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聖剣使いと契約魔女  作者: ふーみん
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異世界(4)

行間修正しました。

内容はほとんど変わっていませんが、是非読んでみてください。

人物名を訂正しました。 彩夏→彩香

 裕紀の通う八王子市立萩下高校は、近年で新しく建てられた新八王子駅の近くに設立されている。

 いつもは人通りが多いとも少ないとも言えない道は、時間の関係か帰宅の途についている学生や社会人たちで歩道が埋め尽くされていた。

 そんな中を歩くことは、早帰り組の裕紀はもちろん慣れていない。対照的に慣れた動作ですいすいと先を歩く彩香の背中を必死になってついて行く。

 そのせいか、裕紀はまた一つ彩香に対しておかしな敗北感を感じていた。


 そのまましばらく歩道を歩いていると、周りの建物とはやや大きめな建物が目に入った。

 交差点の先に建つ建物は、外見からしてみれば大型のショッピングモールだった。しかしこの建物こそが新八王子駅であり、電車とモノレールが動いている。

 この駅は大規模空間浸食発生後、小規模だが様々な都市で空間浸食が発生することが明らかになってから(この時から最初の空間浸食は大規模空間浸食。現在も断続的に続いている空間浸食は小規模空間浸食と呼ばれるようになった)、東京都庁が緊急時のための駅をもう一つ建設することを指令したのだ。


 しかし、もともと幾つもの駅が点在している八王子市内になぜ緊急時のための駅が建設されたかというと、いくら都市の交通機関が発達しても空間浸食による混乱は大きいためである。

 一つの大きな駅と中継駅だけでは、混乱しきった住人の移動を完全に制御することは難しくなるからだそうだ。

 前例としては、中国の首都である北京にて発生した小規模空間浸食がある。発生後、住民がパニック状態に陥ってしまい連鎖的に北京首都内の交通機関はしばらく機能しないということがあったのだ。交通機関の麻痺がなければ住民の避難はさらに迅速にできたらしい。

 

 今は普通の駅として役割を果たしている新八王子駅だが、緊急時になればその存在はとても大きなものになる。

 だが、新八王子駅は緊急時でもないのに何故かいつも混雑していた。

 その理由は至極簡単である。偶然かあるいはそうさせたのか、外見の印象と違わず駅の構内が様々な雑貨屋を始め喫茶店などでひしめく、一つのショッピングモールと化しているのだ。

 そして、彩香は話す場所を駅の構内にある喫茶店かファミレスに決めたらしい。裕紀を先導して新八王子駅のショッピングエリアへと足を進めた。


 新八王子駅は東西南北それぞれに出入り口を設け、全四階建ての駅とショッピングモールが融合した大型の建物だ。

 一階と二階には主に食料コーナーやファミレス、喫茶店など飲食店が多い。特に飲食店は学生や若年の労働者の大半が昼食や帰り道などに必ずと言っていいほど利用する場所だ。

 他にも一階には駅のホーム、二階にはモノレールの改札口があり、これは一般の人々は常に利用しているお馴染みの施設だ。また二階には映画館やゲームセンターもあるため、若者が大勢集まる空間にもなっている。

 三階では既に駅としての機能はなく、家具や雑貨、本屋のみの日常品や趣味の空間となっている。こちらも一般の人達が毎日利用している。

 ちなみに四階は屋上の駐車場として扱われているため、運転とはまだ縁の無い高校生には関係のない場所だ。


 などと全く来ないわけではないのにそんな事を復習していた裕紀は、交差点から一番近い南側の出入り口へ彩香と共に入った。

 裕紀たちが訪れた一階フロアは、一人暮らしをしている裕紀にとってはお馴染みの場所だった。一つ、普段と違う点と言えば、同年代の女子高生と一緒に歩いていることだろう。

 ただ、校門での出来事で何か地雷を踏んでしまったのかは不明だが、彩香は相変わらずむっすりしたままだ。

 

 すたすたと早足で歩いていく女子高生を早足で追いかける男子高生。事情を知らない人からすれば喧嘩をした恋人同士か、ストーカーから逃げている女子高生などあらぬ誤解を招く恐れがある。

 そうなってしまえば、大抵の場合男子側が何かしたと思われてしまうのは世の常だ。

 そしてこの場合は、散々待たされた挙句必死に付いて歩いている裕紀に非難の目が向けられるに違いない。


 実際、周囲から向けられるいくつかの視線がとても気まずい。

(視線が痛い……)

 なんとかポーカーフェイスを保ちながら内心で冷や汗を流していた裕紀は、ここである異変に気が付いた。

 

 時刻は五時を過ぎており、買い物客も多い時間帯だ。裕紀達のいる場所が食料品コーナーから離れているとはいえ、さすがに人の出入りが少なすぎる気がする。

 この通りは飲食店が数多く連なっているが、それでもやはり人数が少ない。学校や会社終わりのこの時間帯は休日には劣るだろうが混み合っていて然りなはずだ。

 それとも、気付かぬうちに社会の風潮が変わってしまったのだろうか。短期間で習慣付いた風潮が変わるとも思えないが、仮にそうだとしたら取り残された裕紀だけが違和感を抱いているだけ、と言うこともあるかもしれない。


 試にちらりと店内を窺うと、人はしっかり入っていた。学生から社会人まで数多くの人々が食べ物や飲み物を口に運んだりしている。いつもと変わらない光景に、裕紀は内心胸を撫で下ろした。

(だったら、この違和感はなんなんだ?)

 口元に手を運び考えながら歩いていたからか、裕紀は目の前を歩いている彩香が足を止めたことに気付く事ができなかった。

 そのせいで、彩香の背中に思いっきりぶつかってしまった。

「きゃあっ。なにっ!?」

「あ。わ、悪い」

 突然の衝突に小さく声を上げた彩香は、きっとこちらを睨みながら振り返った。


 今回は考え事をしながら歩いていたこちらが悪いためすぐに謝ると、彩香は頬を膨らませてぷいっと振り返ってしまった。

 そのやり取りを見ていたらしい周りの民衆の視線がまた痛い。

(なんとか機嫌を直さないとなぁ)

 はあ、と気づかれないようこっそり息を吐いた裕紀だが、声に出したのは遠からず近からずな問いだった。

「どうかしたのか?」

 ぶつかる前から彩香が裕紀に怒っているのは明らかだが、途中で歩みを止めるのはこれが始めてだ。


 そもそも話したい事がありそのために何処か落ち着ける場所へ移動している真っ最中なのに、ここで足をずっと止めている理由は特にないはずだ。

 しかし、立ち止まる理由が裕紀の思っている違和感と一緒ならば気のせいということもなくなる。


 その可能性も考慮して尋ねた裕紀に、彩香は前を向きながら一言だけ答えた。

「おかしいのよ。普段なら人の行き来が激しいはずなのに、今日に限って人数が少なすぎるわ。まさか、君も同じことを?」

 同じ違和感を感じているのかと視線で問いかけられる。


 果たして彩香の意見は裕紀の違和感と全く同じものだった。

 あまり仲良くしていない同士でも気の合うときはあるんだ、と頭の片隅で呑気に考えつつも口は違うことを話していた。

「ああ。なかに入って最初は気付かなかったんだけどな。店が多くなっていくにつれて人数も減っているから、おかしいと思ったんだ。店の中には人がいるから、なんだか俺たちだけ周りから隔離されているような、そんな違和感を感じてた」

「……奇遇ね。私もちょうどそんなことを考えていたわ」

 そう話している間にも、通路を歩く人はどんどん少なくなっていく。


 これはもう違和感ではなく明らかな異常だろう思ったころには、通路を歩いている客は裕紀と彩香のみとなっていた。

 ……と、裕紀の視界の先に一人の男性の姿が映った。どういうわけか人の気配が消えたこの通路では、もはや二人の目の前には男性しかいない。

 その男性は黒い上着を羽織り、黒いズボンと全身を黒で統一している。また、黒い帽子を目深にかぶり上着の両ポケットに手を入れている姿は、犯罪者の雰囲気を放出していた。

 まあ、運動神経が良くてとある事情から体術も学んでいる裕紀ならば、ナンパ男や暴力好きの不良は一人で相手はできる。


 だが、少し離れた場所から歩いてくる男性を視界に収めた裕紀は思わず生唾を飲んでしまっていた。

 男性の放つ雰囲気が尋常ではなかったからだ。普通の不良やナンパ男などから発せられる雰囲気はどこか面白おかしい感じがあった。だから、実戦経験の浅い裕紀でも突然のハプニングを退くことは可能だった。

 しかし、目の前を歩いてくる男性は明らかに雰囲気が違う。もっとねっとりとした、寒気さえ引き起こす禍々しい感情だけを放っている。

 その正体はすぐに分かった。

「殺気?」

 渇いた声でそう呟いても彩香に反応はなかった。体から力が抜けているので、恐怖で身を竦ませているというわけでもないだろう。


 ただ目の前の男性を観察するかのように視線を向けているだけだ。

「柳田さん……?」

 歩いてくる男性との距離が二十メートルを切っても何の行動も起こさない彩香へ、さすがに我慢できなかった裕紀が名前を呼んだ瞬間。

「危ないッ!」

 男性が片腕をポケットから出し、高速で腕を上に振り上げた。振られた腕から銀色の光が煌めくのを確認した裕紀は、そう叫びながらほとんど反射的に彩香の顔の前へ自分の学生鞄を移動させた。


 直後、ドスッと重い音とともに右腕に重い振動が伝わる。鞄の取っ手から下が微かに揺れる。

 ぶつかった物体が鞄から落ちなかったので、不思議に思った裕紀は学生鞄の表面を確認した。


 相手の行動に対応し荒くなっていた息を、鞄に刺さるそれを見て裕紀は一気に吸い込んだ。

(な、なんで、こんなもの!?)

 学生鞄に突き刺さっていたのは、鋭利に輝く刀身を根元まで食い込ませた一振りのサバイバルナイフだった。


 ノート類の入った鞄を容易く突き破る威力に驚愕する裕紀をよそに、黒服の男性はまた腕を振った。

 素早く振られた腕から放たれたナイフの刃が蛍光灯の光を反射して煌めく。刃物が彩香のきめの細かい肌を突き破る前に、ナイフから庇うために裕紀は彼女の上に覆い被さった。

 嫌われようがどう思われようが、人の命には代えられない。明らかに力で強い男が女を守るのは当たり前だろう。

 

 彩香を押し倒すことになってしまったが、間一髪のタイミングでナイフから逃れた裕紀は、彼女を庇いながら男性へ視線を向けた。

 徐々にこちらへ近付いて来る男性の表情は、帽子に隠れて分からなかった。だが、口元が不気味に吊り上っていることを裕紀は見た。

「あいつ……」

 動機は不明だが、あの男性は裕紀と彩香の二人を殺そうとしている。


 その殺意にどうにか対抗しようと考える裕紀の下で、押し倒された彩香がもがきながら言った。

「ちょっと、何してんの。早くそこどきなさいって」

「いや、でも柳田さんは隠れてないと」

「その必要はないわ! いいから、早くそこからどいて!」

 強がりではなく切迫した様子さえ感じさせる声音で言われてしまえば退くしかない。


 言われた通りすぐに彩香から退くと、彼女は素早く立ち上がった。

「ここは危険だから、君は何処か安全な場所に隠れてて!」

 男性に視線を固定しながら裕紀にそう言った彩香は自分の鞄を持ち上げた。


 彼女の背中に怖がっているような雰囲気はない。むしろ裕紀という一人の人間を守ろうという強い意志が伝わってきた。 

 未だに状況が呑み込めない裕紀は、何も言わずに指示に従った方が良かったのだろう。

 だが、たった一人の女子に全てを任せて逃げられるほど、裕紀のプライドも安くはなかった。

「女子一人より男女二人の方が安全だろ。俺も戦えないわけではないんだ」

 言い返されるとは思っていなかったのだろうか。彩香は後ろに立つ裕紀を一瞥すると、また不機嫌そうにぷいっと前を向いてしまった。

「勝手にしなさい。でも、自分の命ぐらい自分で守ってよ」


「ああ。勝手にするさ」

 そんな会話が終わるのを待っていたわけではないのだろが、黒服の男性は再びポケットからナイフを取り出した。

 今回はそれを放ることはせず、ナイフを握った男性は猛烈な速さで二人へダッシュした。

(こいつ、何本ナイフ持ってんだよ!)

 三本目のナイフを取り出した男性に向けて、裕紀は内心で悪態を吐いた。


 すると、一気に近づいてくる男性に臆することなく彩香は鞄に手を入れて呟いた。

「両ポケットに三本ずつ。あと内ポケットに二本ずつ、か。ずいぶんと用意周到なことね」

「え……?」

 彩香の発言に理解が追い付かない裕紀を置いてきぼりにして、彩香は鞄から白と黒で彩られた銃を引っ張り出した。

「お前、それ拳銃!?」

 突然の武器に驚いた裕紀から言及された彩香だったが、その声には答えず、いつの間にか裕紀から距離を離していた。


 手に持った凶器を、彩香は躊躇いなく男性に標準を合わせて引き金を引く。

 記憶にある銃声とは違うような音を放ち、彩香の持つ銃から弾が放たれる。

 だが、超高速で飛来した弾丸を男性は躱すと彩香へナイフを振り下ろした。


 振り下ろされたナイフを体を横に倒して躱した彩香は、隙の出来た男の足へ撃ち込んだ。太ももに黒い穴が開いても男は悲鳴は上げず、逆に動きの止まった彩香を斬り刻もうと鋼の刃を適当に振り回す。

 しかし、ナイフが振られた時には、もうそこには彩香の姿はなかった。

 軽く後ろに下がってから、バク転の要領でさらに後退したのだ。


 そのアクロバティックな動きに栗色の長髪と萩下高校のスカートが翻るが、そんなことは裕紀にとっては気にもならなかった。

 何の予兆もなく繰り広げられた高レベルな戦闘に巻き込まれた裕紀は完全に度肝を抜かれ、この中に自分が入ったところでどうにもならないことを知らされたていた。

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