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お花畑  作者: イカニスト
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ニューオン

題名「お花畑」

第一章「根拠の塔編」

第五話「ニューオン」


みんなで一緒に海水浴!その当日。

いつものメンバー、総勢7名が俺のパン屋に集合。

と、言ってもイェトはまだ裏庭に居る。

彼女はバレリーナなのだが、通常のバレェのレッスンでは行わないトリッキーでダイナミックな動きを身につけるため、スラックラインというスポーツを積極的に練習している。

彼女はお花畑の化け物と戦うようになってからも、つまりは俺のパン屋に居候を決め込んでからも、いや、もう俺たちは付き合っているので同棲というべきか、まぁとにかくスラックラインというスポーツの練習を彼女は毎朝欠かさないのだ。

毎朝、裏庭の2本の木の間に張った長さ7mほどの平べったい縄の上で飛んだり跳ねたり、くるくる回ったりしている。

彼女の戦闘時のトリッキーな動きは、このスラックラインに由来する。

右にいたと思ったらもう左に居る。誰も彼女の動きを予想できないし、捉えられない。その法外な運動量を持続させるだけのタフさを彼女は持っている。

それは彼女が日々の努力で手に入れたものだ。

しかし、他の6人はもうお待ちかねである。練習熱心大いに結構だが、朝練もそろそろ切り上げていただこうか。

俺はカウンターの奥の作業場に行き、小窓を開けて裏庭に顔を出し「おいイェト!みんな集まったぞ!」と叫んだ。

間もなく廊下の先の方から、ズダズダとけたたましい足音が近づいてきた。

バァンと爆発的にドアが開き、スクイズボトルを咥えたイェト登場!

その表情は根拠のない自信に満ちあふれている。

「朝一すでに汗だくとか、流石だなー。」コンスースは元恋人ならではの事情を知った呆れ顔。

彼はきっと「今日一日遊ぶのに、もう体力を使い切って、本当に持つのか?」と、そこまで突っ込みを入れたかったに違いない。そんな余計な一言を思いとどまるそぶりが見えた。

しかし、そんなことを言うなんて、考えるなんて、イェトと6年付き合った男の言葉とも思えない。

イェトの活動量は尋常ではないぞ。

あの女は最大出力のまんま、朝起きてから夜眠るまで走り切るぞ。

さて。

お祭り女の登場で高まるテンション。スクイズボトルをテーブルの上にズダムと置き、首に巻いていたタオルを両手で何度も引っ張ってビシ!ビシ!と音を立てる。

ジェジーが指笛ではやし立てる。

チョリソーとオウフのイェトコール。

俺のうんざり顔。

いよいよ荒ぶるイェトが吠える。

「クソ野郎ども!戦場でくたばる覚悟はできたかーっ!」

おい、バレリーナ。お前はどこの鬼軍曹だよ。

お前が行くのはどこの海だ?

1571年レバント沖か?

1942年ミッドウェーか?

南極で獣人に導かれるのか?

はたまたカイジュウが出現する深海か?

しかし冷め切っている俺に反して、他の者はノリノリであり「おーっ!」などと奇声を上げて著しく盛り上がっている。

その勢いに俺もついつられてしまい、皆に遅れて形だけ拳を持ち上げた。

そんなやる気のない俺に対し、額に血管を浮き上がらせてお怒りのイェトが、ずかずかとやってきて、俺の頭をべちべちと叩く。

「貴様!それでも軍人か!」

知っての通りパン屋だよ、引籠りの。

「貴様の腐った性根を叩き直してやる!」

「え?な、何をする気だ?」

「超エロいディープキスだ。」

なん…だと?まじか??

いくらなんでも冗談ですよね?イェトさん。

皆は「キース!キース!」と連呼し、無責任に盛り上がっている。

チョリソーとオウフは向かい合って両手を握りあい、ぴょんぴょんと跳ねて、可愛らしく期待している。

イェトの目が本気すぎで恐怖しか感じない。恐怖を通り越して、蛇に睨まれた蛙のように動けない。

え?まじなん?

マジかよ!!

うそっ!

うそ、うそっ!

彼女は何の迷いもなく、俺に抱きつきキスをしてきた。

場がどっと沸騰する。見ている5人は大騒ぎだ。

チョリソーとオウフは抱き合ってぴょんぴょんと跳ねている。

俺は一瞬、イェト男らしいなぁと、乙女に目覚めそうになった。

しかしねちゃねちゃと舌を動かされているうちに、俺ははっと正気に戻り、彼女を突き飛ばして「おまえ酔っぱらっているのか!?」と抗議した。

しかしその鬼軍曹は雑兵の無礼な行為を決して許しはしない。

「逆らうと、もっとエロい事するぞ。」

そんな脅し文句、初めて聞きましたよ。

どう反応をすればいいものか見当もつかずに生唾を飲み込む。

キスを続行するイェト。ひたすらジタバタするしかできない俺。

カラン。

店の扉のベルがなった。

俺はてっきりオウフの恋人のツイカウだと思った。奴は用事が有るとかで、遅れて合流する予定であった。

「あら、今日は賑やかなのね。」

マァクだった。

全員の視線が美しいマァクに向く。

彼女は、男が見ても女性から見ても純粋に美しい。

イェトは、まるで精力を吸いつくされたかのように虫の息の俺を、無残にも床に投げ捨てて、マァクに手を振った。

「海に行くの。マァクも来る?」

助かった。イェトの興味が俺からマァクに移った。

「私はニカイーとちょっとお話がしたかっただけだから…」

「来るわよね!」

「いえ、ですから…」

「来るにきまった!」

マァクは俺の方を見て、困った顔こそしていなかったが、イェトの強引さにポカンとなった後、クスクスと上品に微笑んだ。

「そうね。それでは水着を持ってきましょう。」

「物理アドレス送っておくから。現地集合ね。」

「はい。それではまた後ほど。」

マァクは俺に話があったはずなのだがチャネルを切り替えて消えてしまった。

きっと急ぎの用事ではないのだろう。後で俺が教会に呼び出されるに違いない。

さてここでコンスースとジェジーの期待が高まる。

二人とも目をらんらんと輝かせて、がっちりと手を握り合っている。

「兄弟。誰もが認める絶世の美女、雨無しの君が修道服を脱ぐそうだぜ。」

「親友よ、彼女に下衆な妄想はよしたまえ。雨無しの君ともなると、その水着姿は最早研究対象レベルですぞ。」

雨無しの君とはマァクの二つ名である。

二人ともオウフに「最低。」等と白い目で見られている。

男衆二人には悪いけど、マァクの水着だから、ほとんど肌は露出していないと思うぞ。

しかし何だろうか?まだ、砂浜を見てさえいないのに、それどころかパン屋から一歩も外に出ていないのに、もうバテバテなんですが。

俺の体力不足か?いや違う、イェトだ。

あの薄っぺらい身体の何処にこれ程のエネルギーを秘めているのか。イェト恐るべし。彼女は引籠りの天敵。すなわち俺の天敵。この調子で一日イェトに付き合わされたらえらいことだよ。耳から噴血するくらいの異常症状なら、俺、発症出来る気がする。

「なぁ、イェト。俺、やっぱり家に残っていていいかな?」

しかし、俺の悲痛な声が彼女に届くことはなく、むしろ完全に無視された状態で「出発!」の掛け声がかけられた。

チャンネルを切り替えるときにばっくれてどこか安全な世界に隠れて居ようと考えた。

が、イェトが俺の右手を握り、プライマリが俺の左脇の下に抱きついているのでばっくれることは不可能。

何故かって?

チャンネル切り替えは近傍のものも一緒に行われるのです。

でないと服とか手荷物とか泣き別れになるので、一定密度以上で連続する物体はラップされて同じ世界に向かうのです。そういう風に作られているのです。

チャネルを切り替えてゆく先は先勝ちルール。つまり早い者勝ち。

今回の場合は手をつなぐ前から「海!海!海!」と脳内海充填であったイェトの決定が採用された。

「家でダラダラ動画を見ていたかったぁーっ!」

俺の悲しき嘆き声をパン屋に残して、俺たち7人は海に着いた。

ザーーーーーーーー

雨だった。

エントリーポイントの東屋の屋根に激しく雨粒が当たっている。

俺は笑いをこらえるので必死。

「天気予定を確認しておかなかったお前が悪いんだぜ。」

こういった観光向けの世界はお休みにしたい日にたいてい雨を降らせる。雨ならばお休みにしなくたって誰も来ないからだ。

「あら?雨なのね。」

早くもマァク合流。

「うひゃ、うひぇひぇ、どうせ水着になるんだから雨なんて知ったこっちゃないわっ!」

精神が60%ほど壊れたイェトが豪雨の海に突撃して行く。

「イェトぉー。別に海はここだけじゃないからー。」

オウフがリシデュアルモデムで別な世界を探してくれた。

リシデュアルモデムとは服用するタイプのガジェットで無線ネットワークの電波と体内の電気信号を相互変換する。

現実世界では故障したりすると排泄されるのでたまに飲み足すのだが、この仮想世界では保全機能がリシデュアルモデムをエミュレートしてくれている。つまり「有る」という想定で機能しているので、実は服用していなくてもまるでそれが体内に有るかのようにオンラインサービスを使える。

で、オウフの提案に乗っかって、俺たちは早速チャンエルを切り替えた。

そして、俺たちはその衝撃的な立て札を見た。

《立ち入り禁止!模様替えのため暫く閉鎖します。》

エントリーポイントの前、砂浜にアナクロな木製の立て札。

「あらあら。」おしとやかなマァクも苦笑を禁じ得ない。

見ればこの有限幻界の主が砂浜の中央に立ち、彼の世界を再構築している。

俺はいよいよ大笑いをしてしまった。これは傑作だ。何という俺の追い風。流石のイェトもこれで諦めるに違いない。

「総員!泳げるところを検索!ぐぐりちらかせいっ!!」

イェトが諦めるはずがなかった。

ジェジーが大河を発見。ただしピラニアがうようよ居るらしい。

チョリソーとオウフが「きしょい、きしょい」と震え上がり、却下された。

コンスースが屋内プールを発見。ただし今日は人が多くイモ洗い状態らしい。マァクが難色を示し却下となった。

マァクは目立ちすぎるからな。

俺の脇の下にへばりついているプライマリが、俺にURLを送ってきた。

湖?

「ここに行きたいのか?」

プライマリに尋ねるとしきりに頷いている。

んー。プライマリってこんなに遊びに積極的だったかな?まぁいいか。

「おーい。接点が湖行に行きたいってよ。」

俺はツイカウ以外の全員にURLを送った。

チョリソーとオウフが「「山小屋が可愛いー。」」とハモっている。

マァクも「まぁ、温泉もあるのね。」と乗り気。

コンスースとジェジーのみ、マァクの水着姿が見れない可能性を懸念し、煮え切らない。

マァクに女湯に引き籠られてしまっては、男衆二人は正に蛇の生殺し。

経験的に集団内で男衆と女衆で意見が分かれた場合、女衆の意見が採用される確率が高い。

実際、今回もそうであった。例え民主的に多数決にしたとしても負けていたがな。

湖!採用!!

「じゃあ出発!」

イェトの一声で、皆チャンネルを切り替えた。

そこは、湖面から女神様でも現れそうな、息を飲むほど美しい湖だった。

コンスースとジェジーがダッシュで山小屋からボートを借りてきて、マァクに少し沖に出たところで、ボートの上に立ってほしいと懇願した。

何故そんなことを頼まれるのかわからないまま、二人があんまり必死なので言われたとおりにするマァク。

すると…

「ヴィーナスの誕生だ!」

ジェジーのメガネの光沢が増した。

「ああ、ポッティチェリはこの風景に感動して、あの名画を完成させたに違いない。」

コンスースの糸目が開眼した。

マァクは「やあね。」と照れ隠しに怒る素振りを見せてボートを漕いで戻ってきた。

「みんなぁ!この湖泳げるってー!水着!水着―っ!」

イェトがブンブンと腕を振りながら山小屋の方から走ってくる。

「「でかしたーっ!」」

コンスースとジェジーが諸手を広げてイェト出迎える。

お前ら、そんなにマァクの水着姿が見たかったのか。頭の良い馬鹿どもが。

イェトは抱き付いてきた男二人を跳び蹴りで左右に蹴散らし、一直線に俺の元にやってきた。

「ホラ、なにしてんの。早く。」

「急ぐ必要もなかろう?」

「楽しいことは今すぐに、嫌な事は後回し。わたしの哲学よ。」

シャワー室は無論男女に別れているので、入り口でイェトから俺の海パンが入っている紙袋を受け取った。彼女の手作りの海パンなんて照れるな。

無難にチェック柄とかだろうが、縫い目が不揃いとかありそうだなー。

それを気にもとめずに着てあげるのがボーイフレンドの務めであろう。

プライマリは俺の脇の下にへばりついたまま男性のシャワー室について来ようとする。

「お前はあっちだ。」

イェトに押し付けた。すると彼女は俺を標準出力にして『私には性別がないので男側でも問題ない。』と音声データを送ってきた。

そうだったのか。接点達は保全機能が作った存在なので、人間ではない。そういう設定でも不思議はないが。

しかし、彼女の見た目は間違いなく小柄な少女であり、皆も接点は女の子だって信じている。

その理由が無くても彼女の狙いは俺の生脇の下。なんと気色悪いことか。断固拒否である。

「接点は女性用のシャワー室で着替えてくれ。」

『じゃあ、帰る。』

プライマリはへそを曲げてしまった。

接点は俺たちの中でマスコット的な存在なので、帰したらイェトがぶーたれて、またひと悶着ありそうだ。引き止めなければ。

「そ、そんなに男の裸が見たいのか?」真の理由を知りつつ、俺はすっとぼけた。

『生脇の下が味わえないなら帰る。』プライマリめ、はっきりと言い切りやがった。少しは遠回しに言えよ。オブラードに包めよ。

なんといういびつ。魂がいびつすぎる。

「水着に着替えた後だって、脇の下は露出しているだろうが。」

『おー。』

プライマリはてけてけとイェトについていった。

で、マッハで着替えてシャワー室から出てきた。

『計ったな。』

プライマリが怒りに打ち震えている。俺がだぶだぶのパーカーを着込んでいて、脇の下が露出していないからだ。

「違う違う!」

いや、半分は俺の脇の下をプライマリから守るためだが。むしろ隠したいのは…

「何、隠してんのよ。」

イェトが俺のパーカーの裾を捲り上げる。

俺の海パンがあらわになる。

俺は「きゃーっ!いやーん!」と絹を引き裂くような甲高い悲鳴を上げた。

俺の股間を凝視するイェト。

ぷぐっと鼻をならして表情を崩すイェト。

「ぎゃははははは!!」盛大に爆笑するイェト。

俺が履いている海パン。イェトが作ってくれた海パン。

純白の布地で股間に矢で射抜かれたハートの刺繍があしらってある。ピンク色で。お尻側の刺繍は”I’ll love Yetoe forever.”である。何考えてんだよっ!

「イェトのやつ酷いよなぁ。」とプライマリに同意を求める。彼女は両手で口をふさぎ、プルプルと震えている。絶対に笑い声を漏らさぬよう我慢をしている。我慢しすぎて呼吸困難に陥って、咳こんでいる。

この期に及んでも俺以外の人間に声を聴かせないよう努力している。接点も大変だな。

因みにイェトはレース用の競泳水着。プライマリはウェットスーツにフードとミラーゴーグルで、鼻と口と手のひらしか露出していない。

そこに、フリルが付いたお揃いのビキニを着たチョリソーとオウフが登場。

イェトがほれほれと俺の海パンを見せると、二人とも腹を抱えて笑い出した。

「やぁだー、もーっ。」

「ニカイー、センス無さすぎぃー。」チョリソーは口の中の飴玉を地面に落としてしまった。

「俺のセンスじゃねぇ。イェトが作ったんだ。」

「なによー。刺繍、大変だったんだからー。きゃはははは!」

「俺で遊ぶんじゃねぇ!」

4人にいいように笑われているところに、マァクが現れた。

俺は聖職者にさえ笑いものにされてしまうのかと絶望したが、彼女は違った。

彼女は俺の最悪に残念な海パンを見ても笑ったりなんかしない。

彼女がもたらしたものは希望だった。そう、希望をコンスースとジェジーにもたらした。

二人はマァクの前に座して、彼女に対して祈りを捧げていた。

「僕は神様なんか信じてはいなくって、本気で祈ったことなんかない。だが、マァクの水着姿なら純粋に祈れる。」

ジェジーの両目からは感動の涙が滝のように流れている。

よこしまな心に由来するそれが、本当に祈りとして純粋なのかは不明だが、彼はアーメンと言って右手で十字を切った。

「本当に生きるって素晴らしいな。俺、最後の2310名に残れてよかった。」

コンスースはまた罰当たりなことを言う。熱地獄となった地球で滅びるしかなかった人、動物、鳥たち、その他数えきれない命に謝れ。

しかしマァクは結構際どいビキニを選んできたな。てっきり昔動画で見た海女さんみたいないで立ちで来るのかと思った。

「なーに、じろじろ見てんのよ。」

イェトに頬をつねられた。まったく古風な講義手段だな。

海パンの仕返しに、ちょっと嫉妬させてやろう。

「いや、マァクが頑張ってビキニ着てきたから、見ないと悪いかなと思って。」

「いやだ、そういうのではありません。」

マァクは腕で胸を隠したが、その巨乳は女性の細腕で隠しきれる程度の大きさではなく、むしろ水着の布地部分が隠れて、まるで水着を着ていないようなよりいっそう男心をくすぐる見た目となり、事実、コンスースとジェジーは熱狂した。

「やぁ。遅れてごめん。」

ちっ、ツイカウの野郎が来たようだ。

ワラオがキャーと叫んで、やつに駆け寄り、奴の肩に彼女の愛くるしい頭を預けて甘えた。

「やぁ、マァク。君も来たのかい?」

マァクもクールガイには無防備なようで「ええ。」などとにこやかだ。

イェトが「取り敢えずこの湖、2~3周泳ぎましょうよ。」などと俺を誘う。

数字がおかしいぞそのお誘い。お前の行動は何で10km単位なんだよ。

「湖周回とか、引籠りに無茶言うなよ。」

俺はボートを借りてきて、湖面にプカプカ漂いながら、動画を見ることにした。

ボートに寝そべると、プライマリがやってきて、俺のパーカーの肩のあたりをずらして、脇の下を露出させようと頑張っている。

俺が襟元を引っ張ってずれをなおすと、プライマリは信じられないといった様子で、俺の貧相な胸板をぽかぽかと可愛らしく叩いた。

「判った。判った。」

頭をなでてやると大人しくなって、俺の脇の下に頭を突っ込んで寝てしまった。

ツイカウは美女3人を独り占めして、湖畔のテーブルを囲んでいかしたジョークを飛ばしている。

コンスースとジェジーは、マァクが山小屋で買ったいかさないTシャツを着て股下までを覆い隠してしまった事にショックを受け、桟橋に座り足首程度を水に浸して遠くを漠然と眺めている。

「マァク、泳がないのかな。」

「ジェジー、祈ろうよ。化学崇拝の俺たちが今日、何に祈った?神は居るんだよ、マァクの魅惑のボディーに。」

二人して本当に祈りだした。

お前たちがそういう態度を改めない限り、マァクはあのダサいシャツを脱がないと思うぞ。

「ぷはっ!」

湖を泳いで一周してきたイェトが俺のボートの縁に取りついた。

「ニカイー。あっち行こうよ、あっち。亀とか鳥とかいっぱいいて、面白いから。」

「俺は動画見ていた方が面白いから~。」

イェトはボートに乗り込んできて、強引に寝ている俺を起こして、隣に座って俺にオールの柄を握らせた。

向かい合った反対の席に座っているプライマリは、俺の脇の下に入りたくてソワソワしている。

「出発!」

がんがんオールを漕ぐイェト。しかし、俺が手を抜いているので、ボートは同じところをグルグルと回るばかり。

げし!

「アンタ、真面目に漕ぎなさいよ!」

ほっぺたを蹴り飛ばされた。

真横に密着して座っている相手の顔に足が届くなんて、やっぱり体が柔らかいんだな。

ところでプライマリの脇の下禁断症状が限界に達しつつある。

可哀そうなので自分の膝をポンポンと2回叩いて呼んであげた。

プライマリは俺の膝に座って、外側の脇に頭を突っ込んだ。

するとボートが俺の座っている方へぐわんと大きく傾いた。

イェトが咄嗟にボートの外に身を乗り出してバランスを保つ。

「ちょっと、アンタらなにしてくれてんの!」

プライマリを内側の脇の下に移動させた。

「それじゃあ、わたしの座る場所が無いでしょう!」

プライマリを俺の体側に抱きつくように座らせた。

これならば横幅をとらない。

イェトが座ると3人で、変なサンドイッチみたいになった。

「言っておくが俺、接点ちゃんに脇を固められて、オール漕ぎにくいからな。」

「見ればわかるわよ。」

イェトは俺に合わせて漕いでくれた。

ボートが調子よく進みだしたところで「そろそろお昼よ。」とチョリソーから音声データが飴玉のアイコン付きで届いた。

え?もうそんな時間か?

時間を確認すると、成る程正午の5分前。

なにしろ今日は出発前にひとネタあって、当初の目的地も雨で遊び始めるまで時間がかかったからな。

「おい、戻ろうぜ。」

「アンタがとろくさいからぁ~っっ。」

また、蹴り飛ばされた。

イェトは目的地にたどり着けず、そうとうお冠のようだ。

俺とプライマリを向かいに蹴り飛ばし、一人で阿修羅のようにオールを回転させた。

ウィリーしながら進むボートは、桟橋に斜めにぶつかり、そこに座っていたコンスースとジェジーを吹き飛ばしつつジャンプ。

地面に着地後、延々と横滑りをして、やっと停止した。

コンスースが丁度山小屋の方まで飛ばされ、ひぃひぃ言ってへし折れた肋骨を復旧中であった。俺たちはそんな彼を気遣うことは一切せずに、彼に9人分の席を確保するため食堂に走ってもらった。

程無く、コンスースは山小屋から出てきて、両腕で大きなばってんを作った。

席が確保できなかったようだ。

すると、全員の視線が俺に集まる。

「はい、はい。」

この湖にはBBQなどができるキャンプ場もあるのだ。

一旦パン屋に戻って材料や調理器具、食器を用意する。

「運ぶの手伝うよ。」

こういう時気が利くのはコンスースに来まっている。イェトは絶対に手伝おうとしない。

桟橋から湖に沿って5分ほど歩いたところにあるキャンプ場に全員集合。

キッチンに立って俺が皆の注文を承る。

「今日のランチはハンバーガーでーす。ご注文をどうぞー…んじゃ、手伝ってくれたコンスースから。」

「僕かい?じゃあお先に。僕はダブルダブルとバニラシェイクとフレンチフライ。」

「あいよ。」

注文が決まった人から並んで、列になっている。次はツイカウか。

クールガイなんざくそくらえだ。ハバネロでも投入してやろうか。むしろハバネロ100%、ハバネロのかき揚げでハバネロのみじん切りを挟んだサンドウィッチ作ってやろうか。口から火をふかしてやるわっ!

「フォーバイフォーとアニマルスタイルフライズとナポレオンシェイク。」

くぬやろう。裏メニューで揃えて通ぶりやがって。

次はマァクさんですか。

「ダイエット中だから、ベジーバーガーとコーヒーだけでいいわ。」

それだけ見事なくびれをお持ちで、これ以上何処をダイエットしたいのかよくわからない。胸か?胸がデカすぎて悩んでいる女性がいるという都市伝説は聞いたことがある。

次はイェトか、何となく予想がつくが。

「100×100をアニマルスタイルエクストラトーストで。あとチーズフライズにルートビアフロート!」

お前は何万キロカロリー摂取するつもりだよ。

まぁ、イェトの場合は一日に間違いなく2~3万キロカロリー消費しているから、帳尻あっているのか。いいのか?

むしろ食わないと持たないのかもしれない。蜂蜜でもがぶ飲みしやがれ。


「おっと、もうこんな時間か。」

コンスースと俺。二人で昔話をしていたら夜の8時である。

「飯食って帰れよ。」

俺はパッキーマオを作り始めた。

コンスースは「イェトと話してくる。」と言って2階に上がっていった。

俺の世界のバックグラウンドに、ある意味幽閉されている彼女は今、どのような気持ちでいるのだろうか?

お花畑化する恐怖と、どう戦っているのだろうか?

考えると胸が締め付けられる。

フライパンを取り出したとき、マァクから『チャケンダに協力したマオカルをブラックリストに登録して欲しい。』というテキストデータが送られてきた。

ブラックリストに登録されるとその者の通信データやトラッキングデータは全て政府が管理するデータベースに登録される。また、一部の施設や敷地への立ち入りが制限される。

2310名の想像で作ったこの世界に公共機関はない。しかし、ブラックリストシステムは保全機能によりエミュレートされている。

そして、実はその運用担当は俺ということになっているのだ。

「まいったな。」

「どうした?」イェトの部屋から戻ってきたコンスースが階段の上から俺の様子をうかがう。

「コンスースを襲ったマオカルがブラックリストに登録されることになったんだ。そのデータベースの運用が俺の担当なんだが、何をどうすればいいのかさっぱり分からない。」

「そうだな。そういった知的な仕事は君には難しいな。」

「ほっとけ。」

「そうだ、ジェジーはどうだろう。」コンスースはぽんと手を叩いた。

「ああ、ジェジーか。」

「ジェジーなら、データベースの管理者として適任だ。」

確かにその通りだが、あの融通のきかない接点が、それを許してくれるだろうか。

翌日の朝、接点プライマリとの定時連絡にて。

「いいだろう。」

資材庫で俺の脇の下にぐりぐりと頭をこすり付けながら、プライマリはあっさりと承諾した。

「ブラックリストの運用はお前が説明せねばならんのだぞ?俺には説明なんてできない。知識が無いからな。しかしお前は俺以外とは話せない。どうするんだ?」

プライマリは俺にマークアップテキストファイルを一つ送ってきた。

”ブラックリストシステム リファレンスマニュアル”

これを渡せってことか?

俺はそれをいったん開いたのだが、全4096頁という数字を見て、そっと閉じた。

朝飯を食べに来たジェジーにブラックリストの件を説明して、4096頁のドキュメントを送信した。

彼はテーブルで頬杖をつき5分ほど目を閉じて集中している。

そして目を開いて「大体わかった。」と言い切った。

「まじか?」

やはりインテリは違う。

「ブラックリストの管理、引き受けてもいい。だが、お花畑化に関する情報を、一部でもいい、開示してくれ。そう、接点と交渉してくれ。」

俺にしがみついているプライマリが俺にテキストデータを送ってきた。今のジェジーの要求に対する返答だ。俺はそのまま読み上げた。

「接点からの回答だ。あー…検討しよう。我々は悪意があって開示しないのではない。誤解なく伝わるかを問題にしているのだ…だってよ。」

「判った、引き受けよう。その様子ならば、なんにせよ恩をうっておいて損は無いようだ。」

黙々とスクランブルエッグを食べていたコンスースが「チャケンダの情報が手に入ったら僕に連絡をくれ。」と会話に割って入って来た。

ブラックリストの管理者は知りえた情報を厳重に管理しなければならない。

つまり、安易に第3者に情報を公開できない。

ジェジーが困っていたので「コンスースはチャケンダ捜索班の先鋒だ。情報を知る権利がある。」と教えてやった。

ジェジーはコンスースに情報を優先的に提供する点については納得した。

しかし、彼がその様な役目についている点については「危険すぎる。」と納得しなかった。

俺もジェジーの意見に賛成だ。しかし…

「判っている。だが、イェトのためなんだ。」

コンスースの決意は固い。コンスースはいいやつだ。例えば、仲間の為に平気で命を投げ出せるほど、最高にいいやつだ。いったい誰が彼を止められようか?

それは親友のジェジーが一番よく理解している。だから、それ以上は何も言わずに「判った。」と返事をしてその議論を止めた。

その頃チャケンダはロスロイという男の有限幻界に身を隠していた。

マオカルとチャケンダがROM化から解放し、人間の姿に戻したお花畑の化け物ニューオンもそこに居る。

「人類が化け物と呼ぶ姿を受け入れてしまうと、人の姿が窮屈だわ。」

ニューオンがため息をつく。

マオカルが「またその話か。」と首をすくめる。

「真実を理解できない人類には、理解できないもの…つまり化け物に見えるわけだけれども、人類の理解を超越した私達には、とても均整が取れたより正しい姿に見えているの。あの姿こそ宇宙的な規範で見て…そう、自然なのよ。」

「ところで根拠の塔の件だが…」そう言いかけたマオカルは突然、目を閉じ、両手で耳をふさぎ「ブラックリストに登録された。」と言い残してチャンネルを切り替え、その場を去った。

ロスロイがチャケンダに「ここはもう危険です。」と進言する。

「この場は私にお任せを。」ニューオンがチャケンダの前に跪いた。


「ニカイー、この女を知って居るか?」

ジェジーが俺に2秒にも満たない動画を送ってきた。部屋の中。眼鏡が知的なスーツ姿の女性と誰かが話をしているようだ。

「知って居る気がするんだが、思い出せない。この動画は何だ?」

「マオカルにブラックリスト被登録通知が行った直後、奴は恐らく目を閉じて耳もふさいで、自分の有限幻界に戻った。お前に送ったのは奴が目を閉じる直前の視野情報だ。どう考える?」

ジェジーの質問に答えたのは俺ではなくコンスースだった。

「チャケンダが近くにいるってことさ。」

彼は口元を拭きながら席を立った。

「そこの物理アドレスをくれ。」コンスースはそう言って、彼のスーツケースを床にたたきつけて開いた。

彼がそのスーツケースの上にジャンプすると、スーツケースから単分子繊維製スーツが飛び出し、彼が元着ていた服を引き裂き、服の代りに彼の全身を覆った。

ジェジーから物理アドレスを受け取ったコンスースはすぐにロスロイの有限幻界に向けてチャンネルを切り替えた。

「女はきっとチャケンダが助けた女だ。」そう、言い残してコンスースは行った。

「チャケンダが居たらメッセージをくれ、接点を連れてすぐに向かう。」俺はコンスースにテキストデータを投げた。


ロスロイの有限幻界に到着すると、チャケンダと眼鏡の女ニューオン、そしてシーツか何かを引き裂いて作った縄でわざとらしく縛り上げられているロスロイがいた。

ロスロイのそれは明らかにブラックリスト対策だろう。

「ビンゴ。」俺に視覚情報を送りつつ、コンスースがチャケンダめがけて突進する。

両腕のレールガンをカウンターファイヤ無しで後方斜め下に撃ち、その反動をつかって低く遠く飛翔する。

なんとか奴の体に触れなければいけない。

奴に接触していさえすれば、奴がチャンネルを切り替えてもチャケンダを見失うことはない。

無論奴に浸食され、自分が化け物になってしまう恐れはある。

だが奴をブラックリストに登録できない以上、この危険な方法を選ぶしかないのだ。

チャケンダはニューオンの腹部に手を差し込み、何かを握りつぶした後、早速チャンネルを切り替えようとしている。

「間にあうっ!!」

コンスースが吠えた直後、ニューオンが割って入り、化け物化した。

首を切り落とされた巨大な鶏。そいつに大小無数の矢が刺さっている。

鶏は矢が刺さったところが痛むらしく、よろけていて足元がおぼつかない。

「悪いが楽勝だ。」

鶏を交わした直後、もうちょっと、わずか数センチメートルで奴に手が届くというところで何かが飛んできて、コンスースを吹き飛ばした。

チャケンダはチャンネルを切り替えてしまった。逃がした。

「くそっ!!」

コンスースを吹き飛ばしたのは巨大な矢だった。

どこからともなく矢が飛んできて、コンスースに当たり、しかし彼は単分子繊維製のスーツを着ているので矢は貫通せず、彼の身体に沿って進み、その後鶏の化け物に刺さるのだ。

矢が刺さるごとに鶏は「グエェッ!!」と気味の悪い悲鳴を上げる。

「そういう仕組みの化け物か。」

「ああ、思い出した。コイツ、ニューオンって女だ。」

俺とプライマリがロスロイの世界に到着。

「コンスース下がれ。後は俺がやる。」

ビス、ビス、ビス、ビス、ビス、ビス、ビス!

到着早々に敵の攻撃を受けてしまった。何としまらないことだろうか。

「その姿で君が何をやるっていうんだい?」

俺の身体には既に7本の矢が刺さっている。

「いいんだよ、俺は。このままで勝つから。」

俺の頭が吹き飛ばされた。

頭を切り落とされた鶏と、頭を吹き飛ばされた人間。双方胴体には無数の矢。

俺は”きっと間抜けな絵面だろうなぁ”と想像しながら頭部の復旧を3倍速で開始した。

「ハイブリッドハンドガンだ!」コンスースが身を低くする。

どうやら俺の頭を吹き飛ばしたのは首なし鶏ではなかったようだ。

軍人マオカルの銃弾は次にプライマリを狙ったが、彼女は後退しながら袖搦そでがらみで全て弾きそらした。

「マオカルが戻ってきたんだ!」コンスースは遠くに視線をやり奴を探した。これがいけなかった。

奴の武器の特性上、数十メートル先から狙っているに違いない。その思い込みが半径数メートルの近距離に対する注意をおろそかにさせた。

マオカルはプライマリを十分に下がらせた後、左側のビルの陰、本当に目と鼻の先から現れて、コンスースにタックルをした。

「ニューオン!今だ!逃げろ!」

マオカルはコンスースを柔術で抑え込み、彼もろともチャンネルを切り替えて別な有限幻界へと移動を始めた。

彼は俺の頭部を再び吹き飛ばし、プライマリに威嚇射撃を続ける。

チャンネルを切り替える処理のための時間を稼ぐつもりだ。

俺の頭が復旧して目が見えるようになると、首なし鶏のニューオンはもうそこにはいなくて、代わりにプライマリが立っていた。

「おい、化け物を追うぞ。」

プライマリは俺を標準出力にしてテキストデータを送ってくる。

『既に反応はない。おそらくチャケンダと合流して、人間の姿に戻ったのだろう。』

「なぁ、人間の姿の時でもブラックリストに登録できないのか?個人は特定できているんだぜ。」

『ブラックリストが収集するデータに型指定はないからな。我々は人類が開発したシステムをエミュレートしているだけだ。それ以上の干渉はしない。』

「つまり…なんだって?人類の言葉で言え。」

『ブラックリストにはバグがある。その修理は人類がやれ。』

「なるほど。相変わらずのクソッたれだ。」

俺はパン屋に戻ろうとしてふと思いとどまり、ロスロイに近づいて行った。

ロスロイは未だ縛り上げられたままだ。

この男も、チャケンダにつながる手掛かりで間違いない。

彼にプレッシャーを与えておくというのは悪くないアイディアだ。

「よう!難儀だな。」

ロスロイは俺の顔を見て明らかに動揺をしている。殺虫剤をかけられた芋虫の様にじたばたとしている。

「お前がチャケンダの手の者か、そうでないのか、それが問題だ。どうしたものかな?」

しゃがんで奴の顔を覗き込む。

ロスロイは俺に怯えて目を合わせようとしない。この一連の奴の行動を証拠にしてしまってもよいのではなかろうか?

彼の髪の毛を鷲掴みにして耳元で囁く。

「チャケンダの手のものがお前を助けたら、お前はブラックリストに登録。それ以外の結果ならお前は無罪。どうだい?このアイディア。」

これくらい脅しておけば十分だろう。

俺はにやりといやらしく笑ってロスロイを放置し、俺の脇の下にしがみついてきたプライマリと共に俺のパン屋に帰った。

そしてジェジーの元へと走る。彼も俺が戻るのを待っていた。

「コンスースがマオカルを追っている。」口を開いたのは俺の方が早かった。

「判っている。」

「二人は今、ヤキャユクの市場だ。」

「化け物が近くに居るかも。応援に行ってくる。」俺は袖搦を握りしめた。

しかし、ジェジーは「待ってくれ。」と俺を止める。

更に、俺が彼を追うのを見越したかのように、コンスースから”マオカルは僕に任せてくれ。”と音声データが届いた。

俺は泡を食ってコンスースと電話回線をつなぐ。彼は危険な橋を渡ろうとしている。

「無茶はするな。」

『お前はエースだ。チャケンダとの対決に備えろ。』

「お前を危険なままにしておけない。」

『奴らは恐らく仲間意識が強い。奴を追い詰めれば何か収穫があるかも。』

「逆にお前が侵食され、化け物にされるかも。」

『話ながらだと奴を追いきれない。勝算はある。切るぞ。』

コンスースは俺に来るなと言ったがそうはいかない。俺はヤキャユクの有限幻界にチャンネルを変えるつもりだった。

だが、ジェジーが俺の腕をつかんだ。

「実はもう一つ、気になる情報がある。」

「なんだ?」

「マオカルはブラックリストに登録されたとき、恐らく根拠の塔の話をしていた。」

「内容は?」

「わからない。”の塔”という言葉だけ、かろうじて聞き取れた。チャケンダはきっと何かを企んでいる。この事実を各派閥のトップに伝えないと。」

「俺はコンスースが心配なんだよ!」

「マオカルは僕がトラッキングしている、コンスースはまだ大丈夫だ。説明用の動画は作成してある、君が窓口だ、送信してくれ。」

俺はジェジーから受け取った動画を回帰派のマァク、進化派のトポルコフ、そして楽園派のケチェに送信し、すぐさまプライマリとヤキャユクの市場へとチャンネルを切り替えた。

コンスースが心配だ。


根拠の塔を企画した変人にして楽園派の代表ケチェは、ジェジーが作成した動画を見ただけで、チャケンダの計画をほぼ予想してしまった。

根拠の塔には秘密があった。チャケンダが根拠の塔に用事があるならば、きっとその秘密に着目したに違いないと確信していた。

「奴が何をする気にせよ、根拠の塔の妨げにはならない。好きにするさ、お互いにな。」

彼は根拠の塔の14人を選抜する作業をしていた。選抜試験は実施済み。想像力の大きさや精度、持久力などの順で応募者をソートをする。

「ふむ。」

知名度順でソートをするとチョリソーとオウフが圧倒的な値で応募者のトップに出た。

「センシェン ガベジ。俗世に疎い俺でも聞いたことがある。」


ジェジーの動画を見た進化派副代表のトポルコフは、チャケンダが根拠の塔で何か企てているらしいと、進化派の代表ツワルジニに報告をした。

報告を聞いたツワルジニは、まず、にやりと笑った。

彼は根拠の塔を快く思っていない。なぜならば根拠の塔は彼が楽園派を否定するときに用いる決まり文句に対する完全なる反論そのものだからだ。

「面白いことになったな。」

「と、おっしゃいますと?」

「チャケンダのせいにして、大っぴらに邪魔ができる。」

ツワルジニはトポルコフに、ある悪だくみを指示した。


回帰派の代表ホトプテンと副代表のマァクは教会で対策を検討することにした。

「ジェジーの動画だけでは情報が少なすぎるが、何も対応しないわけにはいかない。」

「ええ、最悪の事態を想定しないといけません。」

「さらなる情報収集、それとケチェとの連携が必要だ。」

二人は、近々に楽園派との会合を設けることにした。


ヤキャユクの市場。

マオカルを追うコンスース。

「なぜ逃げる?前みたいに、俺を打ちのめしてみろ。」

技術屋コンスースは圧倒的な優位をもって、軍人マオカルを追いつめつつあった。

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