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余命半年  作者: leon
7/9

CAT



「はぁー・・・」



病院の広い食堂の中で1つ、ため息。

早くも病院の生活にはだいぶ慣れ、気持ちも落ち着いてはきた。

けれども・・・



「んー・・・美味しくない・・・」



病院食は相変わらず美味しくない。

別に私は食べ物の好き嫌いはない。お肉も野菜も食べられる。

だけども病院食というのは・・・そう、味があまりにも薄いから美味しいと言えないのだ。

お皿の上に残っていたミニトマトをお箸でコロコロと転がす。



「うーん・・・もう無理。」



食事が残っているトレイを返却台の所まで持って行った。




良い感じに日が照っているお昼時。

いつものように病院の図書館で借りてきた本をベッドの上で読んでいると携帯が鳴った。

携帯を取って画面を開くとメールが一件受信されていて、差出人には「店長」と文字が。



「お主はバイトでもやっていたのか?」


「うん。近所の駅前の猫カフェでね。」


「猫カフェ・・・。」


「店の中にはたくさんの猫がいてね。その猫たちと一緒にお茶をする喫茶店のことだよ。」


「ほう・・・。」



初めて知ったのかヴァルは頷きながら私の話を聞いている。

そういえば病気になってからは、しばらくバイトを休みにしてもらうように叔母さんが勝手に連絡したんだった。

もう半年の命だから普通に辞めればいいんだけど、叔母さんはそんな事実を知らないから無理はない。

メールの内容は「今日の3時頃にオーナーと一緒に見舞いに行くから待ってろー。」というものであった。

時計を見るともう2時は過ぎている。てことはもう来るのか。



「分かりました。ありがとうございます・・・っと。」


「じゃあ我は少し外に出ておる。」


「別に気にしないよ?居てもいいけど。」


「・・・。」



ヴァルは何も言わない。そしてそのまま開いている窓からスーッと外に飛んでいってしまった。

死神ながらもちょっとナイーブな所でもあるのだろうか。

そうやってヴァルが居ないときに勘ぐってはみるけど、分からない。

私たちは患者と死神なんてとんでもなく最悪な関係だけど、もう少し仲良くなれたらなーなんて思っちゃったり。



コンコン



病室のドアから堅めの木の音が部屋に響く。

呼んでいた本にしおりを挟んで外に「どうぞー。」と声をかける。

部屋に背の高い若い男性が2人入ってくる。


稲葉隆二いなばりゅうじさんと来栖彰くるすあきらさん。


稲葉さんが店長で、来栖さんがオーナー。

店長は入ってくるなりベッドの近くにあるソファーにドカリと座って膝を組む。

来栖さんは立ったまま。



「この部屋ずいぶんと広いな。こんなソファーもあるしスウィートルームか何かか?」


「いや、その辺りは分かりませんけど。」



店長はソファーの座り心地が癖にでもなったのか何度も何度も座り直している。

来栖さんが「稲葉。失礼だぞ。」と咎めた。

そのまま私に向き直る。



「病気の方は?大丈夫なのか?」


「今はまだ。それより忙しい時期にお店空けちゃってすいません・・・。」


「気にするな。お前が急に来なくなって何匹か落ち着かない子もいたが何とかなってる。」


「そうですか・・・。たまには顔出しした方がいいのかな・・・。」


「まぁ、もしできそうなら来てくれるとありがたいが。無理だけはするな。」



そう言ってくれる来栖さん。見た目は少し怖い感じだけど意外と情に厚いいい人である。

一方で店長の稲葉さんはとても気さくな人で、人懐っこく明るい性格の人。

よくお仕事をサボって猫と戯れたりしては来栖さんに怒られるのは日常茶飯事。

猫と戯れるのも立派な仕事の1つではあるがそれは元々私が割り当てられていた仕事のため、首根っこ捕まれてズルズル引きずられていく姿は見慣れた光景である。



「猫たちの世話は俺たちが交代でやってるから心配いらないぜ。」



そう言って自分で持ってきたのか水色の猫じゃらしをフリフリと揺るがす店長。

そして「病院の人達に【CAT】の宣伝でもしといてくれ。」と。

CATというのはもちろんお店の名前。

たくさんの人がこのCATをそのまま猫のcatと捕らえているが正確には【cat and tea】が正式名称。

頭文字を取ってCATという何とも上手いこといった店の名前である。

地元に猫カフェはここしかないから若い女性とかに人気。

アルバイトの志望も季節問わずたくさん来るが正直言って


受かる確率は0に等しい。


なぜかというと人員が足りてることもあるが、なにより猫が新しい人が入ってきたときに慣れるまで時間がかかるからだ。

そんな中、私が受かった理由は「アロマが好きで、簡単なものなら作れるから。」

店内はいつも私が作ったアロマで良い感じに自然に香るように炊いている。

その結果、お客の足取りがまぁまぁ良くなったのでそのままずっと猫のお世話兼アロマ担当ということで働いていた。

受かった頃は同級生によく「羨ましい。」と言われていたのを思い出す。

中には嫉妬まがいのオーラを放っている人もいたので良い思い出ではない。



「じゃあ、俺たちはそろそろ帰るよ。」


「はい、わざわざありがとうございました。」


「これ置いてってやるよ。次は何か美味いモンでも持ってくるぜー。」


「は、はぁ・・・。」



そう言って私の手に猫じゃらしを持たせて来栖さんの後に続いて病室から消える店長。

次来るときはぜひ、来栖さんお手製のワッフルを持ってきて欲しいものだ。


手元の携帯で時刻を確認する。

3時45分。



「丁度学校が終わる時間かー。」



病院から見える汽車の通る線路に目を向けた。




美嘉ちゃんの時給は800円です。


猫カフェ・・・死ぬまでに一度は行ってみたいです。

猫ちゃん可愛いよ猫ちゃん。



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