第三部 卓球道場編
第十二話 草試合
中山卓球道場。俺達のホームコートだ。とは言っても新参者の俺達は完全にアウェーの雰囲気で練習する。そして中山の愛ちゃん。道場のアイドル、天才小学生プレイヤーだ。小学生の頃の福原愛選手よりも実力は上と見る声も高い。一時間400円の道場でのプレイ料金も彼女だけは免除されている。無理もない。彼女は毎日6時間以上練習するのだ。
俺達が道場に通いつめるようになったのは九月からだ。顔馴染みも増えてきた。
「兄さん達、日曜の試合はどうするね?」
道場では毎月第三日曜に草試合を行っている。出てみたいとは思っていたが俺達のレベルではまだ早いのではないか?腕をあげてきたとはいえ俺達は所詮エンジョイ卓球のレベルだ。愛ちゃんを初め道場に集まる選手達とはレベルが違う。道場で卓球ユニホームを来ていないのは俺達ぐらいなものだ。躊躇する俺達に馴染みの徳さんは言った。
「大丈夫だって。兄さん達うまいからなんとかなるさよ。なんなら今からひとつやろうじゃないか。」
隣でサーブ練習をしていたミドリさんを入れて急遽ダブルスが始まることとなった。ユキオとペアを組むのはあの日シャツに負けて以来だ。ナミとマサヒコが下がり、徳さんとミドリさんが入る。二人は正規のペアではない。
徳さんが卓球を始めたのは恐らく50を過ぎてからのことだろう。素振り等基本がなってないところが見受けられる。しかし圧倒的な練習量でそれをカバーしている。ペアを組むミドリさんは対照的に腰を落とししっかりと振ってくる。付け入る隙があるとすれば急造ペアのコンビプレイだ。俺とユキオは徹底して徳さんのフォアを狙った。徳さんの強打をカウンターで返す。リスクの高い組み立てだがミドリさんを封じるにはこれしかない。1セット目は落としたが後半から作戦が当たりだした。カウンターが決まりミドリさんのバックが浮いたところを叩く。俺達のコンビは完璧だった。対する相手のコンビはほころびはじめる。一度乱れたコンビは簡単には戻らない。俺達は勢いに乗り三セット目もものにした。
「ありがとうございました」
「やっぱりやるねえ兄さん達 日曜は負けねえべよ」
これで後には引けなくなった。エントリー用紙を出して帰ろうとした俺達はミドリさんのサーブ練習に目を奪われた。そのサーブは先ほどのゲームでは見せていない。鋭さを増したサーブが連続で決まる。どうやら彼女にも火をつけてしまったようだ。
つづく