覗かれた!(4/29編集)
その時、御山孫四郎少年は自室にくつろいでいた。部屋の相方は、今入浴中なので不在である。
夜なので窓の外は当然暗いが、何も見えない暗闇では無い。今夜は半月が出ている。
(十一時五十九分……もうこんな時間かあ……そろそろ寝る準備をしないと)
本を閉じて視線を上げれば、ふと、窓の辺りが目に入る。
その次の瞬間、孫四郎はのけぞるほど仰天した。
窓の外から、人が覗いていたのだ。
先に言っておくが二等生(中等部二年生)の居住ベースは四階にある。それでも十二分の驚きものだが、彼が仰天した原因はそれではない。
――ひどく、背の高い少女だった。人間では有り得ないほど異常に背が高く、細い少女が窓の外にいて、窓の枠に枯れ木のような腕を組んで、首をかたむけてこちらを覗き込んでいるのだ。
ただジッと室内を見ているだけなのだが、充血しきった丸い瞳は何の感情も映しておらず、ガイコツのような顔を黒い髪の筋がところどころ遮っているだけでも、ひどく不気味である。
「うわぁあっ!」
明らかに人外生物としか考えられぬそれに、孫四郎はたまらず悲鳴を上げた。
尻と手だけを動かして近くの壁へと背をくっつける。恐怖のあまり彼の膝は笑いくずれ、歯もかちかちと鳴っていた。
孫四郎は茫然自失気絶一歩手前であったにも関わらず、少女は覗きに飽きたのか、ふと組んでいた腕を解き、万歳しているような格好で窓から顔を消した。ひどくゆっくりした動きで。
……少女の姿が完全に見えなくなって数分後。
ようやく正気を取り戻した孫四郎はそろそろと手足と動かして窓を閉じ鍵をかけた。大きなため息をついてから、脱力して床に座り込んだ。
驚きのメーターが振り切ってしまったらしい彼は、友人が帰ってきたことさえなかなか気付けなかったそうな。