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所沢ひかるによる「独白」

「ああ、あなたはそう言うけれど、お父様は決して許してくださることはないでしょう!私の心はすでにあなたのもの、だけどこの身体(からだ)は、いつまでもこの家に縛られ続け、自由になることはない……」

「なんということだ!僕たちは結ばれないと言うのか!?いや、そんなことはない。一歩踏み出してしまえば、そんな呪いは解けしまうよ。さあ、勇気を出して、飛び出すんだ!」


 放課後の中庭で、演劇部の白川(しらかわ)先輩と芦屋(あしや)くんがセリフの練習をしている。

 

 この高校で一番の美人と言われる白川幸奈(ゆきな)。演劇部の白雪姫という二つ名を持っていて、彼女を知らない生徒はいないと言われるほど有名人。

 男子はもちろんのこと、女子にも多くのファンがいる。昨年のバレンタインデーには数多くの女子からチョコレートをもらっていて、サッカー部のエース田中先輩よりもたくさんもらったのではないかという話だ。

 かく言う私も、白川先輩に渡そうと思ってチョコを用意したのだが結局渡せず、家に帰って一人で食べた思い出がある。


 白川先輩は女性としてももちろん魅力的だが、きっと男装をしたとしても、それはそれは似合うことだろう。

 ああ、先輩が演劇でヒーロー役をすれば大反響間違いなしなのに!でも、今まで先輩が男役を演じたことはない。

 噂で、シェイクスピアの『お気に召すまま』を、演劇部が次の劇に選ぶかもしれないという話が広まり、私の耳にも入ってきた。だとすると、男装をするヒロイン、ロザリンドの役は先輩がするかもしれない。が、そうじゃない。

 ギャニミードではなく、先輩にはロミオを演じてほしいのだ。

 この高校の演劇部は役者の部員が少ない。半数以上が裏方なのだ。役者にならぬのに、なぜ演劇部に入ったんだというツッコミは今は控えるけれど、役者が少ない分、演技の上手い部員はあまりいない。白川先輩以外でまだマシと言えるのは、もう一人のヒロイン枠の新庄(しんじょう)さん、道化枠の室井(むろい)先輩、そして今、白川先輩と練習をしている芦屋くんくらいだ。

 芦屋くんも、よく主演を任されることはあって、演技は上手い。それにイケメンだし華やかさはある。だけど、先輩と並んだ時、差がありすぎるのだ。

 先輩が圧倒的すぎる。彼女が舞台へ出た瞬間、誰もが彼女に目を奪われる。一番に輝くべきヒーローが、白川先輩の演じるヒロインによって(かす)んでしまうのだ。

 そのため、最近ではヒロインがメインの脚本も多いけど、そうなるとどうしてもヒーローが情けなくうつってしまう。


 なんで先輩をヒーローに起用しないんだ!


 なんて、私が言えるはずもない。私は演劇部とは関係のない部外者だから。演劇部に親しい知り合いがいるわけでもない。

 じゃあ演劇部に入ればいい?いや、入部したての新入りがキャストの選出に口出しできるはずもない。そもそも、こんな中途半端な時期に入部なんて私には無理だ。

 所詮(しょせん)私は文芸部に所属する地味で冴えない少女(文芸部が地味で冴えないと言っているわけでは決してない)。華やかな演劇部とはかけ離れた存在。そんな私は陰でジメジメと妄想する方がお似合いだ……。


「ほら、見てごらん!これが朝日だよ」

「これが……なんて美しい。あの家にいては決して見ることができなかった。暗い暗いあの部屋で憧れていた、大自然に登るこの光……。あ!聞こえる、追っ手の足跡が?私たちを捕え、この熱い心臓を貫こうとしている!」


 だから、私はいつもこうやって彼らの練習風景を眺めながら、うずうずしているしかないのだ。

「ああ、私は何もできずに突っ立っているだけか!叫びたい、この想いを!落ちてこい!一歩進む勇気!」

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