マオカル
題名「お花畑」
第一章「根拠の塔編」
第二話「マオカル」
チャケンダを取り逃がした翌朝。つまり、イェトのお花畑化が始まった翌朝。
イェトは目を覚ますなり、苦しそうに頭を押さえる。
苦しんでいるというより、むしろ何かに抗っているように見える。
目を覚まし、受け入れがたい何かを認識し、必死にそれを拒絶している。
そう言う風に見えるのだ。
この世界は俺達2310名の想像力でできている。見えている全ては現実ではない。
この身体さえも、俺たちが作り出した幻で、俺たちは不死身だ。
復旧する前に髪の毛一本も残さず消滅した場合どうなるのかわからないが、保全機能が俺達に死を許すわけがない。俺たちが己の死を認識する前に何らかの措置をして生き続けさせるに決まっている。
そんなこの世界において俺たちの精神だけは本物だ。この世界で精神へのダメージはきっとどんな死に方よりも苦しい。
俺はイェトが苦しむ姿を見ていられない。
突然root権限で0xC番のメッセージが来て、網膜に強制的にテキストデータをセットしてゆく。
相変わらず接点はトトクーリエを使おうとしない。root権限で俺たちの体内のリシデュアルモデムを勝手に操作する。※両者の技術的説明は後に送る。
網膜に表示されたものはURLだった。
URLを開くとチャケンダの情報が表示された。チャケンダの3Dモデル──指名手配だって!?
”人類全員に告ぐ。”
”特定の個人チャケンダに対する注意と指名手配をroot権限にて行う。”
”1.この男を見たら決して近づかす、十分な距離を作り、チャンネルを切り替えて逃げること。”
”2.この男を見たらニカイーに通報をすること。”
保全機能はチャケンダを相当に危険な存在であると判断したらしい。お花畑の化け物のしかもよりにもよって悪名高いチャケンダの指名手配なんて、下手をしたらパニックを起こしかねない人類への介入だ。
人類への介入を極力避ける彼らが、そんなことをするなんて。
イェトの左目を見ると網膜にURLのテキストデータが残っている。きっと苦痛に耐えるのが精いっぱいで、気付いていない。
カランカラン。
真鍮製のベルが鳴る。誰かが店に入って来たようだ。
おかしい…店の鍵は昨晩閉めたままの筈。
鍵は古い南京錠をモデルに想像したので、逆に古すぎて、Global Individual Numberを使った認証方法しか知らない現代の鍵屋や空き巣にはちょっと開けられないだろう。
物理的に破壊したならきっとベルよりも大きな音がして、俺が気付いたはずだ。
そもそも楽園に暮す俺達最後の2310名には空き巣をする理由が無い。
きっと、店に入ってきたのはroot権限を持つ接点だ。
店に入ってきた足音は他の部屋には目もくれず、俺たちが居る2階のイェトの部屋に向かってくる。
俺の位置情報を勝手に読んでいるな。
ギィ─。部屋のドアを開けて現れたのは、やはりパンジャビドレスを着た少女、接点であった。
「何か用か?」
そう尋ねると、彼女は無言で俺の腕をつかんできた。いつもならされるがまま資材庫に連れていかれる俺が、今回に限っては彼女の小さな手を払いのけて拒絶した。
「ここで話せ。イェトは苦しみで、何も聞こえていないし、何も見えてはいない。」
不覚にも、その言葉を言いはなつ瞬間、俺の声は震え、左目から涙が一粒だけこぼれた。
言ったことに嘘はないが、苦しむ彼女のそばを離れたくはないというのが、実は、接点の手を払いのけた本当の理由だ。
接点は俺の膝の上のイェトに視線を落として状態を確認した後、俺の脇の下に潜り込み、顔を隠しているベールを脱いだ。
「イェトについて、提案がある。」
接点にしてはもったいつけた言い方に俺は一瞬身構えて、そして俺の童顔に似合わぬ形相で彼女をにらみつけた。
「イェトをROM化するつもりか?」
俺は真っ先にそれを思い浮かべた。
それだけは首を縦にふれない。相手がroot権限を持つ特別な存在でも、俺は戦い、イェトを守り抜く。だから、その決意をあらわにして、彼女を睨みつけた。
俺は更に舌で抵抗を続ける。
「お花畑の化け物は確かに危険な存在だが、好戦的なわけではない。そして俺は化け物に浸食されてもまずお花畑化しない。だから俺なら化け物化したイェトとでもいっしょに暮して行ける。」
俺は口を開こうとしたプライマリに先んじて、彼女の口をふさぐように、そう力説したのだ。
聞こえて来たのはプライマリのため息。
「勘違いをするな、ROM化はしない。」
その言葉を聞いてもなお、俺はイェトを守るように抱きしめて、脇の下のプライマリをにらみ続けた。
「彼女を君の有限幻界のバックグラウンドにプッシュしようと我々は考えている。その提案をしに来たのだ。」
「バックグラウンドだって?」
「ああ、そうすれば彼女は1キロ未満の通常非活性な存在となり、見た目上消える。10ミリ秒に一回キューを処理して、多くの場合100マイクロ秒未満で…」
「人類の言葉で言ってくれ。」
「期待される君の語彙から選ぶなら、仮死状態が比較的近い。」
「仮死状態になるとどうなる?」
「お花畑化を最低で100倍、見積もりでは数千倍遅らせることができる。」
「本当か!」自分の表情がぱっと明るくなるのが分かった。
「有限実装から切り離せば本当の仮死状態にできるが、お花畑化が進んでしまってからの切り離しは、ジェジーの提案が承認されていない通りで、現時点では認可されていない。」
「つまり、最善の妥協案だと考えていいのか?」
「バックグラウンドに居てもいつかはお花畑の化け物になる。しかし、君の有限幻界内であれば、きっと問題は最低限に抑えられる筈だ。君は人類の中でも特別に鈍…頑丈だからな。専用端末を使えば彼女と簡単な通信もできる。」
「イェトのお花畑化を遅らせる、お前たちのメリットはなんだ?」
俺は、プライマリの、すなわち彼女の背後にいる保全機能の言うことを、まだ完全には信じていない。
なにせ保全機能は俺たち人類には理解できない存在なのだ。
彼らにとって何が正義なのか、2310名の誰もが把握できていない。
もし唯一理解しているとしたら、それはチャケンダだろう。
バックグラウンドにプッシュすることでイェトに何の害もないのか、保全機能の都合の良いようにされてしまうだけではないのか、俺は慎重に確認をした訳だ。
「保全機能は一人でも多くの人類を完全な状態で惑星トクァに送り届けたいのだ。イェトはまだお花畑化をしていない。彼女にはまだ君たちにとっての希望がある。」
「そうか。」
プライマリがそこまで言ってくれるならば信じよう。
俺はやっと苦しむイェトをプライマリに差し出した。
彼女は何の前置きもなく手続きを始めた。
「ヴァーチャルアロクイーエクス。」
プライマリがそうつぶやいた瞬間、何か内臓を指でくすぐられているような感覚がした。
「おい!」
「我慢しろ。」
プライマリがイェトに手を添えた。
「イネーブルドプロパティをフォルスに。」
イェトが苦しまなくなった。と、言うか、動かなくなった。
「大丈夫なのか?」正直焦る。
「手続きが成功したという意味ではYES。彼女の苦しみに関してはNO。彼女の姿が動かなくなったというだけで、イェトはまだ苦しみに耐え続けている。」
「イェト…」
「ダイレクトキャスト、イェト、パーソナリティー。」
「おお、うおお。」
また、内臓をくすぐられているような感触。
「これで彼女をお前のバックグラウンドにプッシュできた。今なら苦しみもほとんどない筈だ。」
そう言われてもピンと来ない。何故ならイェトはまだ俺の腕の中、時が止まった状態で姿が存在している。
プライマリがイェトに手をかざしたまま、また何か呪文を唱えようとしている。
俺は嫌な予感がしてイェトを抱きよせ、くるりとプライマリに背を向けた。
「まだ、最後の手続きが残っているぞ。」
「それはどういう手続きだ。」
「今君が抱きしめているイェトの姿を抹消する手続きだ。」
なんという残酷な手続きだ。あぶなかった。
「その手続きは絶対に必要なのか?」
必死に食い下がる。
「必須ではないが、それをどうする気だ?もう、それはイェトではない。」
「どうもしない。でも、必要なんだ!」
そう訴えて抜け殻となったイェトを椅子に座らせ振り返ると、プライマリはもうそこにいなかった。
代りに足音が3つ、階段を上がってくる。
プライマリに必死で話していたのでベルの音に気付かなかった。
コンスースとチョリソー、そしてオウフがドアが開きっぱなしのこの部屋を見つけて、中を覗き込む。俺のパン屋で朝飯を食う、いつもの3人だ。
コンスースがコンコンとドアをノックする。
「ニカイー。イェトは椅子で寝ているのか?」
この3人にはイェトのことをちゃんと話さなきゃいけないのに。
なんて情けないんだ。俺は涙ばかり出て、嗚咽で言葉が出ない。
「おい、何があった。大丈夫か?」
コンスースが力を失った俺の両肩を持ち支える。
オウフが俺の横に座って、ハンカチで俺の涙をふく。
チョリソーがイェトの抜け殻の処に行き、それが呼吸をしていないことに気付く。
彼女はびくっと驚きながら離れて、舐めていた飴を口の端から落としかけ、俺の隣にぴったりと寄り添って、俺の手を握った。
「落ち着いて聞いてね。この世界でまさかだけど。イェトは、その…死んだの?」
コンスースとワラオはそのショックで動きが凍り付く。
「違う!!!!」
否定するために、俺はやっと声が出せた。
イェトの小指が侵食されてから、彼女を俺のバックグラウンドにプッシュするまで、全部話した。
ワラオがイェトの抜け殻を抱きしめて泣く。
チョリソーがワラオの背中をさすって慰めるが、やはり彼女自身もたまらずワラオとイェトの抜け殻を抱きしめて泣き崩れてしまう。
コンスースはかろうじて涙をこらえている。
彼は俺の頭を抱きしめる。
「僕はあきらめていないよ。チャケンダは人間の姿になれたのだろう?」
「ああ。」流れで賛成をしながら、俺は彼が示した事実にはっとする。
そうだ、まだ希望があるではないか。イェトを侵食したチャケンダこそがイェトを助けるカギだ。
「だから例えイェトがお花畑の化け物になってしまっても、僕はあきらめない。」
「そうだな。コの字の言うとおりだ。」
「イェトは必ず帰ってくる。どれだけ時間がかかっても、何をしてでも、イェトを取り戻す。」
「おうとも、絶望するにはまだ早い。」俺はコンスースから離れて涙を拭いた。
俺とコンスースはフィストバンプでお互いの決意を確かめ合った。
その拳をひっこめる間もなくマァクからテキストデータが来た。
”教会に出頭せよ。”
マァクは俺とイェトが所属する回帰派の副代表。そして代表であるホトプテンの元恋人だ。
チャケンダが指名手配された時点で上に呼び出されるのはわかっていた。
事実上俺が保全機能の窓口になってしまっているからな。
そうでなくても、指名手配の文章に俺の名前が乗ってるもん。ニカイーって。
チョリソーとオウフは未だつらそうな表情でイェトの抜け殻から離れようとしない。
俺はコンスースに「3人を頼む。」とあとを任せて、マァクの有限幻界に向けてチャンネルを切り替えた。
枯葉で覆われた丘の上、ガラスブロックを積み上げた階段の先に彼女の教会はある。
木なんか一本も生えていないのに、分厚い雲で覆われた空から、ハラハラと枯葉が落ちてくる。
どちらというと霧に近い小雨が降り続けている。
マァクは何時もの修道服姿で教会の入り口に静かに立っていた。
どうやってあれほどの美しさを想像できたのか?彼女を見るたびに、俺は目を奪われてしまうのだ。
彼女の周りだけ雨が降っていないかのようだ。マァクの立ち姿は幻想的に輝いて見える。
彼女は自信の体に美の呪いをかけた。
何をもってしても、彼女の美しさを汚すことは出来ない。
針の先ほどのシミやチリの付着だって許しはしない。
神をも恐れぬその美しさ。
回帰派の中で”雨無しの君”と慕われているのも頷ける。
「待っていたわ。さぁ、中に入って。」
彼女の立ち振る舞いはシルクのように滑らかで気品がある。
教会のいかにも宗教めいた装飾の木戸をくぐると、数名が祈りを捧げに来ていた。
俺とマァクはそこを素通りして裏門から一旦外に出る。
教会の裏手には2つの塔がある。
右の塔は頂上に釣鐘がある。
左の塔は頂上が窓のない部屋になっている。
俺たちは左の塔を登る。
左の塔のらせん階段には7箇所に鉄製の戸が設置されていて、これはroot権限を持つ接点を除けばマァクにしか開けることが出来ない。
各派閥の代表が密会を行うために彼女が想像した。
頂上の部屋にたどり着くと、進化派副代表のトポルコフと楽園派代表のケチェが既に来ていた。
そして俺が部屋に入るなり…
「どういう事だ!」
トポルコフの頭にはとっくの昔に血が登っていた。
俺は無礼で無神経で、そのくせ気が小さいこの男が大嫌いだ。
小学生の姿で男なのに女性向けの民族衣装であるディアンドルを着ている。そのセンスも大嫌い。
奴は顔を真っ赤にして、つむじから湯気すら立ち上らせて、俺の方へズカズカと目を血走らせて突進してくる。
「答えろ!どういう事だ!?」
「何がだ。」
「あの指名手配のブロードキャストだ!」
「俺は何も知らないぞ。」
「とぼけるな!ボクは知っているんだぞ。」
「何をだ。」
キャンキャンと気に触るやかましさだ。俺はトポルコフの全てが大嫌いだ。
「お前たちはしくじった!だから保全機能があんな事をせざるをえなくなったんだ。全部お前のせいだ!」
「そりゃあ、なんだ…」
3人の視線が俺に集まる。
「…悪かったな。」
俺はコントをやっているつもりはないのだが、マァクには俺の言い方が受けたようで、彼女はクスクスと上品に声を殺して笑っている。
実のところ謝罪の気持ちなんて欠片もなかったから、間が抜けていて面白かったのかもしれない。
変人のケチェは頬杖をついて、欠伸なんかしている。
トポルコフは更に喚き散らかす。
「皆、チャケンダを恐れている。やつから始まった恐怖を忘れてはいない。今、チャケンダが見つかったら、即時にパニックだ!貴様にその責任が取れるのか!?」
俺はちょんの間首を傾げた後「とれないだろうな。」と、面倒くさそうに答えてやった。
「もう、そこらへんでいいだろう。」
さっきまで眠そうにしていたケチェが俺たちのやり取りにいら立って、唇を震わせながら、俺たちの会話を握りつぶした。
彼は無精ひげを生やした変わり者の酔っ払いで、ペロン・エ・トンボンを着、フリント・ロック式ライフルを背負っている。
「俺たちは長生きをしたし、保全機能の元、恐らくこれからも永遠に近い時間が約束されていた。しかし今、誰かが俺たちの未来を闇に塗り換えようとしている。チャケンダだ。」
ケチェは腰袋から酒のボトルを取り出してクビリと飲んだ。
「32年前、この楽園に化け物と戦士が現れた。平和はゼロだ。そのゼロがマイナス1とプラス1に分かれた。迷惑なことだ。二つの数値が足し合わさって、再び平和なゼロになるまで、何人が犠牲になった?34人だ。それも2310人しかいないうちの34人だ。今この瞬間は、幸いにも、チャケンダもニカイーもゼロだ。この楽園は永遠にゼロであるべきだ。先手を打て。化け物も戦士も楽園には不要だ。」
変人の独特な語り口。
ここまで話して、ケチェは再び口を閉ざしてしまった。変人の頭の中はどうなっているのか、よくわからない。
マァクが話を引き継ぐ。
「この有限幻界は私たちの精神、想像力で成り立っています。そこで大規模なパニックが起こる。その危険性については、改めて述べる必要はないでしょう。支える柱を失ったこの世界がどうなってしまうのか、予想もつきません。」
それに関しては俺にも意見があったので反論をする。
「俺はもっと楽観視している。保全機能がいるからな。俺達を見殺しにはしない。」
「甘いな。」
トポルコフの野郎にその台詞を言われると、カチンとくるな。
マァクが俺の手を握る。
「保全機能の目的の第一優先はあくまで”我々2310名を惑星トクァに送り届けること”なの。」
ついさっき、同じようなセリフをプライマリからも聞いたな。
「この空想の世界は私たちが自力で未来を決められる有難い場だけれども、彼らの目的において必須ではないのよ。判るわね。」
「解ったよ。だから手は離してくれ。」照れくさいから。
「たとえ偽物でも、私たちはこの世界を必要としている。そしてこの世界を守り切れるのは、実は私たち人類だってこと。それが現実よ。」
「そうかもな。」
「だから、チャケンダはパニックを起こさない者が発見しなければならない。その人選を、今行っています。野放しの化け物は私たちが見つけます。ニカイー、それまであなたはパン屋から動かないで。」
「しかし…」俺はイェトの為にチャケンダを一刻も早く見つけ出したい。パン屋の中でじっとなんかして居られない。
「あなたは私たちの切り札なの。それにケチェの言葉を思い出して。戦士であるあなたも化け物と変わらないのよ。パニックの元は動かないで。」
そう言われても、イェトが緊急事態である今、俺はパニックの元と言われようが動きたいぞ。
俺は下唇をかんで悩んだが、最終的にはマァクの美しさに「解った」と言わされた。
彼女の美しさは彼女の言葉に絶対的な説得力を与えるのだ。
「ありがとう。ところで、手配書によれば今チャケンダは人間の姿なのでしょう?ブラックリストは使えないの?」
ああ、あったな。ブラックリストもこの世界にエミュレートされていたな。昔、化け物に対して使おうとしたらプロセスが落下して使えなかったあれだな。
「接点に聞いてみるよ。」
「彼女が使わなかったということは、つまり無理なのだとは思うけれど、念のために確認してもらえると助かるわ。なんにせよチャケンダが見つかったらあなたの出番。安全な場所で確実にチャケンダを仕留めるわよ。」
「了解。」
俺が先導するマァクの後について部屋を出ようとしたそのとき、トポルコフのクソ野郎が「イェトにも言っておけ。言われたとおりに忠実に働けってな。」などと不用意に口走った。
ガゴン!!
俺はトポルコフの頭に拳をめり込ませ、そのままレンガ造りの壁に叩き付けた。
ぐしゃぐしゃになった奴の頭が、奴の貧弱な想像力でのろのろと修復されてゆく。
俺は腐れガキの間抜けに苛立って、さらに足で踏みつけてやった。
「首を引っこ抜いたりくっ付けたりして遊ぶぞ、コノヤロウ。イェトはもう十分に戦った。笑顔で俺のそばにいる。それがイェトがすべき全てだ。判ったか?チビすけ。」
塔の中はビートウドゾーンでそこから他の世界にチャンネルを切り替えることはできない。だから皆塔の外までマァクに送ってもらう必要があるのだ。
塔を出ると俺はチャンネルを切り替えてマァクの教会を後にし、まっすぐイェトが居るパン屋に帰った。
その日、俺は一日中イェトの抜け殻を眺めていた。そして、ふと気が付いた。
30年。俺は年数を数えていた。
イェトと恋人同士になって、気付けば30年もたっていたのだ。
俺はこんな性格だから、女の子と付き合うだなんて2週間も持たないと思っていた。
それが何と30年である。ハハハ。
「なにか派手にお祝いでもするか?」
俺は、イェトの抜け殻を抱きしめた。
そう言えば、プライマリがバックグラウンドのイェトと通信をする手段があるって言っていたな。専用端末?なんだそれ?今度もらっておかないと。
そして、チャケンダの捜索はなにも進展しないまま、一ヶ月もたってしまった。
眠らされていた時間を除いても俺は150歳を超える。
それなのに、たったの一ヶ月がこんなに長く感じたことはない。
イェトの歌劇場を見に行くと、紫陽花の花が増えている。
以前は空間の外周にぽつんとあるだけだったが、今は10メートル四方程度に密生し花壇のようになっている。
紫陽花がどの程度まで増えたら、イェトは化け物になってしまうのだろうか?
パン屋に戻ると、2階のイェトの部屋のドアに”立ち入り禁止”のプレート。
チョリソーとオウフが毎日欠かさずやってきて、イェトの抜け殻の世話をしてくれるのだ。
体を拭き、着替えをさせ、髪を整える。
「毎日ありがとう。これ、貰ってくれるか?」
1階の店におりてきた二人に、俺はクッキーを一袋渡した。
「イェト、元気そうだったわよ。彼女の写真を取って専用端末で送ったら、その髪型じゃ服に合わないとか、本当にいつもの調子なんだから。着付けに時間がかかってしまったわ。」チョリソーが飴玉を舐めながらじゅるじゅると話す。
専用端末がどうなったのか書いておこう。
技術屋のコンスースが作ってくれた。
初めは定時連絡に来たプライマリに「イェトの専用端末ってやつが欲しいのだが。」と、接点から貰えて当たり前のように頼んでみた。
すると、彼女は一冊の仕様書を俺によこしたのだ。
つまりはその仕様書に従って、自分で作れってことだ。
シーケンス図などがつらつらと書き並べられているそんなドキュメントファイル、最初のページで完全にお手上げだ。
もし、仕様書を読んで理解できたとしても、俺には工作技術がない。
そっこーで技術屋のコンスースに泣きついた。
「ああ、任せてくれ。」
コンスースは本当にいいやつだ。二言返事で承諾し、3日とかからずに作ってくれた。
そうして、バックグラウンドにいるイェトと通信ができるようになったのだ。
そんなことも思い出していたので、俺はチョリソーとオウフに
「本当に、お前たちみたいな友達がいてよかった。」などとしみじみ語ったのである。
二人は笑顔で答えてくれた。
そうやって柔らかく話していたときに俺が「見つかったのか!」などと、突然鋭く叫んだものだから、センシェン ガベジの二人は首をすくめて驚いて、オウフはクッキーを落っことしそうになった。
俺のテンションが急激に上がった理由。
それはマァクの来店だ。
マァクが俺のパン屋に来たのだ。その理由は一つだと、俺は信じている。
いよいよチャケンダが見つかった。一ヶ月以上待った。やっと俺の出番、そうあってくれ。
しかし、彼女はやや目を伏せて「ごめんなさい。見失ってしまったの。」と、先ず謝罪をした。
「だが、見つけたんだな?」
「ええ、でも、捜索班も見つかってしまって、撤退命令を出さざるをえなかったの。」
「いいさ、チャケンダには誰も近付かない方がいい。俺以外はな。」
「接点に伝えて欲しい事があるの。」彼女はチョリソーとオウフに視線をくれた。
二人はマァクの意図を察して「じゃあ、あとでね。」と可愛らしく手を振り、店を出ていった。
全く、上の連中は内緒話が大好きだ。
二人が出て行ったあと、それでもマァクはすぐに口を開こうとはしなかった。
俺は彼女が用心深く人影を探しているのだと思った。後で俺は、それは勘違いだったと気付く。
だが弁解させてくれ。
接点への伝言ならば俺にテキストデータなり音声データなりを送ればよろしいわけだが、マァクはパケットを盗聴されることを嫌う。
彼女が重要だと思ったことは必ず口頭で伝える。
なにしろ密談のための密室を自分の教会に作るほどの用心深さなのだ。
だから、皆、俺の立場だったら同様に勘違いをすると思うのだ。その結果、気のいいコンスースを事件に巻き込む結果となったのは、今更詮無いのだが、残念なことだ。
頃合いを見計らって、彼女は俺に話し出した。
「チャケンダはお花畑の化け物を人間の姿に戻したの。女性だったそうよ。そして、パーミッションを書きかえて、彼女をROM化から解放したの。」
「人間の姿のままか?それじゃあ監視に引っかからないな。分かった、俺から接点に報告しておく。詳しい情報を…」
真鍮製のベルが勢いよく鳴った。
「その話は本当か?」
コンスースにこの話を聞かせてしまったのは失敗だった。
「チャケンダは自分だけでなく他の化け物も人間の姿に戻せたんだな?」
「ああ、じゃぁイェトも…」俺はやっとマァクが俺たちにとって重大なことを話しているのだと気付いた。
俺達のゴールが見えた気がした。
今まではチャケンダを捕まえれば、イェトを助ける希望がつながるという認識だった。
それが今、チャケンダを捕まえれば確実にイェトを助けられるという確信に変わった。
コンスースの顔に決意の色がじわじわと現れる。
今思えば、俺がずぼらにも鍵をかけずにいたことを全く指摘せずにマァクが話を始めたのが、そもそもおかしかったのだ。
コンスースに俺たちの会話を聞かれてしまった。
そして、彼にこう言わせてしまった。
「僕をチャケンダ捜索班に入れてくれないか?」
マァクはあらかじめ用意していた文を読むように返答する。
「そうね、内緒のお話を聞かれてしまったから、あなたに参加してもらうというのは、最良の口封じの方法ね。」
「じゃあ、」
「ただし。」マァクはコンスースの言葉を強く制した。
「ただし?」
「今残っているのは、誰もやりたがらない、危険な役目だけよ。」
俺はこの時点でやっと彼女の策略を察した。
そういう事か。この女狐、わざとコンスースに聞かせたのか。
一ヶ月以上もかけてチャケンダを見つけながら、結局見失うという失態を彼女は二度と行いたくはないのだ。
しかし、そのためには危険な役目を買って出るものが必要だ。
そんなもの好きはいねぇ。
彼女はコンスースに白羽の矢を立てた。
馬鹿を言え。
俺はこれ以上親しいものを失いたくない。
コンスースの肩を握って回れ右をさせ、入り口に向かってその背を押す。
「コの字。お前は帰れ。」
しかし、コンスースの決意は固く抵抗してくる。まったくマァクの思うつぼだ。
「どうするの?」マァクのだめ押し。
この質問にはいと言わせてはいけない。俺は必死で彼の腕を引き、いっそチャンネルを切り替えて、マァクの追及が及ばない世界まで逃避行をしてやろうかと思った。
「コの字、やめておけ。技術屋の仕事じゃぁない。」
それだけ俺が止めたにもかかわらず、気のいい技術屋は首を縦にふった。
「やるとも。イェトの笑顔を取り戻すためなら、なんだってできるさ。ニカイー、マァクの話を聞いただろう?チャケンダはお花畑の化け物を人間の姿にする手続きを知って居る。奴自信だけが変化できるのではない。他の化け物にも有効なんだ。奴を捕まえてイェトを人間の姿にとどめさせる。」
「心は決まった様ね。」
マァクが修道服からFNポケット・モデルM1906拳銃を取り出し、コンスースの眉間めがけて引き金を引いた。
小さな.25ACP弾がゆっくりと彼の額に埋もれてゆく。
「その弾丸は貴方の作戦に必要な情報よ。脳に取り込んで、理解しなさい。」
チャケンダを発見した捜索班の視覚情報、聴覚情報、そして感情の動きそのものがコンスースに移植された。
勿論、彼らがチャケンダに見つかった時の恐怖も。
恐怖に見開いた眼が熱い。
コンスースはじっとりと脂汗をかいた自分の手を眺める。
「どうします?辞めるなら、これが最後のチャンスよ。」
「いや、やるさ。」
全く意地の悪い女だ。彼が引き下がるわけがない。知ってて言いやがった。
これで「もし作戦に失敗し、お花畑の化け物になっても異存はありません。」とコンスースから念書を取ったようなものだ。
彼は俺の肩に手を置いた。
「待っていろ。もうすぐチャケンダの尻にに手が届く。マァクの銃弾から得た情報では居場所はほぼ特定できている。お前の出番、近々に作るぞ。」
居場所はほぼ特定できているだって?
じゃあ何故、誰も行かない?危険な役目?
それって、それってつまり。
「おい。ひょっとして、罠があるってことか?だから誰も行きたがらないんじゃないのか?」
「行ってくる。」
コンスースは俺の質問に答えない。
つまり罠が待っているってことだ。
コの字よ、勇気と無鉄砲は違うぞ。
「まてっ!」彼の膝に組み付いて押し倒そうとタックルを試みたのだが、まんまと逃げられてしまった。こんなことならば何か体術を習得しておくのだった。タックル一つ決められないだなんて。親友を止められないだなんて。
コンスースはチャンネルを切り替えて、俺の世界から去ってしまった。罠が待つ危険などこかへ向かうために。
マァクも帰ろうとしている。
「マァク。コの字を決死隊に選びやがって。生贄にしやがって。」
マァクは静かに微笑んで、チャンネルを切り替えて俺の世界を去った。
コンスースは一度自分の有限幻界に戻った。
彼の世界は巨大な工場で、あらゆる工作機械と資材、電子部品などがそろっている。
彼は単分子繊維製の布で背広と帽子を作成し、その内側にレールガンシステムを一式組み込んだ。
「罠が待っていると分かっているんだ、それなりの装備はしていくさ。」
二日後、彼はマオカルという男の有限幻界へチャンネルを切り替えた。
建築家スパイタの有限幻界。
彼の世界は彼が設計した個性的な建物で埋め尽くされている。
その建物の一つ、透明な樹脂のみを用いて作られた住宅がスパイタの住む家だ。
壁も床も柱も、ボルトすら透明。
室内に照明はなく、スイッチを押すと屋外の照明が点灯し、10メートル離れた場所からから室内を照らす。
風呂場も便所も、バスタブから便器に至るまで透明なのだ。
その透明な落ち着かない便所で、堂々とようをたして、楽園派の代表ケチェは出てきた。
四人の楽園派信者がテーブルを囲んで、なにやら一心に念じている。
テーブルの中央にあるのは200分の1スケール、つまり高さ3mの根拠の塔。
「よう。どんな塩梅だ?」
「今内部をチェック中だ。」
スパイタは外科医から借りてきた小型ロボットをつかって、四人が作ったミニチュアをチェックしている。
そのロボットは米粒のような形状で、小さな棘が生えた外殻を振動させて移動する。
外殻全体で周囲の映像をとらえる。
外角は楕円形なので取得した映像は歪むが、その歪んだ映像をそのまま外部の受信機に送る。
つまりロボット自体は可能な限りシンプルに設計されていて、必要最低限の機能しか実装されていない。
映像は外部の受信機でソフトウェア的に歪みやブレを補正する。
「今のところ問題は?」変人ケチェは酒をあおっている。
「無いね。設計図通りだ。」
「じゃあ帰るわ。糞もしたしな。」
「四人がかりで200分の1、本番は14人で足りるのか?とかさ、素人丸出しの質問はしてくれないのかい?」
「そういう質問をして欲しいのか?」
「いいや、うんざりだ。」
マオカルが想像した有限幻界に到着したコンスース。
「なんだここは!?」
上下左右全方向に移動可能な立体的な迷路。
その床にも壁にも天井にも怪しげなマンホールが設置されている。
そして気付いた。影が無い。
光源なんてどこにも存在しないのに、すべてのものは全方位から自然光で照らされていて、影が無いのだ。
そしてホワイトノイズ。足音をかき消す程度の音量でザーっと、気に障る音だ。
考えるに、ここは罠を張るのに特化した空間。
そういう事なんだと思う。
迷路の中では道順を知って居る敵の方が当然有利。
この様に立体に組み上げられると、迷路の必勝法も通用しなさそうだ。
追跡中に道に迷ったら、いったんチャンネルを切り替えて迷路から脱出するほかない。
圧倒的に守備側が有利なように考えつくされている。
いうなれば、個人用の要塞だ。
「いいさ。片っ端からぶっ壊してやる。罠だろうが、世界だろうがだ。」
コンスースの袖口からレールガンの銃身が伸び、肩の後ろから冷却用ラジエーターが突出する。
キィィィィィィィ……、耳をつんざく高周波。
ジョッッ!!!!
射出されたジュラルミンブロックは鼓膜を爆裂させるほどの音を発して、すぐ手前にあったマンホールを爆散させた。というか床にマンホールの4倍はありそうな大穴が開いている。
背中のラジエーターからは、もうもうと煙が立ち上っている。
「分子配列最適化圧縮して持ってきたから、弾はほぼ無尽蔵にある。全マンホールを、それでだめならこの迷路を丸ごと消滅させてやる。」
コンスースは無作為に歩きまわりながら手当たり次第にマンホールを狙い、迷路ごと破壊してゆく。
破壊行為の過程で、ほとんどのマンホールが、単に壁や床に蓋がくっついているだけのフェイクだと分かった。
「くじ運は悪くない方なのだが、今日はあたりを引くのに骨が折れそうだ。」
始めは右腕のレールガンだけを使って丁寧に狙いを定めていたが、左腕に仕込んだレールガンも使って乱射する。
「うおっっ!」
レールガンの反動で上体がよじれて転倒しそうになる。
「帰ったら、カウンターファイヤを取り付けよう。まぁ、二度とこのスーツを着なくて済むのが理想ではあるが。」
コンスースは彼の言葉に嘘偽りなく、マオカルの世界を破壊していった。
ガキン!
突然、頭部への衝撃。コンスースは数メートル吹き飛ばされて床に横倒しになった。
手足が動かない。首がへし折れたようだ。単分子繊維製の帽子をかぶっていたので頭は破壊されずにすんだ。
「帰ったらこの対策もしなければ。二度とこのスーツを着なくて済むのが理想ではあるが。」
ハイブリッドハンドガンを手にした男が近づいてくる。マオカルに違いない。
ゲル状の炸薬と磁力を併用したあの銃は、推進力が銃弾に均一にかかるので、拳銃の短い銃身でも高い精度で遠距離を狙える。銃弾は比重の大きい劣化ウラン合金だ。
コンスースは折れた首に想像力を集中させて回復を急ぐ。
マオカルが40メートルもの遠くから狙撃してくれたので、彼が近付いてくるまでに首の修復をし終えることができた。
コンスースの足元に立ったマオカルは、地面に横たわる彼の周りに血が一滴も飛び散っていないことに気づく。
彼の装備を知らないマオカルは実のところ銃弾は彼の頭を貫通したと信じていた。
「悪いな。」
コンスースが振り返り、レールガンでマオカルの右腕もろともハンドガンを吹き飛ばす。
しかしマオカルは痛みをこらえて右後方にくるりと飛び、左手でハンドガンを確保。
コンスースの心臓めがけて引き金を引いた。
弾丸は単分子繊維の布を貫通できず、縦に潰れて地面に落ちた。
「そういうことか。」初めて聞くマオカルの声。
「そういうことだ。」
コンスースの帽子が変形し、フルフェイスヘルメットになった。
これでコンスースの全身は隙間なく単分子繊維で覆われた。
右手を修復しながら逃走するマオカル。
レールガンを乱射しながら追うコンスース。
彼に走りながら器用に狙いを定める技術はない。さりとて止まってしまってはマオカルを見失いかねない。ここは曲がり角が延々と続く迷路だ。
折角顔を出してくれたんだ。逃しはしない。
一発がマオカルの右足を吹き飛ばした。チャンスだと信じていよいよ距離を詰める。
それが油断だった。
気付かずに踏んでしまった地面のマンホール。これが地雷だったのだ。
それも戦車だって空中に吹き飛ばせそうな火薬の量だ。
空高く舞い上がったコンスースは、四肢があらぬ方向に曲がって、そこら中を骨折。
気絶をしたままズダンと地面に落ちた。
コンスースが目覚めた時、彼は拘束用のスチールテープでぐるぐる巻にされて、椅子に座っていた。
「気が付いたか。」
「ぐぅ…」
「その服、欲しかったんだが、ロックされていて、脱がせられなかった。」
「チャケンダは何処だ?」
「止めておけ。お前では勝てない。敵はただ一人、ニカイーだけだ。」
「奴のせいで一人の少女がお花畑の化け物になりかかっている。」
「安心しろ。お花畑化は悪しき結果ではない。」
「ふざけろ!奴は人の姿のままでいる方法を知っている。僕はそれが知りたい。」
「その秘密がばれると、保全機能がチャケンダを追跡する方法に気づいてしまうかもしれない。あきらめろ。」
「では、力尽くで聞き出すしか無さそうだな。」
「まぁまて、頭を冷やせよ。チャケンダには相談しておいてやる。だから今日は帰れ。俺たちは争う必要が無い。」
「お前たちの言うことなんか信じられるものか。」
「お前は俺たちを誤解している。俺達も回帰派や進化派と同じく、残された人類が進むべき道を考え、行動をしているだけだ。」
「ならば何故、逃げ隠れする。」
「俺たちの思想は人を選ぶのだ。例えばお前では話にならない。今日の処は大目に見てやる。帰れ。」
マオカルがニカイーのパン屋の前までコンスースを運び、スチールテープで拘束したまま置き去りにした。
「くそっ!くっ…そ。チャケンダは必ず僕が追い詰めるっ!!」
コンスースの雄叫びを聞いて、俺は驚いて店の外に飛び出した。
包丁を持ってきてスチールテープを裂きコンスースを自由にする。
「大丈夫か?」
「体はね。しかし、事態は複雑だ。」
「何があった?」
「チャケンダは一人ぼっちの狼じゃあない。万人におそれられる化け物がなぜだ?情報が必要だ。ニカイー。チャケンダについて知っている事を全て教えてくれ。」
「俺の話なんかでいいのか?」
「お前以上に奴について詳しい人間は居ない。」
「そうか。」
俺は32年前の昔話を始めた。




