第十三話 メンタル
第十三話 メンタル
日曜の11時半、俺とユキオは道場近くの定食屋で待ち合わせた 早めの昼食をとり、作戦会議だ 俺もユキオもペンホルダーの攻撃型だがユキオは表ソフト、俺は裏ソフトのラバーを使う 表にイボイボが出ているのが表ソフト、スピンはかかりにくいが徹底的にスピードを追求したラバーだ 俺のスレイバーG2は裏ソフトのスタンダードモデル「スレイバー」の後継モデル スピードを保ちつつスピン、コントロールを高めたバランスの取れた攻撃を可能にする 俺が攻めながらつなぎユキオが決める この流れに如何に乗れるかだ やはりサーブレシーブが鍵を握るだろう
12時過ぎに道場に着いた 試合は1時からだが既に他のメンバーは練習を始めている 出場は8ペア 4ペアずつのブロックに分かれて総当たりのリーグ戦を行い、各ブロック上位二チームが決勝トーナメントに進む 初出場の俺達はBブロック 徳さん、ミドリさんと道場の管理人の山下さんが同じブロックだ この前のリベンジを狙う徳さんが山下さんに頼んで仕組んだのだろう これは公式戦ではなく道場の草試合 このような仕組みがあってもいい 面白いじゃあないか
一回戦は山下さん いつも事務室にいる彼が打っているところを見るのはこれが始めてだ ペアを組むのは息子のタケル君 父親の言うことはあまり聞いていないが現役卓球部員はやはり強い 県大会レベルぐらいだろうか 高校でも続けて欲しいものだ 攻撃型のタケル君にカットマン山下さん 山下さんは台から二歩離れて構え、俺達の攻撃をことごとく拾ってくる こちらが守りに入るとタケル君に打ち込まれる 小細工は通用しない
実力の差を感じとった俺達は次の試合に狙いを絞った 二勝すれば決勝トーナメントに進めるはずだ サーブとサーブレシーブは思い切って隅を狙う 早い段階からドライブで切り返して攻める 開き直った俺達に対し、焦りの色が見えるタケル君のスマッシュがネットにかかりだす 実力ほど点差はつかない 1セット目はストレートで敗れたがいい流れを掴んだ
2セット目、俺達は奇策を持ち出した 俺もユキオも台から離れる超守備型シフト 敢えてタケル君にチャンスボールを上げる カットマンの山下さんも攻めに転じてきたが、必死の守りで耐えていると狙い通り、タケル君のミスが目立ち始めた 卓球はメンタルが支配する 強いとはいえ彼はまだ中学生だ このセットは僅差で俺達が取った
最終セットを前にタケル君が山下さんにこってりとしぼられている 彼はこのセット修正してくるだろう 第1セットの攻めと第2セットの守り、これが噛み合えば勝てる 微妙に立ち位置を変える 俺はタケル君の強打を拾い、ユキオはカウンターを狙う タケル君も調子を取り戻し、山下さんの安定したプレイは顕在だ もともと実力は向こうが上 俺達は思い切り向かっていった 18−20 相手のマッチポイントだがデュースに持ち込めばチャンスはある ここで山下さんは奥の手を出した 高速サーブが手元で急激に曲がる 俺のラケットが空を切った サービスエース
実力者の山下さんは最後まで本気のサーブを隠していた 一番の勝負所で決めてきたメンタルの強さ タケル君はもっと強くなるだろう だが俺達も実力以上のプレイができた この試合でのプレイをものにする 俺達も強くなる
つづく