特訓と、二度目の異世界(11)
ギィィィイ・・・。
どこのお化け屋敷だよっ! と突っ込みたくなるほどに不気味に鳴り響いた扉の音に背筋が寒くなる。
外見が廃墟のアークエンジエル本部の一階は、まさしく別荘のように広かった。廃墟であることが勿体ないと思えてしまうほどに広く、飾られている装飾品も廃れていなければ豪華そうだ。
ほこりが月明かりに照らされてキラキラと舞う薄暗い屋内を、ましろの背中を追いかけながら歩みを進める。
歩く度にギシギシと床が軋むことで、裕紀のこの屋敷に対する気味の悪さが増していくが、コミュニティのメンバーが前にいるので声には出さない。
ただ、そんな裕紀のことはお構いなしに早足で進むましろは、何かの部屋であろう扉を開けると中へ入ってしまった。
扉が閉まる前に部屋へ駆け込んだ裕紀は、入ったその部屋を見渡した。
二人が入った部屋はダイニングらしく、中央に十人は集まれるだろう長テーブルが目に入った。ただ、やはりこれも手入れがされていないせいか苔が表面にこびりついている。少し衝撃を与えれば壊れてしまいそうなほどに素材となっている木材も腐敗していた。
またテーブル以外にも左右の壁には古びた絵画や花瓶などが置いてある。これが一人ならまず入りたくはない雰囲気の部屋を恐る恐る周囲を観察しながら歩く裕紀とは対象的に、ましろは自分の部屋のように伸び伸びと歩いていた。
その姿を目で追うと、彼女は右手の絵画まで歩み寄り、グローブに包まれた右指を柄の上に這わせた。
どこかの砂漠の景色が描かれた殺風景な絵の上に指で何かを描いた直後だった。
部屋の中央に設置してある長テーブルが、振動を起こしながら奥側へとずれ始めた。
部屋中に石や木が擦れ合う音が響き、テーブルの動く振動が部屋全体に伝わる。
「い、いったい何が!?」
ギシギシと腐敗の進んだ建物が揺れる感覚を床から捉え、裕紀は慌てた声を上げた。
テーブルは一メートルほど奥側へ動くと静止し、音と振動も同時に途絶えた。
再びの静寂の中、突然の出来事に戸惑っていた裕紀は、もともとテーブルが置いてあった場所に穴が開いているのを見付ける。
テーブルの下には隠し階段があったらしい。薄暗い穴の奥には石造りの階段が伺える。
恐らくはこの階段を下れということだろう。
絵画から歩み寄ってきたましろが再び裕紀の先頭に立ち言った。
「ここから先は暗くなるから気を付けてね」
案の定、そう言いながら明かりも何も持たずに暗い階段を下っていくましろの背中を、裕紀は黙って付いて行くことにする。
最初は月の光が唯一の灯りとなっていたので薄暗い中でも苦もなく歩けたが、完全に月明かりが遮られると暗闇で何も見えない。
当然、足元も見えないので少し気を緩ませれば階段を踏み外しそうだ。
仮に踏み外したとしても前を歩くましろなら軽々と避けそうだが、結局は迷惑を掛けてしまうことには変わりない。
自分のためにも階段は踏み外さないように一段一段をしっかり踏みしめて下る。
(灯りとかないのかな・・・)
ただ、暗いというのはやはり不便なもので、二人分の足音を聞きながらそう思う。普通なら通路にランプの一つや二つは立て掛けてありそうなものだが、この通路にはそのような光源は一切見当たらない。
若干、この通路に不便な意識を抱き始めてしまったときだった。
「フロート・ライト」
目の前を歩くましろが突然聞き慣れない単語を唱える。
それは魔法の詠唱だったらしく、ましろの声に反応したかのように魔晶石から魔力の光が放たれる。
いったいどんな魔法を使ったのかは不明だったが、魔法発動時に瞬く魔晶石の輝きが消滅した直後、すぐにどのような魔法であるか判断できた。
なぜなら、魔法を発動してからどういうわけか灯りは消えず、暗闇に包まれていた通路は明るいままだったからだ。
「これでもう大丈夫だよね?」
どうやら発動させた魔法は光源を作り出すものだったらしい。
「・・・なるほど」
振り返り無邪気な笑みでそう言うましろの正面に浮かぶ光球を目にして、裕紀の口からそんな素直な呟きが零れた。
明かりを灯されてようやく普通に歩けるようになった裕紀の目の前に屋敷に、入ってから二つ目の扉が現れた。
その扉は今までのように腐りかけの扉ではなく、石積みの壁に似合わない機械式の扉だった。
この先がアークエンジェルの本部であることは直感的に理解できた。
今まで着けていたグローブを外したましろが、扉の傍にある認証装置に右手の人差し指を差し込む。
認証システムが彼女の指紋を判定し、認証完了のアラームが耳に届く。
一瞬だけ裕紀へ微笑みかけたましろは、そのまま扉へと歩き、スライド式の扉は彼女を感知して横へ動いた。
「さ、この先がアークエンジェル本部よ」
ついにそう告げたましろの言葉の圧力に、唾を飲んだ裕紀はただ頷くだけだった。
扉を通過した先はやや長い通路となっていた。
雰囲気としてはエリーの研究所のようなプレハブ構造のように見えるが、使われている素材はかなり頑丈のように思える。
また、通路の両側には幾つかの扉が設置してあった。どれも認証装置付きで、このコミュニティのメンバーしか扱えないらしい。
「この廊下、監視カメラとか無いんですね」
ただ、一つだけ気に掛かった疑問を前を歩くましろに投げかける。
質問されたましろは前を向きながら雑談でもしているかのように答えてくれた。
「そうだねー、監視カメラはなくとも魔法で監視されてるから必要はないのよ」
「それって術者が殺られたらこの施設、内側からやられ放題ですね」
扉の認証よりも先に侵入者に対抗させた警備装置が必要なのではと思ったのだが、ましろはむしろ心配無用!と声を張って言う。
「この魔法の術者が殺られることはほとんどないよ。あ、あるとすればこの組織が負けるときとか?」
「コミュニティのメンバーであるあなたがそんな物騒なこと言わないで下さい!」
冗談だろうがそんなとんでもない発言をしたましろに、裕紀は半ば本気で突っ込みを入れる。
ともあれ、この施設を監視する魔法の術者が殺られない限り、敵はアークエンジェル本部内で好き勝手に行動はできないわけだ。
そんなことを考えて目測で百メートルほどの長さはあるだろう硬い廊下を歩いていた裕紀は、前を歩くましろが足を止めたタイミングで立ち止まった。
通路はここで行き止まりだが、この奥に部屋があることを示すようにまたしても扉が設置されていた。
この施設扉多いな~、などと一人遠い世界でも見ているかのようにぽそりと思う。
「赤城ましろ、入ります」
そんな裕紀の目の前で、普段の砕けた口調は何処へやらと思わせる口ぶりでそう言ったましろの声に、スピーカーから返答が返る。
『確認した。連れてきた魔法使いと一緒に入ってくれ』
確実に自分のことを言われ、裕紀はましろの後ろで姿勢を正す。
扉が開き、入室許可を得たましろと裕紀は無言のまま部屋へ入った。
薄暗い室内に入った裕紀を出迎えたのは、暖房の効いた暖かい空気と、幾つもの視線だった。
しばらく裕紀の意識に刺さり続けた視線は、二人で歩き出すとそんなものなかったかのように自然と意識から外れた。
部屋の雰囲気はどこか萩下高校の生徒指導室を思い起こさせるが、部屋の規模や設置されている機材などを見るとそんな気は消え去ってしまう。
部屋は二階構造となっており、裕紀たちが立っているのは二階に当たる。また、この部屋のルールとなっているのか、幾つも設置されている機械を多くて二人が担当しているようだ。
そこまで部屋を見回した裕紀は、真正面の大型モニターへ視線を向けた。
映画館のスクリーンのような大きさのモニターに映し出されているのは、主に世界地図と無数の文字列やグラフだった。エリーの扱うパソコンのディスプレイに流れる文字列の滝、までは言えないが素人が見ると意味不明となってしまうのは同じだった。
目を点にしてモニターを眺めていた裕紀は、ふと右側に映されている市街図に思わず呟いてしまった。
「八王子の市街図?」
新八王子駅を中心に市街地が広がる街の地図には、五つの赤い光点が点滅していた。
新八王子駅、そこより東側にある住宅街、裕紀がよく用いる通学路と、新八王子駅から南側に位置する月夜家付近、更には北側に位置する工業地帯に赤い光点が記されている。
あの地図が示していることが、裕紀にはまるで他人事のようには思えなかった。むしろ今回の一件に直接の関係があるように思えてしまう。
「やあ、新田。昨日ぶりだね」
地図のマーカーに意識を奪われていた裕紀の目の前で、腰を掛けていた人物がそう言いながら椅子ごとこちらに振り返った。
名を呼ばれ意識を引き戻された裕紀は、すぐ前に座る人物へ視線を移す。
人物の正体が何となく判ってはいた裕紀は、その顔を見ても特に驚くこともせずに返答した。
「俺に何か用ですか? 後島先生」
「まったく、第一声が些か冷たくないかい? この施設での私は初めてだろうに」
ましろと裕紀の目の前に座る人物、後藤飛鳥とはすでに昨日学校で会っている。
魔法使いとしての彼女の顔も昨日知ったばかりだ。
だが、どうやら飛鳥はこの施設では初対面という建前が欲しいらしい。面倒臭いのでわざわざ取り合わないが、自分が意味もなくここに呼ばれたわけではないことは考えずとも分かっていたことだ。
口を閉ざし続けた裕紀に観念したように、飛鳥は口元を引き締めて質問に答えた。
「ついさっき玲奈から報告があった。敵は君を本気で狙っているらしいな」
「それはとっくに分かってますよ。今日もここへ来る前に襲われましたし」
そう言いながら、あの中年男性との戦闘を思い出す。死者を使役する魔法はあの男の固有魔法であると本人の口からも聞いている。
顔を歪めてそう言った裕紀の前で飛鳥は目を微かに広げた。
「そうか。敵が正当な手段でこちらに仕掛けてくることは無いとは思っていたが、もう動き始めていたとは」
まるで裕紀の知らない何かを知っているような口振りに、隣に立つましろを見る。
視線に気付いたましろは、困ったような顔で答えた。
「実は例の魔法使い、君を襲う前に私たちに忠告してきたのよ。三日の猶予を与えるからその間に新田裕紀の身柄を渡せ。さもなければ、この街は地獄となるって」
「な・・・ッ!?」
ましろの言葉に、裕紀は恐怖で全身の力が抜けるのを感じた。それなのに全身の筋肉は意識から隔離されたように強張り、とうとうバランスを保てなくなった裕紀は後ろへ数歩よろめいた。
この部屋に入ってきたとき、ほんの数秒だったが何人もの視線が裕紀へ釘付けとなっていた。
それは見知らぬ他人が入ってきたからなどではなく、この街の命運を握る人物を見定めるための視線だったのだ。
裕紀の返答次第では、多くの人が地獄の犠牲者となってしまうから。
麻痺しかけていた頭を何とか叩き起こし、裕紀は思い付きの考えを放った。
「で、でも魔法使いには規約が掛かってるって柳田さんが言っていました」
確か、魔法使いとして目覚めてから最初の日。彩香に魔法の説明を受けたとき、異世界の記憶を復元させられた際に同時に蘇った記憶がある。
いや、裕紀は知らなかったので何者かに植え付けられたと言っても過言ではないあの規制が存在するのであるなら、魔法の存在を簡単には公にはできないはず。
しかし、その言葉を聞いた飛鳥とましろは二人して顔を歪めていた。
代表して言ったのは両手を顔の前で組み、厳しい表情をした飛鳥だった。
「魔法使いではない他者の目がある場所にて魔法の使用は固く禁ずる、か。確かにそんなものもあったが、あの規約も確実とは言えないだろう。それに、人払いを使ってしまえば肝心な他者の目を排除できるわけだからな」
「そんな・・・」
「それに、目撃した一般人から魔法に関する事柄を吐かせないようにする方法は幾らでもある」
飛鳥の言う通り、例え一般人に目撃されても公に広がる前に処理をすれば規約に掛かることはない。
そしてその手段は、少なくても三つは挙げられるだろう。口止めか、記憶の書き換え、そして抹殺だ。
最後の手段だけは絶対に使わせるわけにはいかないだろう。
「敵の提示した忠告はもはや当てにならんが、ここにいる限り君の身は安全だ。その間に我々も手を尽くす。だから君もやれる事はやって欲しい」
確かにここはアークエンジェルの本部という事もあり、それなりの敵の攻撃には対応できるのだろう。
ここならば、裕紀が魔法使いとして力を付けることもそう難しくはないのかもしれない。
でも、もしも間に合わなかったらこの八王子市の人々の命は保証されない。こうして匿われている間にも一人、また一人と犠牲になる魔法使いもいるかもしれない。
裕紀のクラスメイトが、エリーが、そして彩香を危険に晒すこととなってしまう。
自分のせいで大切な人々が傷付くことをイメージしてしまった裕紀は、奥歯を噛み締めて飛鳥の前に出た。
「俺、敵の元に行きます。俺が行けばこの街は助かるってことでしょう?」
そう言うことを予想していたかのように、飛鳥は口調を強く、眼光を鋭くして言う。
「確かにそうだ。だが、敵がまともではないことは君も知っているだろう。身を差し出したところで街を襲わない保証はないし、君は確実に殺される」
「だけど・・・」
「新田、君の提案は誰かを傷つけることしか起こらないぞ。君も本心ではそんなことを望んでいるわけではないだろう? それに、私は誰かの犠牲で何かを救おうとは思わない。例え、それがより大きな存在であってもな」
「でも、ここで何もしないわけにもッ」
なおも裕紀は食い下がろうと途中まで口を開きかけたが、その前に飛鳥から放たれる重圧に押し負け言葉を押し込んだ。
これ以上の発言は断固認めないということが伝わってくる。
そのことを理解した裕紀は俯き後ろに下がった。飛鳥は椅子から立ち上がりましろへ指示を出す。
「ましろ、新田を第一訓練室へ案内してくれ。今ごろ、昴が一人で暇しているはずだ」
「わかりました! では、失礼します!」
軽く頭を下げたましろに続き裕紀も頭を下げる。
アークエンジェルで飛鳥より高い権限を持っていない裕紀がどうこうできるはずもない。
それに、こうして戦える力を付けさせて貰っているのも、すべて飛鳥の計らいがあったからということも裕紀は忘れてはいなかった。
訓練室へ向かうましろの背中を追うために、飛鳥へ背中を向けた裕紀に後ろから声が掛かる。
「君は私にとって大切な教え子だ。私以外にも君の無事を案じて待っている人もいる。新田を想う多くの人のためにも、簡単に自分を犠牲にするようなことは二度と言わないでくれ」
「すみません」
さっきの言い合いとは違って優しい声音に、裕紀は一言そう返して部屋を去った。
作戦室を後にした裕紀は、ましろに案内されて訓練室へと向かった。
訓練室は左側に五つある扉のうち、作戦室から三番目の扉であるらしく、指紋認証を終えるとましろと一緒に部屋へ入る。
「こんなに広い空間・・・」
訓練室に足を踏み入れた裕紀の第一声はそんな言葉だった。部屋というより一つのスタジアムのような空間を何度も見回す裕紀にましろが簡潔な説明を話す。
「ここがアークエンジェルの第一訓練室。他の訓練室と違って設定でフィールドを構成できるから、様々な環境下での魔法戦闘訓練が可能なんだよ」
「すごい。地下にこんな施設を造り出すなんて」
「まあ、そこらへんはコミュニティ創設者が凄かったってことかな」
興奮した口調でそう言った裕紀に、ましろは自分のことのように照れながらそう返す。
実際、この空間はあまりに広い。
全体的な面積はおそらく一キロ以上、高さも室内戦闘は充分にこなせるほどに高く、身体を強化しても天上に手が届く自信はなかった。
こんな施設が他にもあると考えると、ここを造ったコミュニティ創設者が何者か気になって仕方ない。
目的から思考がそれ始めた裕紀の意識を、遠くから呼び掛けられる声が現実へ引き戻した。
「おー、来たか! 待ってたぞ、お前ら」
その声の方向へ視線を向けると、壁に背を預けながら片手を挙げる昴がいた。
身に着けているのはアークエンジェルの戦闘服らしい。
黒いロングコートの下には同色のアンダーシャツ。そして動きやすそうな同色のズボンを履いていた。
黒いグローブに包まれた手でこちらに手を振っている昴のもとへましろと一緒に歩くと、彼は腰に手をあてて笑いながら言った。
「聞いたぞ新田。飛鳥さんに自分の身を差し出すことを提案したそうだな」
「情報早いですね!? でも、そうでもしなきゃこの街を救うことはできないと思ったんです」
どこから情報を入手したのか、つい数分前に起こった出来事をさらっと言及した昴に深刻そうに裕紀は答えた。
その言葉を聞いた昴は笑みを維持したまま裕紀に言う。
「まあ、実際問題ここに留まっていても事態は何も変わらないしな。新田が強くなる保証もねぇし、敵に渡した方が現実的には良いのかもしれん」
そう言う昴の瞳は嘘を言っている人のそれではない。一つの提案として昴も裕紀の意見に賛同してくれているのだ。嬉しいかそうでないかは別問題だが。
しかし、続けて放たれた言葉はやはり飛鳥と同じ意見だった。
「だが、この状況において最良の打開策がそれだとは俺も思わない。結果的にはこの街を救えても、お前にとってはそれ以上のものが傷つき悲しむことになるんだからな」
そう言った昴は、壁から背中を離すと裕紀の肩へ手を置いて言った。
「大事なものを守れるくらいに強くなりたいんだろ? だったら今は魔法使いとしてまともに戦えるように訓練を積むしかない。残された期間は短いわけだし、俺とましろの二人でお前を指導するぜ」
「全力でサポートするよ!」
頼もしい二人の先輩魔法使いにそう言われ、裕紀もやる気になってきたが、ここにいるべきもう一人の魔法使いの存在を忘れてはいなかった。
「あの、玲奈さんはここにいないんですか?」
裕紀が魔法使いとなってから最初の師匠となってくれている月夜玲奈の姿が伺えなかったのだ。
当然、この訓練場にも顔を出していると思っていた裕紀は玲奈と幼馴染みであるらしい二人にそう尋ねる。
問われた二人は同様に顔を歪めると、昴がやりきれない声で説明した。
「すまないが、あいつはここには来れない。敵との戦闘で負傷してな。今は医務室で治療中なんだ」
五分ほど昴とましろの話を聞いた裕紀は、行き場のない怒りを抑える為に拳を握り締めた。
二人の説明によると、玲奈は敵の魔法使いと接触したときに強力な閃光魔法を受けたという。
魔法が直撃した玲奈の視力は長時間奪われ、治療で対処したあとも視力は完全には戻っていないらしい。
幸い視力は完全に戻るということだが、完全に回復するまで一週間は掛かるみたいだ。
玲奈を追い込む敵の手強さに尻込みしそうになるが、そんな気を起こさせないようにするためか昴が気持ちを切り替えさせた。
「大丈夫だ。俺たちが指導する限り玲奈には心配かけさせねぇし、お前の実力も伸ばせるとこまで伸ばしてみせるから頑張れよ!」
「はい。よろしくお願いします!!」
裕紀自身、いつまでも弱気でいるつもりもない。この際、昴の勢いに乗ることで自身の士気を上げることにした。
敷地面積約二キロ平方メートル、高さも二キロはありそうな正方形の構造をしている訓練場で、二名の魔法使いが向かい合って立っていた。
両者ともアークエンジェルが戦闘用に用いている黒衣の服を身に付けている。
突如、白で塗り潰された室内からいくつもの突起物が出現し、部屋の内装も無機質なコンクリートへと変化していく。
みるみるうちに、コンクリートに覆われた室内へと変化した訓練場で、向かい合った二人は腰から一つのデバイスを握る。
魔法が現実世界に現れてからしばらくして、魔法戦闘用に現実世界の魔法使いが魔晶石を応用して開発した魔法武器。
魔光剣のスイッチを押し込むと、群青と青白い刀身が同時に空間に煌めきを放った。
互いに異なる魔力の光を体に宿した二人の魔法使いは、双方がほとんど同時に地面を蹴った。
コンクリートで覆われた室内に青のスパークが連続して散った。




