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三十路 ときどき 高校生  作者: 竹野きひめ
1 三十路 ときどき 高校生
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★ 三十路



「えー、もう一軒行きましょよぅ」


会計を済ませ店の前で解散を告げれば神無月をはじめ井上やら他の社員から非難の声が上がる。

軽くなった財布をパンツの後ろのポケットにねじ込みながら苦笑いを浮かべ首を振り、それとなく出入口を塞がないよう皆を誘導しながら口を開く。


「いやいや、いくら金曜だって言ってもね、俺、ほら、三十路だから」


ひらひらと財布をしまった手を前に出し振って見せても部下達はあまり納得せず、口々に不満を漏らす。

レジを済ます時に見た時計では既に終電はギリギリという時間帯。

三十路なんてのは言い訳で本当はただ早く帰りたいだけ、なんだけど、どうも許してくれる雰囲気は無い。


「主任が居ないと盛り上がらないんっすよー! 行きましょうよ、二軒目」


井上は新婚だと言うのに嫁をほったらかすなよ、と思いながらがっくりと肩を落とす。

若い頃の経験上というのか何というのかこういう時に上司は折れる物らしい。

そうでないと反感を生みかねないというのは自分の経験でよーく分かっている。


「んー、じゃあ、あと一軒だけだぞ? 俺、明日予定あるんだよ」


結局、俺はそう困った顔を自然と浮かべながら告げれば、面々は満面の笑みを浮かべる。

盛り上がらないなんて建前で、本音は、まぁ、俺の財布目当てって事も、俺は経験から熟知しているんだけどね。





結局、朝までオールでカラオケというそれを抜け出したのは終電はとっくに過ぎた夜中の二時半だった。

引き止める腕をかわしながら五月蠅い室内から出て人気の少ない廊下に立てばやれやれと息を吐く。

歩き出しながら携帯の電源を入れれば平たいスマホの画面が明るくなった。


こういう時は左手に持ったこげ茶色の革の鞄がずっしりと重く感じる。

こういう時は右手に持ったスマホの画面に映るメーカーのロゴがうっとうしく感じる。


だが店の出口にたどり着くまでにはスマホはホーム画面になり、けれど、そこに着信を表すマークも、メールを開いても広告メールしか来てない事に落ち込みと不安を感じる。


ああ、また。

やっぱり、あの子は。


ぐっと唇を噛み締めながら握りしめたスマホをもう一度ポケットへと戻し足早に駅前に向かうも時間が時間で、案の定タクシーは一台も無く、十人程度が並ぶ最後尾に仕方なく立ちながら溜息を吐いた。


あの子は、と思いながら電話を掛ける事も、メールを送ることもしなかったのは丑三つ時を過ぎた時間という事で、逆にそれが嫌で嫌でたまらなかった。


きっと、あの子はあの『くま』を抱きながら……。

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