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聖剣使いと契約魔女  作者: ふーみん
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聖夜の日(1)

 二〇六七年一二月二十四日、金曜日。

 冬の寒気に葉が散らされ、秋の初めと比べれば随分と寂しくなった植木を病室の窓から眺めながら、学生服に着替えた少年は荷物を纏めていた。

 入院中は退屈だったため早くこの部屋から出たい、という思いが込み上げてきて仕方がなかったのだが、こうして荷物を纏めていると何だか淋しいような心惜しいような気持になる。


 もちろん、この病室から外ヘ出ることが嫌だというわけではない。

 少年は病気や怪我でおよそ三週間も入院していたわけではなかったので、健康的には万全な状態だったのだ。


 それなのに味の薄い入院食や身体を動かすことなくずっと寝たきりの生活を続けている。

 万が一があってはならないとは言え、こんな生活から脱却できるのは、普通に考えればむしろ嬉しいことなのだ。


 荷物を纏め終え、三週間というそこそこ長い間お世話になったこの病室を一通り眺めてから、少年は満足した心に頷き病室を出る。

「退院早々学校って、結構つらいんじゃない?」

 学生服姿で学生鞄とボストンバッグを持って病室から出ると、患者が病室から出るのを待っていたのであろう看護師がそう問い掛けた。

「入院生活に身体も慣れ掛けちゃってるんで、正直に言うと体力的にはちょっときついです。ただ、ちょっと学校も休みすぎちゃったんで、終業式まではちゃんと出席しないと」

「出席日数、そんなに足りてないの? ちゃんと学校には通わないとだめよ?」

「あはは。ですよね……」

 もしかすると勉学の成績以上に重要視されているかもしれない出席数が、一学年の内から少ないということは、今後の成績に大きく関わってしまう。


 いくら勉学の成績が良くても、学生として当たり前のことができていないという生徒は、最低限のことをこなしている他の生徒たちの成績には劣ってしまう。

 看護師のごもっともな意見に、事情はあれど出席日数不足の危機に陥っている現状に苦笑してしまう。


 この病室の担当看護師である牧野奈々には、入院中に色々とお世話になっている。

 年齢も二十歳過ぎということで、少し年上のお姉さんのような感覚で親しみやすい印象が強かった。

 これから学校で行われるであろう冬期補習の課題も、暇があれば教えてくれたりしたので、印象と言うよりかはお姉さんのような存在だった。


 そろそろ時間も迫ってきているので、表情を戻すと淋しい気持ちを抑えて、少年はお世話になった牧野看護師へ礼を言った。

「三週間ですけど、お世話になりました」

 頭を下げて礼を言うと、頭上から牧野看護師の笑みの含まれた声が届く。

「いえいえ。看護師として、少しでも君の助けになれて良かったわ。もう戻って来たらダメだからね」

「そうですね。もうここには戻らないように気を付けます」

「……それはそれで、お姉さん淋しいなぁ」

「どっちですか……」

 弟をからかうような口調でそう言う牧野看護師に、思わず苦笑で突っ込みを入れてしまう。


 ともあれ、二人の本心は言うまでもないはずなので、これ以上の余談を続けはせずに、少年は軽く会釈をして立ち去ろうとする。

「新田裕紀君!」

 いきなり名前を呼ばれて振り返ると、牧野看護師が笑顔で手を振って言った。

「学校の補習、頑張ってね!」

 優し気な笑顔で手を振る牧野看護師へ三度目の会釈を返すと、今度こそ新田裕紀は歩き出した。



 およそ三週間ぶりの学校なので少しばかりの倦怠感(けんたいかん)はある。放課後の課題のことを考えると足取りは重い。

 だがそれ以上に、久しぶりに出会うクラスメイトたちを想うと、そんな倦怠感はすぐに何処かへ飛ばされてしまった。


 病院のフロントで退院手続きを完了した裕紀は、八王子市立中央病院から外へ出た。

 異世界の澄んだ空気と比べれば、絶賛都会化進行中の八王子市の空気はやや濁りを感じるが、入院生活から解放された裕紀にとっては気持ちが良かった。


 時刻は午前九時半過ぎ。

 学校には午後から出席すると連絡済みなので、ひとまず裕紀は自宅へ荷物を置きに行くことにした。

 雲一つない青く澄んだ空の下で、裕紀は自宅のある商業複合マンションへと向かうのであった。



最終投稿から三か月近くが経ってしまいましたが、お待たせしました!

聖剣使いと契約魔女の投稿を再開しようと思います。


作者としてはなるべく間隔を空けずに投稿して行こうと思っているのですが、仕事や私情による都合上そうはいかないこともあるかもしれませんので、あらかじめお許しください。

とは言え、これから始めるお話も最後まできっちり投稿していきたいと考えています。

まだまだ実力不足な作者ですが、今後とも聖剣使いと契約魔女をよろしくお願いします。

(長文失礼しました)

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