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三十路 ときどき 高校生  作者: 竹野きひめ
1 三十路 ときどき 高校生
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☆ くつした

12




「みーお」


あたしの部屋の入り口に立つまこっちんに呼ばれた時、あたしは一生懸命靴下を履いていた。

あたしの足の裏にはあまりお肉がついていなくって、まこっちんがすごく良いスニーカーを買ってくれたんだけど、それでも素足とか靴下一枚とかだと歩くと痛くなっちゃう。

だから今履いているのはもこもこの少し厚手の寒さ対策用の靴下で、原田さんが買ってきてくれた中のひとつ。

ねこさんの毛並みの模様に足の裏のところには肉球が描いてあるかわいいので、あたしのお洋服とか下着とかは原田さんが全部買ってきてくれる。

あとはまこっちんが買ってきてくれたりしてくれて、あたしはお洋服とかそういうのがよく分かってなくて何を買えばいいのかも分からないし、お外に出たくないから二人に甘えているんだと思う。

でも二人は気にしなくていいんだって言ってくれてそんなもんなのかなぁっていつも思う。

原田さんは子供が居なくてあたしの事が好きでいつもかわいい服とかたくさん買ってきてくれる。


だから今日は薄いピンクのロングTシャツにチェリーピンクのパーカーを着て、デニムのミニスカートを着た。

それに黒いタイツを履いて、もこもこの毛糸のパンツを履いて、綿のいちご柄の靴下を履いて、今、肉球靴下を履いている。


「あっ、あっ」


でも、その手は止まってしまって振り返ったらまこっちんはクスクス笑いながら部屋に入ってきた。

何をするにもあたしは人よりずっと時間がかかる。

どうやってやるんだっけって考えるとこからはじめて、何を着たらいいか考えて、ようやく着始めてものろのろしちゃう。

だからまこっちんがシャワーを浴びてご飯を食べて支度を終えても、まだ、終わってない。


「ご、ごめ、なさ、い」


止まった手を急いで動かしながら言えば焦ったせいかどんどんうまく履けなくなっちゃう。

泣きそうになっちゃって涙たまってきたとこで、側にしゃがんだまこっちんはあたしの手にそっと手を添えてくれた。

顔をあげれば普段お仕事行くときと違ってサラサラの髪が揺れている。

まこっちんはあたしの手をどけてあっという間に靴下を履かせてくれて、それから顔を上げる。


「後は?」


まこっちんはちっとも怒ってなくてそれどころかちょっと心配している顔をしていて、ええっと、と考える。

小さな赤いバッグはもうやって、お洋服もちゃんとして。


「『くまさん』」


そうだったと思い出してあたしの部屋にもあるベッドに置いておいた『くまさん』を見ればまこっちんはそれを取ってくれた。

あたしは受け取りながら立ち上がり、薄い茶色の背の低いタンスの一番上の引き出しを開ける。

ここには原田さんが作ってくれた『くまさん』のお洋服がたくさん入っていて、その中からあたしとおそろいになるようにピンクのセーターを出した。

まこっちんはベッドに腰を掛け手を伸ばしていて、本当は自分で着せたかったけど、たぶん、また時間がかかっちゃうしうまくいかないかもしれないから、『くまさん』と小さなセーターを渡す。

まこっちんはそれをあっという間に『くまさん』に着せてくれ、ベッドの上にあった赤いバッグを持ってあたしに手を伸ばす。


つなごう。


その意思表示に少し迷いながら手を出せば、まこっちんの大きな手はしっかりあたしの手を包み込んでくれ、反対側の手に『くまさん』を渡してくれて、あたしはそのどっちもぎうっと握りしめてまこっちんに引っ張られながらお家を後にした。

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