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第十六話 趣味は卓球です。

二位でBブロックを通過した俺達 準決勝はAブロック1位の愛ちゃん 天才小学生だ パートナーはコーチの趙さん 趙さんはかつて乱視のため中国代表候補から外された経験を持つ これほどの相手と試合するのは後にも先にもないだろう とにかく思い切りよく、全力でぶつかるのみだ


だが現実は違った 趙さんは明らかに手加減をしている 野球の強打者は得意なコースのすぐ隣に苦手なコースがあるという それが俺達にもあったとは フットワークで得意な場所に変えようとするが趙さんの球は常にその先をゆく 俺達はネットの山を築いた 届かないパットは入らない タイガーウッズの教えるところだ ネットにかかる球は入らない 


趙さんに完全に封じられた俺達は愛ちゃんの実力を見るまでもなくストレートで敗れた 相手の強打はほとんどない 完全な自滅だ 徳さんとミドリさんがなぐさめてくれた 趙さんと初めて対戦するものは皆、洗礼を受けるらしい 決勝でも山下さんとタケル君はストレートで敗れた 俺達ほどではないがタケル君が封じられた 山下さんはよく粘ったがレベルが違っていた


相手にいかに力をださせないか 趙さんはそれを知り尽しているようだった 愛ちゃんと趙さん 愛ちゃんの公式戦と重なった場合を除き道場での草試合に欠かさず出ているという そして未だ無敗 道場に集まる多様なプレイヤーとの試合が愛ちゃんの経験値を高めて行くのだろう 俺達との試合も無駄ではないのかもしれない





三ヶ月後、俺は東京体育館に来ていた 全日本ジュニア、愛ちゃんの公式戦だ 18歳以下の日本一を決めるこの大会は大学1年生までが出場する 小学4年生で最年少の愛ちゃんは高校生相手にベスト8まで勝ち進んだ 準準決勝の相手は小学6年生の聖ちゃん 天才同士の熱戦はフルセットの末、聖ちゃんが勝った 二人はこれから日本の女子ダブルスを背負っていくだろう 愛ちゃんの両親がスタンドで泣いている ベスト4に入れば全卓連の強化指定になれたそうだ 当の愛ちゃんとコーチの趙さんは驚くほど淡々としている 悔しくないはずがない 来年があるさということでもない 既に明日からの練習に照準を合わせているのだろう


思えば俺が卓球を再開したのはオフィスビル対抗戦からだった あのシャツに勝つために週1回の練習は続けている あの日の草試合以来、第三日曜は草試合に出ている あれ以来決勝トーナメントはないが、俺もユキオも確実に成長している 愛ちゃんとの対戦もあれ以来ないが全日本級のプレイヤーとの対戦はから多くのものを得た 


卓球をやっていてよかった 改めてそう思う 温泉卓球もいいだろう 今年のオフィスビル対抗で俺達は優勝候補だ シャツに勝つとしたら俺達だろう 俺達のレベルは決して高くはない 卓球に全力を尽くすこと そこから多くのことを学ぶ 自信、勇気、信頼、そしてスポーツマンシップ 勝ち負けだけが卓球ではない だが勝ちを目指さない卓球に価値は少ない 俺達は胸を張って言う 趣味は卓球です



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