第二部 ひよこたまごカップ編
第六話 ラケットとラバー
あの日シャツに敗れた俺達。パートナーのユキオは言った。「ラケットを言い訳にはしない」 相手のほうがよいラケットを持っているから負けたんじゃあない。実はユキオのラケットは100円ショップで買ったものだ。とにかくひどい。スリッパにゴムを貼って打ったらこんな感じだろうか。そしてユキオはラケットを新調した。このラケットで次は勝つ 決意の現れだ。
6000円で新調したラケットを持ったユキオは強い。磨きをかけた俺の七色のサーブ、バッククロスでさえ自分の球として打ち返してくる。そして必殺のスマッシュ。死角は見当たらない。これと対等に渡り合うにはあれしかない。噛み付くようなドライブ。もっと強いスピンが必要だ。もっと強いスピンが。
そして俺は代官山へ向かった。卓球の聖地「International Table Tennis」 俺のラケットはラバーと合わせて5000円はしたはずだが、15年前のものだ。ラバーは固くなり光沢を失っている。ラバーを新調すればスピード、スピン、コントロールの全てがよみがえる。さすがは専門店。豊富すぎる品揃えだ。しかし店員の対応は恐ろしいまでに悪い。完全な殿様商売だ。ユキオから注意されてはいたがこれほどとは。その中でひときわ目を引く新製品「ブライス2」 アテネオリンピックチャンピオンモデルを更に進化させた最高峰モデルだ。これだ 。
「値引きして5030円 定価は6300円だよ」店長らしき男が言った。さすが最高峰モデル ラバーだけで5000円はきつい。それを戻そうとする俺の背後で別の店員が店長にささやく「きついらしいっすよ」 手に持った高級ラバーを叩きつける衝動にかられる。昔ドラマでヤクザ風の男が高級ブティックで足元を見られドレスを破り捨て、20万円を叩きつけて店を出るシーンが頭をよぎった。なんという店だ。
いかんいかん落ち着け。チャンピオンモデルを買うことはない。最高のプレイをする。そのためにここに来たんじゃあないか。 「スレイバーG2」 俺はこれを選んだ。3500円とラバーの中では高い方だが、世界を席巻したあのスタンダードラバー「スレイバー」の第二世代モデルだ。スピードとスピンが手に入る。噛み付くドライブが手に入る。あとは思い切り振り抜く勇気だけだ。初練習は明日だ。
つづく




