01-0006.お嬢様とウサギですよぉ
階段を上がると、そこは何も変わらないゴツゴツした石の壁と石畳で出来た小部屋だった。
出口ではなく内心ガッカリするが、誰もそれを口に出さない。
脇には2メートルの黒い壁が見える。ダンジョンゲートのチェックポイントだ。
三人は黒い壁を触りダンジョンゲートを接続する。
「これで1階と2階をゲートで行き来できるようになるのか」
「探索者に変更したので、ダンジョンゲートを使いますよぉ~」
「あ、ちょっと待ってください。魔力に余裕があるし少し2階の敵と戦ってみませんか?」
「うーん。そうだな、一度戦ってみるか」
「はぁーい」
少し通路を進むと遠くに二体の何かが見える。
一体は人型でゴブリンか?もう一体は伏せているが犬?大型犬よりも大きいか?人型よりも倍以上大きい。
「二人とも見えます?」
「ああ…。何だあれは、……ウサギ?」
「きゃー!可愛いー!」
大型のウサギに向かって走り出すお嬢様。
「ちょっ、お嬢様っ!」
「ト、トウコさん」
近くで見るウサギは目が鋭く赤い。威嚇しているのだろうかブゥーブゥーと鳴き、なんだか太々しい。
「こっちだ、ウサギ野郎!タウント!」
「ポイズンカット!」
「お嬢様は、ゴブリンを!」
「ああ!私の可愛いウサギさんがぁー。えい!」
トウコさんの一撃がゴブリンに決まるが、黒い粒子には変わらない。
2階だと同じゴブリンでも強さが違うのかもしれない。
ゴブリンの反撃をトウコさんが正面に構えた盾で防ぐ。
「この!」
リコさんの鋭い右ストレートの一撃がゴブリンの顔にヒットするが、まだ倒れない。
「わわわ、こっちに来ないで!」
トウコさんが盾でゴブリンを押し退けるように振り払うと、ゴブリンが倒れ黒い粒子になり消滅する。
ゴブリンで三発必要なのか、大分強くなっているな。
毒になっている大型のウサギを三人で囲む。
唸る前足の一撃は重そうだが、動きが遅くリコさんには当たりそうにない。
安全な後ろからウサギの尻をナイフでチクチクしていると、ウサギの尻が震えた。
次の瞬間、今までの動きが噓のような速さで、後ろ足が僕を目掛けて飛んでくる。
油断していた僕は、回避が間に合わず左肩を蹴られ壁まで吹っ飛ぶ。
「ミノルくん!?」
「お、おい!その攻撃が本命か。タウント!」
程なくしトウコさんの一撃でウサギが沈む。
「ミノル生きてるかー?」
「はーい…。なんとかー…」
「それとトウコお嬢様。軽率な行動はあれほど、ん?」
トウコさんを見るとステータスカードを見つめ立ち尽くしている。
「ごめんなさい。次からは気をつけますぅ」
「どうしました?」
「ゴブリンを倒したら、盾使いってジョブの取得アナウンスが流れましたよぉ」
「え、盾使いですか!いたた…」
「あ、ミノルくん。そのままで、ヒール!」
おお、左肩の痛みが引いていく。
「盾使いのスキルは『 シールドバッシュ 』と『 VIT小アップ 』ですぅ」
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松元燈子 18歳♀
ジョブ:盾使い(01)
『シールドバッシュ』
『VIT小アップ』
探索者(03)治癒使い(01)
STR 8 INT 9
VIT 8+5 MND 9
DEX 4 CHR 6
AGI 1 LUC 50
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盾使いに変更したトウコさんのステータスカードを見せてもらうが、これはなんだろう。トウコさんのAGIが赤色に表示されている。
「ガード系っぽいですね。リコさんがガード役だから一旦保留ですねー」
「おーい、こっちも裁縫師ってジョブが増えてるぞ」
「ええっ!?」
二人ともにジョブが増えるとか羨ましい。裁縫師はどうやって覚えたのだろうか。
「このカードを拾ったら取得のアナウンスが流れたな。ウサギの名前はスローラビットみたいだ。スローラビットの毛皮カードと白紙?のカードが出てるぞ」
「スローラビットかー。確かに後ろ足攻撃以外は遅かったですけど」
「この白紙のカードは?」
「既に1枚持っているんですけど、用途不明ですね」
既に持っていた白紙のカードをヒラヒラと揺らす。
「縁が銀色だなー。まぁカードは全部ミノルが持っていてくれ」
今までのゴブリンナイフカードも僕に渡してくる。
スローラビットの毛皮カードも受け取るが裁縫師のジョブは取得していない。
「残念。裁縫師のジョブは取得出来ていませんね」
「うーん。スローラビットの毛皮カードを拾ったら裁縫師取得のアナウンスが流れたんだけどなー」
「他に何か条件があるのかもしれないですね」
「もう一度スローラビットの毛皮を落とさないかなー」
チャンスは直ぐに訪れた。二匹目のスローラビットが毛皮カードを落とす。
トウコさんに先に拾っても良いかを確認してからカードを拾う。
『 裁縫師を取得しました 』
カード1枚で一回の取得が正解みたいだ。
「初回に拾った人だけが取得できるみたいですね」
「なるほどな。色々条件があるみたいだなー」
それから1階に続く階段から余り離れずウサギとゴブリンを倒していると変化があった。
スローラビットが『 ウサギの肉 』カードを落としたのだ。
『 調理師を取得しました 』
「ああ!調理師が!」
「ん?」
新しいジョブに少し興奮するが待て待て、何故今まで毛皮ばかり落としていたのに、急にウサギの肉をドロップした?
一つ考えられるのが、魔力が少なくなったのでポイズンカットを使わずに倒した。当然ウサギは毒になっていない。
「…毒状態だと肉が落ちない?」
「かもかもー?」
「ありえるな、試してみるか」
スローラビットにポイズンカットを使わずに倒すと、またウサギの肉カードが落ちたので、リコさんが落ちているカードを拾う。
「ああ、調理師ってジョブの事だったのか」
少しではなく大興奮してしまっていた。調理師を説明していなかったがリコさんも調理師を取得したようだ。
「トウコお嬢様。カードをどうぞ」
「美味しそうな、お肉ですねー?」
「やっぱり調理師のジョブを覚えませんね。このジョブもカード1枚で1回だけの取得なんですかね」
もう一度スローラビットを倒すと今度は毛皮が出たので、トウコさんに裁縫師を取得してもらう。
「ランダムドロップかー」
「仕方がない。私の魔力も半分を切ったし、お嬢様の魔力が無くなる前にダンジョンゲートで、一旦部屋に戻りましょう」
治癒使いから探索者に変更してもらい階段前の小部屋からゲートで戻る。
3枚あるスローラビットの毛皮カードを1枚破いてみると、光の粒子から出てきたのはバスタオルよりも少し丈の短い長方形の毛皮だった。
裏面は柔らかく綺麗になめされている状態で、タオルや敷物に使えそうかな。
「わぁー、フワフワだぁ」
「あ、3枚あるので1枚ずつどうぞ」
トウコさんとリコさんにスローラビットの毛皮を渡し、二人が毛皮の感触を楽しんでる間に調理師に変更してスキルを確認する。
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時園実 17歳♂
ジョブ:調理師(01)
『着火』
『味付け』
『食材ドロップ確率アップ』
『CHR小アップ』
探索者(03)短剣使い(02)蹴り使い(01)…
STR 4 INT 6
VIT 5 MND 5
DEX 4 CHR 7+5
AGI 5 LUC 75
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これは火魔法か?
「着火!」
壁に向かって着火を唱えるが、何も起きない。
「調理師スキルか?囲炉裏の薪に着火はどうだ?」
こちらを見ていたリコさんから助言を貰う。
「なるほど、着火!」
薪に火が点く。どうやら攻撃魔法としては使えないらしい。
囲炉裏には、ファイヤーハンガーから吊るされた鍋とお玉があるが、箸も器も無い状態で煮込みは厳しそうか。
「うーん、鍋はあるけど器が無いので煮込むのは厳しいですよね。どうします?」
「ゴブリンナイフに突き刺して直火で焼くか」
ワイルドだな。
「あ、使っていないペットボトルをナイフで半分に切って器にしますか?」
「うーん、そうだなー。暖かい汁物が食べたいからそうしようか」
料理用に新しいゴブリンナイフを三本出しておく。
ウサギの肉を二つ、食べやすい形にカットして少し焼き目を入れてから、鍋に水を注ぐ。
味付けを唱えると人差し指に、光の粒子が集まり粉が出てきたので、左手で受け止め舐めてみる。
塩と胡椒かな?流石は調理師。便利なスキルだ。
お玉を回しながら鍋を見ているが、ドロップした肉だからか灰汁はあまり出ないようだ。
「裁縫合成。わわわ」
声がした方を見ると、トウコさんが持っていたスローラビットの毛皮が光の粒子に包まれると、ウサギの毛でサラサラしたノースリーブシャツとカボチャパンツが姿を現す。ゴムは無く紐で縛るタイプだ。
「おお、裁縫師ですか」
「はぃぃ…」
恥ずかしそうにカボチャパンツを後ろへ隠しステータスカードを見せてくれる。
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松元燈子 18歳♀
ジョブ:裁縫師(01)
『裁縫合成』
『裁縫素材ドロップ確率アップ』
『DEX小アップ』
探索者(03)治癒使い(01)盾使い(01)…
STR 7 INT 12
VIT 3 MND 6
DEX 5+5 CHR 8
AGI 2 LUC 50
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「スローラビットの毛皮で、防具とかも作れそうですか?」
「裁縫師にジョブを変更して、毛皮を持つとインナー上下が作れるって何となく分かるんですけど、お洋服は作れるって感じはしませんね~」
ゲームだとレベルが上がると作れる物が増えるが、裁縫師もそうなのだろうか。
裁縫師はトウコさんに任せてしまっても良いのかもしれない。
お玉で鍋をかき混ぜていたが、こんな感じで良いだろう。
「そろそろ出来ますよー」
上下半分にしたペットボトルにウサギ汁を注ぐ。良い匂いだ。
「私はお嬢様のを使うので最後で良いぞ」
「いただきまーす」
腹が満たされ少し眠くなるが、まだやる事がある。
「トウコさん盾を借りますね。盾使いを少し試してきますよ」
「はぁーい。どうぞー」
「あー、ミノル。毛皮を濡らして体を拭きたいから30分以上で頼む」
「分かりました。毛皮を干す用にナイフを2本壁に刺しておきますね。あとボディバッグを部屋に置いていきますので、好きに使ってください」
「ありがとう。助かるよ」
リコさんから腕時計を借り部屋を出る。いつの間にか時刻は19時になっている。
見つけたゴブリンを盾で殴りつけるが一撃ではやはり倒れない。
二発目の盾攻撃でゴブリンが黒い粒子に変わるが脳内にアナウンスが流れない。
あれ、ステータスカードを見るが盾使いは取得していない。
良く思い出すと、短剣使いや拳使いを覚えた時のジョブは探索者レベル3だった。
探索者じゃないと武器系のジョブは取得出来ないのかもしれない。
ジョブを探索者に変更して、再度ゴブリンを盾で倒す。
『 盾使いを取得しました 』
なるほどな。
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時園実 17歳♂
ジョブ:盾使い(01)
『シールドバッシュ』
『VIT小アップ』
探索者(03)短剣使い(02)拳使い(01)…
STR 5 INT 4
VIT 10+5 MND 7
DEX 5 CHR 3
AGI 3 LUC 75
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守り特化のピーキーな性能だ。ソロだと厳しそうなステータスに見える。
スキルのシールドバッシュはどうだろうか。
角を曲がった所に居たゴブリンにシールドバッシュを使ってみる。
お?シールドバッシュを受けたゴブリンが硬直して動かない。スタンか?
動き出したゴブリンにもう一度シールドバッシュを使うと、また動かなくなる。
それから三度目のスタンの後に放った四度目のシールドバッシュでは流石にスタンはしなかった。
どうやら100%では無いらしい。
同時に眩暈がしたのでゴブリンはナイフでサクッと止めを刺す。
魔力が心許無いが、ハメ技みたいな感じで結構使えるスキルかも。
ガード役のリコさんを、拳使いから盾使いに変更するのも面白いかもしれない。
帰ったら相談してみよう。
コンコンコンッ
「ミノルです。入って大丈夫ですか?」
「はぁーい。大丈夫ですよー」
部屋に入ると囲炉裏の火の前で、リコさんがトウコさんの髪を毛皮で拭いて乾かしていた。
「髪も洗ったんですね」
「ああ、さっぱりしたよ。盾使いはどうだった?」
「VIT特化でソロだと厳しそうですけど、スキルのシールドバッシュは面白いですね。ダメージが無い代わりに追加スタンでハメ技みたいな感じになってましたよ」
「へぇー、面白そうだな。後で私も試してみるか」
「あと、ジョブを探索者にして行動しないと、戦闘職は取得出来ないみたいですね」
二人の髪が乾くまで少し雑談をする。
「肉が必要なので、ポイズンカットは使わない方向で行くとして、食材ドロップ確率アップがある調理師に変更した方が良いですかね」
「短剣使いのままだとスキルが無駄になるか。でも短剣使いのレベルは上げたいよなー」
短剣使いのレベルは上げたいが、ウサギの肉も欲しいのでどちらで戦うか悩む。
調理師になると攻撃力が下がるので、リコさんかトウコさんにアタッカーになってもらう必要がありそうだ。
「そうなんですよ。戦闘で使うジョブのレベルは上げておきたいですよね」
「悩ましい選択だなー。お嬢様は何かやってみたいジョブとかありますか?」
「うーん。ジョブじゃないんですけど馬の代わりに、あのウサギに乗って戦ってみたいですぅ」
ウサギに跨るお嬢様とか凄くファンタジーで可愛いと思います。
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