01-0005.再戦ですよぉ
「大丈夫ですよトウコさん。しっかり目を開いて振りましょう」
「えい!」
五匹目のゴブリンをトウコさんの力強いスイングで止めを刺す。
今しがたの五回目のポイズンカットで眩暈がしたので、もう僕の魔力は半分を切ってしまったようだ。
「すみません、トウコさん。魔力が半分を切ったので一旦部屋に戻ろうと思うのですが良いですか?」
「はぁーい。ゲートで戻りますかぁ?」
「いいえー。ここだとゲートが使えないので歩いて部屋まで戻りましょうか」
「ダンジョンゲート!本当だぁ出ないですねぇ」
トウコさんも自分の目で確かめたいタイプですね。分かります。
「あ、ゲートが開かなくても魔力は減るんですが、眩暈は大丈夫でした?」
探索者レベル1の時に、ゲート一回で眩暈がしたのを覚えているがトウコさんは大丈夫だろうか。
「何かが減った感覚はあるんですけど、眩暈は無いですよぉ」
もしかして魔力はINTで決まるのだろうか?トウコさんのINTはレベル1だった時の僕よりも倍の数値の10だ。何となくだが合ってるような気がする。
帰りにゴブリンを三匹倒しポイズンカットも3回使ったが、これ以上は残り魔力的に止めておいた方が良さそうな気がする。
「そうだトウコさんって僕よりも年上で良いんですか?誕生日が1月でも学年は上になりますけど」
「誕生日は11月29日ですよー。お姉さんですぅ。えっへん!」
胸を張るトウコさんの1129(イイニク)の日に、目が吸い込まれる。
トウコさんが顔を赤らめモジモジしている。なるほど、バレテーラ。
最初は、どうなるかと心配していたが、今ではトウコさんと二人でも気軽に雑談が出来るぐらいには、なってきている。
部屋に戻り、直ぐに水を飲み魔力を回復する。
トウコさんの方を見ると、時間を確認していたので腕時計を横から覗き込んだ。
「まだ30分も経ってないので、もう一度いけますね。そろそろトウコさんのレベルも上がると思いますよ」
「は、はぁーい。頑張りましょー」
先程と同じ道を歩んで行き、開始から十匹目のゴブリンを倒したトウコがステータスカードを確認する。
「やりましたぁ。レベルが上がりましたよぉ」
「おー、順調ですね」
笑顔のトウコさんが嬉しそうにカードを見せてくる。
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松元燈子 18歳♀
ジョブ:探索者(02)
『ダンジョンゲート』
『LUC小アップ』
STR 9 INT 11
VIT 5 MND 8
DEX 4 CHR 9
AGI 4 LUC 50+10
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ゴブリン十匹で、レベルが1から2に上がりステータスがLUC以外1ずつ上昇している。僕と同じだな。
自分のステータスカードを確認するが、短剣使いのレベルはまだ上がっていない。
止めを刺さないと駄目なのだろうか?それとも必要経験値が探索者と短剣使いで違うのだろうか?まだ判断は出来ない状態だ。
そう思ったが、十一匹目のゴブリンでステータスカードを確認するとレベルが上がっていた。
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時園実 17歳♂
ジョブ:短剣使い(02)
『ポイズンカット』
『AGI小アップ』
探索者(03)
STR 7 INT 6
VIT 4 MND 6
DEX 6 CHR 6
AGI 9+5 LUC 75+10
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「こっちも上がりましたよトウコさん」
ハイタッチの構えをするトウコさんに、ハイタッチで合わせる。
「「イエーイ!」」
これで止めを刺さなくても経験値が入る事と、一人でも二人でも止めの経験値は同じ事が確定だ。
必要経験値がジョブ毎に違うが有力だけど、まだダメージを与えるだけと、止めを刺すで貰える経験値が違う可能性も残されている。
「このまま残り時間まで頑張りましょうかー」
「はぁーい」
約束の時間になったので部屋に戻るが、リコさんはまだ戻っていなかった。
倒したゴブリンの数は十八匹で、落としたゴブリンナイフカードは6枚だ。
暫くするとダンジョンゲートの黒い壁が現れリコが中から出てくる。
「ふぅ、すみません。少し遅れました」
「お帰りなさーい。私達もさっき帰ってきたばっかりですよぉ」
「お怪我はありませんでしたか?お嬢様」
「ミノルくんが居たから大丈夫ですよぉ」
「お帰りなさい。どうでした?」
「三十二匹までいけたよ。ゴブリンナイフカードは2枚出た」
なるほど、LUCがドロップ率に影響してる事が確定した瞬間である。
「こっちは十八匹で、カードが6枚ですね」
「……」
「ら、LUCがドロップ率に影響してる事が分かったと考えて、ポジティブでいきましょうよ!」
「そうだなぁ…」
昔、何かがあったのだろうか。LUCの事は、これ以上は触れない方が良いのかもしれない。
「残り八匹なら広場に向かっている最中に、リコさんのレベルが3に上がると思うので、少し休憩したら広場のゴブリンに挑戦してみせんか?」
「そうだな、挑戦してみるか」
綺麗に洗浄して干しておいた水筒に水を入れ、ボディバッグに突っ込む。
「私は、探索者のままで良いのか?」
「あー。拳使いスキルのタウントが、名前からターゲットを引き付けるスキルだと何となく分かるんですが、まだ確認が出来て無いので、出発前に試してみましょうか」
ジョブを拳使いに変更して三人で部屋を出る。
「ではリコさん。倒してしまわないぐらいにゴブリンの相手をお願いします」
リコさんが右拳にハンカチを巻き始める。
「了解した」
ゴブリンがリコさん目掛けてナイフを振るうが、当たるか当たらないかギリギリの綺麗なスウェーでかわされる。
凄いなボクシングの動きだよな。これはゴブリンとのステータスの各が違う。
そろそろ良いかな。
「こっちだゴブリン。タウント!」
狙い通りターゲットがリコさんから僕に変わる。
「確認できましたー。リコさんもう良いので、倒しちゃってくださーい」
鋭い右フックがゴブリンの顔面にヒットすると、膝をついて崩れ落ち黒い粒子になって消滅する。
当然のようにカードはドロップしなかったが、何も言わないでおく。
それにしても凄い威力だ。素手でもリコさんならゴブリンを一撃で倒せるんだな。
この攻撃力だと、探索者レベル3になったリコさんが拳使いにジョブを変更したら、ガード兼アタッカーが出来てしまいそうだ。
「よーし、広場に向かいましょう!」
「「おー!」」
三人で奥に進み、道中全てのゴブリンをリコさんの右拳が屠っていき圧巻だ。
合計で四十匹目のゴブリンをリコさんが止めを刺すが、今までのゴブリンからは当然の如くカードは出ていない。
ステータスカードを確認しながらリコさんが訪ねてくる。
「ふう、レベルが3になったぞ。色々ジョブを取得したが拳使いで良いよな?」
「やったぁ、リコさん。おめでとぉ」
「ありがとうございます。お嬢様」
「はい、拳使いでガード兼アタッカーでお願いします」
「了解した」
リコさんのステータスカードがチラっと見える。つっよ。
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御劔里琴 23歳♀
ジョブ:拳使い(01)
『タウント』
『AGI小アップ』
探索者(03)蹴り使い(01)治癒使い(01)…
STR 11 INT 5
VIT 8 MND 6
DEX 12 CHR 5
AGI 12+5 LUC 10
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「MNDが大きく下がるジョブですけど、リコさんだと弱点に見えないですね」
「MNDってなんだ?」
「はい、はぁーい。MNDはMindの略で精神や心ですぅ。ファンタジー小説やゲームだと魔法防御などの耐性と回復に影響するパラメーターでぇ、リコさんは魔法攻撃に弱くなってますぅ~!」
ビシッ!
トウコさんがポーズを決めて、リコさんを指さす。可愛い。
「えぇ…。だとしたら魔法を使ってくる敵が現れるって事ですかぁ」
「大丈夫ですよぉ。リコさんなら魔法が飛んできても回避出来そうなステータスをしてますよぉ」
「そうか、当たらなければどうということはないって奴ですか」
赤い奴ですね。それ以上はいけない。
残りの道中で出会うゴブリンは、全てトウコさんが倒したがレベル3までは足りなかったようだ。
ゴブリンナイフカードは3枚出た。これで僕が17枚でリコさんが10枚の合計27枚だ。
「リコさんが持っているカードじゃないゴブリンナイフはどうします?」
「うーん。鞘がないから正直邪魔なんだよなー」
「なら投げたりするので、僕が持ってますよ」
リコさんからゴブリンナイフを預かる。
「軽く作戦会議をしますか。正面はリコさんで、僕は左側に立ちポイズンカットでゴブリンを毒にする事を優先しますね。トウコさんは右側で無理をしないで、隙を見て特殊警棒で殴ってください。」
「はぁーい」
「今はハンカチで我慢するけど、バンテージとか贅沢言わないから、拳を保護する布が欲しいな」
「布ですかー」
食料、防具、布と欲しいものがドンドン増えていく。
「さぁ、行きますよ!」
「「おー!」」
ゴブリンの正面に立つリコが、軽くジャブを打つとゴブリンが盾でその攻撃を難無く防御する。
リコがゴブリンの懐に潜り込み拳を連打するが、全て盾で防がれて決定打にはなっていない。
カウンター気味にゴブリンの斧が振り下ろされるが、当たるか当たらないかの僅かな距離で避けていて正直凄い。
ポイズンカットと唱えながらゴブリンナイフを投げるが盾に弾かれてしまった。
その隙にリコさんの右フックがゴブリンの顔面を歪ませる。
これは、盾で防がれないようにポイズンカットを撃つのが凄く難しい。リコさんとの連携も上手く取れない。
「えい!」
メキィッ
うわぁ。ゴブリンの後頭部にトウコさんの特殊警棒の一撃が炸裂し、ゴブリンの視線がトウコさんに向く。
「おい、そっちじゃないぞ。タウント!」
「ポイズンカット!」
ほぼ同時にスキルが発動して、上手くゴブリンの腕にポイズンカットが当たるが、どうやら毒にすることは出来なかったようだ。
「ミノル。私の動きは気にせずに、どんどん撃って良いぞ。こっちで合わせる」
「はい、助かります。ポイズンカット!」
左利きのゴブリンの、右手に持った盾で器用にポイズンカットが防がれる。流石に後ろに回り込まないと駄目か。
リコさんが何故か素早くバックステップをした。すると元居た場所に、ゴブリンの斧が鋭く振り下ろされる。
……数秒先の未来でも見えてるのだろうか。ゴブリンの攻撃はリコさんには当たらない。
そして斧が振り下ろされた隙にポイズンカットを放つと、ゴブリンの顔がみるみると紫色になるのが分かった。
「よし!毒が入りました!」
先程よりもゴブリンの動きが鈍くなっているようで、リコさんの強烈な右フックがゴブリンの顎に当たる。
ふらつくゴブリンの後頭部に、又もトウコさんの一撃が炸裂する。
短剣の攻撃も加わり可哀そうになるぐらいの滅多打ちだ。
最後にトウコさんの一撃が決まると、ゴブリンが膝から崩れ落ち黒い粒子になり消滅する。
「ふぅ、毒が入ったら一気に楽になったなぁ」
「毒に弱いのかもしれないですね」
ハイタッチの構えのトウコさんにリコさんと僕で順番にハイタッチする。
「「イエーイ!」」
黒い粒子の後には、カードと銅メダルの様な物が落ちてるのを確認し拾う。
メダルには精巧なゴブリンの顔が刻まれていて、カードには盾の絵が描かれている。
裏面をみると『 Gファイターバックラー 』と書かれていて、少し緑が濃かったゴブリンはファイターだったようだ。
「ゴブリンファイターだったみたいですよ」
リコさんにカードを渡す。この銅メダルはブロンズゴブリンメダルで良いのだろうか。用途が全く分からないが。
「盾かー。人数分欲しいな」
リコさんがカードを破ると、光の粒子が集まり、縁が金属で出来た木製の丸盾に変わっていく。
「すまんミノル。このGファイターバックラーはトウコお嬢様で良いか?」
盾は僕も欲しいが、レディファーストだ。トウコさんが持っていて問題ない。
「そうですね。僕もリコさんも回避型のジョブなのでトウコさんで大丈夫です。良くあるゲームの設定だと、ゴブリンファイターは復活する可能性もあるので、また手に入りそうですしね」
「助かるよ。そうだ、落ちていたメダルはどんな感じだった?」
「ゴブリンの顔が描かれた只の銅メダルですね。通貨なのかどうなのか。用途不明です」
「うーん。それはミノルが持っていてくれ」
他に何かないかと広場を一通り確認してみるが、上り階段以外は特に何もない。
「他には何も無さそうだな。そろそろ階段を上ってみるかー」
「ちょっと待ってくださ~い。ヒール!」
トウコさんが治癒魔法のヒールを唱えているという事は、先程のゴブリンファイターで探索者のレベルが上がったのだろう。
「おー、治癒魔法ですか」
「やりましたね。トウコさん!」
「えへへ」
レベルアップまで、もう少し掛かると思っていたが広場の魔物の経験値は他の魔物よりも多いのかもしれない。
「では行きますかー」
「はぁーい」
この階段の先は出口に繋がっているのだろうか、それとも地上へと繋がる道の途中なのだろうか。
三人は不安を口に出す事無く、静かに階段を上っていくのだった。
次回からは、偶数日での投稿になりそうです。
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