01-0003.二人の来訪者ですよぉ
その晩はいつもの夢を見た。
窓がない真っ白な壁に、少し高い天井。
部屋の中心にベッドが置かれていて、そこで僕は眠っていた。
先程からベッドの横で、白い椅子に座る少女が楽しそうに僕に喋りかけている。
少女が何かを伝えようとしているが、今回も上手く聞き取れない。
『ううーん…。うるさいよー…』
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――…
ダンジョンに来てから、2日目の朝を迎える。
あれから目を覚ました僕は、レベルアップの為にゴブリンを探し求め、ダンジョンを彷徨っていた。
ボディバッグを前掛けに、右手にはゴブリンナイフを握りしめ、目の前のゴブリンに止めを刺す。
これでゴブリンナイフカードは10枚を超えたが、まだレベルアップはしていない。
もうそろそろレベルが上がっても良いような気がするんだけど、ゴブリンだとレベル2以上は経験値が入らないとかないよね?
不安が頭をよぎるが、次のゴブリンを倒すと脳内にアナウンスが流れる。
『 短剣使いを取得しました 』
「んん?短剣使い?」
ボディバッグの中に閉まっていたステータスカードを見ると探索者のレベルが3に上がっている。
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時園実 17歳♂
ジョブ:探索者(03)
『ダンジョンゲート』
『LUC小アップ』
短剣使い(01)
STR 7 INT 7
VIT 8 MND 7
DEX 6 CHR 7
AGI 8 LUC 75+10
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今回もレベルが上がるとLUC以外のステータスが全て1ずつ上昇しているのが確認できたので、LUCは固定値でほぼ確定だろう。
それよりも取得した短剣使いはどこだ?どこでジョブの確認が出来るんだ?
ステータスカードをベタベタと触っていると反応があった。なるほど、今選ばれているジョブを長押しか。
ジョブを探索者から短剣使いへと変更してみる。
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時園実 17歳♂
ジョブ:短剣使い(01)
『ポイズンカット』
『AGI小アップ』
探索者(03)
STR 6 INT 5
VIT 3 MND 5
DEX 5 CHR 5
AGI 8+5 LUC 75+10
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VITが5も下がっていて耐久面で少し不安だが、AGIが探索者レベル3と同じ8なのでAGI小アップと合わさり探索者よりも回避型のジョブなのかもしれない。
それよりもポイズンカットが気になりゴブリンナイフを構える。
「ポイズンカット!」
何も無い所へナイフを振るうと、紫色の短い斬撃が飛ぶ。
試しにもう一度、ポイズンカットを唱えてみたが、何故か紫色の斬撃が出てくれない。
少し待ってからもう一度ポイズンカットを唱えると、今度は普通に紫色の斬撃が飛ぶ。うーん、再使用時間か?
何度かポイズンカットを試してみたが、どうやら30秒ぐらいの再使用時間があるようだ。
これは良い。実にファンタジーっぽい。近いうちに魔法使いにもなれたりするのだろうか。
ゴブリンで試し切りがしてみたい。
今までだと考えられない物騒な事を考える僕は、ゴブリンを倒すうちに、すっかりファンタジーに染まってしまったのだろう。
見つけたゴブリンにポイズンカットを撃つが、一撃では倒れなかった。威力自体は高くないのだろう。
ゴブリンの顔がみるみる紫色になっていったので、試しに止めを刺さずにゴブリンの攻撃を回避する。
暫く回避し続けるとゴブリンが倒れ黒い粒子に変わる。毒が効いたのだろう。
次のゴブリンで、ポイズンカットの毒は100%では無い事がわかった。
二発三発と、ポイズンカットを放つが、今回のゴブリンは中々、毒にはなってくれない。
それから四発目のポイズンカットで顔が紫になったゴブリンが、暫くすると黒い粒子になり消滅する。
減っているような感覚があったけど、やっぱりか。
四発目で眩暈がしたのでポイズンカットでも魔力を消費している。
ボディバッグから、綺麗に洗浄して水飲み場の水に入れ替えたペットポトルを取り出す。
一口水を飲むが、残念ながら魔力が回復してるようには感じない。
これだと駄目なのか。だが水分補給用には使えそうなので良しとしよう。
合計五回のポイズンカットで二回成功か。
40%だが一匹目のゴブリンは一回目で毒になっていたので、実際はもっと低い確率のような気がする。
思っていたよりも使い勝手が悪いスキルだけど、毒で階段前のゴブリンをどうにか出来ないだろうか。
まあ、魔力も減っているし経験値を稼ぎながら部屋に戻るか。
部屋に近づくにつれて、聞き覚えがある騒々しい音が聞こえてくる。
ドンドンドン!ドンドンドン!ドンドンドン!
曲がり角から顔だけを出して確認をしてみると、二匹のゴブリンが部屋の扉を叩いていた。
何故だ?何故ゴブリンが扉を叩いている…?もしかして…、中に人が居るのか…?
逸る気持ちで、自然と体が動いた。瞬く間に二匹のゴブリンは黒い粒子に変わり消滅する。
ドアノブに手をかけて気が付く。ノックをした方が良いのかな。
コンコンッ
「扉を開けますよー。驚かないでくださいよー」
そっと扉を開けると部屋の中では、手に特殊警棒を持ち、美人だけど目つきが鋭いポニーテールの女性が、破れたスーツの腕部分から血を流しながらこちらを睨んでいた。
隠れていて良く見えないが、後ろに中学生ぐらいの女の子の姿も見える。
「……待て。すまないが、それ以上は近づかないでくれ」
「リコさぁん。あの人の手にナイフがぁ」
「…はい。お嬢様は、私の後ろへ…」
ミスったな。手にゴブリンナイフを持った男とか誰でも警戒する。
「ナイフとバッグを地面に置きます。ポケットの中には何も入ってません」
ポケットを裏返し、ゴブリンナイフから離れる。
「僕の名前は、時園実と言います。話を聞いてもらっても良いでしょうか?」
スーツの女性が、ゆっくりと頷く。
「外の怪物は、僕がそのナイフで倒しました。ナイフは怪物が持っていた物です」
うん。カードの説明が上手く出来ないので、こうなったが嘘は言ってない。
「貴方の腕の出血は止まりそうですか?」
「御劔だ…。縛ってはいるが…、そろそろ出血で倒れそうだな…」
やばいか?急がないと取り返しがつかない事態になるかもしれない。
「ミツルギさん。今から怪物を一匹連れてきますので、そのナイフで止めを刺してください」
「んん…?」
「扉は開けて行きますよ!怪物は入って来れないので!」
僕は猛ダッシュでゴブリンを探しに行く。
「お、おい…!」
左へ右へと通路を走るが、先程まで倒しながら帰ってきたので近くにゴブリンが居ない。
頼む、この先の丁字路のどちらかに居てくれ。
「よし、居たっ!」
丁字路から右の通路の先に、こちらにまだ気が付いてないゴブリンがいる。
走りながら近づきゴブリンが振り返る前に拳で殴る。
拳なら死なないよな?ゴブリンは倒れて動かないが黒い粒子にならない。よし!
素早く上着のジャージで、ゴブリンの手足を縛りTシャツで猿ぐつわをして担ぎ上げる。
「ミツルギさん!こいつに止めを!」
「待て待て待て…、何故止めを…?そいつは、まだ生きているんだよな?ほ、本当に、止めを刺さないといけないのか…?」
残念ながら何故ゴブリンを倒さないと駄目なのかを、今説明できる自信がない。仕方ないが勢いでやってしまおう。
「大丈夫ですよミツルギさん。魔物は暴れないように縛っているので首にナイフをスッと入れるだけです。それだけでミツルギさんも後ろの女の子も助かるんです。さあ!今なら気絶してるので大丈夫ですよ。さあ!」
「あ、ああ…」
ミツルギが戸惑いながらゴブリンの首にナイフを突き刺す。
なるほど、外から見るとこうなっていたのか、綺麗だな。
彼女の体が光の粒子に包まれると、まるで体が再構築されているように見える。
光の粒子が胸に集まりステータスカードが現れ地面に落ちる。
「光が…、探索者って…」
「ミツルギさん。足元の黒い板を拾って、一度部屋に戻りませんか」
「そうだな…。すまないが知ってることを全て説明して貰うぞ…?」
※ ※ ※
「なるほど、ステータスカードか。まるでゲームだな」
僕はゴブリンを縛っていたジャージとTシャツを水洗いしていた。
岩壁の割れ目にナイフを突き刺し、洗った服を引っ掛けると、囲炉裏の前で座るミツルギさんと女の子の反対側で胡坐をかく。
「すみませんミツルギさん。火を持ってないでしょうか」
「すまない。煙草は吸わないんだ」
「いえ、こちらこそすみません」
ミツルギさんの隣で座る女の子に目が行く。
妹のマヤノと同じぐらいの年齢だろうか。童顔でボブカットの女の子は、背は低いが白いニットから主張する二つの山が凄い。まるでメロンだ。
「あ、あのう」
メロンが喋りかけてきた。
「あ、挨拶が遅れて御免なさい。私、松元燈子って言います…。助けてくれて、あ、ありが…とう…」
何故か顔を赤らめモジモジしているが可愛い。
「はい、ミツルギさんが元気になって良かったです。僕は時園実って言います」
「リコで良いよ。私もミノルって呼ばせてもらうから」
「わ、私もトウコで大丈夫ですよぉ!」
「じゃあ、リコさんとトウコさんで」
「なあ、一つ聞きたいんだが、ゲームみたいな感じだが死ぬんだよな?」
「はい、昨日ゴブリンに倒されている男性を見ています…」
「昨日?ミノルは地震前からここにいるのか?」
「いいえ?17日の早朝の地震で道路に飲み込まれてから24時間以上は、ここにいると思いますけど」
「私達とほぼ同じ日時だな。私達は1時間ぐらい前に、この部屋に辿り着いたんだが…、ミノルは時計を持っているか?」
僕は首を横に振る。
「ならこれを持っておけ。ほらっ」
リコさんが自分の付けていた腕時計を、こちらに投げてきた。
「良いんですか?」
「ああ、時計ならトウコお嬢様も持っているから心配はいらない。だが携帯電話が壊れてしまったのか電源が付かないのが痛いな。なあ…、正直ミノルは現状をどう考えている?」
「かなり厳しい状況だと思います。まず食料がこれしか無いのでのんびりできません」
二人に一箱四本入りの栄養バー残り七本をみせる。
「1時間程行った場所に上りの階段を見つけたんですが、防具で固めたゴブリンが居て突破出来ない状態なんです。上の階層に食料があるのかも分からないんですが、出来るだけ早く突破する必要があると思います」
場に沈黙が流れる。
「それと…。三人が生き残る為には、トウコさんにも探索者になってもらう必要があります」
「…そうか」
何かを考えているのだろうか。厳しい顔でリコさんが天井を見上げている。
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