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三十路 ときどき 高校生  作者: 竹野きひめ
1 三十路 ときどき 高校生
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★ くるみ割り人形

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俺の体格には少し小さすぎる丸っこい車は一応四人乗りなのだが、後ろの座席は大人ならば体育座りじゃないと座れない程度にしかなく、大抵荷物置き場にしている。

この車の良い所は乗降車の時のドアが広く開く事と、車高が低い事にある。

後は好みだけれどカメレオンのようなグリーンの色が気に入って即買いした。

最も美緒と暮らすようになってからは気に入った点がすべて美緒のために使いやすく良い決断をしたのだと自分をほめてやりたい。


美緒がシートベルトを締めたのを確認するとエンジンをかけCDを掛ける。

ラジオでも構わないのだが暴力的なニュースが流れると美緒は不安定になることがある。

だから車には常時何枚ものCDが載せており、そのほとんどがクラシックだった。

今日は、と選んだのはチャイコフスキーのくるみ割り人形で割と明るい曲調は美緒の気分を盛り上げてくれると信じている。


ゆっくりと車を出し公道に出る。

なるべく安全運転を心がけ、急ブレーキはしない。

例え事故に遭ったとしてもエアバッグが守ってくれるだろうが、美緒の身体がその衝撃に耐えられるかどうかには疑問が浮かぶ。


美緒は骨も脆い。

今年十七歳になるというのに体系は小学校の中学年程度しかなく、長い間満足な食事を与えられていなかった事が原因で育っていないのだ。

成長期が美緒にとっては意味をなさなかった事になる。


「この曲、好き」


珍しく美緒は抱きしめた『くま』から顔を上げ、俺の方を見てニコニコと笑う。

これはバレエの曲なんだよ、と告げれば、バレエってなぁに、と返ってきてしまい、目的地に着くまで俺はバレエの説明をずっとしていた。

その間もくるみ割り人形はワルツ調の曲を聴かせ続けてくれ、目的地に着く頃の美緒はそれは興奮し顔は終始笑顔になっていた。



車から先に降りるのはいつも俺でドアを静かに閉めてから反対側へ回り、美緒のドアを開けてやる。

ちょっとの段差でも転んでほしくなくて手を差し伸べ降りるのを手伝ってからドアを閉めた。


「わぁ」


車から降りた美緒は小さな歓声を上げ、周囲を見回している。

珍しく『くま』から顔を外しており、満面の笑みにドキリとする。

連れてきたのは割と大きな森林公園で、時期が時期な事もあり見渡す限りの木々はそれぞれが一年で最高の化粧をしていた。


「行こうか。中はもっときれいだよ」


まだ周囲を見渡す美緒に手を差し伸べる。

こんなコンクリートの地面で出来た駐車場だけで満足してもらっては困る。


土の上を歩いてほしい。

木々が発する緑の匂いを感じてほしい。

色とりどりの紅葉こうようを目に焼き付けてほしい。


美緒、君はまだ見たことのない物がたくさんあって、ありすぎて。

俺はそれを君に少しずつで良いから、見て体感してほしいんだ。



外の世界は怖い所じゃないんだって、気づいてほしいんだ。

まこっちんの車はトヨタのiQという車をモデルにしました。

というかまんまなのですが。

グリーンはもう廃盤のようですね。

実際に竹野は展示場のような場所で見た事があるので、結構ちゃんと描写したつもりです。

とってもかわいい車なので興味のある方はぜひググってください。

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