01-0002.ダンジョンゲートですよぉ
ドンドンドン!ドンドンドン!
「入ってまーす」
あれから部屋に戻れた僕は、喉の渇きを潤し囲炉裏の前で胡坐を組んで座っている。
さっきから扉を外から叩いているのは多分さっきのゴブリンだろう、何故か扉を開けて中には入って来ないようだ。
色々確かめてみると、いくつか分かったことがある。
「ダンジョンゲート!」
何かが体から抜けていく感じと眩暈がする。
部屋の中でダンジョンゲートを唱えると高さ2メートルの黒い壁が現れた。
どこかと繋がっているのかと、手を伸ばしてみるが唯の黒い壁だ。まだ何か条件が足りないのだろうか。
黒い壁が消えたのでダンジョンゲートをもう一度唱えてみたが何も起こらない。
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時園実 17歳♂
ジョブ:探索者(01)
『ダンジョンゲート』
『LUC小アップ』
STR 5 INT 5
VIT 6 MND 5
DEX 4 CHR 5
AGI 6 LUC 75+10
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黒い板のステータスカードには表示されていないが、ゲームだと定番の体力と魔力がありそうな気がする。
体から抜けていく感じなのが多分魔力で、ダンジョンゲートを一回唱えると半分以上の魔力を消費していそうだ。
何となくだけどダンジョンゲートを、二回唱えるのに必要な魔力が不足している感じがする。
次に縁が赤褐色のゴブリンナイフと書かれたカードだが、良く見ると縁に切り取り線が書かれている。
破ってしまっても良いのだろうかと、先程から悩んでいる状態だ。
ドンドンドン!ドンドンドン!
「ちょっと待ってね。もう少しかかりますよー」
外のゴブリンが急かしてくるが、素っ気ない返事で返しておく。
意を決して切り取り線に沿って力を入れると、綺麗にカードが破れてナイフの形に光の粒子が集まりだす。
「綺麗な光だなぁ、おっと!」
光の粒子が消えると、その場所から青緑色の短剣が現れて地面に落ちる。
これは先程のゴブリンが持っていた青緑色のナイフだ。
「うーん…」
例えナイフが有ったとしても、相手が小学生サイズの軽いゴブリンだとしても、ナイフを持ったゴブリンは正直怖い。
もしゴブリンと戦うにしてもナイフを弾く事が出来そうな、小手か盾の身を守れる防具が欲しい。
辺りを見回すが、盾の代わりになりそうな物は残念ながら見つからなかった。
「都合よくそんな物は無いか…」
僕は上着のジャージを脱ぎ、左腕にグルグルと巻き始める。
これだけだと心許無いが、何も無いよりはマシだろう。
ドンドンドン!ドンドンドン!
そろそろ扉をしつこく叩いているゴブリンを、どうにかしないと先へ進めない。
「はいはい、今出まーす」
大丈夫だミノル。落ち着けミノル。一度倒したゴブリンだ。
右手にゴブリンナイフを握りしめ、勢い良く扉を開くと同時に後ろへ飛び退く。
「「………」」
来ないのか……?ゴブリンと目線が合うが、こちらに入ってくる様子がない。
ゴブリンに軽く手を振ってみるが反応はない。
やはり来ないのか……?何故だか分からないが部屋には入っては来ないみたいだ。
うーん、もしかしたら部屋から安全にゴブリンを攻撃できるのではないだろうか。
ゴブリンの顔にナイフを突き立てる。
ガキンッ!
そんな美味い話はないみたいだ。
部屋の中からの攻撃は、見えない壁に防がれてしまう。
僕は、おもむろに靴を脱ぎゴブリンに目掛けて投げてみるが結果は同じく見えない壁に防がれる。
これも駄目か。
だけど、これじゃあゴブリンが邪魔で外に出る事が出来ないな。
と思っていたがゴブリンが数歩下がり、手のひらを上に向けて手招きのジェスチャーをする。
「グギャギャギャ!ギャッギャ!」
何を言っているのかはわからないが、何を伝えたいのかは分かった。
臆病者、中で閉じ籠ってないで、外に出てきて戦えと。
「スーッ、フーッ」
大きく息を吸い、吐く。
覚悟を決め、勢いよく部屋から飛び出す、と共にゴブリンが飛び掛かって来る。
ゴブリンの左手に握られ突き出されたナイフを、ジャージが巻かれた左腕で、上から下へ強く弾くとナイフがゴブリンの手から零れ落ちた。
そうしてナイフを落として無防備になったゴブリンの胸を、右足で強く押し蹴る。
転がる足元のゴブリンの首にナイフを突き立てると、ゴブリンは呆気なく黒い粒子になりカードを残して消えた。
な、何だ今の冷静で素早い僕の動き…、これが探索者の力なのか…?あんなに苦戦したゴブリンがこんなにあっさりと倒せるなんて…。
先程とは違う自分の体と心の変化に少し驚く。
足元に見えるカードは、さっきと同じゴブリンナイフだったので無造作にカードをポケットに突っ込み一旦部屋に戻る事にする。
扉を叩くゴブリンは居なくなったが、次はどうしようか。うーん、さっきは左に進んだから、次は右の道に行ってみるか?
右の道を進むと、すぐに曲がり角で行き止まりになっていた。
行き止まりには、ダンジョンゲートと同じ高さ2メートルの黒い壁がある。
おもむろに黒い壁に手で触れると、脳内にアナウンスが流れた。
『 セーフエリアと接続しました 』
良くわからないが、これでダンジョンゲートが使えるようになったのだろうか。
「ダンジョンゲート」
うっ…やばい。魔力が足りていない。全身からごっそり魔力が抜ける感覚がある。
激しい眩暈で右手から黒い壁に吸い込まれると、そこはさっきまで居た部屋だった。
どうやら魔力が底を付くと眩暈が激しくなるみたいだ。
僕は、気持ち悪くなりフラフラと水飲み場の方へ歩き出す。
「プハーッ!生き返る!」
水を飲むと底を付いていた魔力が回復している感じがする。もしかすると魔力が回復する水なのか。
「ダンジョンゲート!」
現れた黒い壁に頭だけ突っ込むと、そこはさっきの行き止まりの場所なのが確認できた。
黒い壁に触ってゲートを接続する必要があるみたいだ。しかし、これだけだと流石に近すぎるから他にも黒い壁がありそうだな。
先へ進むには、また左の道に行かないと駄目か。あそこは男性の遺体があるから嫌なんですけど。
5分程、左へ右へと歩くと、あの場所に戻ってきたが男性の遺体が見当たらない。
代わりに衣服と革製のボディバッグだけが、男性がそこに居たのだろうと思わせる感じで置かれていた。
不自然に置かれた衣服で推測する。
綺麗に遺体だけが溶けて消えたみたいな。もしかして死んだらダンジョンに吸収されるのか?
遺品のボディバッグの中には、蓋が空いていないペットボトル飲料と栄養バーが二箱入っていたが、残念ながら身分を確認できる物は入っていなかった。
申し訳ないが、ボディバッグは持っていこう。革製なので気休めだけど前掛けで防具にする。
グーッ。
今が何時か分からないが、昨日の夕飯から何も食べていない僕のお腹が鳴る。
うーん、緊急事態だ頂こう。栄養バーを齧りながら迷子にならないように、慎重に奥へ進んで行く。
※ ※ ※
あれから1時間は経ったのだろうか。
見つけた上り階段の広場前で、斧と盾を振り回す防具を身に着けたゴブリンがこちらを見つめている。
ゴブリンの討伐数は十匹目から数えるのを止めたが、手持ちのゴブリンナイフカードは5枚、良くわからない白紙のカードが1枚だ。
100%ドロップだと思っていたゴブリンナイフカードは、落とさない時もあった。
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時園実 17歳♂
ジョブ:探索者(02)
『ダンジョンゲート』
『LUC小アップ』
STR 6 INT 6
VIT 7 MND 6
DEX 5 CHR 6
AGI 7 LUC 75+10
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いつの間にかレベルが2に上がっていて、LUC以外のステータスが1ずつ上昇している。
元から数値が高いLUCは、もしかしたら固定値なのかもしれない。
広場のゴブリンは、こちらを認識しているが襲ってくる様子が無い。
どこかで見た光景だ。
右手に持ったナイフをゴブリンに目掛けて投げてみた。が、見えない壁に防がれる。
やっぱり駄目か。
周りを良く見ると、ここは小部屋のような待機場所になっていて、端に扉が1つある。
恐る恐る扉を開けてみると、そこは部屋にもあった洋式トイレで、壁際には同じように穴が空いている。何だか拍子抜けしてしまう。
ここならダンジョンゲートが使えそうな気がするが、一度帰るか。それとも戦ってみるか。
レベルは上がったが、まだダンジョンゲートを二回連続で使えるか試していないので今使うと帰らないと駄目かもしれない。
一度戦ってみて、無理そうなら逃げる。よし、これで行ってみよう。逃げれるよね?
ナイフを構え広場に侵入する。
防具を身に着けたゴブリンは、良く見るといつものゴブリンよりも肌の緑が濃いような感じがする。
ジリジリとゴブリンににじり寄り、防具で守られていない首に狙いを定めナイフで突く。
ガキンッ
攻撃は盾で難なく防がれるが、気にせず連続でナイフを振るう。
「くそっ、駄目か」
防御に徹するゴブリンに、こちらの攻撃が通らない。
逆にカウンター気味にゴブリンの斧が振り下ろされてやばい。
このゴブリンは、まだ僕には無理だ。撤退の判断が良さそうだ。
バックステップからゴブリン目掛けて素早くナイフを投げる。
難なく盾で防がれるが、その間に反転して脱兎のごとく力の限り逃げた。
ワンテンポ遅れてゴブリンが追いかけてくるが、僕が広場から出ると諦めたのか中央に戻っていく。
ふぅ。あの防御を貫ける攻撃力が必要だ。レベルを上げるか武器をどうにかしないと無理そうだな。
「ダンジョンゲート!」
2メートルの黒い壁が現れる。
やはりここでゲートが使えるみたいで良かった。ここで使えないとまた1時間もかけて、来た道を戻らないといけない。
部屋に戻ってダンジョンゲートが連続で使えるか試してみると、先程よりもマシだが激しい眩暈と共にダンジョンゲートが開く。
フラフラと水飲み場に向かい直ぐに魔力を回復する。
さっきの広場前に戻れるのかと確認したが、部屋から出て右の行き止まりの方としかダンジョンゲートが繋がらず一方通行かとガッカリする。
思っていたよりも疲れていた僕は、囲炉裏の前にしゃがみ込むと、深い眠りに誘われてダンジョン探索1日目が終わるのであった。
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