旅人たちとの邂逅
森を抜け、石が敷かれた街道に出たのは昼を過ぎた頃だった。
昨日まで畑の土の上で暮らしていた二人にとって、
整えられた街道はまるで異世界のように思えた。
広がる空の下、遠くまで続く道。そこに立つだけで、
自分たちが村という狭い世界から踏み出したことを実感させられる。
「……本当に、この道を行けば王都に着くんだよね」
アリアが、まだ不安を隠せない声でつぶやく。
カイは道標を見直し、うなずいた。
「十里って書いてあった。歩き続ければ、きっと」
根拠は乏しい。だが、希望を口にすることが二人にとって唯一の支えだった。
そのとき、後方からかすかな蹄の音が近づいてきた。
振り返ると、馬に荷を積んだ一団がこちらへ進んでくる。
護衛らしき屈強な男たちと、商人風の中年が先頭にいた。
二人は思わず道の端に寄り、警戒する。
「やあ、こんなところで子どもだけとは珍しいな」
声をかけてきたのは、恰幅のよい商人だった。
灰色の外套に身を包み、目だけは鋭い。
アリアは警戒心を隠さずに身構えるが、カイが一歩前に出て答えた。
「村が……襲われて、逃げてきたんです」
言葉にするだけで胸が締め付けられる。
商人の目が一瞬だけ鋭くなったが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「そうか……大変だったな。行くあてもなく王都を目指すのか?」
「はい」
カイがうなずくと、商人は顎に手を当てて考え込む。
その隣で護衛の一人が低くつぶやいた。
「子ども二人であの森を抜けたのか……運が良かったな」
商人は少しの間逡巡した後、馬車の後方を指さした。
「王都までは同じ道だ。乗っていくといい。ただし護衛の目は厳しいぞ。
怪しい真似をしたらすぐ追い出す」
「ほんとに……いいんですか?」
アリアが驚いた声を上げる。
商人は肩をすくめて笑った。
「困ったときは助け合いだ。商人にとっても、恩を売るのは悪くないからな」
二人は深く頭を下げ、馬車に同乗させてもらうことになった。
車輪が石畳を軋ませ、少しずつ王都へと近づいていく。
しばらく揺られていると、アリアが小声でカイに囁いた。
「……私たち、無力だね。助けてもらわなきゃ進むことすらできない」
彼女の握る剣はまだ震えていた。
カイはその言葉を否定できなかった。昨夜の戦いを思えば、事実だからだ。
けれど、未来視の閃光がふと彼の頭をよぎる。
──大きな街の広場。無数の人々の中に立つ自分たちの姿。
それは不思議と、絶望よりも希望を感じさせる映像だった。
「大丈夫。俺たちは必ず強くなる。あの村を取り戻すために」
カイの言葉に、アリアは黙ってうなずいた。
馬車の窓から差し込む陽光が、二人の決意を照らし出していた。
そしてその旅路の先で、彼らを待ち受けるのは、王都という巨大な渦。
数え切れない人の思惑と陰謀が交錯する場所。
だが今の二人はまだ知らなかった。
この出会いが、後の千話にわたる長き物語の「最初の分岐点」となることを。