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第75筆 ゆがんだ熱血指導

 連携のプロと呼ばれたらしいけど、本当なのかな? 改めて英霊名鑑で確認した。


───────────────────────

英霊 ID.50639741


名前:メロセディナ・フォリス

異名:“連響の華将”

特徴:音楽の世界ソスカ・ウネスの軍事国家で、連携術と音楽に通じた指揮官を務めていた。現在は、霊界にて連携のプロとしての指導と、音楽活動を趣味でしている。


経歴:幼い頃から厳しい教育を受け、軍人として才能を開花。戦乱の時代、数千人に同時指揮と連携を行い、自らは演奏しながら戦い抜いた。音楽が重視されるソスカ・ウネスで戦楽団の価値は高く、かなり重用された。現世での彼女の葬儀には、数百人が押しかけたと言う。


受講者からは熱血指導が多いと意見がよく出ている。まだ英霊としての経験は浅いため、英霊登録所は様々な感想やレビューを召喚主に募集している。


英霊登録所 公認・登録済み

───────────────────────


 不穏なフレーズたちが頭の中をよぎった。


(経験が浅い、熱血指導多め、戦楽団⋯⋯何だか嫌な予感がする)


 いやいや、自分よりも長く生きているかもしれない人生の先輩に対して、失礼極まりない。

 霊体は最盛期を再現したり、好きな年齢の姿を選べると噂で聞いたことがある。


 初対面の人を最速で(けな)すのは良くない。英霊に登録されるほどの功績を成した人だ。


 ──敬意を大事にせねば。


「ではメロセディナさん、よろしくお願いします。俺が求めるのは、柔軟で臨機応変な連携術です」


「任せてください! 私、プロですから。ドカンと熱く、激しく教えます!」


「信じましょう。連携用の“幻影”と闘技場、出現せよ」


 連携にはある程度の人数がいるので、俺とメロセディナ用でそれぞれ十体、合計二十体用意した。


 ついでに王様役の幻影も一体ずつ作っておく。この子が倒れたら、負けである。


 この異空間では、召喚をせずとも、“幻影”ならいくらでも作れる。

 血は出ないので、赤い絵の具が代わりに出るようにしている。便宜上、血と呼ぶ。


「指揮と連携の指導を開始する。総員、構え。連携姿勢は第二番、血響(ちひびき)っ!」


(血に響くのか⋯⋯)


 メロセディナが指揮杖を手にした瞬間、周囲の空気が引き締まった。白い幻影たちは一矢乱れぬ姿で、彼女の指揮に応じ、攻撃を開始した。

 

「戦場は舞台。連携は芸術であります!」


 俺はあえて黒い幻影たち──トウゴウ隊をバラバラに配置し、メロセディナ隊の攻撃をかわしていくが、動きがかなり速い。


「盾神相伝・守護の陣を展開。半月状にしつつ、頃合いを見て攻勢に出よ。俺はうまく連携する。随時信号を送れ」


 トウゴウ隊が頷き、展開完了と同時に、メロセディナ隊が轟音の演奏が出る武器を振り回し、地面が血まみれになっていく。


「さぁ、どんどん蹂躙するのです! 雄叫びを上げ、踏み潰し、大地を血に染めなさい」


 なんだ、コイツ。目がらんらんと赤く輝いている! デスメタルの演奏者みたいだ。


 俺が求める“慈悲の刃”とは全く別物の発想じゃないか。

 

「彩武流・戦描の陣、行け!」


「さぁ、この王の御前に血祭りを持って祝福の音楽を奏でるのです! クヒャハハハハハ!」


(こっわ、戦いで人格変わる人だ)


 俺は絵の具を撒き散らすように、大胆不敵な攻撃をしながら、冷静に対処を続ける。


 トウゴウ隊は王と俺含め、残り六人。

 色を塗り重ねるように滑らかな動きで、二人ずつで確実に倒していく。


 だが、あちらは型なんて一切ない、ただの“なぶり殺しの連携”を続けている。メロセディナは武器から響く斬撃音や、打撃音が聞きたいだけだろう。


(この指導、ハズレな気がする。このやり方では、長くは持たない)


 俺は第一脳で回避の連携を指示しながら、第二脳で拳神ダンジンとの愛ある熱血指導を思い出す。



『──ここは構え方を変えるったい。守りの型だ』


『こうですか?』


『違う! だが、すぐに実践する姿勢、とても良いぞ。右手をやや上にだな──』



 ダンジンは、厳しかった。だけど、俺の良い所を時々褒めてモチベーションを上げる──アメとムチのバランスが取れていた。


 このメロセディナには──ムチ指導しかない。


(熱血って、もっと愛があると思っていた)


 メロセディナ隊は、トウゴウ隊の二人一組の攻勢で各個撃破していった。残るは王とメロセディナ、白い幻影ら五人のみ。順調である。


「追い詰められているですって!? 戦は音楽よ! 激しいメタルビートを刻め!」


 相手側は斧や鎚、大砲など、重量級の低音が響く武器で反撃を始めた。メロセディナが先陣を切ってサーベルを手に、俺へ食らいつく!


(はぁ、耳が痛い。自分は、人の心を動かすような絵が描きたい。こんなの違う……)


 もう本気を出すのもバカバカしいから、盾神から教わった盾術で、攻撃を跳ね返しながら、吹き飛ばしていくことにした。


 ──つまり、制圧術だ。


 しかし、残りの黒い幻影も二人だと言うのに、メロセディナは図太く指示を出す。


「わたくしはロボットも鍛えました! 行動はクレッシェンド、デクレッシェンド、スラー、規定通りに!」


 ガッチガチに固まった規律だらけの行動になったことに、俺はがっかりしながら、制圧した。

 残るは、王とメロセディナのみ。


「……やれやれ。それじゃあ、現場では役に立たないよ。柔軟性がない……」


 冒頭の連携指示の一瞬だけは見事に整っていたのに、拍子抜けした。


「なんですって!? 先生に楯突くのですか? ブッ殺してやる!」


 彼女は顔に青筋を立てて、サーベルを手に猛攻を開始する。だが、近接戦闘は俺の庭だ。数撃の後、峰打ち、今度は拳で腹を殴りつけた。


「くあはっっ!!?」


 即座に受け身を取り、蒸気のような白い吐息で、まだやるかと思ったその時──


「シュミレーション中止っ! ガルダ、マティア、やれ」


「おう、じっさん」


「あいよ、クーさん」


 クーがメロセディナ隊、王の幻影にゲンコツで撃沈。闘技場から白い更地に戻す緊急号令を。


 ガルダと呼ばれた戦士風の男が羽交い締めにし、マティアと呼ばれたドワーフィム女性が縄を取り出す。


 現在、メロセディナは、正座でがんじがらめに拘束されている。温厚そうに見えたクーから、静かな怒気が放たれている。


「雅臣くん、今からこやつを叱咤する。君は大馬鹿者だ! 召喚主に殺害予告だけで謹慎処分。もし沙汰なんて起こせば、即刻、地獄行きになるんだぞ! わかっとるのか!?」


 クーの年長者としてのキツいお灸に、ハッとした顔で、狂乱状態から目覚めたメロセディナ。


 ──やがて、目元から反省の涙を浮かべた。


「ご、ごめんなしゃい⋯⋯わたくし、久々の教え子にヒートアップしちゃって⋯⋯こんなつもりは無かったんです。地獄だけは、勘弁してくだしゃい。う、う、うぇぇぇぇぇん──!」


 ついには子どものように嗚咽をあげながら、泣きじゃくってしまった。誰にでも、地獄行きの恐怖はあるらしい。


「⋯⋯霊界にすべて自動で記録されてる。ウソは付けん。道を(たが)えるなよ」


 戦士ガルダは要点だけ伝えて、メロセディナをなだめるように肩を叩く。


「ん? 誰か来たわさ」


 マティアが指差した方向には、大浴場から帰って来たミューリエが。


「あなたたち、一体何をやっているんですか?」


「ミューリエ、かくかくしかじかなんだよ」


「私に宿る祝福の影響で、大体の事情は分かりました。雅臣くん、逆指導しましょう」


「祝福すごっ! 大体分かるんかいっ!? まぁ、俺からは教え合いをやりたい。魂の磨き合い、大事だろ?」


 ミューリエが吹っ切れたような笑みをこぼす。


 ──お風呂で雑念を祓い清める“禊の湯”みたいな事をしたのかな? 

 いきなり手を繋がれても、他意を感じない。

 やはり、昔どこかで出会ってて、そこからのご縁な気がする。


 ミューリエの手から伝わる血流、呼吸音で、俺も大体わかった。


「オミくん、いくよ」

「あぁ、せーの」


「メロセディナ・フォリスさん、あなたに逆指導と教え合いをしますっ! 慈悲と調和の連携、見せて差しあげましょう」


「は、はぃぃぃ!」


 俺とミューリエの同時宣言に、メロセディナはたじろぐ。

 楽しい愉しい合同訓練の始まりだ──!

【次回予告】

第76筆 ポンコツ先生へ逆指導しよう

《9月24日(水)19時10分》更新致します

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