死への階段
翌日。
朝、部屋にまだ残っているアロマの香りで目が覚めた。
そばの小さなテーブルに小振りのアロマキャンドルが1つ。
よく冷めきっていると言われている私にも趣味の1つや2つくらいあります。
まず1つは楽器の演奏。
中学の時は吹奏楽部に入っていた。
そこの吹奏楽部がまた鬼畜で月に3回休みがあれば良い方だというハードな部で。
調子が悪くて練習を休んだら先輩から家や携帯に鬼コール。
サボりなんてしたらもう死刑になるんじゃないかってくらいピリピリした部活だった。
そんな所で卒部までの2年と半年みっちり叩き込まれたおかげか楽譜はもちろん読めるようになったし、絶対音感もついた。
担当はクラリネット。なぜかというとサックスの抽選に外れて余っているところがクラリネットしかなかったから。
もう1つはアロマを作ること。でも簡単なヤツに限る。
この前、試しにほんのりと香る柑橘系のアロマを作った。
丁度作ってる最中に弟君が部屋に入ってきて「この香り好きだなー。」と言っていたのであげてしまったけど。
ちなみに作るときの心得は『あくまでも自然体でほんのりと』
何せ私自身がにおいのキツイ香水とかが大嫌いなので。
高校に入ってから香水つけまくる男子が増えたけど良いにおいだと思ってるのだろうか。
むしろクサイ。
時計を見ると6時過ぎを差していた。
病院に行っておかなければならない時間は8時。
昨日のうちに荷物はちゃんと整理・用意していたから時間的にはかなり余裕がある。
二度寝してもいいけど完全に目が覚めてしまっていた。
「ちょっくら散歩でもしてこようか。」
ジャージで外を歩くのは恥ずかしいのでクローゼットから服を取り出していそいそと着替える。
たまに外で若い人がジャージ姿でうろついているのを見かけるけどあの人達は恥ずかしくないのだろうか。
むしろ今ではジャージもオシャレの1つに入るのか。
それでもダボダボのジャージで外を歩き回るのは・・・うん。
まだ他のみんなは寝ているだろうから出来るだけ音を立てずに廊下を歩き、階段をゆっくり下りていく。
玄関で靴ひもをくくり直しながらどこのルートを歩こうか考える。
「・・・美嘉?なにやってんの?」
いきなり声を掛けられて振り向くとジャージ姿の亜美が眠たそうに階段からこちらを見下ろしていた。
「ちょっと散歩でもしようかと思って。」
「・・・・・・私も、一緒に行く・・・。」
なぜかちょっと拗ねたように答えると亜美はそのまま階段を下りて玄関で靴を履き始めた。
ちなみに亜美は私と違って近所に出かける時はジャージ姿でもかまわず出かける。
まだ寝ぼけているのか目は半分ほど開いておらず、そのまま玄関で二度寝してしまいそうなほどだ。
「やっぱりまだ寝てたら?無理しなくていいよ。」
元々亜美は朝に強い方でもなく、むしろ弱い方だと言ってもいい。
いつもはあと1時間後くらいに起きているから今は相当辛いはずだ。
でも亜美は嫌々と首を振りながら靴を履く作業を進める。
これは言っても聞いてくれそうにない。私は亜美を止めないことにした。
玄関を開けて外に一歩踏み出すと、一気に周りの空気が冷たくなった。
夏もすぎてだんだん涼しくなってきたがまだ昼間は暑い。
朝特有の静けさと澄んだ空気。これが私は大好きだ。
2人並んで歩きながら近所の公園を目指す。
土手を登ったところにある小さな公園で、小さい頃はよく遊びに行った思い出深い場所だ。
「ふああぁぁぁぁ~涼し~。まるでクーラーきかせた部屋みたい。」
冷たい空気の中にいてだんだん目が覚めてきたのか亜美が体を伸ばしながら気持ちよさそうに呟く。
土手を登りきるとタイミングがよかったのかキレイなお日様を見ることが出来た。
「おぉー!すっごいキレイ!!ね、美嘉!」
「そうだね。」
これには亜美も感動したようだ。
今日のことを機会に亜美はもっと早起きをするようになるだろうか。
公園につくと亜美は真っ先にブランコに向かって走り出した。
それが小さい子供と全く変わらなくて思わずくすりと笑みをこぼしてしまった。
私は普通に歩きながらブランコの前にある1mもない低いてすりに腰をかける。
そして楽しそうにブランコを漕いでいる亜美を見ていた。
「ねぇ、美嘉。」
ふと急に足を地面につけて亜美がブランコを漕ぐのを止めた。
ザザザザッ!と靴が地面をこする音が静かな朝の空気に響き渡る。
1回、2回とだんだんブランコが減速してやがてピタリと止まった。
亜美は地面に目を落としてジッとしている。
何分たっただろうか。亜美がやっと口を開いた。
「絶対に、病気・・・治してね。」
私にとってこれほど酷な言葉も早々ないだろう。
それでも「うん。」としか言える返事は無かった。
その後はまた2人で並んで家まで帰ってきた。手をつないで。
亜美や弟くんは普通に学校があるから朝食をとった後は慌ただしげに各部屋に戻っていった。
私も自分の部屋に戻って着替えなどがたくさん入っている鞄を取りに行った。この部屋ともお別れだ。
時刻は7時30分。もうそろそろ家を出ないと。
「美嘉ちゃん。準備は大丈夫?」
「はい。もういつでも出発できます。」
部屋のドアから叔母さんが顔を覗かせて尋ねる。
病院までは叔母さんに送っていってもらう。叔母さんだって仕事があるのに申し訳ないことをした。
荷物を持って玄関に降りていくと亜美と弟君が見送りにいた。
亜美の手には見覚えのある小さな可愛らしい袋。
「これ、私と憂輝から。美嘉に。」
そう言って私に紙袋を渡す亜美。
中を開いて見るときれいなブレスレットが入っていた。
「これって、あの時弟君が買ってたヤツ?」
「あぁ、亜美姉さんに言われて2人で割り勘で買ったんだ。」
「私は実際に買いに行けなかったけどね。」
亜美が舌を出して苦笑いすると「ホントにもう。」と言いながら弟君が肘で亜美を押す。
この姉弟は本当に仲が良い。美男美女の姉弟なんておいしいんでしょう。
「病気が治りますようにってたくさん祈りをこめたから。」
「きっとそれが美嘉姉さんを守ってくれるよ。」
このブレスレットはお守り。そう2人は言った。
私は複雑な気持ちでそのブレスレットを着ける。私の白い肌にブレスレットはよく映えた。
荷物を持って立ち上がる。キラリとブレスレットがきらめいた。
「行ってきます。」
試しに挿絵を入れてみた。アナログorz
ペンタブ欲しいなぁ・・・
木曜日から3泊4日の修学旅行に行ってきました。
行き先は北海道。飛行機怖かったです。
中々充実した旅行でした。
でも札幌でこの極寒・強風の中丸一日ずっと外で研修しなさいって言う先生は鬼畜だと思います。
私は途中で体調壊してホテルで休んでましたがwww