トンネルまで乗せてくれませんか?
*主要人物紹介*
◯薫・・・大学3年生。去年免許を取った。趣味はドライブと料理。
◯のぞみ・・・同じく大学3年生。夜が好き。
「今日、ハンバーグ美味しかったね」
私は笑顔で隣で運転している彼氏の薫にそう言った。
「料理通の俺がオススメしている店だよ。当たり前だよ」
薫は得意気な表示を浮かべながら私にそう言った。
私達のデートの流れはだいたい決まっている。
まずは薫がオススメするレストランで食事。そして二人で夜道をドライブ。
今の時刻は深夜0時25分。もちろん外は真っ暗だ。山道だからここら辺は外灯すらない。
だからなのか車のライトがとてもまぶしく感じる。
私は夜が好きだ。静かな世界で二人の距離がぎゅっと縮まる気がする。
こんな二人っきりの時間がずっと続いたらいいなといつも思う。だからこそ私はこのドライブの時間を大切にしている。
「なぁ、のぞみ5月から一緒に暮らさない?」
薫は突然そう話を切り出した。
「えっ…。いいの?」
「もちろんだよ。一緒に暮らせばいろいろ楽じゃん。生活費とか…さ?」
「生活費だけ?」
私は意地悪な質問をしてみた。
「それ以上言わせるなよ。俺が恥ずかしがりやなののぞみ知ってるだろ?」
薫は顔を赤らめながらそう言った。
「フフッ…。ハハハ…。ごめん、ごめん。いいよ。一緒に暮らそう」
私は満面の笑みでそう言った。
「本当に?やったぁ~!」
薫はとても嬉しそうだ。
私は薫のそういう無邪気なところが好きだ。
こんな他愛のない毎日がずっと続いて欲しいと私は心の中で神様に願った。
「あっ…。人?」
突然、薫が前を指差しながらそう言った。
「えっ…。こんな時間に?それにここ峠の山道だよ?」
私はそう言いながら薫が指差した方向を見た。
本当だ…。いる…。髪が長い女の人だ。顔はよく見えない。その女の人が車を遮るようにして道の真ん中に立っている。
「なんだよ…。ったく!」
薫は舌打ちをしながら車を停めた。
「こんばんは。どうしたんですか~?」
車の窓越しから薫は女の人に話しかけた。
「トンネルまで乗せてくれませんか?困ってるんです」
女の人はか細い声でそう言った。
「トンネル?この先の羽婆山トンネルのこと?」
「はい」
女の人はさっきよりも小さい声でそう言った。
「う~ん。いいよ。乗りなよ」
「ちょっと薫…。気味悪いよ」
私はとっさに薫の手をつかみながらそう言った。
「大丈夫だよ。それにさ…。彼女困ってるじゃん」
「はぁ…。本当にもう」
こうして私達は後部座席に女の人を乗せて走りだした。
「羽婆山トンネルで誰かと待ち合わせしてるの?」
おも苦しい雰囲気を振り払うように薫は女の人に話しかけた。
「はい。大切な人と」
女の人は肌に張り付きそうなくらい小さい声でそう言った。
「ふ~ん。それじゃ急がないとな。早く会いたいんだろうし」
そう言って薫はアクセルを踏んだ。
「着いたよ。羽婆山トンネル。ここら辺でいい?」
ウィンカーランプを出しながら薫は女の人に話しかけた。
なぜか、女性はずっと下を向いたままだ。
長い髪が邪魔をして表情もわからない。
「ちょっと、どうしたの?具合でも悪いの?」
焦った表情をした薫が女性の肩に手を伸ばしたまさにその時だった。
ゴトッ…。
鈍い音が静かな車内に鳴り響いた。
何が落ちたのかと下を見ると丸い物が落ちている。
首だ。それはさっきまで薫が話しかけていた女性の生首だった。
「ゴメンナサイ。ワタシ、スグクビガトレルノ」
生首はニッコリと笑いながらそう言った…。
「おい、のぞみ起きろ!大丈夫か!」
私はその声で目が覚めた。外を見るとすっかり朝だ。
「ん…。薫…??あっ!あの女の人は?」
私は声にならないような悲鳴をあげながらそう言った。
「わからない。俺が気が付いた時にはもういなかった…」
薫は夜の出来事を思いだしたのか顔を真っ青にしながらそう言った。
いったいあの女の人はなんだったのだろうか?
私達は二人で夢でも見ていたのだろうか。
いや、夢なんかじゃない。
だって床には首が転がったままなのだから…。
「クビオチタママデゴメンネ」