☆ ごはん
21
「開けていいよ」
黒い光る箱の横にスプーンとフォークの入ったケースを開け、そのケースを開ける前にまこっちんはあたしを見たまま言ってくれて、うんうんと頷いてそっと箱を開ける。
カタンと小さな音を立てて開いた箱の中にあたしは目を丸くした。
なに、これ。
すごく、きれい。
それに、いいにおい。
おいしそう。
ごくんって知らない間に唾を飲み込んでいた。
あたしはまこっちんと出会ってから「おいしいもの」がたくさんある事を初めて知った。
あそこに居た時には白い三角形の塩の味しかしないおにぎりしか食べた事なかった。
だから最初まこっちんのお家に連れていかれて出された物が食べれる物だって分からなかった。
ロールパンとかパスタとかシチューとかスープとか。
そのどれも良い匂いしてたけど食べる物だって分からなかった。
だからまこっちんはあたしに何を食べていたのか訪ねてきて、その時ももちろん、すごく優しく聞いてくれたけど、あたしはすぐに答えられなかった。
だって食べる物が何もないのに、食べなかった事を怒られると思ったから。
あの人はあたしがおにぎりを食べないとすごく怒ったから。
だからすごくすごく時間がかかって、でも、まこっちんは一回聞いただけで、二回目は聞かなかった。
そうやってずっと答えるのを待っていてくれた。
まこっちんが怒ってないんだって気付いたのはその長い時間で一度も叩かれたり殴られたりしなかったから。
だからあたしは正直にあたしが唯一知ってる食べ物の名前を言った。
そしたらまこっちんはひどく驚いてそれから少し怒った顔をして、夏はどうしてたのかって聞いた。
あたしはまた何か失敗しちゃったんだって怯えて、また時間をたくさん貰った。
でも、やっぱりまこっちんは、ただ待っていてくれた。
あたしがまこっちんが優しいんだって分かって、信じたのはその時だった。
それからひとつひとつ食べれる物の名前と食べれる事を教えてくれた。
ロールパンもパスタもシチューもスープも美味しかった。
お腹だけじゃなくて心も満腹になった。
ひとつひとつちゃんと食べるあたしを見てまこっちんは褒めてくれた。
偉いねって、良い子だねって、褒めてくれて嬉しくてたまらなかった。
だから、あたしは、あの人とあの人とあの男がどれだけあたしに酷い事をしてたのか、ようやく理解したんだ。
たったごはんっていうそれだけで、理解、した。
まこっちんのお家に連れて行かれて、一か月経って、あたしは初めて泣いた。
大声を上げてわんわん泣いた。
手にロールパンを握りしめたまま、ずっと、ずっと、泣いていた。




