初めての依頼
翌朝。
宿の食堂で簡素なパンとスープを口にしていると、
扉を蹴るようにしてレオンが現れた。
赤い羽根飾りの帽子は今日も健在で、彼の存在そのものが場を明るくしている。
「よし、起きてるな。じゃあ紹介しよう。これが俺の仲間のひとり、マルクだ」
レオンの後ろから現れたのは、無骨な男だった。鋭い目つきに短く刈られた髪。
体躯は大きく、背負った斧は人を軽く両断しそうな迫力を持つ。
マルクは二人を見下ろし、鼻を鳴らした。
「……子どもじゃねえか」
「そう言うなよ。才能があるかどうかは、やってみなきゃわからない」
レオンが軽く肩を叩く。
アリアは剣の柄に手を置き、反射的に身構えていた。
だがマルクは構うことなく椅子に腰を下ろし、ぶっきらぼうに告げた。
「仕事は単純だ。“影の市場”に行って、荷を運んでくる。ただそれだけだ」
「影の……市場?」
カイが聞き返すと、レオンが愉快そうに笑った。
「表通りじゃ手に入らないものが売り買いされる場所さ。
盗品もあれば禁制品もある。まあ、子どもにゃ刺激が強いだろうけどな」
アリアの顔が険しくなる。
「そんなの、違法じゃないの?」
「違法? ここじゃ法律より力の方が重いのさ」
レオンの言葉に、アリアは唇を噛みしめる。
それでも選択肢はなかった。
宿に泊めてもらい、食事を得ている以上、何もせずにはいられない。
カイの頭にまた閃光が走る。
──市場の暗がりで襲いかかる賊。倒れる自分。
──だが荷を無事に運び出し、硬貨を受け取る未来。
どちらも可能性として存在していた。
「……やるよ。俺たちにできることなら」
その言葉に、アリアが驚いてカイを見た。
「カイ、本当に……?」
「生きるために必要なんだ。死なない未来を選ぶ。だからやる」
少年の瞳は怯えながらも確かに光を宿していた。
レオンは満足げに笑い、手を打った。
「決まりだな! じゃあ夜に“影の市場”へ案内してやるよ」
***
その夜。
月が雲に隠れた頃、レオンに導かれて王都の裏路地を抜ける。
石畳はぬかるみ、建物の壁には不気味な落書きが刻まれている。
通りの奥で松明が揺れ、ざわめきが聞こえてきた。
「ここだよ、“影の市場”。見て驚くなよ」
レオンが口笛を吹き、広場へと足を踏み入れる。
そこには異様な光景が広がっていた。
布で覆われた屋台、目深にフードを被った商人、鋭い視線を交わす客たち。
檻の中には魔物が鎖につながれ、
別の場所では毒薬や呪具が堂々と売られていた。
村しか知らない二人にとって、それはまさに異界の祭りだった。
「さあ、これを運んでくれ」
マルクが木箱を二人に渡した。持ち上げると、中で瓶がかすかに音を立てる。
「……中身は?」
「知らなくていい」
その一言に、アリアは険しい表情を浮かべた。だが抗う力はない。
市場を進む途中、カイは背後に妙な気配を感じた。
振り返ると、フードを深くかぶった男がじっとこちらを見ている。
未来視が閃いた。
──その男が刃を抜き、背後から襲いかかる光景。
「アリア、避けろっ!」
叫ぶと同時に、背後から鋭い光が走った。