☆ 夢
残酷な表現あり。
4
「あれ?」
ぽつんっと呟いて目が覚めたような気がして起き上がるとそこはまこっちんのお家じゃなかった。
でも、あたし、ここを知っていて体がびくっとする。
妙に寒くてぶるっと震えて両腕を交差して体を抱きしめて自分が裸な事に気づく。
大好きなあたしの『くまさん』もそこにはいなくって、それがますます現実味を帯びている。
あ、あ、あ。
徐々に明るくなっていく視界の前には一枚のドア。
所々へっこんだり、傷だらけのそこ、知ってる。
その先にいる人間も知ってる。
開かないで、開かないでってぎゅうぎゅう体を抱きしめるのにドアはぎぃっと音を立てて薄ら開きそこから太いけど生白い腕が出てきてあたしを引っ張り、そのまま引きずり込まれる。
臭い。
生ごみがもっと腐った臭い、烏賊みたいな臭い、汗が充満した臭い、排泄物の臭い、それから。
湿った空気、淀んだ空気、臭いが混ざり合った空気。
カーテンすら開けてない窓から薄ら漏れる光に映るのは汚いスウェットを着ている太った男。
唯一の明かりはパソコンのモニターから漏れる物、でも、その先はアダルトビデオの映像が垂れ流されていて、男の吐く息はとても荒い。
やだ、やだ、やだっ!
そんな風に思ってもあたし抵抗しちゃいけない。
だって抵抗したらこの男じゃなくて、あの人もあの人も、怒るから。
この男よりずっとずっと怒って、叩かれて殴られて、気絶するまで痛い目に遭わされるから。
だから、だから。
あたしが我慢すればいいんだ。
男はあたしの体を押し倒して体中触って舐めて……。
でも、どんなに痛くても声は出しちゃいけないんだ。
この男がそれを決して許さないから。
事が終わった体はボロボロで、行為の最中もずっとアダルトビデオの女の人の喘ぎ声と男の吐く生臭い息と聞いていた。
体中痛くて、特に下半身は動けないくらい痛くて、それなのに男はあたしをドアを開けて蹴り飛ばす。
狭い廊下の反対側の壁に当たって家中に大きな音が響くと同時に階段から逃げるように足音が聞こえた。
きっとあの女の人が逃げた音。
頭を打って背中もお尻も打ったあたしはすぐにやっぱり動けなくて崩れ落ちた姿勢のまんま目を閉じて初めて涙を流した。
声を出さずに流す涙と一緒に下半身からは白濁した液体がぬるりと滑り漏れ落ちる感覚。
そのまま目を閉じてこのまま寝ちゃおうって思ってたのに、声が聞こえる。
遠くから遠くから、聞いたことのある、優しい声。
……お。
……み……。
……み……お……。
み、お……。
み、お。
みお。
あっ、と思うと同時にあたしはもう一度目を開けた。
さっきとは打って変わって明るい場所。
でも、冷たくて、でも、温かい手が頬に当たってて。
腕の中にはちゃんと『くまさん』が居て。
目の前には、まこっちんが、居た。