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余命半年  作者: leon
8/9

部屋にいるのは?

最初は亜美視点。最後に美嘉です。


大切な家族が、従妹が病気になった。



「いってきます。」



そう言って彼女は家を出た。

私たちが贈ったお守りを手首につけて。

あの時の少し困ったような、苦笑いのような表情が鮮明に残っていた。




「ねぇ、姉さん。」


「なに?」


「美嘉姉さんってどんな病気にかかったのかな?」


「さぁ・・・そういえば母さん達からも何も聞いてないね。」



美嘉を送り出してから私たちはいつも通り学校に行くために家を出た。

汽車に乗って3駅先に学校に一番近い駅がある。

そこから憂輝と一緒に学校目指して歩いている時だった。



「一体どんな病気にかかったんだろ・・・。」


「治る病気だったらいいんだけど。」


「でも現代の医学で治せない病気なんて、どっかの外国の奇病くらいでしょ。だからきっと大丈夫よ。」


「うん・・・。」



そんな話をしながら2人並んで歩いてゆく。

いつもより道幅が広いと感じるのはきっと美嘉が今ここにいないせいだ。

そこから学校まで私たちは一言も喋らなかった。





「ねね、美嘉どうしたの?」


「泉先生から入院したって聞いたんだけど!大丈夫なの?」



朝のSHRが終わった後の10分休み。

授業の準備をしていた私の席には隣のクラスの東さんと富浦さんが心配と不安が入り交じった表情で立っていた。

2人は隣の人文コースのクラスの子達で、美嘉が入院したということを聞いて私に状況を聞きに来たみたいだ。

聞くところ、美嘉の突然の入院にクラスのみんなが激しく動揺しているそうだ。



(ほんっとにすざまじい人気っぷりよね・・・)



2人には詳しいことはまだよく分からないけど、少なくともまだ元気そうだったということを伝えながら頭の隅でぼんやりと考える。

美嘉はたくさんの人から好意を受けている。

よく美嘉のクラスを通る時にチラリと中を覗くと、いつもクラスの女子に囲まれている美嘉の姿がある。

いま目の前にいる東さんと富浦さんも、美嘉のことが大好きな女子達の2人だ。

特に顕著なのは東さん。

よく美嘉にギュッと抱きついているのを見かける。

美嘉の方が東さんより頭1つ大きいから、東さんはいつも首にギュッと腕をまわして、美嘉は困ったような顔をしながらも優しく腕をまわしてポンポンと背中を叩くのだ。

本当にほほえましい光景である。

ただ東さんは美嘉の方からギュッとしてほしいらしい。なぜだかは知らないけど。



「しばらく美嘉をギュッってできないのかぁー。仕方ないからトミーで我慢したげるよ。」


「ちょ、その言い方はひどくない?てかそろそろチャイム鳴っちゃうから戻ろ戻ろ。」



「亜美ちゃんありがとう。また美嘉によろしく言っといてね。」と言いながら富浦さんは抱きついている東さんを引きずりながら戻っていった。

そして丁度タイミングよく鳴る甲高いチャイムの音。

つまらない授業の始まりだった。



美嘉が入院して1週間がたった。

その放課後。帰りのSHRが終わるなり私は一目散に駅に向かって駆け出す。

次の汽車が出るまで後10分。走れば十分に間に合う。

今日は帰りに美嘉の所にお見舞いに行く約束をした。

美嘉から「ついでに何かお菓子でも買ってきて。」と言われたので駅を降りた後、病院に行く前にスーパーに寄るのも忘れない。

残念ながら憂輝は部活が忙しくて今日はいない。


あっという間に時は流れて病院の前。


受付の人に美嘉の名前を言って病室の場所を教えて貰う。

階は15階建ての13階。

エレベーターを使ってスイスイ登り、ドアが開く。

すごくシーンとしていた。びっくりするほどに人気がなかった。

他の病人はこの階にいないのだろうか・・・。

そう思ってキョロキョロしながら歩いていると前をよく見ていなかったからか、誰かにポスンとぶつかった。



「なーにキョロキョロしてんの。」


「え?」



久しぶりに聞いた、それでも耳によく馴染んでいた声が届く。

目の前にはジャージ姿の美嘉が立っていた。

ジャージのダボダボ感で少し分かりづらいがこの一週間でちょっと痩せたんではないだろうか。

そういう風に美嘉を凝視していると「とりあえず部屋まで行こう。」と言って歩き出したので慌てて美嘉についていった。


美嘉の病室は、本当に病室かと思うくらい綺麗で広かった。

どっちかというとホテルの部屋に近い感じだ。

なぜかテレビは付けっぱなしである。美嘉はテレビなんて見ない子だったと思うけど。



「部屋広いんだねー。」


「店長と同じ事言ってるよ。今日は弟君は?」


「部活で抜けられないんだって。また今度2人でお見舞いに来るよ。」


「そっか。ありがとう。」


「あ、そうそうお菓子!美嘉の好きなやついっぱい買ってきたよ!」



そう言いながら手に持っていたビニール袋をがさがさと漁る。

美嘉は甘い物が好きだからチョコレート系のお菓子をたくさん買ってきた。

美嘉はそれを嬉しそうに「ありがとう。」と言いながら受け取る。



「病院食がおいしくないからさ。甘い物が食べたかったんだよね。」


「そんなにおいしくないの?」


「うん。味がね、薄いんだよ。」


「そうなんだー。」



チョコレートを口に含みながら美嘉はそう言った。

確かに味の濃い食べ物を好む美嘉からしたら嫌にでもなるだろう。

それからはこの前の学校のことの話をした。

東さんと富浦さんがすごく心配してたって話をすると



「あー、2人からメール来たよ。東さんからは電話もかかってきたし。」


「美嘉のことギューッってできないって寂しそうだったよ。」


「あはは。今頃は富浦さんにでも抱きついてるんじゃないかな。」



ご名答。正にその通りだ。

そんな風に2人で話をしていると、ずっと流れていたテレビがいきなり


ピッ


と音を出した。

はっと振り返ってみるとチャンネルが変わっていた。

もしかして、この部屋って



「美嘉、こ、この部屋って、お化けとか、で、でる?」


「お化けは見たこと無いよ。お化けは。」



そう言ってニコっと笑う。

もう一度部屋をグルリと見渡してみる。私たち以外は誰もいない。

ちょっと怖かったけど、病院の出口まで美嘉が送ってくれた。

まだ宿題を済ませていないから早く帰ろう。そうしよう。







「ちょっと、なにやってんの・・・。」


「す、すまん。つい。」



亜美を病院の入り口まで送ったあと。

部屋に帰ってから私は目の前の死神に「はぁー。」とため息をついた。

なぜか、


亜美と私が話している最中にヴァルがうっかりテレビのチャンネルを変えてしまったのだ。


ヴァルが見えない(はず)の亜美はそれからずっと部屋をキョロキョロしながら落ち着きがなかった。

お化けでもいるんじゃないかと思ったらしい。

まぁ、いるのはお化けじゃなくてテレビ大好きの死神様だけどね。



「次からは気をつけてね。」


「承知。」



なんとも素直な死神だこと。




美嘉が部屋に居るときは大体テレビを見ている死神様。


美嘉ちゃんは表情に変化があまり無いから、冷たく見られがちだけど、根っこの部分は優しさいっぱいなので自然と人が寄ってくるんです。

人を惹きつけるのもこれまた天性なのかな?



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