表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/88

第73筆 動物の心と共鳴せよ

 この異空間は百分の一の時間の流れだ。

 クーは俺が朝ルーティンの最中という状況を加味した上で、一時間半で見つかるヒントを与えてくれた。

 


「この異空間すべてに五体、隠れておる。動物と同じ目線と気持ちになれば、おのずと見つかるわな。特徴は──」


 牧場で不可視なオスの乳牛、ファム。


 森の恥ずかしがり屋なエゾリス、心輪(ココワ)


 無邪気な幼体のティラノサウルス、ネイブ。


 川辺の臆病な魔物の(よど)(ガエル)、ミュタヌート。


 俺が昨夜召喚した、空で飛び続ける鷹の弥助(やすけ)とのこと。



 ──まずは雄牛ファムからにしよう。


 出来たばかりの高原牧場は、俺の記憶を元にした空間だ。しかし、二〜三回ぐらいしか行ってないので、曖昧な作りになっている。


「ファムはどこだ〜?」


「私は随行しながら見守ろう。三人は好きにしてくれ」


 頷いた英霊三人も暇そうなので、一緒に探し始めた。もし先に見つけても、俺にはあえて教えないらしい。

 

「あのサイロの後ろが怪しい⋯⋯」


 回り込んで探してみると、光の粒と足跡が見つかった。雄牛(おうし)ファムは霊獣らしく、草が食べられた跡すらある。


「その調子だよ。続けなさい」


「はいっ! ずっと歩き回ってるから、あそこかな」


 柵で囲まれた牧場の草原を、ひずめで踏みしめた足跡。

柵を飛び越え、辿り着いたのは──厩舎だ。


「あっ、やっぱり水飲んでる」


「ンモゥゥーー」


 黄緑色の大地の力を感じる光を放つ牛、ファム。のどの渇きを癒すため、水分補給していた。

 この子はくりっとした瞳と口元が可愛らしい。


「さては、隠密の魔法でも使っているな? 霊体で不可視化しているだけじゃなかった」


「モゥゥゥーー♪」


 どうやら、当たりらしく、頬ずりがくすぐったい。斑紋(はんもん)の背中を撫でていると、クーが褒めてくれた。


「良い流れだ。行動心理学の基礎ができているね。わたしは絶滅寸前のコアラを手懐ける時も、そうしたものだ」


「あれは凄かったです! お陰様でオーストラリアにてコアラ、抱っこできましたよ」


 俺はすかさず、あの時の写真を胸ポケットから出した。  満面の笑みの俺、コアラ、コラボイラストと映る姿。  売り上げのほとんどは保護活動に回した。


 クーの功績は、俺たち画家にとっても、頭が下がる存在なのだ。


「おぉ、良い写真だね。君なら──いや、次は、エゾリスの心輪(ココワ)ちゃんを探そう」


 まだ会って間も無いのだ。途中で言わなかったこと、いつか話してくれるのかも。



 *



 二体目は、森の恥ずかしがり屋なリス、心輪(ココワ)である。


 この異空間で山といえば──“(けが)れ落としの霊山(れいざん)”しかない。


 毎朝、昨日溜まった雑念や迷いなどを山道で脱ぎ捨て、清めてから山頂近くの道場で素振りをする。


 木々の枝葉は風で揺らぎ、リスが入ったことでざわめいていた。


「恥ずかしがり屋が隠れそうな場所は⋯⋯木の(うろ)かも」


 この霊山に点在する木の洞は、かなり多い。洗練された神力が溜まり、それ自体が一日の(けが)れを(はら)う浄化の矢が、万単位で撃たれるからだ。


 早速、マッハ速度で全部をチェックしたが、どこにもいなかった。

 英霊ら四人は俺の速度にやや引き気味だったが、気にしないことにする。


「恥ずかしがり屋なんでしょう? どっかに隠れるんじゃないのか?」


「──へぇ、意外なところにいるらしい。心輪(ココワ)ちゃんは、君を試しているようだ」


 地面に触れて、銀色の神力で探知したが、植物の脈動以外は何にも感じない。

 クーは、肩を叩いて忠告した。


「それだと、もっと逃げる。相手の立場になって考えるんだ。もし、君が恥ずかしがり屋で、目が怪しく光る人に追いかけられたらどう思う?」


「怖いですね。相手の立場に⋯⋯か」


 神力では怯えてもっと姿を現さなくなるだろう。隠れる所──山頂近くの道場しかない。


 俺が道場の扉をそっと入って一礼すると、灰色を帯びた褐色のリスが、大神棚の銅鏡に見惚れていた。


「光り物が好きでね、銅鏡に心惹かれたのだろう」


心輪(ココワ)、良い気づきになった。ありがとう」


「きゅきゅっ」


 次の瞬間、ものすごい跳躍力でクーの胸元に飛びつき、彼は慣れた動きで抱えた。


「おや、雅臣くんに握手を求めるのかい?」


 俺のことを認めてくれたらしく、そっと手を差し伸べる。

 すると、心輪(ココワ)はぎゅっと小さな手で握ってくれた。柔らかな感触と暖かさが俺の心を射止めたが──


「ここはゆるやかに⋯⋯」


 グイグイ行くと恥ずかしいから、逃げられる。逸る気持ちを抑え、感謝と嬉しさを穏やかに伝えた。


「ありがとう。良かったら毎朝来ないか?」


「キュルキュル〜〜!」


 心輪(ココワ)は、俺の三年使い込んだ赤樫(イチイかし)の木刀を指差す。


「どうやら君の素振りの邪魔をして、成長を促す算段らしい。三体目はネイブくんだ。彼は厄介だぞ」




 幼きティラノサウルスは異空間のどの領域にもいない。俺は木星ゾーンで途方に暮れていた。


「ネイブは、どこにいるんだーー!?」


「があぅぅぅ!」


「いたっ!」


 

 ネイブと追いかけっこを始め、咆哮と共に異次元の扉を開いてまた気配が消えた。


「ネイブくんは転移魔法のプロなのさ」


「そんな恐竜がいてたまるかっ! って、いるんだから仕方ない」


 無邪気とはよく言ったもんだ。

 俺に心を読まれることを、ネイブは遊びの延長と思っている。

 だが、彼の遊び心を読み取っていけば、心を通わすことができるはず。


「多分ここだろう」


 俺はウィズムや念描神ザフィリオンと出会った思い出の場所──“泉”をずっと特別視している。

 

 まだ研究段階だけど、泉から召喚物が出るような場所を作っていた。

 その召喚時に消耗する神力が最も集まるのが、この“召喚の泉”だ。


「ぎゃおぅぅぅぅ!」


「転移魔法のエネルギー切れで補給するなら、ここが最も最適だもんな」


 光の反射で水色や青緑色に見える水面は、溢れ出す神力による影響。


 ネイブにとっては、走り回って汚れた体を洗い、エネルギーも補給できる。野生の勘で導かれるまま、ここに来たに違いない。


「これは、これは⋯⋯思ったより早い発見だ」


 クーはネイブを撫でながら、恐竜型の笛を軽く吹くと、その中に入っていった。


「四体目は、蛙のミュタヌートか。ぷっくり系だと、けっこう好きなんだよな」


 動物との心の通じ方、少しずつ分かって来た気がする。面白い子だったら、友達になれそうだ。

【次回予告】

第74筆 親身な心は、種族差を超える

《9月21日(日)19時10分》更新致します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ