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第81筆 星の咆哮、鎚が刻む新たな誓い

「アッハッハッハッ、怒りよ、守りも破壊も全部やっちまえ!〘罰光の連刀〙──!」


 俺は怒り狂っている。

 空中に立ち、光熱を圧縮した光剣が天まで伸び、ガルダが倒れるまで何度も振り回す。


 全てを灼き尽くし、跡形も残さない。


「神性の怒りは静まらねぇ。あの者を滅せ。〘裁定(さいてい)熱界雷(ねっかいらい)〙ッ!


 無数の雷光が矢となって降りかかる。

 ガルダに直撃するたび、痛みと命を傷つける重みと、責任感が()し掛かってきた。


「これが痛みか⋯⋯俺をもっと滾らせろや!」


 こちらが優勢かと思った時、彼は低く唸った。



「⋯⋯フッ。バケモノ神にゃ、おれが“赤牙”に戻るしか無いな」



 ──その言葉と同時に、空気が変わった。


 重く、冷たく、粘つくような霊気が広がっていく。

 灰混じりの髪はさらに深く、血のような紅に染まり、肌の紫は漆黒へと侵食されていく。


 大剣と斧の境目が滲み、武具が呻いた。


(まさか……これが、ガルダの“赤牙”か──!?)


 俺は咄嗟に身構える。怒りの光剣はまだ手のひらで唸っているが、指先が震えていた。

 恐怖ではない。


 「追いつけるのか──」という、理性の叫びだった。彼は大きな声で捧げる。


「祈り、叫び、狂え。〘断罪の狂斧カオス・エクスキューショナー〙⋯⋯!」


 その時、ガルダの眼が涙と同時に光った。


「来い、彩武流。おまえの“誓い”が本物かどうか……この“赤牙”の刃で、試してやる。この重さを、命の重さと思えッ!」


 ──異形の大斧が、俺の脇腹を伐採した。


「グアァァァァ!!」


 その激痛に絶叫してしまう。

 大気を切り裂きながら唸る怨嗟は、激情と共に重く苦しい一撃だった。


「てやんでぃ、傷が治らねぇ⋯⋯!?」


 止めどない脇腹から噴出する金色の血。


(やはり、修行中に血液が変質したのか)


 抉れた筋肉は、即刻治癒する自分の体質を、完封していた。傷口から、死者たちの復活を待望する怨念が染み込む。


『⋯⋯ワシを、生き返らせろ⋯⋯!』


『オマエの身体⋯⋯奪ってやろう⋯⋯!』


 大斧から出てきた怨霊が、さらに体内へ潜り込んだ。全身の神経が拒絶の軋みを上げていく。


 ガルダは俺に対し、通常斬撃じゃ効かないのを直感で読み取ったのだ。

 だから、負の感情と霊気が生きた細胞を憎み、接合を引き剥がす方法にした。


(この怒りだけではダメだ。もっと命の思想を知れ)


 鈍痛は常に追随し、思考を鈍らせる──これは、命を刈り取るのではない。


「アンタは、“命を伐採”してやがる⋯⋯! 一打、また一打と大樹へ斧を打ちこむように、俺っつう命を伐採してんだろッ!」


 ガルダは口角を少し上げた。


「そうとも。この狂斧で生き残ったものは、まだいない。おまえが先例になってみせろ!」


 ──速い。

 残影があちこちに残り、爆発的な威力を受け流す。大斧を跳ね返そうとするも、重すぎて微動だにしない。

溢れ出す赤黒い霊気が重さを加速させている。


「怨念と霊体による超重量化と高速化付き⋯⋯厄介だなぁ! 〘八百万十条斬やおよろずじゅうじょうぎり〙──!」


 ならば、速度勝負をしよう。


 マッハ数十の神速で、怒涛の連撃を進め、極彩色に光る百の斬撃を浴びせる。

 そのまま七色に輝く千の斬撃へ光剣を振り上げた時。


「──おれを舐めるなよ。ぬんッ!」


 眼の前にガルダが。

 気付ければ、大回転斬りで、俺の両腕は宙を飛んでいた。


「ゔぅぐぅぅぅぅぅぅ⋯⋯」


 激痛に呻きながらも、癒しの神力を放出。すぐに新しい腕を生やす。


「おまえ、ヒトを辞めてるな」


「何を言う? 神の領域に入界せしヒトだ」


 手元に武器はない。

 それでも続く重苦しい連撃に、俺は二本指で大斧をつまんで、受け止める。


「くっ、なぜ動かん⋯⋯!?」


「その膂力と霊気は、もう見切った」

 

 彼が腕を振るわせ、顔に汗を伝う姿。


 絶対の間合いを作る。

 過去に生きた者と、現在を生きる俺。


 彼から放たれる霊気や怨嗟、痛みと重さと斬った感触に至るまで全て。


 ──俺が慈悲で包みこんで、背負えば良い。


「遊びは終いぜ。良い学びだったらぁ。理不尽な怒りと、刀のお時間は終わりってんだ」



 見境の無い天空の怒りから、静寂と爆発を繰り返す大地の怒りへと転化していく。


「俺が剣士だと、どいつが決めた? 十の武器種を使いこなしてこそ、彩武流の境地に立てる」


「⋯⋯ほう、面白い」


 これは、星々を一発で砕く。

 それは、唸りすぎて、精神を壊す。

 あれは、強過ぎて戦いの技術を喪失させた。


「十神が忌み嫌った破壊の権化、君に見せてやんぜ」


 ──彩武流の封印されし武器、解放せん。


「星獣よ、唸り、吠え、轟け。陽響地塵鎚(ようきょうちじんつい)・ガルグルマー!」


 俺はつまんだ大斧を離して、そっと離れる。


「がはっっ!!?」


 突如、熱風を伴った金色の残影が飛ぶ──!

 

 直撃した彼は咄嗟に武器を盾代わりに構えるも、大斧部分は粉々に砕け散り、大剣が折れて半分だけ残った。


 彼の髪の色と肌は白く戻り、纏っていたものは、全て霧散されていった。


「おれの贖罪の証を、“赤牙ノ慟哭(レグリス・プレアー)”を愚弄するか⋯⋯!」


「バーロー、過去の固執なんて辞めやがれ。辛気臭いったら、ありゃしねぇ」


 俺は手元に戻ってきた大槌を肩に置き、ガルダは殴られた存在の小隊に気付く。


「そのハンマー、一体どこにあった!?」


「あっただろ? ずっと腰に」


 ガルダはハッとした顔をした。

 俺の背後の姿を思い出したらしい。金色に光っていた小さなそれに。

 三年の修行中に、鎚神ララたんと一緒に作った思い出の品は、超破壊の鈍器となったのだ。



「⋯⋯ッ!? おい、まさか、腰ベルトに付けた装飾品がこんな馬鹿げた威力を出すわけ──」


「壊れんなよ? ご機嫌ナナメの“神器”が吠えるぞ。ブッ潰せ、〘天轟壱砕(スカイ・インパクト)〙──!」


「おい、待て、デカ過ぎ──」


 その大きさ、数十メートル超の大鎚。それを、ガルダに目掛けて振り下ろすっ!


 ブラックホールと同等の質量が加算された黒白の大衝撃は彼の霊体を潰し、地面を突破。


 やがて次元の境界線に衝突して異空間全体に空間震を引き起こした。


 彼が誘発した怒りは、段々と収まっていく。


(これが命の重さと責任。ぶつかった感触。俺の慈悲の刃は、全て背負い、包みこんで前に進むんだ)


「──そこまで! この鍛錬、オミくんの勝利とします!」


「勝ったのか⋯⋯」


 ずっと見守っていたミューリエの凛々しい声で、鍛錬は終わったのだと自覚する。


(勝負には勝ったけど、思想の深みでは向こうが上手(うわて)だった)


 俺はガルダの強さと、背負う想いの素晴らしさをたたえて、スカウトすることにした。


 彩武流の重要な地位の提供を──。


 

【次回予告】

第82筆 赦しの流派、彩武流

《10月5日(日)19時10分》更新致します


※前話の81筆が入力ミスによって、予約投稿されておりませんでした。お待ちいただいている読者さんにはご迷惑をかけしました。お詫び申し上げます。


活動報告はメンタル面の不調と幻聴の悪化により、現在お休みしております。

予約投稿は続けて行きます。今後とも宜しくお願い致します。

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