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第十七巻:霊異の土地と変ずる人の心

挿絵(By みてみん)

『月下旅人妖変之図』

「信頼していた日常や安堵が、突如として不可解な恐怖へと反転する」という人間の根源的な不安

道連れとなった心強い旅人が、実は先ほど遭遇したばかりの怪物そのものであったと明かされる、あの戦慄の瞬間


【しおの】

妹の霊と偽りの死

陳国に、張漢直という男がいた。彼は学問を志し、故郷を離れて南陽へ赴き、高名な学者である延叔堅のもとで『春秋左氏伝』の教えを受けていた。

彼が旅立って数ヶ月が過ぎた頃、故郷の家で不思議な出来事が起こった。何処からか来た魔のものが妹に憑依し、その唇を借りて、か細い声で語り始めたのである。

「私は旅の途中で病にかかり、とうにこの世を去りました。亡骸は道端に打ち捨てられ、来る日も来る日も飢えと寒さに苛まれております。家の裏手にある楮の木に、『貸すべからず』と記された米の計量器が掛かっているはずです。また、子の方という者に預けた五百銭が、北の土塀の下に埋めてあります。どうか、それらを私のためにお持ちください。それから、李幼から牛を買った際の証文が、文箱の中に収められているはずです」

家族が半信半疑のまま言われた場所を探してみると、驚いたことに、すべてその言葉通りであった。

特に、漢直の妻は、嫁いできたばかりで亡き妹とは面識がなく、その存在すら知らなかった。あまりのことに家族は深く悲しみ、魔のものの言葉をすっかり真実だと信じ込んでしまった。

やがて父母や弟たちは喪服に身を包み、妹の亡骸を迎えようと里へと向かった。家から数里ほど進んだところで、彼らは信じがたい光景を目にする。十数人の書生を伴い、こちらへ向かってくる張漢直の姿があったのだ。

漢直は喪服姿の家族を見て訝しんだが、逆に家族は、彼の姿を妹の霊を騙る鬼だと恐れおののいた。

しばし互いに言葉を失い、呆然と立ち尽くしていたが、やがて漢直が歩み寄り、父の前にひざまずいて深く拝礼し、これまでのいきさつを語った。家族の胸には、悲しみと安堵が入り混じった複雑な思いが込み上げた。

このような怪異は一度や二度ではなかったという。人々は、これらすべてが人の心を惑わす妖物の仕業であったことを、後に知るのであった。


志ある者の偽装と栄誉

漢の時代、陳留の外黄に、范丹という男がいた。字を史雲という。若くして県の役人となった彼は、ある時、上役の使いとして督郵のもとへ赴くことになった。

范丹はかねてより志が高く、使い走りのような低い身分に甘んじている己を恥じていた。そこで彼は一計を案じ、陳留の大沼沢地で乗っていた馬を殺し、官帽を脱ぎ捨てると、あたかも賊に襲われたかのように装ったのである。

するとその夜、神なるものが彼の家に降り立ち、こう告げた。「私は史雲である。無念にも賊の手に掛かり命を落とした。我が衣を、陳留の大沢より見つけ出してほしい」家族が言われた通り探しに行くと、そこには官帽が一つ、寂しく落ちているだけであった。

一方、死んだことになっていた范丹は、そのまま南郡へと向かい、さらに都に近い三輔の地へと渡り歩いた。そこで優れた賢人たちに師事し、学問の道を逍遥すること十三年、ついに故郷へと帰還した。しかし、あまりに風貌が変わっていたためか、家族でさえ彼が本人であるとは気づかなかった。

陳留の人々は、彼の気高い志とその生き様を深く敬い、彼が亡くなると、「貞節先生」という尊い称号を贈り、その徳を讃えたという。


妻の夢と金の簪

呉の国に、費季という人がいた。彼は長い間、故郷を離れて楚の地に滞在していた。当時は道中に盗賊がはびこっており、家に残された妻は、道中の夫の身を案じ、心休まる日がなかった。

ある夜、費季は旅の仲間たちと廬山の麓で宿を取っていた。皆で故郷を出てからどれほどの日が経ったか、互いに身の上を語り合っていた時のことだ。費季がぽつりと話し始めた。

「私が家を出て、もう数年になる。旅立つ朝、妻に別れを告げる際、旅の資金の足しにしようと、彼女の金の簪を求めたのだ。妻がそれを私に渡すかどうか、その真心を試してみたかった。私は簪を受け取ると、そのまま戸口の鴨居の上にそっと置いた。結局、妻に告げるのを忘れて出てきてしまったから、あの簪は今もなお、あの場所にあるはずだ」

奇しくもその夜、故郷にいる妻は夢を見た。夢枕に立った夫、費季が悲しげに語りかける。

「私は旅の途中で盗賊に襲われ、二年前にすでにこの世の人ではなくなった。信じられないのなら、証拠をお見せしよう。旅立つ日、お前の簪を受け取ったが、あれは持って行かずに戸の鴨居の上に置いてきた。行って確かめてみるといい」

妻ははっと目を覚まし、震える手で鴨居の上を探ると、果たしてそこには夫の言う通り、金の簪が埃をかぶって置かれていた。夫はすでにこの世の人ではないと悟った妻と家族は、嘆き悲しみながらも葬儀を執り行った。

しかし、それから一年余りの後、費季は何事もなかったかのように故郷へひょっこりと帰ってきたという。


妖物の奸計と懲罰

余姚に住む虞定国は、誰もが振り返るほどの立派な容姿の持ち主であった。同じ県に蘇という家の娘がおり、彼女もまた類い稀な美しさで知られていた。定国はかねてより、その娘に淡い想いを寄せていた。

ある時、定国が蘇氏の家を訪れると、主人は彼をたいそう歓待し、ぜひ泊まっていくよう引き止めた。夜も更けた頃、定国は娘の父である蘇公にこう切り出した。「お宅の娘御の気高い美しさに、私はすっかり心を奪われております。今宵一夜、ほんの少しの間だけでも、お会いすることは叶いませぬでしょうか」

主人は、定国が郷里の名士であることから、これを許し、娘を定国のもとへ行かせた。

それからというもの、二人の仲は次第に深まっていった。ある日、定国は蘇公に言った。「私には、この御恩に報いる術もございません。もし役所に関わる用事がおありでしたら、なんなりと私にお申し付けください」主人はこれを喜び、以来、役所に用事ができるたびに、定国を頼るようになった。

ところが、本来の虞定国は、このことを全く知らなかった。ある日、蘇公から突然の依頼を受けた定国は大いに驚き、こう言った。「私はこれまで、あなた様から面と向かって頼み事をされたことなど一度もございません。これは、きっと何か異変が起きているに違いありません」そして、これまでの事情を詳しく説明するよう求めた。

話を聞いた定国は言った。「私が人の親たる方に、その娘との不義を願うなど、ありえようか。もし次にその偽者が現れたならば、この手で斬り捨ててくれようぞ」

その後、果たして再び現れた怪異を、彼は見事に捕らえることができたという。


青袪と半分消えた膏薬

呉の孫皓の治世、淮南の内史であった朱誕という人物が、建安の太守を務めていた頃のこと。彼の従者の一人に、妻が得体の知れない病に苦しんでいる者がいた。夫は、妻が人ならざるものと不貞を働いているのではないかと、密かに疑念を抱いていた。

ある日、夫は出かけるふりをして、壁にそっと穴を開け、中の様子を窺った。すると妻は機を織りながら、遥か遠くの桑の木の上を見つめ、まるでそこに誰かいるかのように、微笑みかけ、睦言を交わしているではないか。従者が桑の木を見上げると、そこには一人の若者がいた。年は十四、五歳ほどで、青い小袖をまとい、同じ色の布で頭を覆っている。

従者は、それを本物の人間だと思い、弩を手に取り、狙いを定めて矢を放った。すると若者は、箕ほどの大きさもある巨大な蝉にその姿を変え、けたたましい羽音を立てて飛び去った。その瞬間、妻は驚いて叫んだ。「ああ!どなたかがあなた様を射たようですわ!」従者は、その様子を見てますます怪しんだ。

しばらく経ったある日、従者は道端で二人の子供が話し込んでいるのを見かけた。見れば、その一人は、先日桑の木の上にいた少年であった。もう一人の子供が尋ねる。

「近頃、どうして姿を見せないのだい」

桑の木の少年が答えた。「この間、運悪く人に射られてしまってね。その傷が癒えるまで、しばらく養生していたのさ」

「もう大丈夫なのかい」

「うん。朱府君(朱誕)のお屋敷の梁の上に置いてある膏薬を塗ってもらって、ようやっと治ったところだよ」

これを聞いた従者は、急いで主君である朱誕のもとへ駆けつけ、言った。「誰かが殿の膏薬を盗みましたぞ。ご存知でございましたか」

朱誕は言った。「私の膏薬は、ずっと梁の上に置いてある。誰がそれを盗めるというのだ」

「いえ、そうではございません。どうか、一度ご覧になってください」

朱誕は全く信じなかったが、試しに見てみると、封印は元のままであった。「お前は嘘を申したな。膏薬は元のままではないか」と朱誕が言うと、従者は「どうか、中をお改めください」と食い下がった。そこで蓋を開けてみると、驚いたことに、膏薬は半分に減っており、よく見ると、爪で掻き取ったような跡が残っていた。

朱誕はこれに大いに驚き、従者に詳しく事情を尋ねさせ、事の顛末のすべてを知ったのであった。


狸の怪と横暴な神

呉の時代、嘉興に住む倪彦思の家でのこと。ある日のこと、姿は見えぬものの、確かにそこにいる怪しい気配が家の中に忍び込んだ。その気配は人と会話し、人と同じように食事もするが、決してその姿を現すことはなかった。

家の召使いたちが、主人の陰口を叩いていると、その気配が言った。「今のお前たちの言葉、主人に告げ口してやろう」倪彦思が問いただすと、皆震え上がり、それ以来、主人を罵る者はいなくなった。

倪彦思には妾がいたが、ある時、その怪しい気配が彼女を自分に寄越すよう求めてきた。困り果てた倪彦思は道士を招き、これを追い払ってもらおうとした。道士が酒や肴を供えて儀式を始めると、怪しい気配は厠から汚物を持ってきて、供え物の上に撒き散らした。

道士は構わず太鼓を激しく打ち鳴らし、神々を呼び寄せようとした。すると気配は、神座に鎮座していた虎をかたどった像を手に取ると、まるで角笛のように高らかに吹き鳴らした。

しばらくすると、道士は背中にひやりと冷たいものを感じた。驚いて衣を脱いでみると、なんと背中にあの虎の像が張り付いているではないか。こうして道士は、なすすべもなく退散してしまった。

ある夜、倪彦思が布団の中で妻と、この怪しい気配のことで小声で悩みを打ち明けていると、屋根裏の梁の上から声がした。

「お前たち、夫婦で私の悪口を言っていたな。今からこの家の梁をへし折ってくれよう」

すると、ごりごり、と木を削るような不気味な音が響き渡った。倪彦思は梁が折れるのを恐れ、灯りを持って照らしてみたが、気配はふっとその火を消してしまった。梁を断ち切る音は、ますます激しくなる。家が壊れると恐れた倪彦思は、家族全員を家の外へ避難させた。再び灯りをつけて見てみると、梁は元のままで、傷一つついていなかった。

気配はからからと大笑いし、倪彦思に尋ねた。「どうだ、まだ私の悪口を言うか」

この話を聞いた郡の役人は言った。「この怪異の正体は、古狸の仕業に相違あるまい」

するとその夜、気配は役人のもとへ現れ、言った。「お前こそ、役所の穀物を何百石も盗み、しかじかの場所に隠しているではないか。役人でありながらその身は汚れきっているくせに、私を評するとは片腹痛い。今すぐ役所に訴え出て、お前の盗んだ穀物をすべて差し押さえさせてやる」役人は顔面蒼白となり、ひたすら平謝りするばかりであった。

これ以降、この怪しい気配のことを口にする者は、誰一人いなくなった。そして三年後、その気配はどこへともなく去っていったという。


幽霊馬と首の無い官吏

魏の黄初年間の頃。ある男が、夜更けに頓邱の境を馬で駆っていた。ふと見ると、道端に、兎ほどの大きさの何かがうずくまっている。その両目は、闇の中で鏡のように鋭く光を放ち、馬の前に躍り出て行く手を遮った。男はあまりの恐ろしさに馬から転げ落ちてしまう。するとその怪物は、たちまち地面に倒れた男に掴みかかった。男は恐怖のあまり、そのまま気を失ってしまった。

しばらくして意識を取り戻すと、怪物の姿はどこにもなかった。男は震える体で再び馬に乗り、先を急いだ。

数里ほど行くと、一人の旅人に出会った。互いに挨拶を交わし、先ほどの恐ろしい出来事を話すと、男は言った。「あなたのような方と道連れになれるとは、これほど心強いことはない」旅人も応じた。「私も一人旅でしたので、これは嬉しい。あなたの馬は足が速いようですな。どうぞ、先にお進みください。私が後からついて参りましょう」

こうして二人は、共に道を進むことになった。しばらく行くと、旅人が尋ねた。「先ほどの化け物は、どのような姿をしていたのですか。あなたをあれほど怖がらせるとは」

男は答えた。「兎のような体つきで、両目は鏡のように爛々と輝いておりました。それはもう、気味の悪い姿で…」

すると旅人は、にやりと笑って言った。「ならば、私の顔をよくご覧になりませんか」

男がおそるおそる旅人の顔を見ると、そこにいたのは、先ほど遭遇した、あの忌まわしい化け物そのものであった。化け物は馬に飛び乗り、男は再び地面に落ちた。そして、そのまま恐怖のあまり息絶えてしまった。

馬だけが家に帰ってきたのを怪しんだ家族が探しに出ると、道端で男の亡骸を見つけた。男は一晩経ってかろうじて息を吹き返したが、ことの顛末を語り終えると、今度こそ静かに息を引き取ったという。

かつて、袁紹が冀州を治めていた頃、河東の地から度朔君と名乗る神が現れ、民は皆、彼のために廟を建てて祀った。

ある時、清河の太守であった蔡庸がその廟を参拝した。度朔君は彼のために酒宴を設け、言った。「あなたには、とうに亡くなった息子さんがおられるな。会わせてしんぜよう」しばらくすると、三十年前に死んだはずの息子が、その姿を現したという。

また、ある学者が母の病の平癒を祈願するために廟を訪れると、廟の役人が「天からの使いがお見えになるゆえ、しばらくお待ちくだされ」と言った。やがて、西北の方から太鼓の音が聞こえ、神々しい姿の神が現れた。続いて、黒い衣をまとい、頭上に五色の毛を生やした客人が現れ、それが去ると、今度は魚の頭のような高い冠を被った、白い衣の男が現れた。その男は度朔君に向かって言った。「昔、廬山で共に白い李の実を食べたことが、昨日のことのように思い出される。あれから、もう三千年が経ったとは。月日の流れはかくも速く、人の心を感傷的にさせるものよ」

彼らが去った後、度朔君は学者に言った。「先に現れたのは、南海の神君にございます」

この度朔君は、学者も舌を巻くほど五経に明るく、特に礼については深い知識を持っていたという。

その後、曹操がこの地を治めるようになると、廟に絹千疋を納めるよう使いを出したが、度朔君はこれに応じなかった。怒った曹操は、張郃に命じて廟を破壊させようとした。しかし、張郃の軍が廟に近づくと、どこからともなく深い霧が立ち込め、進むべき道を見失ってしまった。

度朔君は言った。「曹操の勢いは、今は天をも衝くほどだ。ここは賢明に身を引くべきであろう」

やがて度朔君は、曹操に使いを出し、城の北にある楼を仮の住まいとして修繕させた。

数日後、曹操が狩りで奇妙な獣を捕らえた。誰もその名を知らなかった。その夜、楼の上から「我が子が出かけたまま帰ってこない」と泣き声が聞こえた。翌朝、曹操が数百匹の犬を楼の周りに放つと、犬どもはたちまち妖気を嗅ぎつけ、一斉に猛り狂って吠え立てた。すると、驢馬ほどもある巨大な何かが楼から飛び降りてきた。犬たちはそれに襲いかかり、たちまち食い殺してしまった。

これによって、廟の神の威光は、ついに絶えたという。


筋竹と方相

臨川の陳臣は、大変な資産家であった。永初元年のこと、彼が書斎でくつろいでいると、屋敷の中に、一畝ほどの広さにわたって、奇妙な筋模様のある竹がいつの間にか密生していた。ある白昼、その竹林の中から、身の丈一丈(約2.3メートル)もある大男がぬっと姿を現した。その顔は、まるで疫病を払うという恐ろしい形相の神、方相の面を思わせた。男は直接、陳臣に語りかけた。

「私は長年この家に棲んでいたが、お前は気づかなかったようだ。今、お前に別れを告げ、ここを去ることにする。ただ、知らせてから去るのが筋だろうと思ってな」

男が去って一月ほど後、陳臣の家で大火事が発生し、多くの使用人が命を落とした。そして一年も経たないうちに、あれほど栄華を誇った家は、見る影もなく落ちぶれてしまったという。


釜の中の翁

東萊に、陳という姓の一族が暮らしていた。ある朝、朝餉の支度をしても、どういうわけか釜の湯が少しも煮立たない。不思議に思って甑を持ち上げて中を覗き込むと、突然、一人の白髪の翁が釜の中から現れた。

驚いた主人は、すぐに易者に占ってもらった。易者は深刻な顔で言った。「これはただ事ではございません。一族が滅びる前触れにございます。急ぎ家に戻り、大きな木製の枷を百個ほどお作りなさい。そして、門を固く閉ざし、たとえ馬に乗り、旗や傘を掲げた立派な一行が門を叩こうとも、決して応じてはなりませぬ」

主人は家に帰ると、言われた通りに百個ほどの枷を作り、門を閉ざした。果たして、馬に乗った役人の一団がやって来て門を叩いたが、主人は決して応じなかった。

役人たちは、門の内側にずらりと並べられた枷を見て大いに恐れ、互いに囁き合った。「ここは我々の来るところではなかったようだ。ここから北へ八十里ほどの所に、同じ陳という姓の一族がいる。代わりにそちらへ行こう」

それから十日後、門を閉ざしていた陳家は、誰一人として命を落とすことはなかった。しかし、身代わりになったというもう一つの陳家は、一族全員が死に絶えてしまったという。


服留鳥と消えた子供

晋の恵帝の時代、都で世にも珍しい鳥が捕らえられたが、その名を知る者は誰一人いなかった。時の権力者であった趙王倫は、その鳥を城下の市場に持ち歩かせ、人々に尋ねて回らせた。すると、宮殿の西で一人の童がその鳥を見て、こともなげに言った。「それは、服留鳥だよ」

使いの者が戻って報告すると、倫はさらにその童を探させ、宮中へと連れてこさせた。そして、鳥を籠に入れ、童と共に一つの部屋に閉じ込めた。しかし翌朝、部屋を見に行くと、鳥の姿も、そしてあの童の姿も、忽然と消え失せていたという。


山の果実と天の声

南康郡の南にそびえる東望山に、三人の男が分け入った。山頂まで登ると、そこには見事な果樹園が広がっていた。果樹はすべて整然と植えられ、その様は、まるで人の手によって丹精込めて植えられた庭園のようであった。甘い果実が、ちょうど食べ頃を迎えていた。

三人は夢中になってその果物を食べ、満腹になった。そして、土産にしようと二つだけ懐に入れたまま、山を下りようとした。その時、天の高いところから、厳かな声が響き渡った。

「懐に入れた二つの甘い果実を置いていけ。さすれば、お前たちを行かせてやろう」


秦瞻と脳中の蛇

曲阿に住む秦瞻という男は、長年、奇妙な病に悩まされていた。ある時、蛇に似た得体の知れないものが、彼の脳の中へと飛び込んできたのである。それは決まって、まず言いようのない異臭が漂うことから始まり、鼻の穴から侵入すると、頭の中でとぐろを巻くのだという。彼は頭の中が騒がしくなるのを感じ、ただ、己の脳の内側で、何かがくちゃくちゃと物を食むような、気味の悪い音だけが響くのであった。

数日するとそれは出て行くのだが、すぐにまた戻ってくる。手ぬぐいで鼻と口を固く縛っても、やはり侵入を防ぐことはできなかった。

不思議なことに、彼はこの病以外に患うことはなかったが、生涯、この重苦しい頭痛からは逃れられなかったという。

第十七巻の要約と深掘り

 この巻で描かれるのは、現実と幻、生と死の境界線が、夜霧のように溶け合う世界です。死んだはずの者が生きていたり、生きている者が死を偽装したり、人ならざるものが人の姿を借りて現れたりと、人々の日常は常に「異界」と隣り合わせにあります。偽りの死の報せに翻弄される家族、人の野心や情愛を利用する妖物、そして理由もなく訪れる理不尽な怪異。これらの物語は、人間の認識の脆さと、目に見えない存在への畏怖、そして時にそれらと奇妙な形で共存する人々の姿を、鮮やかに描き出しています。

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【各場面の魅力と検証】

これらの物語は、因果関係や教訓を超越した、純粋な「不思議」そのものを提示します。


「筋竹と方相」の場面:

情景: 裕福な陳臣の屋敷に、前触れもなく奇妙な竹が密生する光景は、静かな侵食を思わせます。そして白昼、その静寂を破って現れる、神の如き形相を持つ巨漢。彼の告げる「別れの挨拶」は、親切のようでありながら、その後の大火事と没落を予言する不吉な宣告です。

深掘り: この怪異は、人間に何も求めません。ただ現れて、去ることを告げるだけです。この「一方的な関与」こそが、人知の及ばない存在の絶対性を示しています。それは自然災害のように、人間の都合とは無関係に訪れる運命の象徴とも解釈できます。人間に理解できないことわりで世界が動いていることへの、根源的な畏怖がここにあります。

怪異譚の中に、人間の機微や愛情が色濃く描かれているのがこの物語の魅力です。


「妻の夢と金の簪」の場面:

情景: 旅先の夫・費季が、仲間たちに「妻の真心を試したくてね」と、簪を鴨居に隠してきた思い出を少し照れくさそうに語る姿。時を同じくして、故郷で夫の夢を見て、彼の死を信じ込み、簪を見つけて涙にくれる妻の姿。この二つの情景が時空を超えて重なり合う様に、胸が締め付けられます。

深掘り: この物語の面白さは、怪異(夢のお告げ)が夫婦の愛情の証(簪)によって裏付けられてしまう点にあります。怪異は人の心を惑わしますが、そのきっかけとなったのは夫の「妻の愛を確かめたい」という人間的な感情でした。そして、一年後に夫がひょっこり帰還することで、悲劇は喜劇へと転じます。これは、不可解な出来事に翻弄されながらも、最終的には人間の愛と生命力が勝る、温かみのある物語として異彩を放っています。

恐怖の中にもユーモアや風刺が光る、トリックスター的な存在が活躍します。


「狸の怪と横暴な神」の場面:

情景: 倪彦思の家に憑いた「姿なき何か」。道士が厳かに儀式を始めると、厠から汚物を運んできて供え物にぶちまけ、神の像を角笛のように吹いて道士をからかう様は、滑稽でさえあります。極めつけは、自らを「ただの狸だろう」と評した役人に対し、その汚職を暴露して脅し返す場面。

深掘り: この怪異は、単なる恐怖の対象ではありません。それは人間の権威や建前を軽々と飛び越える、自由で狡猾な存在です。道士の儀式も、役人の権威も、この怪異の前では無力です。むしろ、人間の悪口や不正を暴き、罰するという点では、一種の「世直し」の役割すら果たしています。恐怖と笑いは紙一重であり、人ならざる者の視点から人間社会の滑稽さを鋭く風刺している、非常に知的な物語です。

人間の最も根源的な恐怖心を巧みに突いてくるのが、この物語です。


「幽霊馬と首の無い官吏」の場面:

情景: 闇夜の道、最初の怪異から逃れた男が、親切な旅人に出会い「これで一安心だ」と胸を撫で下ろす安堵の瞬間。しかし、その安堵が最高潮に達した時、旅人が「試しに私を見てみませんか」と問いかけ、その顔が先ほどの怪物――鏡のような両眼を持つ異形――へと変貌する瞬間。

深掘り: この物語の恐怖の核心は、「安堵から絶望への急転直下」にあります。一度目の恐怖体験は、二度目の恐怖のための壮大な序章に過ぎません。最も信頼すべき「人間」という存在が、最も恐ろしい「化物」であったという裏切りは、世界のすべてが信じられなくなるほどの絶望感を与えます。これは「未知なるものへの恐怖」から、さらに一歩踏み込んだ「既知なるものの反転への恐怖」であり、読者の心理に深く突き刺さる、計算され尽くしたホラーの構造と言えるでしょう。

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