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1話

「新しい追放者が来たぞ! もてなせー!」



 のどかな温泉村(人口百万人)に来訪者を告げる鐘の音が響き渡る。


 そこかしこに畑と温泉と宿屋の乱立するその場所は七億体の魔王に対応するため人類が総力をあげて形成した十億人の勇者パーティーからはじかれた者たちの安息地の一つだ。


 ジバニンと呼ばれる島国は温泉とドラゴンと鍛冶が有名で、風光明媚な景色がそこかしこにあるものだから、自然と追放者の安息地もそのような特色となる。


 この安息地で暮らす者はみな『勇者パーティーから追放されたSSSランクの勇者たち』という共通の出自を持っているため、追放者に優しく、新たに訪れた追放者は手厚くもてなす習慣があった。



「大変だっただろう、まずはウチの温泉宿で――ムムッ!?」

「さあ、名物のジバニンまんじゅうをお食べ……ああッ!?」

「どうしたどうした、また一週間風呂に入ってない追放者でも来たか? ……あ!」



 新たに訪れた追放者をもてなそうと村の入口に集った者たちが、一様におどろきの声をあげる。

 それもそうだろう。


 追放者の安息地に新たに訪れたその存在は――


 褐色肌。

 幼い体躯。

 そして頭の左右に角の生えた――



「こいつ、魔族……サキュバスじゃないか!?」

「いや、しかし、まだ子供だぞ。ロリサキュバスだ!」

「ど、どうする?」



 人垣でロリサキュバスを取り囲んだ追放者たちが、黙り込む。

 彼らはもともと魔族と戦い、魔王を倒すための旅をしていた。


 今はもうドロップアウトしたが……

 かつて、たしかに『魔を倒し世界をヒトのものにしよう』と正義の心に燃えていた者たちなのだ。


 サキュバスは魔の者だ。

 いくらまだ幼いとはいえ、倒すべき敵なのである。


 そいつが寝転がって、息も絶え絶えという様子なのだ。

 これなら追放された者たちでも倒せる。

 倒せるならば――元人類代表の末席にいた者として、その義務を果たすべきであろう。


 しかし――



「ほっほっほ……みなの者、うろたえなさるな」



 人垣を分けて、長いヒゲを生やした老人が歩み出てきた。

 周囲からどよめきがあがる。



「ちょ、長老!」

「世界最古の勇者パーティーからの追放者!」

「初代SSSランク勇者を育て上げた賢者様!」



 ジバニンの休息地では伝説的な老人なのであった。

 男も女も、ロリサキュバスを囲んだ者どもは、みな、老人に視線を向ける。


 そのジジイはロリサキュバスを背にかばうような位置に立つと――



「この休息地はすべての者を受け入れる……どのような事情で追放された者であろうとも、すべてを癒し、すべてに職を与え、次なる追放者を手厚くもてなす、温泉と山に囲まれた楽園であったはずじゃ。……迎え入れる者を選んではならんぞ」

「しかし長老、そいつは魔の者です!」

「みなの者、聞くがよい」



 ジジイは持っていた杖で地面を叩く。

 短い草の生い茂った柔らかな土の地面を叩いたとは思えない、コーン、という固い音がした。



「いいか、みな、一線を退いた者たち。意識の高い勇者どもについていけなかった者たちよ。聞くがよい」

「……」

「己の胸に手を当て、考えてみよ。……正直、『魔の者ってヒトよりかわいい、かっこいい』と思ったことが、あるのではないか?」



 人垣を作る全員が、ギクリとした。

 ジジイはふさふさの眉毛に隠れた目を優しく周囲に向け、



「ワシも、そうじゃった。蛇娘(ラミア)を見て、カワイイと思った。あの真っ黒い白目や、なまめかしい腰つき、蛇の下半身のきらめきに、若き日、心がときめいたものじゃ」

「……」

「ハーピーに興奮せぬ男など、男ではなかろう。あの露出度はもとより、翼と化した両腕や、ふわふわとした茶色い羽毛……平べったく小さな体つきを見て、抱きしめたい、翼を枕に添い寝したいと思わなかった男など、おるまい」

「……」

「もちろん、女性にも、似た経験を持つ者はあろう。たとえばデュラハン。あのたくましき鎧をまとった騎士の腕に抱かれ、ともに首なし馬に乗せられ千里を駆けたいという欲求が一度たりともわき上がらなかったと言える者は、おるか?」

「……」

「ミノタウロスの巨体、たくましき筋肉など見た日には、あの割れた腹筋! あの魅力的な腰つき! 牛頭のつぶらな瞳に魅了されなかった者など、いるわけがあるまい!」

「…………」

「そして――女性諸姉。君らには理解しがたいかもしれんが……サキュバスは、男の憧れなのじゃ」

「……」

「しかも、ここに転がっているのはロリサキュバス……男性勇者ならば、誰しもがサキュバスに搾り取られる妄想をしたことがあると言って過言でない。そして一番人気だったのは、お姉様サキュバスでもない。熟女サキュバスでもない。――ロリサキュバスなのじゃ」

「……」

「わしらの憧れが今、目の前におる。……傷つき、瀕死の状態でここにおる。みな、優しくしてやろうではないか。この休息地はどのような事情であろうとも来た者を受け入れる……下心でいい。このロリサキュバスに治療と食事を与え、世話をしよう」



 長老の申し出に、多くの者は反対しなかった。

 だが、ただ一人、まだ若い、勇者パーティーから追放されて間もない青年が声高に言う。



「しかし、そいつは敵だ! もしそいつがこのケガが癒えて暴れ回ったらどうするんです!?」

「その時はみんなで殺そう」

「……」

「ステータスを見た限り、脅威とはならん。魅了のレベルも低い。囲んで棒で殴れば肉片も残らんじゃろう」

「…………」

「しかし、そういった暴力的な手段にうったえたり、『魔の者だから』という偏見に基づく差別的扱いをしたりということは、すべきでないとわしは思っておる。なぜならば――我らみな、パーティーの中心人物たちから、侮られ、差別され、見下された者たちじゃ。負の感情を連鎖させてはならん。優しさで安息地を満たす……これこそが、わしらの歩むべき道なのじゃ」

「……くっ……お、俺は反対ですからね!」



 青年は人垣から抜け、村(人口百万人)の方へと去って行く。

 ジジイは笑い――



「……彼もいずれ、わかる日が来るじゃろう。……さ、みなの者、ロリサキュバスの受け入れをしようではないか」



 こうしてロリサキュバスは安息地の住人となることが決定した。

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