☆ コートとマフラーと帽子
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「そうそう、お土産あるのよ」
『くまさん』の頭を撫でてくれたあきはずっと笑っていて、その顔が急に戻ってくるんっとあたしに背を向けてテーブルの脇にあった大きなケースを横倒しにした。その背後に近づけばあきはいつものように何かをかちゃかちゃやってからケースを開ける。
いつも思うけれどこのケースはすごく大きいし便利だと思う。まるで本みたいに開いてたくさん荷物が入ってる。
「えーっとね」
ガサガサっと中に手を入れていたあきが、あった、あったと取り出したのは薔薇の柄の紙袋で、ちょうど雑誌と同じくらいだった。
「はい、どうぞ」
立ち上がりあたしの方を向くあきに合わせてあたしも一歩下がってからちらってまこっちんを見る。人から何か貰うのは良い時と悪い時があるからってまこっちんは教えてくれた。だからそれ以来あたしはまこっちんにちゃんと確認している。
まこっちんはあたしたちを見ていたみたいで、小さく頷いてくれて、『くまさん』を片手で抱いてからあきが差し出してくれた紙袋を受け取る。
「ありがとう」
袋を開ける前に言った方が良いと教えてくれたのもまこっちんで、きっと、あたしがちゃんと出来たからまこっちんは満足そうに笑っていると思う。
綺麗な袋にはきちんと小さなリボンが付いていて、開けたくてそわそわしてるとあきは笑いながら、開けて良いと言ってくれた。
うんうんって頷いてから反対側にして、楕円の薄い茶色の中にくまさんの絵が描いてあるシールをはがして中を覗いて思わず声を上げた。
「わぁっ!」
これは立ったままなんて無理だって思ってぺたんって『くまさん』ごと床に座って袋を逆さまにして出せば透明な袋に入った小さな小さなお洋服。
座ったあたしに合わせてあきもしゃがんでくれて袋をひとつずつ指差す。
「これがマフラーで、これがマフラーとお揃いの帽子。それと茶色のがダッフルコートよ」
うん、うん、て頷きながら聞きながら、すごいかわいいって思った。亜紀は『くまさん』をくれてから、よく『くまさん』のお洋服とか鞄とかそういうのを買ってきてくれる。マフラーと帽子は毛糸で出来ててすごく細かい模様で、両方とも全体的に黄色だった。茶色のダッフルコートっていうのと合わせるとすごく似合いそう。
「気に入った?」
あきの声に夢中になってたあたしは顔を上げて、うんうんって、頷く。最初に『くまさん』を貰った時からあきはお土産をくれた時に必ず聞いてくる。
あきが選んだ物をあたしが気に入らないわけないのに、いつも聞いてくるから、いつも何度も頷く。
そうするといつもあきはほっとしたような顔をする。
「あき、とまる? あした、まこっちんと、『くまさん』と、よにんで、どっか……」
あたしは貰ったばかりのコートとマフラーと帽子を早く『くまさん』に着せてあげたくて、あきと久しぶりに会えたのが嬉しくて、みんなでおでかけしたかったからそう言えば、あきは右手の手を握りしめて親指だけ立ててあたしに見せた。
これは、いいよって、印で、まこっちんを見ると肩を竦めながら嬉しそうにしてる。
「断るわけないだろ。……じゃあ今日はもう寝ようか。亜紀はいつも通り美緒と寝るんだろ?」
まこっちんの言葉にあきはもちろんと答え、シャワーだけ浴びると廊下を歩き始め、まこっちんはあたしに先に着替えてから寝室に行っておいでと優しく言ってくれて、廊下を歩きながら振り返ればまこっちんはあきのための着替えを和室から持ってくるところだった。




