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聖剣使いと契約魔女  作者: ふーみん
93/119

決着

 大規模召喚魔法サモン・サークルによって召喚された炎の巨人スルトが倒されてから、飛鳥は恵と数名のメンバーを連れて市街地を訪れていた。

 未だに人払いが展開されている八王子市街は、スルトの熱光線魔法による爪痕が痛々しく残っていた。


 二〇六七年に至るまで多くの自然災害に晒されてきた日本の建築物は、年が経つほどに様々な耐性が設計に組み込まれてきた。都会化の最先端都市とすら呼ばれるようになった東京都内の高層ビルなどの建築物件には劣るが、都会化が進むここ八王子市に建てられている建物も自然災害には強い耐性を備えている。


 だが、魔法を知らない人々はまさか自分たちが建てた建物が超高温の熱光線に晒されるとは思ってもいないだろう。スルトの熱光線魔法を受けた建物は、骨組みとなる鉄骨ごと溶解してしまっていた。もはや原型を留めていない建物だってある。

 この街が人払いの影響下になかったら、この一撃だけで災厄と言っていいくらいの死傷者が続出したことだろう。

「まったく、魔法というのは知れば知るほど恐怖心を人の心に植え付けるな」

 焼け野原となっている八王子市街に立つ飛鳥の口からそんな言葉が漏れた。


 人払いは解除させれば小さな被害は自動修復されるが、大きな被害では修復できない箇所が多々出てくる。

 なので、このような大規模な被害が出てしまった場合は魔法の存在を隠蔽いんぺいするためにも誰かが修復作業を行わなければならないのだ。

 まあ、そもそも建物が溶解するほどの被害は、長らく魔法使いとして生きて来た飛鳥でも初めてなのだが。


「もしも修復魔法がなかったら、我々のコミュニティは破綻していたかもしれないな」

 さらっと末恐ろしいことを口にした飛鳥に、割と本気でそうなりかねないと思っていた恵が青い顔で言った。

「修復魔法は魔法使いの存在を隠すためには必要不可欠ですからね。なくなったら非常に困りますよ」

 洒落にならない口調でそう言った恵に飛鳥も苦笑を浮かべた。


 傷ついた街を直しているのは、戦闘部隊のメンバーたちだ。飛鳥たち司令室待機組は作業の進行度、時間の管理などを行っている。

 時刻はもう五時を回っている。そろそろ八王子市にも日の光が差す頃だ。

 空間を隔離しているので日の光が差していようがいまいが問題ではないのだが、アークエンジェルに所属する魔法使いたちはそれぞれの仕事がある。


 いまの進行度は決して遅いとは言えない。むしろ部下たちは頑張っている。

 スルトが及ぼした被害が大きすぎるせいで修復作業に時間が掛かっているのだ。

「明日の仕事、体調不良を理由に休もうかな」

 日の出までにはすべての作業を完了させたいと思っていた飛鳥は、その希望がどんどん薄れていくことを感じながら呟いた。


 そんな半ば独り言のような飛鳥の呟きを、真面目な新人教師の萩原恵は聞き逃さなかった。

「魔法を言い訳に本職を疎かにしない、って言ったのは後藤先生ですよ?」

「う…、分かってるさ。でも、このまま寝ずに学校に顔を出して仕事に支障を出すわけにもいかないだろう」

「それは、そうですけど。…でも後藤先生、明日は担当教科ありませんよね。私、三限くらいあるんですよ。一応、クラス担任もやってますし、月末にある期末テストの問題も作らないと、いけないんです」

 最初は飛鳥を説得するための話だったのだろう。だが同じ教師という立場ということで、話すうちに自分の仕事も思い出してしまったらしい。


 最後辺りあからさまに気分が沈んでいった職場の後輩に、飛鳥は苦笑を浮かべながら改心して謝った。

「すまん、弱音を吐いた。二人で、今日を乗り切ろう」

「はい。終わったら寝るか、飲みにでも行きましょう」

 お互いを励まし合った待機組の二人は、徹夜を覚悟して大きく肩を落とした。



 修復作業現場で自分の作業をしていた玲奈は、司令室組が控えているテントからどことなく暗い雰囲気を感じた。

 視線を向けてみると、アークエンジェルで唯一同じ職場で働いている二人が揃って肩を落としているところだった。

 あの一帯で何があったのだろう、と思っていた玲奈に部下の一人が報告をした。

「こちらの修復作業は終わりました。他のチームと合流して作業を進めますか?」

「そうね。一番作業が遅れているチームに合流して」

「了解しました」

 部下の応答を聞きながら、玲奈は各チームの作業進行度が表示されているタブレット画面を覗く。


 現在、修復作業に参加しているチームは三チームある。

 そのうち一チームだけどこよりも作業が進んでいない。チームリーダーの氏名へ視線を移動させると、やはり予想通りの名前が記述されていた。


 その名前を見て呆れ顔でタブレットを眺めていると、当の本人の疲れ果てた声が玲奈に届いた。

「はぁ~、疲れた、疲れたよー」

「ましろ…、あなた自分のチームメンバーほったらかしてこんなところで何をやっているの?」

 ふらふらと玲奈の下へ歩み寄り、そのまま抱き着いてきたましろを躱して玲奈はやや怒り気味の声で言った。


 疲れ果てているのは全員一緒だ。そこでチームリーダーである本人が部下より先に音を上げるとはどういうことか。

 同い年の幼馴染としても注意をした玲奈に、ましろは赤いショートボブを掻きながら言った。

「だって、明日普通に学校あるんだよ!? サークルもあるし!!」

「学校があるのは私も昴も一緒よ。サークルはあなたが決めたことでしょ?」

「課題だって終わってないのに!!」

「……それは自己責任よ」

 まるで子供の駄々に付き合っているお姉さんのようなやり取りに、ましろは頬を膨らませて押し黙った。


 そんなやり取りをしている二人の下に、こちらは作業がすべて終わったらしい昴が歩いてきた。

「おーい、玲奈。こっちの作業は全部終わったんだが、どうする?」

 そう言う昴に、玲奈は厄介払いを見つけたことに笑みを浮かべて言った。

「そうね、じゃあまずましろのチームと合流して作業を進めてもらっていいかしら? 一刻も早く終わらせないと、ましろの課題が終わらないから」

「なっ! 玲奈、それ言わないで!」


 幼馴染み三人の中で一番世話焼きな昴に、一番世話の焼けるましろのピンチを知らせる。

 咄嗟に言葉を遮ろうとするものの、一秒早く玲奈が言い終えてしまった。

 それを聞いた昴は、玲奈の狙い通り呆れ半分、面倒くささ半分といった表情でましろの襟首を掴んだ。

「ったく、お前の作業現場にリーダーの姿がないと思ったら、そんな理由で逃げて来たのかよ」

「ちょっと、昴! 襟首掴まないでってーッ」

「うるせ。とっとと現場戻って作業始めるぞ」


 ずるずると、ましろの襟首を掴んで引き摺って行く昴に、解放された玲奈は穏やかな声で言った。

「私もここの修復作業が終わったらそっちに行くわ」

「あいよー」

 玲奈の言葉に軽く手を振って答え、昴は暴れるましろをものともせずに連行して行った。

 そんな二人の後ろ姿を見届けた玲奈は、仄かに笑みを浮かべながら自分の仕事に戻った。



 アークエンジェルメンバーが八王子市街地の修復に勤しんでいたとき、夢の丘公園内に設立されているドーム型植物園に新田裕紀はいた。

 植物園内で他の植物より大きな木の幹にもたれかかって倒れる、つい数時間前までは裕紀の敵だった魔法使いの亡骸を裕紀は見下ろしていた。


 命を狙われた敵のはずなのに、亡骸を見る裕紀の胸は誰かに掴まれているように苦しい。

 生命力を過剰に消耗し過ぎたせいで息苦しいのか、この妙な感覚のせいで息ができないのか分からない。

 ただ裕紀は、強い負の感情に呑まれたはずの加藤徹が穏やかな顔で眠っていることに、裕紀は様々な感情の波に耐えなければならなかった。


「救えなかったと、そう思っていますか?」

 背後に強力な雰囲気とともに放たれた流麗りゅうれいな女性の声がそう裕紀に問い掛けた。

 振り返らずに、視線は加藤徹へ向けながら裕紀は込み上げてくる感情を抑えて言った。

「どうだろうな。でも、この人のこんな顔を見ると、何だかとても胸が苦しい」

 自分の胸を強く握り締めながら声を絞り出しす。


 加藤徹は死んだ。だが、加藤徹の魂は荒れ狂う憎しみと悲しみの渦から救われた。この穏やかな死に顔を見て、そう思ってもいいのだろう。

 果たして裕紀が望んでいたのは、加藤徹の生存だったのか。それとも、黒化した加藤徹の魂の救済だったのか。

「あなたはきっと、彼の生存と魂の救済の両方を望んだ。そして、彼の魂を救うことができた」

「だとしたら、俺は彼を救えなかった。それに、加藤徹の魂を救ったのは、俺じゃないよ」

 加藤徹が黒化から復帰できたのは、彼の妻である加藤千穂が、記憶という存在になりながらも必死に愛する存在へ語り掛けてくれたからだ。


 裕紀の言葉に、彼の後ろに立った女性は隣まで歩いて言う。

「確かにこの人の、この世界での生は終わってしまった。それはとても悲しいことかもしれません。ですが、新田裕紀。あなたは、彼の死によって何も救えなかったわけではない。あなたはこの戦いで、一つの家族と一つの街を、そして一人の人間を救ったのですよ」

 かけられた言葉を聞いて、裕紀は深く息を吸い込んだ。


 裕紀がこの戦いに身を投じる最大の動機となった大切な存在が救われたことに大きく安堵する。

 そして、死んだ人間を蘇らせることができないことを知っている裕紀は、これ以上悩むことは無意味なことだと割り切り、深く吸った息を吐き出した。

「この戦いで救われたものがあるなら、俺が戦った意味はあった」

 言いながら隣に歩んできた女性に視線を向ける。


 桜色の長髪の女性は、ローブの下にある桜色の瞳を裕紀に向けた。

 油断してしまえば柳田彩香と間違えてしそうなほどに顔が瓜二つな女性、魔女エレインは微笑みを浮かべた。

 彩香と同じような笑みを浮かべるエレインを見て緊張が解れたのか、裕紀の身体にこれまでの戦闘で蓄積された疲労が一気に襲い掛かった。

 急に足に力が入らなくなり、ふらついた裕紀の肩をエレインは優しく受け止めた。

 春風に抱擁されているかのような柔らかい感覚に裕紀の心が安心していくときだった。


 裕紀の脳裏を氷のように冷たい感覚が過り、脱力しかけていた身体を跳ね起こした。

「あら、気づくのが早いのね。力を覚醒させたことで感能力が上がったのかしら」

 真冬の夜に深々と降る雪を思わせる、透き通った静かな声が二人に届く。

 その声の奥に秘められた、何者にも劣らない殺気が裕紀を一時的に疲労感から抜け出させた。

 エレインから離れて自力で立つと、漆黒のローブを羽織った女性が植物の陰から姿を現す。


 身長はエレインと同じか少し高め。目深に被っているフードから流れる髪色は夜闇を広げたように黒い。

 そして何より、目の前の女性から発せられる圧力プレッシャーが強すぎて、裕紀の膝が震えた。

 きっとこの女性と本気で戦うことになったら、間違いなく殺されるのは裕紀だろう。


 圧力プレッシャーによるものか、呼吸が浅くなり立っているのもやっとなほどの裕紀に構わず女性は言った。

「初めまして、かしら? まあ、死んでいく人間に挨拶というのもおかしいわね」

 笑みを含んでそう言った瞬間、ノーモーションで女性から電撃が放たれる。

「アラタ!!」

 叫んだエレインが、圧力プレッシャーに囚われていた裕紀を咄嗟に横へ押し飛ばす。


 裕紀の代わりに電撃を受けたエレインだが、彼女が左腕を振るうと雷は軌道を変えて謎の女性へと反射した。

 反射された電撃は女性の目の前で制止すると、軌道を変えて加藤徹の横たわる植木に直撃する。

 雷撃を受けた植木から炎が燃え上がり、たちまち立派な幹を炎で包み込んでいく。


「邪魔をしないでもらえるかしら?」

 感情のない冷たい女性の声が裕紀を庇ったエレインに言われる。

 言葉一つ一つが鋭利な刃のように殺気を纏っているように感じられたが、エレインは動じずに言った。

「あなたの思うようにはさせません。彼は殺させない」

 恐らくあの女性はエレインやマーリンと同じように魔女なのだ。

 しかも光に属する魔女ではなく、闇の使いとして行動する暗黒の魔女。

 そして彼女は、この事件に深く関係している可能性が高い。


 押し飛ばされた裕紀は立ち上がるとすぐ近くで燃え盛る植木を見上げた。

 瞬く間に頂上まで火が燃え移ったこの植木はもう助からないだろう。人払いの効果範囲内なので完全に死んでしまうわけではないが、少なくとも元の世界で目に視える変化は避けられない。


 そう思うと、裕紀は攻撃を仕掛けて来た女性に対して沸々と怒りが沸き起こってきた。

「戦いはもう終わったはずなのに、どうしてまだ戦おうとするんだ!?」

 女性の放つ強烈な圧力プレッシャーに耐えながら、裕紀はそう怒鳴り声を上げる。


 遠くに立つ女性の顔色はフードのせいで判別できない。

 だが、彼女に戦いを止めようと思い直す気はないことだけは分かってしまった。

「私が主に命じられたことは二つ。この街を闇に葬ることと、あなたを殺すこと」

 そう言う暗黒魔女は、目深に被ったフードの下から鋭い眼光を光らせて言う。

「けれどその二つの目的は果たせそうにない。けれど我が主は両方の目的がどちらも失敗に終わる結果など求めていない。街を闇に葬ることはできずとも、お前を殺すことなら容易い」

 言い終わった暗黒魔女は、右手を緩やかに持ち上げ、細い指を裕紀に向ける。


 少しだけフードの下から覗いた血の色に輝く瞳を裕紀に固定しながら暗黒魔女は告げた。

「しかし、無駄な争いを起こしてこれ以上の犠牲を生み出すのも好まないだろう。よって、新田裕紀。いまここで、自ら己の命を絶て」

「断る」

 自分でも驚くほどに即答だった。

 こんなに迅速に物事の結論を出したことなど滅多にないだろう。昔エリーが毎朝の朝食を自分が作るという提案を裕紀に持ち掛けて来たとき以来だ。


 今回はそんな軽い状況ではないのだが、裕紀は暗黒魔女の提案を受け入れることはできなかった。

 自分だけの判断では他の誰かが傷つくことを裕紀は知っている。

 暗黒魔女の提案を呑めば、犠牲は最小限に抑えることができる。

 だがそれ以上に、裕紀を思ってくれている多くの人達が自分の死で傷つくことになってしまう。

 それは大切な人は誰も傷つけたくないと、そう決めた裕紀自身の意志に反することだ。

「俺はお前の提案を受けない。ましてや逃げたりもしない。戦うというのなら、決着をつけよう」

 己の意志を込めた返答を放ち、裕紀はエクス・カリバーを顕現させた。


 やはり、かなり生命力を消費してしまったらしい。

 聖具を顕現させると同時に裕紀を強烈な目眩が襲い、その場でよろめいた。

 裕紀の即答に少々度肝を抜かれていた暗黒魔女は、その反応を視るやくすくすと笑った。

「ふふ、そう言いながら立っているのもやっとのようね。見逃してあげたくなっちゃうけど、あなたはここで死んでもらうわ」

 そう言うと、目の前に立つ暗黒魔女の姿が霧のように消えた。


 そう思った裕紀の目の前に漆黒のローブが目に入ったときには、すでに暗黒魔女は攻撃のモーションに入っていた。

「死になさい、光の騎士」

 そう言った暗黒魔女が頭上に掲げた右手に暗黒の魔法陣が浮かび上がる。

 その瞬間が訪れるまで、裕紀は諦めずに意識を研ぎ澄ませていた。最後まで己の命を諦めないというのが、戦いの最中に玲奈が教えてくれたことだ。

 魔法陣から生成された黒い球体を暗黒魔女が落そうと右腕を振り下ろす。


 しかし、暗黒魔女の動きは魔法を放つまでには至らなかった。

「なに!?」

 動きを完全に封じられた暗黒魔女が驚きの声を上げる。

 漆黒のローブを羽織った彼女には、赤い鎖のようなものが絡まっている。

 それは足や身体だけでなく、魔法を展開させている右腕や空いていた左腕にも絡んでいる。


 赤い鎖に絡まれた暗黒魔女は、鎖を解こうと身動ぎするが抜け出せない。

 そんな暗黒魔女の背後で、桜色の魔力を纏ったエレインが右手を持ち上げながら言った。

「無駄です。あなたの時間は、私が支配しています」

「そう、ふふ。生きていたのね、時間の魔女」

 この短いやり取りの意図を、裕紀は見逃さなかった。


「うおおっ!」

 生命力を刀身に流され黄金の魔力を纏ったエクス・カリバーの剣尖を、拘束されている暗黒魔女へ向けて突き出す。

 無防備な胸部へ黄金に輝く刀身が刺さる寸前、暗黒魔女の身体を暗黒の魔法壁が守った。

「ふふ、あははっ。このローブにはあらゆる魔法攻撃から身を守る魔法が織り込まれているのよ。魔法で造られたあなたの聖具では私を貫くことはできない。生命力をすべて使い果たして死になさい!!」

「大切な人を想う気持ちを利用したあなたは絶対に許さない。こんな壁、ぶっ壊してやるッ」

 叫ぶ裕紀はエクス・カリバーへ最後の生命力を注ぎ込んだ。


 いよいよ両手の感覚がなくなってきたことを自覚し始めた時。

 胸元のペンダントがエメラルドに輝くと、再び植物園の植物たちから裕紀に向けて生命力が集約した。

(みんな…)

 身体に集まる暖かな生命力を感じながら、裕紀はまた一つ聖具エクスの力に気付いた。

 この聖具は、周囲の植物からある程度生命力を借りることができる。

 そして、裕紀は断片的ではあるが植物たちの声を聞いた。

『力を貸してあげる』『絶対に勝って』『負けないで』


『あの二人を、救ってくれてありがとう』

 様々な植物たちの声を受け、裕紀は奥歯を噛みしめ両腕に力を込めた。

「ぐ、あああああッ」

 裕紀の気合いとともに、エクス・カリバーの刀身が更なる輝きを放つ。裕紀とエクス、そして植物たちの魔力によって、とうとう魔法壁に限界が訪れた。


 破れそうになかった魔法壁に一筋の亀裂が走る。

「馬鹿な!? この私の魔法が死にぞこないの魔法使いに劣るなんて!?」

 驚愕に滲む声でそう言う暗黒魔女に、裕紀は一つだけ訂正した。

「これは俺だけの力じゃない。ここに植えられたすべての植物たちの力だ。生きたいと願う、想いの力だ!」

 叫んだ裕紀は、ありったけの力を込めて魔法詠唱を言い放った。


「エクスカリバー・レイザーッ!!」

 魔法詠唱が唱えられたエクス・カリバーは、黄金に輝く刀身から魔力を溢れんばかりに増幅させると、一気にそれを解き放った。

 刀身から魔力の斬撃が伸びると、限界だった暗黒魔女の魔法壁は破られた。


 魔法壁を破られた暗黒魔女の身体を強大な光の奔流が貫いた。

「忌々、しい…、ひか、り…。必ず、けして……」

 消滅しながらも言葉を放った暗黒魔女だったが、その台詞は最後まで聞くことができなかった。

 エクス・カリバーの超強力な光魔法によって、暗黒魔女も完全に消滅したのだ。


 やがて光が消滅すると、植物園内は再び夜闇に包まれた。

 雷撃によって燃えてしまった植木は、エレインが魔法で鎮火したが損傷は激しかった。

 燃えた植木の幹に寄り掛かっていた加藤徹は、エレインのおかげで間一髪、火が燃え移ることはなかった。


 しばらく、植物園内を静寂が包み込んだ。

 その静寂を破ったのは、放心状態で上を見上げて立つ裕紀だった。

「終わった、のか…?」

 その言葉に、ゆったりと穏やかな声でエレインが告げた。

「はい、戦いは終わったのです。もう、この街を脅かす者は存在しません」

「そっか。よか、った…」

 その言葉を聞いて、緊張の枷が外れたのだろう。

 意識を失った裕紀はそのまま地面に倒れそうになるが、それをエレインが抱き止めた。

「本当に、お疲れさまでした」

 倒れた裕紀をそっと受け止めたエレインは、彼の今までの苦闘を思いながらそんな労いの言葉を送った。



二〇六七年一二月四日、午前五時三十分。

八王子市街防衛作戦は首謀者である暗黒魔女の消滅、実行犯加藤徹の死亡によって終了した。

たった一人の魔法使いによって一つの街が危険に晒されたこの事件の詳細は、他に目撃者もいなかったためアークエンジェル内部での極秘情報として表に知らされることはなかった。


しかしながら、現実世界に異世界の魔獣を呼び出し大量虐殺を試みたコミュニティ、ネメシスの危険性は再認識されることとなる。

後日、事件解決に携わったアークエンジェルの指揮官は、ネメシスについての危険性をとあるコミュニティに報告した。

そのコミュニティの名は国際魔法機関《International Magic Organization》。

通称IMOと呼ばれる、魔法使いたちの国際組織だった。


お待たせしました!

いよいよ次回で第一章が最終話となります。

ここまで読んでくださった読者の皆さん、ありがとうございました。


年末年始の連休は、たくさんあったはずなのに一瞬で終わりました!

あぁ、働きたくない…

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