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【短編シリーズ集】おもちゃ箱  作者: トネリコ
天才こじらせたあほ兄貴と、その妹
3/7

「ふははっ、妹よ! 兄は無言の訴えすら拾ってみせるぞ!」

 ちょくちょく川まで様子を見に行く妹。

 こいたろうに嫉妬する兄。

 そうするとどうなるか…、まあ…うん…ね。

  

「マイスウィートエンジェル!! 新しい装置が出来ー…、む、いないのか」


 ドアを開けてみるが、部屋はもぬけの殻である。こういうことが何度か続き、兄は歯軋りする思いを抱えていた。何処へ行くにも自分の後をおにいちゃあーーん(注:幻聴)と付いて来ていた妹が、今ではこいたろうへ会いに行くのである。

 …兄は血涙を流す思いでいた。


 嫉妬に燃える兄は考える。一時は妹の為を思って敵に塩を送ったが、既に立場は対等。妹はこいたろうへの恋文を、会った日は必ず書いているのである。このままのペースで行くと、後4ヶ月と17日で恋文を貰った枚数を抜かされる計算だ。そんなことはさせぬ!!


 兄はそこまで考えると、丸眼鏡を光らせて真っ直ぐに妹の机の前へと向かった。そこには妹が仕舞い忘れたノートが一冊。おそらく「秘」と書こうとしたのだろうが、惜しくも木偏である。相変わらず妹かわいい!と思いつつも、推定恋文帳を前にして兄は葛藤の中にいた。

 ――異次元空間に恋文を消滅させ…、いや、天使の物を消滅など出来ぬっ…くっ、どうすればっ!

 思考が一周して「創造」という案について思考していた兄は、うっかりゴーグル式の新装置をつけたまま妹のノートを手に取ってしまう。


「む」

「兄貴! 何やってんのさ!」


 すると、タイミング良く妹がドアを開けて入ってきた。


「おお、おかえり」

「あ、ただいまー…っじゃなくって! 兄貴読んだでしょ!!」

「いや、読んでないぞ」

「本当のホント? ぜぇーーったい?」


 目を細めて、ツインテールをぴょこぴょこ揺らしながら聞いてくる。


「うむ」


 なので腕を組みつつ正々堂々と答えてやった。


 その後も、うそだぁとかそれじゃあ何で持ってんのさなどの質問が飛んできたが、正直に質問に答えていると、むぅと膨れつつも解放された。…ううむ、なぜ膨れている妹の頬は突つきたくなるのだろうな。


「もうっ! じゃあ勝手に入っちゃダメだからね! …でも、疑ってごめんなさい」


 背を押されてドアの外に追い出され掛けていたが、顔だけ振り向けて下を見ると、そっぽを向いている天使がいた。


 MIGNONNE!


 思わず口元を片手で覆いつつもなんとかドア口で踏ん張り、もう片方の手で恋文帳を指差し間違いを教えておくことにした。


「妹よ、秘は禾偏だぞ」

「え? ホントだ。うわー、ちょっと恥ずかしいな」


 パタパタとマジックペンを取り出しに行く妹へ、ついでに教えておく。


「それと、こいたろうは骨鰾上目コイ目コイ科だから、十本足は生えていないぞ」


 ピタリと動きが止まる妹。運動エネルギーをそこまで支配できるのか!やはり妹は天才だな。


 うむうむと頷いていると、まるでフロリダ・ホワイトのように目を真っ赤にしてプルプルと妹が震えだした。


「む? どうしたのだ?」

「や」

「や?」


 だんだんと妹の顔にまで広がる赤を見て、アーリジョナという林檎をふと思い出していると、妹がふんがーーっと叫んでから名探偵のようにビシっと私を指さした。


「やっぱり読んでるじゃんかあーー!!! うそつきぃーー!!!」

「んん? 読んでないぞ?」

「だって、だって!」 


 ビシビシと今度は恋文帳を指差す。


「こいたろうのこと!! 読んでないって言ったのに!」

「うむ」

「わかった! 見たなんて言うつもりでしょ!」


 フシャーっと毛を逆立てる妹。


「いや、読んでもおらんし見てもおらん。ただ…」

「ただ?」


「うっかりこの記録読み取り転写装置を着けたまま触ってしまってな」

「…つまり?」

「それがそのまま脳内に転写されたのだ」


 恋文帳を指差し、そのままトントンと蟀谷を叩く。


「この装置を使えば、テストも一瞬で覚えられるぞ。使い方は簡単でな、これを装着して…」

「転写なんて分かるかあーーいっっ! あと、ズルはダメってママ言ってたもん! もうっ、もうっ! あほうは早く部屋から出るの!!」


 説明途中だが、今度こそ問答無用で追い出されてしまった。勢いよくドアを閉じられる。

 仕方なくしょぼしょぼと肩を落としてドアから離れていると、階段に足を掛けたところで妹の部屋のドアが開く音が聞こえた。

 振り返ると、妹が顔だけ出している。


「やっぱり必要か?」


 尋ねると少しだけ妹の目が泳いだ。妹は、葛藤していると何故かツインテールも左右にパタパタと動くのだが、何故なのか私でも未だに解明出来ない。時々髪を梳かしてやる時は普通なのだが…。

 興味深く妹を眺めていたが、「い、要らない! じゃなくて、あれは足じゃなくてウロコだからね!! こいたろうはあんな感じだから!!」と叫んで、またドアを閉めてしまった。


「勝手に転写してすまなかったな、後で一緒に算数するか」


 ドア向こうで耳を澄ましているだろう優しい妹に話し掛けると、妹はまたひょっこり顔だけ出して、理科も教えてくれたら許すと言う。

 …算数だけと言わず、兄式全教科一問一句予想問題集を作っておこうと決めた。







 ――さて、にっくき恋文帳が頭の中に残っているのだが…


 転写装置を研究室の卓上に置いていると、画伯妹のこいたろうがうにょうにょと頭の中で小躍りしだした。


 ――こいたろうめ、勝ち誇れるのも今の内だぞ


 右手で妹用の問題集を書きつつ、左手である薬を作っていく。十分後、問題集が完成するのと時を同じくして薬も完成した。

 思うに、人間は見たいものを見たいように見るのである。つまりはこいたろうへの手足の具現化。この潜在的な望みを叶えることによって、兄の気遣いっぷりをアピールするのだ。むっ、だが待てよ、他者への妨害行為を妹は嫌うしな…。ふむ、ならば此処をこうして…


「出来たぞ」


 完成した薬は、妹へのサプライズとして徐々にこいたろうへと摂取することにした。どうせなので、記録を付けておくことにする。

 結果が楽しみだと一人高笑いした。







×月〒日 

 川にはいっぱいこいたろうの仲間がいた。

 名前を呼んでも来てくれなかった。

 画面とにらめっこしてなんとかこいたろうを見つけれた時は

 飛び跳ねて喜んでしまった。


 今度は橋の上からじゃなくて、下に行こうと思った。



△月⊂日

 カルガモがすいすい泳いでた。

 やっぱりこいたろうを探すのに時間がかかる。

 目印になる特徴を探してみた。


 ヒレに傷が多い気がする。排水路が狭かったのかな?



記録1

 こいたろうに摂取してみた。

 変化なし。


 外見だけのコイに妹は渡さん!



△月+日

 大体いつも居る場所が分かってきた。

 名前を呼びながらパンを投げる。

 だけど他のコイに全部食べられてしまった。


 こいたろうにはガッツが足りないのだろうか。



記録2

 こいたろうに摂取した。

 少しウロコ艶が良くなった気がする。

 これ一本で一日の栄養はバッチリだからな。


 水を掛けられた。失敬な、我輩も好きで触った訳ではない。



△月-日

 パンをあげても全部食いしん坊親子のコイに食べられてしまう。

 こいたろうはいじめられているのだろうか。

 そういえば、最近一人で泳いでいるなぁ。


 こいたろうの倍もある、主みたいなでっかいコイがいた。



記録3

 こいたろうに摂取した。

 思ったより効果が出始めている。

 計画を前倒しにするべきか。


 パシャパシャとうるさい。



△月?日

 友達が主とカメさんしかいないことが分かった。

 名前を呼ぶと来てくれるやさしくて賢い子なのになぁ。

 段々かくれんぼも上手になってきてる気がする。


 最近おじさんが増えた。なんでだろう。



記録4

 前回妹に渡したこいたろう発見装置に、そろそろジャミングを掛けておく。

 今日はこいたろうに摂取せず、状態を観察することにした。

 今宵は満月だ。


 空気を読んだのか、静かな水面だった。こんな日も良いものだな。



△月¥日

 釣り糸を垂らすおじさんがいっぱいいた。

 コイ達もたくさん釣られていた。

 親子のコイも主もカルガモ一家もカメさんも…、

 今どうしているんだろう。


 こんな時に機械が壊れるなんて!



記録5

 こいたろうに摂取した。

 我輩ほどではないが、気分が良くなったので話に乗ることにした。

 計画を少し変更する。


 案外馬が合った。



△月!日

 心配で二日連続川に行った。

 とりあえずいつもの場所から探してみようと歩きだすと、

 後ろからずっと人がついてきた。

 前を見ずに走っていると、転んでしまう。

 「おい」という見知らぬおじさんの声が怖くてうずくまっていたら、

 水音がそこら中から聞こえた。

 「おにい…あれ?」

 気がつくと悲鳴を上げておじさんは逃げて行ってて、

 目の前には何処か懐かしい綺麗なお姉さんが立っていた。

 お礼を言ってこいたろうを探しに行こうとしたら、

 今度は兄が突然現れた。

 サプライズ大成功と書かれた看板を持って…――




「妹よ! このサプライズは気に入ってくれたか?」

「え? ん? え?」

「ああ、任せておけ。後であのオヤジには悪夢発生装置をプレゼントしておくからな」

「いや、それは止めといてあげて。…というか、兄貴は何で此処に? あと看板も謎だし」


 妹はひたすらに首を捻っている。


「まあいいや! ちょっとこいたろう探しに行ってくる! …あの、先程はありがとうございました。それでは失礼しま…」


 まだ気付いていないのか、そのまま一礼して走り去ろうとしていたので取り敢えず引き止めた。


「こいたろうは此処にいるぞ?」

「えっ? どこどこ?」


 妹はそう言いつつ川面まで近づいて、しばらくして顔を真っ赤にして帰ってきた。


「兄貴いじわる! また騙したでしょ! 恥ずかしいからもう止めてってば!」

「ふふふ」

「ほらっ、笑われちゃったじゃんかぁ」

「こいたろう、そう笑ってやるな」


 こいたろうを止めてみるが、ツボに入ったようで肩の震えが止まっていない。


「うう、あんまり笑われると恥ずかし…? へっ? こいたろう?」


 妹のツインテが垂直になる。…どうやっているのだ?


「先に言っておくが、本コイだぞ。ふむ、これは新種扱いでよいのかな」

「…こっ……。え? だって女の人。人? メス? 人魚? あれ?」


 ぷすぷすという音が今にも聞こえそうである。頬まで赤くなっていて、そろそろ本当に知恵熱を出しそうだったので説明しておくことにした。


「簡単だぞ。こいたろう(メス)に手足を生やしてみたのだ。ほれ、あれに描かれていたであろう? 妹の無言の訴えはキチンと聞いたからな。ただ無断は怒られると思ってな、本コイに確認をとれる様に薬を改良してみたのだ。一応我輩ほどでは無いが、それなりに頭は回るはずだぞ」


 こいたろうに視線をやると、すぐに妹の前にしゃがみ込み、そのまま妹の手をとった。


 ――おい、そこまでは許可しとらんぞ


 手を離さんかと念を送るが、我輩の抗議をこいたろうはさらっと無視する。


「この姿では初めまして。いつも来てくれてありがとうね。これからよろしくお願いします」


 少し浅黒い肌、黒目がちの瞳は茶目っ気たっぷりに微笑んでいる。手にある白い傷はそのままに、腰ほどまであるストレートの黒髪は、妹よりも水気を含んでいた。身長はコイの時も大きかったのでそれなりに高い。ちなみに目は離れている方がいいかと聞いてみると、コイ界でもそれは不細工になるそうだ。要らぬ知識を得た。


「えうあーー、お願いします?? っと、とりあえず、内のおバカがとんでもないことを!! 今すぐに戻すように言いますので!!」

「ふふ、いいんですよ。これも取引に入っていますので」

「と、とりひき…?」


 くるくると回転し始めたツインテを横目に、近くに居る只適当に糸を垂らしている釣り人へ教えてやる。


「おい、そんなんでは釣れんぞ」

「兄ちゃんなーに言ってんだべか、とろいコイなんざ今から目の前で釣ってみせるっぺ」


 隙っ歯で笑いながらふりふりと竿を振っている。

 知能レベルが上がっているとはいえ小学生程度である。


「…ふむ。まあ、頭脳勝負だしな」

「んん? さっきから何言ってんだべ?」


 腹も減ったし、そろそろ帰ることにした。釣り人達は釣ったコイを食べるつもりのようだが、生臭く感じないのか聞いてみたい気もする。そう考えていると、思考を読んだのかこいたろうが微笑みつつ此方を向いた。

 なんだ?別に釣る手伝いはせんぞ?

 溜め息を吐くこいたろう。そんなことより、妹の頭を撫でることも許可しておらんからな、今すぐ止めぬか。

 ――…まぁ、気持ち良さそうにツインテが左右にゆっくり振られているから許してやらんこともないが

 普段は隠しているが警戒心が強く人見知りな筈の妹の様子に、計画の成功を見て目を細めた。


「こいたろうよ、今日は妹の好物のウサチャーハンにしてやってくれ」

「分かりました」


「家? チャーハン?」

「ん? ああ、言ってなかったか。今日から家政魚になるこいたろうだ。さて、自転車ごとワープでよいよな」


 言いつつ自転車をワープ装置まで引きずっていると、妹が横からサッと奪う。


「……、……もうやだぁ!! お家に帰るぅーー!!!」


 そう言うと、妹は一人自転車を漕いでいってしまった。


 夕方、釣り人の悪態を背景に、残されたこいたろうと二人顔を見合わせる。

 去り始めた腕に覚えのある釣り人達は、どうやらお目当ての主どころか一匹も釣れなかったようである。だがそんな結果など分かり切っていたどうでもよいことは放っておいて、こいたろうに契約内容の最終確認をとった。



「ふむ。あいつは寂しがり屋だ。その容姿の理由も理解は出来ているな?」


「はい。ですが…」



 目で先を促すが、それ以上言う気はないようであった。気にせずワープ装置を起動させる。こいたろうよりも帰ってきた妹に尊敬される兄の図という夢想で忙しかったからだ。そのため、ワープ装置の駆動音越しにこいたろうが「自滅により私の勝ちですね」と言っていた言葉を聞き取れなかった。







 玄関ドアが開くのを今か今かと待っていると、目にも止まらぬ速さで妹が入ってきた。


 咄嗟に両手を広げるが、妹は脇を華麗に潜り抜け、そのままこいたろうの足元へと飛びつく。


「い、妹よ、兄はこっちだぞ?」


 ドヤ顔しているこいたろうが鬱陶しいが、まずは人違いを教えてやろうと立ち上がって近づくと、何故かこいたろうの後ろに動かれた。


 右へ動くと妹は左へ。左へ動くと妹は右へ。


 こいたろうの周りをくるくると回り、なんとか妹を捕まえたと思った瞬間、こいたろうが突然紙とペンを妹に差し出した。

 無言でさらさらとペンを走らせる妹。


「い、妹よ、少し落ち着いて話そ…」


 冷や汗をダラダラと流しつつの発言は、一週間と書かれた紙を額に貼られたことで途切れる。



 くず折れつつ、その後の一週間のスルー攻撃を想像して兄がむせび泣いたのは言うまでもない。


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