えたことにより居づらさを訴える常連客も出てくるという問題も起こっていた。
そこで、ママはロリサキュバスに告げる。
「あなた、自分のお店を持たない?」
このままでは常連を逃すと思ったママは、店の客層の新陳代謝を行なうのではなく、若年層をロリサキュバスにまかせるという判断をしたのだ。
なにより――
「最近の繁盛はねぇ、今までノンビリやってきたあたしたちには、チョッときつくってねえ。……でも、あなたは精力的に働いてくれているわ。仕事もきちんとこなせているし、他の女の子たちのサポートもさりげなくしてくれている……自分のお店を持ってもいいと、あたしは思うのよ」
「そんな、ママ……姉さんたちは……」
姉さんというのは、先輩従業員であるオーク似の彼女と鳥類系の彼女である。
触手スケルトン系のママは、水割りをグッと飲み干し、
「彼女たちも納得しているわ。ステファニーちゃん(※オーク似の方)もローラちゃん(※鳥類系の方)も、あなたにお店を任せることに異存はないわ」
「……ありがとうございます」
「いいのよ。あなたには才能がある……それは『若さ』という才能かもしれないけれど……いえ、だからこそ、今、お店を持つべきだと思うわ」
「……」
「いいわねぇ、才能……あたしも昔は、遊び人として才能があるって……パーティーの中心人物さえ落としておけば、なにもしなくっても勇者パーティーでSSSランク遊び人として将来安泰だって、そう思っていたけれど……」
「ママ……」
「……あらあら。うふふ。湿っぽくなっちゃったわね。……あーあ。歳をとると昔のことばっかり語っちゃって。気を付けてるんだけれどね。……ロリサキュバスちゃん、そういうわけだから、あなたは明日から、『スナック 伝説の剣』を離れて、お店を持つのよ。二号店という扱いだけれど……ゆくゆくは経営に必要なことを覚えて、独立しなさい」
「本当にありがとうございます」
「いいのよ。あなたの力なんだから。……その代わり、今夜はあたしに付き合ってちょうだいね? たまには店を閉めて、のんびり昔話をしたい日もあるのよ」
「付き合ってっていうのはつまり、セッ――」
「はいそこまで」
「冗談ですよ」
「……もう! この子ったら!」
触手スケルトンを連想させるママは、愛おしそうに笑った。
かくしてロリサキュバスは自分のお店を持つことになったのだ。