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三十路 ときどき 高校生  作者: 竹野きひめ
1 三十路 ときどき 高校生
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☆ あたし



ふあっと欠伸が出る。

壁に掛かってる八角形の時計は既に22時を指している。

腕に抱いた白い『くまさん』をぎうっと抱きしめながら唇を突き出す。


「まこっちん、遅いねぇ」


『くまさん』にそう呟きながら何度目かのため息を吐いてまた唇を突き出した。

立派なソファがあるのに、あたしはフローリングの床にぺたんっと座っていて、下着はお尻を守ってくれなくてすっかりひんやり冷たくなっちゃった。

首からショッキングピンクのストラップで掛けたショッキングピンクの小さな今時珍しいスマホじゃない携帯は一向に鳴らなかった。


たぶん、飲み会なんだと思う。

でも、朝、まこっちんはあたしに何にも言わなかったから、きっと急に誘われたんだ。

まこっちんはそういうのが多くって慣れっこ、なんだけど、ひろーいマンションのひろーいリビングダイニングは一人だとひろーすぎるの。


「早く、帰ってきてほしいなぁ」


ぽつんっと呟いた言葉は『くまさん』に当たって曇って響く。


あたしはこのお家の居候で、まこっちんはお家の持ち主で、一流企業に勤めていて、偉い人で……。

あたしとはとてもじゃないけど釣り合わない人なのはよくよく分かっていて、だから。


あたしからまこっちんに連絡は滅多に取らない。

まこっちんは生活に困らないようにちゃんとちゃんとしておいてくれるから、連絡を取る用事ってあんまりない。

それでも、まこっちんはあたしにいつでも連絡してきて良いんだよって優しく言ってくれるけど、あたしは遠慮してしまう。


だって、まこっちんとあたしのこの関係はあんまりよくないって分かってるから。

それでもあたしは、まこっちんと離れたくない。


だから、我慢、しちゃうんだ。

例え百人中百人があたしとまこっちんの事を許してくれても、百一人目が許してくれないかもしれないから、我慢、する。


フローリングの床は週に二日来る原田さんっていう家政婦さんがピッカピカに磨いてくれていてそこに蛍光灯の明かりが反射して眩しかった。


あたしはこういう時がいちばん本当は嫌い。

もうまこっちんが帰って来ないんじゃないかって不安に、なる。


だからぺたんと座ったまま『くまさん』を抱きしめたままリビングダイニングから玄関に続く廊下を両足を区の字に外に曲げたままゆっくり進む。

まこっちんが帰ってきたときに、一番最初に見えるとこに。


ちゃんとまこっちんが帰ってきた時に一番最初に気づけるように。


玄関の一段上がったそこまで行って、あたしはもう一度『くまさん』をぎうっと強く抱きしめた。

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