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三十路 ときどき 高校生  作者: 竹野きひめ
1 三十路 ときどき 高校生
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☆ 当たり前の事




朝。


あたしはいつものようにぼんやりと目を覚まし、何度か瞬きをした。

あれから夢は見なかった。

ぼんやり残る記憶の中でまこっちんがあたしのおでこにおやすみのキスをしてくれたことを思い出す。

あれはあたしにとっておまじないみたいな物なんだ。


まこっちんがおやすみのキスをしてくれると、不思議とあの夢を見なくて済む。


腕の中に居た『くまさん』の鼻先におはようのキスをしてごろんと寝返りを『くまさん』を抱きしめたまま打つ。

隣のベッド。

五センチ程度しか離れてない距離にあるそこに眠るのは大きな姿で、でも、背中だけであたしはそれがまこっちんだってちゃんとわかる。

もうずいぶん長い事こうやってまこっちんのお家に暮らして、こうやって並んで寝ている。


だから、それがまこっちんかどうかはすぐにわかるんだ。


それから向かいの壁に掛けてある丸い時計を見ると時間は八時を過ぎたところで、あたしはびっくりして飛び起きる。

まこっちんは会社に八時に出るのにって思ってから、ううんっとって考える。

『くまさん』を離して指を折って数える。

この前の日曜日からいくつ、寝たっけ、て。

ひとつひとつ指を折って数えて五つ数えて、なぁんだって思う。


今日は土曜日なんだ。

土曜日はまこっちんはお休みでお寝坊してよくて、だから、起こさなくても怒られない。

まこっちんがたとえ寝坊してもあたしは怒られないけど、でも、もし怒られたら嫌だから、なるべくはやおきしてる。


でも、今日は土曜日だから、本当によかったと息を吐いてからベッドを抜け出し『くまさん』を抱きしめて、足音を立てないようにぺたぺたと裸足でドアに向かう。

そっと廊下に出てから今度はもう少し音を立てて洗面所へ向かう。

小さなあたしのために作ってくれた踏み台をずりずり動かし蛇口のレバーを上に上げればいつでもお湯がでる。

赤い丸の方にするんだよって教えてくれたのもまこっちんでお湯が出てくるのをしばらく眺めてから『くまさん』を床に落として顔をじゃぶじゃぶ洗う。

それから背伸びして鏡になってる戸棚からピンクの歯ブラシを取り出す。

柄の所にうさぎさんとくまさんが描いてあるのがあたしので、辛くないブドウ味の歯磨き粉をつけて歯を磨く。

それから蛇口の横にあるプラスチックの白いコップでお湯を汲んで口をゆすいだ。


こういうまこっちん曰く普通の事、例えば朝起きたら顔を洗うとか歯を磨くとかそういう事を、まこっちんはきちんと一から教えてくれた。

それくらいあたしはこのお家に連れてこられたとき、なんにも、知らなかったんだ。


蛇口を止め、タオルで顔と口をごしごし拭いてから、ガラスの瓶の化粧水を手で顔にぬりぬりする。

これはしてもしなくてもいいけど、してほしいってまこっちんが言った事。

これをするとお肌がすべすべになるから、これはあたしもだいすき。

ガラス瓶の化粧水を棚に戻して踏み台から降りて『くまさん』を拾って抱きしめてから、あたしはリビングダイニングに向かった。


月曜日から日曜日まで、一年中まいにち、まこっちんは朝ごはんはパンで良いって言う。

パンならトースターで焼くだけだから、俺も楽だし美緒も簡単だよって。

トースターの使い方をそう言いながらまこっちんは教えてくれて、黄色の幅の広いトースターの使い方をあたしは覚えた。


アイランドキッチンに入ってそこにもある踏み台に登って原田さんが買っておいてくれた食パンを一枚トースターに入れる。

ダイヤルをぐりぐりっと回して「5」のところまでして、その二つ手前まで戻す。

これだけ、の簡単な作業でパンは美味しく焼ける。

トースターの中の蛍光灯みたいなのが赤くなるのを確認してから踏み台を降りて、それを今度は冷蔵庫まで持っていって、牛乳を出す。

食器は全部シンクとかの引き出しにしまってあるから、踏み台は必要なくて、あたしのマグカップを出して牛乳を半分注いだ。


チーンって音がして急いでお皿を出してトースターまで踏み台と一緒に持って行って、やけど、しないように気を付けてパンを出してテーブルまでマグカップを一緒に持って行った。

いつもならキッチンの側に置いた『くまさん』を迎えに行くんだけど、テーブルに二つを置いた時にようやくあたしはグラタンがなくなっていることに気づいた。

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