第五話 スポーツマンシップ
俺達が敗れた翌日はニコニコブロックと死のブロック合わせて2回戦が8試合行われた。今年はレベルが高い。昨年準優勝のタカとカオリのペアもニコニコブロック2回戦で敗退した。俺はこの日、出張で外出し、試合を観戦することができなかった。出張から戻った俺はセンターホールに貼られたトーナメント表を見て目を疑った。王者S総研が敗れているではないか!この日審判に回ったパートナーのユキオに聞くと、例の紫シャツは出ていなかったらしい。出張か何かで出られなかったのだろう。オフィスビル内のトーナメント。仕事の都合も実力のうちだ。代役の力が足りなければ容赦なく敗れることになる。
大会は大詰めを向かえ、今日は準々決勝と準決勝だ。俺はまたしても目を疑った。シャツは青だが、例の男が出ているではないか!同じ会社の別ペアの代役で出ているらしい。こっちはニコニコブロックだぞ! 決勝ではニコニコブロックの覇者と死のブロックの覇者があたる。結果として決勝は消化試合的なものになる。つまりニコニコブロックの出場ペアにとって決勝進出は優勝に等しいのだ。
そのことを知ってか知らずか、シャツのペアは圧倒的な強さで準々決勝を突破。続く準決勝でも第1セットを取り、2セット目も大幅リード。相手のGパン女性のペアは違うチームだが、同じ場所で練習を重ねた仲間でもある。俺達は決勝で会おうと誓い合った。俺達は実力でシャツの前に敗れ去った。しかしこっちはどうだ。連夜の練習の成果を発揮し、ニコニコブロックで決勝進出を目前にしたGパンペアがいいようもいたぶられている。こんなことがあっていいのか。 俺は大会本部に詰め寄った。今年のレベルの高さは異常らしい。両ブロックとも真剣勝負が続く。卓球協会公認の試合は背中に名前入りのゼッケンをつけることになっている。オフィスビルでの交流戦ではそこまで厳格にはしない。その結果、同じ会社で代役を出したりして、なあなあな運営でも楽しみながらトーナメントは進む。だがそれは昨年までの話だ。
結局大差で敗れたGパン女性がトーナメント表を見つめる。悔しさがにじみ出ている。俺は声をかけることができなかった。観客席から「お疲れ様」と声がかかる。Gパン女性が応えた。「ぼろ負けだよ。足が動かなかった」彼女も全力を尽くしたスポーツマンなのだ。俺は目頭が熱くなった。
翌日、俺はまたしても目を疑った。今日の決勝にシャツが出ていないではないか!代役はこう言っちゃ悪いがハナクソレベル。まともにやっていればニコニコブロックでも一回戦突破がいいところだろう。シャツはまた出張か?いや、違う。コートサイドで見物していやがる。シャツが出ていても批判は免れないが、決勝にハナクソを送り込むとは選手、事務局、観客全てに対する冒涜だ。対するネクタイペアは死のブロックを勝ち上がった実力者だ。あっけなく試合は進む。
隣のBコートでは3位決定戦が行われている。シャツに敗れたGパンペア、ネクタイに敗れたポロシャツペアが熱戦を繰り広げる。彼らはチームメイト同士でもある。手の内を知り尽くしたもの同士、銅メダルをかけて真剣勝負が続く。どちらが決勝か分からない好ゲームだ。 3決の1セット目が終わるころ、あっさりと優勝が決まった。決勝に進むに値しない選手を送り込んだS総研。そして大会を壊した張本人であるシャツ。見物しているシャツが立ち去る時、俺とユキオは誓い合った。奴は必ず叩きのめす。
第一部 完




