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聖剣使いと契約魔女  作者: ふーみん
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異世界(1)

行間修正しました!

内容はほとんど変わっていませんが、改稿後のお話も是非、読んでみてください。

 西暦二〇六七年、十一月二十六日。金曜日。


 太陽はすでに西へと傾き、午後の眠気が授業を受ける生徒たちを誘う。

 もう少しで迎える放課後のことで頭がいっぱいになる生徒。部活の活動メニューについてあれこれ考え始める生徒。授業に集中する生徒。

 授業も聞かずに机に突っ伏したり、隣近所で会話を楽しんでいる生徒たちを背に、教師は黒板に文字を連ねる。

 一通り年表らしい表を黒板に書き連ねた一人の若い女性教師は、前を向くと生徒たちに語り掛けた。


「皆さんは資源争奪戦争という戦争を知っていますよね? 知らない人は教科書を見返してほしいのですが、最後にこの戦争について詳しく説明していきたいと思います」

 そう言っても、午後の暖かさに影響された大半の生徒たちは聞く耳を持とうとしない。

 時間割りの影響もあるせいか、ほとんどが午後の授業を担当している女性教師にはいつも通りの風景だ。

 しかし、今日の授業は来月に実施される期末テストの範囲でもある。

 そのため、聞いてもらわなければ教師としての存在意義が無くなってしまう恐れがあった。


 なので、多少強引だが集中が乱れている生徒たちをもとの世界に引っ張り上げることにした。

「えー、今からする話は期末試験の範囲になります。聞き逃しのある生徒はいないように、しっかり聞いてくださいね。……ちなみに、二度は話しませんよ?」

 女性教師の最後の一言で乱れていた集中が一斉に束になった。起きている生徒が寝ている生徒を起こし終えたことを確認すると、女性教師は資料書を片手に口を開く。

「今から四十二年前のことです。南極大陸の半分が、突如発生した謎の現象によって消失してしまいました。様々な学者さんたちが調査をしましたが、南極から失われた質量は見付かりませんでした。どこにもなくなってしまったんです。さて、おさらいも兼ねてこの現象をなんと言うでしょう?」

 微笑みながら教壇の近くに座っていた一人の男子生徒に目線を合わせる。

 少しチャラけた印象の男子生徒は目を合わせず答えようとしなかったが、女性教師の表情が段々と冷ややかになっていくことに気づくと、無駄な抵抗だと判断して席から立ち上がった。

「えっと、確か……」

 しっかり予習をしていないためか、男子生徒は口ごもるがとうとう答えられなくなってしまう。


 しばらくの間、教室をくすくすと生徒たちの笑い声が満たした。女性教師は笑い声が収まるまで待ち、徐々に収まると男子生徒を座らせ次の女子生徒を指名する。

 指名された女子生徒はやはり自信がないように声を小さくして発言した。

「えっと、空間浸食、ですか?」

「はい。正解です」

 女子生徒の発言は間違いではないので教師は躊躇いなく頷いた。回答が合っていて安心したのか、緊張した表情を緩めて生徒は席に着く。

 明るい声でそう言った教師は、年表の中間あたりに漫画で爆弾が爆発したときのような絵を何気に上手く描いた。


 空間浸食。

 またの名を原点崩壊。原点崩壊は専門家たちの間で呟かれる言葉であり、日常用語では空間浸食と言われている。

 それは、二十一世紀初頭から科学が格段に進歩している現在でも解明(かいめい)不可能な現象の一つであった。

 発生源は全面氷で覆われた極寒の地、南極大陸。

 突然発生した莫大な謎のエネルギーが物質を原子レベルにまで分解し、一四〇〇万キロ平方メートルという広大な氷の大陸を一瞬でその面積の半分以上を消滅させてしまった現象である。

 それにより、南極大陸にて採掘が続けられていた豊富な資源はほとんどの割合で消滅してしまった。


 そのため、石油や鉱石など工業資源の枯渇(こかつ)により南極の資源を頼りにしていた国際政府は深刻なダメージを受けてしまった。

 以上のことをさらっと話した女性教師は、話しながら違う色のチョークで年表に書き足していく。

「この現象が起きた日、二〇二五年一二月二十五日は《悲劇(トランジェリー)(クリスマス)》とも言われています。当時、南極の資源が唯一の望みだった国は少なくありません。そんなわけで、世界各地では足りなくなった資源を補うために、他国の資源を奪い合う戦争が始まってしまったんです。それが資源争奪戦争です。この戦争は五年ほど続き、いくつかの国際協定と国際機関を設立したことで終戦となりました」

 生徒たちの表情を伺うため、黒板へ書く手を休めて女性教師は教室全体を見回した。

 そして、教室の隅で机に突っ伏している男子生徒を発見すると、「またか……」と思いつつ若い美貌に眉間を寄せて怒鳴った。

「そこの生徒! いい加減に起きなさいっ!」

 口調は穏やかにしていても毎度の苛立ちは隠しきれていない。


 それでも起きない生徒を見て、まだ若い教師の頭の中でぶちっと何かが弾け飛んだ。黒板から用済みの小さなチョークを一つ掴み上げると、それを生徒に投げつける。

 教壇から隅まで結構距離があったが、関係なく投げ飛ばされたチョークは生徒の頭頂部には直撃せず、間一髪生徒が持ち上げたノートで防がれた。

 あっけなくノートに弾かれたチョークは、前の席に座る生徒が見事キャッチした。

 まるで教師の動作を見ていたかのようにノートを持ち上げた男子生徒は、次いでふらふらと頭を上げる。


 眠そうな表情の生徒に、女性教師は沸騰中の頭を何とか冷ましてから言う。

「新田裕紀くん。あなたがことあるごとに私の授業で昼寝する理由をじっくり聞きたいところですが、時間がないので、三秒でこの時に設立された国際機関とその代表国を答えなさい」

 言われると、新田裕紀という男子生徒は窓から入ってくる冷たい微風に黒髪を揺らしながら眠たそうに答えた。

「国際特務機関です。フランス、アメリカ、ロシア、日本が代表国です」

 時間を指定されても完全に無視をしてゆっくり答える新田裕紀の回答を女性教師は堪えて聞いた。

 全部答え終わると新田裕紀は勝手に着席した。時間は少し過ぎてしまっていたが、質問の回答にはなっているので女性教師は軽く頷いただけだった。


 しかし、そこで彼女におかしな悪戯心が芽生えてしまい、さっき答えた男子生徒に続けて質問を放った。

「しっかり話は聞いていたのね。じゃあ、その代表国に共通して存在する貴重な資源は一体なんでしょう?」

「えっ……」

 予期せぬ質問に戸惑いを見せる新田裕紀。

 悪女、と何処からか聞こえた気がするが女性教師は完全に無視をして微笑みながら回答を待った。

 不意を突かれた新田裕紀は、一瞬考えると何とか答えを言おうと口を開いた。


 しかし、男子生徒が何かを言う前に廊下側の隅で一人の女子生徒が静かに立ち上がった。柳田彩香という女子生徒だ。

 女子生徒は男子生徒とは対照的にはっきりとした声で言った。

「空間侵食の発生後に、その四ヶ国で採取された新資源のことです。また、その新資源は既存のエネルギーとは異なる、新しいエネルギーを生み出すことも判明されています」

 女性教師が出したこの問題は、まだこの教材では豆知識程度のものだったのだが、間違いなど見つけるのもばかばかしいほどこの女子生徒の解答は完璧だった。


 答えて欲しい生徒は違ったが、女性教師は求めていた回答を得られて満足そうに頷いた。

 そんな女子生徒を先程の男子生徒は鬱陶(うっとう)しそうに軽く睨みつけたが、彼女は気にすることなく席に座ったので、新田裕紀は睨むのを止めてやがて外を眺め始めた。


 この授業は世界史だが、その他にもこのクラスの担任を任されている女性教師は、一学期からこの二人の仲が良くないことを知っていた。

 だが、教師が生徒の問題の仲裁に入るのは喧嘩などといった暴力沙汰の問題が起こった時だと彼女は思っている。暴力以外にもいじめなどの陰湿な問題を防ぐことも教師としては重要な役割だが、教師としては新米な女性教師には難しかった。

 とにかく、仲良くさせようと無駄な介入をして今までより厄介なことが起こっては本末転倒この上ない。ならば、二人の関係を外から見守る事が一番良い方法に違いないと考えている。


 どうか年が明ける前にはあの仲をどうにかして欲しいのだが、それは本人たち次第だろう。

 そんなことを思っていると授業終了のチャイムが鳴ったので、女性教師は教卓にあった教材をまとめてから言った。

「それではこの時間の授業はこれで終了です。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした~」

 教室全体にそう告げて女性教師は疲れ気味に教室を後にした。

 生徒たちはあいさつを終えた後、女性教師の疲労などまるで気にした様子も見せずに次の授業の準備に取り掛かった。

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