12月24日
12月24日 プロローグ
12月24日、恋人たちが街で溢れるそんな日。僕は、この時計台の下で一日を過ごす。
「はぁぁ……」
息が白い。それもそうだろう。今は、午後の11時過ぎ。僕がここに来てから4時間近くが経過した。
あの日……三年前と同じように、僕は待ち続ける。それが、僕なりの流儀。人にはどう見えてるかはわからないけど。きっと、過去に縛られたままで、新しい一歩を踏み出せていない情けない男だとおもわれているのだろう。
だけど、それで構わない。誰かに情けないだとか、かわいそうだとか、未練たらしいとか……同情されても構わない。
「あっ」
時計台の鐘が、重々しい音をたてる。
もう、12時か。
「あと、10分だけ……」
日付が変わったにも関わらず、僕は未練たらしく足を動かそうとはしなかった。去年も一昨年も、結局ここを離れたのは朝方になってからだった。あの日は諦めて帰ることが出来たけど、色々な事情を知ってしまった現在では……無理だ。
今では、こんな馬鹿な行為を積極的に止めようとする人はいなくなった。おそらく、本人次第だと考えているのだろう。でも、止められるはずが無い。だって、まだあきらめきれてないから。
コートのポケットにある今年のプレゼントを握りしめる。
「今年も、無駄になってしまうんだなぁ」
今年は奮発をした。なにせ、わざわざ店員さんと話しながらこのプレゼントを選んだくらい気合が入っていた。
「選んでる時は楽しかったなぁ」
でも、それをもらってくれる者がいない悔しさに、悲しさに。やり切れない思いが募る。
どうしてこの思いが届かないんだろうか。あと少し、ほんのあと少し歯車が違っていれば。
イブの前に僕が想いを伝えていたら。
「はぁぁ……」
でもそれは、所詮意味のない妄想、空想だ。
さすがに三年も経てば、涙も出ないようになっていた。みんながどう捉えているかは分からないが、僕は悲しいわけではない。あきらめられないだけ、現実を受け止めた上でのことだ。
「…………っ」
でも少しくじけそうになる。こんな意味のないことして何になる。誰の得にもならないことだ。
「だから」
みんなは僕を可愛そうな目でみるのか。
「っ」
足跡が後ろから聞こえた。
まさか!!
夢でもいい、空想でも、妄想でもっ!!
もう一度僕の前に姿を……お願いだから!!!
「お兄ちゃん! 暖かい飲み物持ってきたよぉ!」
「……お前、か」
そこにいたのは、あいつに全く似つかわしくは無い、僕の妹だった。
たしか、今日は友達の家でクリスマスパーティーをするだとか言っていたんだけどなぁ。なんだかなぁ。
「お前か、ってなによぉ! はいっ」
僕はポケットから手を出して、空中に放りだされた缶をキャッチする。いつもなら、温かい飲み物とかいって、冷たい飲み物を差し出すような妹だが、さすがに温かい飲み物だった。
「サンキュ、あったかいなぁ」
「でしょ!」
「あぁ」
そうして、僕の隣に来てベンチに腰をかけた。
「…………」
「…………」
無言でコーヒーを口に運ぶ。全てを知っている妹が、何をしにここに来たかは僕にとっては想像できないが、悪い気はしない。
「なんだかなぁ……」
「なにぃ?」
「なんだか――」
安心する。そう言おうとした時だった。
「あっ……」
「雪……」
空から、真っ白な雪が降ってきた。そういえば、あの日も雪が……。
「帰るか」
「えっ……? もういいの? あたし、邪魔だったら」
「そんなんじゃない」
「ほんとに?」
「あぁ、風邪引かないうちに帰ろう」
「うんっ」
そう言って僕の手を握ってきた。離してやろうかと思ったが、今の僕にそんなことをできる気力がないどころか、人恋しくて、妹の気遣いが嬉しかった。
「あのね、家にケーキあるよっ」
「ほんとか? でも、俺はチーズケーキしか食べないぞ」
「わかってるよぉ、ちゃんと用意してます。えへへっ」
今年、僕はいつもよりも早く切り上げた。妹と雪の二つに責任を擦り付けて。
「偉いな、そんな妹にはクリスマスプレゼントをやろう」
「えっ、いいのぉ!!」
「あぁ」
来年は違う年を送れるのかもしれない、もしかしたら。