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余命半年  作者: leon
3/9

ネジ巻きを失った少女


「ただいま。」



ここで暮らし始めてもう5年という長い月日が経つ。

これだけ経っても今だに叔父さんや叔母さんには敬語で話す癖が抜けない。

向こうは「もっと気軽に敬語なんて使わなくていいよ。」と言ってはくれるが、仮にも私はこの家の子供ではない。

お世話になっているのだからせめてもの敬意と、自分があくまでも部外者であることはきちっと理解しておかなければいけないと昔から思っていた。

リビングに入ると小さなテーブルを囲むように置かれた3つのソファーに柏木一家がそろっていた。


大黒柱である父『柏木彰彦かしわぎあきひこ

母『柏木真澄美かしわぎますみ

長女『柏木亜美かしわぎあみ

その弟『柏木憂輝かしわぎゆうき


2人がけのソファーに座っていた亜美に視線で促されてその隣に座る。

最近亜美はまた身長が高くなったみたいで、1㎝くらい抜かれた。

今言うことではないと思うが、すごく悔しいことこの上ない。



「美嘉ちゃん・・・先生から話は聞いたよ。明日から入院することになるって・・・。」



叔父さんが重苦しく口を開く。

顔はこれでもかってほどに歪んでいて見ているこっちの顔も歪んでしまいそうだ。

私は努めて冷静に「はい。」とだけ返事をする。よし、声は震えていない。



「その病気は・・・治るのよね・・・?」


「・・・・・・・・・!」



次に発した叔母さんの言葉に少しだけ息を呑んだ。

神代先生は私がほぼ助かる見込みがないことを、あと半年も生きられないことを柏木一家に話さなかったんだ。

この家に帰ってくる道中、もし死ぬことまで伝えられていたらどう答えればいいのだろうと考えていた。

結局答えなんて浮かんではこなかったけど。

正直に言うと少しホッとした。絶対に死ぬことだけは知られたくない。



「まだ分かりません。入院してからちゃんとした検査を受けるので。」



分かっている。

ネジ巻きを失ってしまった私のネジはいずれ切れてしまう。

ゆっくりと、半年という時間をかけて、ゆっくりと。



「そう・・・。」



それだけ言って叔母さんは口を閉ざしてしまった。

目にはうっすらと涙。



「直るに決まってるだろ!!美嘉姉さんならすぐ直る!!」



すぐ脇で弟君が大きな声で言った。声が少しだけ震えていたような気がする。

私がこの家に来たときからずっと仲良くしてくれてた弟君。

初めてこの家に来たときから『美嘉姉さん』と呼んで慕ってくれていた。

一人っ子だった私には『美嘉姉さん』と呼ばれることがちょっと嬉しくてくすぐったくて。

「だよな?」と言って私を見つめてくる彼の視線は真っ直ぐでキレイな色をしていた。

けれど瞳の奥は不安定に揺らんでいる。

「そうだと言ってくれよ。」と賢明に訴えかけている。

でも私は弟君の問いかけに答えられる言葉を持っていない。

解答用紙まで無くしてしまったか。埋め合わせの愛想笑いしかできなかった。

もちろん○なんて付くわけない。

それからも明日からのことについて20分くらいみんなで話をした。

亜美は一言も喋らなかった。



その後は明日の準備に必要な物の買い出しに叔母さんと弟君と一緒に出かけた。

叔母さんに「何か欲しい物はない?」と聞かれたのでアロマキャンドルを買ってもらった。

前々から欲しかったキャンドルだ。

新しい着替えとか買う物も買った後はちょっと店の中をブラブラ。

するとアクセサリー店で見覚えのある後ろ姿を発見。



「弟くーん。何してんの?」


「うわっ!美嘉姉さん。なんでここに!?」


「別に。弟君が見えたから。」



そう言って弟君の手元を見るとアクセサリーでも買ったのか小さな可愛らしい袋があった。

そもそも弟君がこの買い物に付いてきたのは、何か買いたい物があったかららしい。



「なに買ったの?」


「何だっていいだろ。美嘉姉さんこそ手に持ってる袋はなんなの?」


「んー?アロマキャンドル。叔母さんが買ってくれた。」



相手が答えてくれなかったから自分だって答えないなんてことはしない。

袋から黄色のアロマキャンドルを取り出して見せると「ホントにこういうの好きだね。」と弟君は肩をすくめた。

一度店内をぐるりと見渡してから弟君が口を開いた。



「他に欲しい物とかない?買ってあげるけど。」


「うーん。アロマキャンドルGETしたから別にいい。」


「相変わらず欲があんまり無いよね。美嘉姉さんは。」



苦笑いとでもいう表情で弟君が言う。

私が『生きる』ことについての欲もあんまり無いと言えばどんな顔をしてしまうのだろう。

きっと悲しい顔をして・・・思いっきり怒られそうだ。


~♪


携帯が音楽を奏でながら鞄の中で震えた。

取り出すとメールが来ていて叔母さんからだった。



「もう帰るから駐車場に来なさいだって。」


「おっ、俺の所にも来たよ。じゃあ帰ろうか。」



私たちは駆け足に駐車場へ向かう。

体の調子があまり良くないのもあってか、駆け足でもかなり堪える。

元々体力は少ない方だったし・・・真面目に体力が欲しい。

途中で私が遅れているのに気づいた弟君が速度をゆるめてくれた。


ちょこっとキャラ紹介


佐藤美嘉さとうみか

現在高校2年生。コースは人文。選択科目は音楽と生物。

非常に現実的。基本無表情だが非常に優しい性格。

近所の小さな猫カフェでアルバイトをしている。



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