第72筆 はじめての英霊召喚
──雅臣視点──
神力の流れから、ミューリエは大浴場に入ったようだ。色んな設備があるから、喜んでくれると嬉しいな。
早速、俺は新たに牧場と草原のシュミレーション空間を作った。広大な土地で動物たちや、武器との絆などをやるには、やはり連携を必要とされるだろう。
英霊名鑑から、ピックアップされて表示されているのは十四人。その中でも、今の俺に合いそうなのは──四人だ。
全身写真があるから、そのまま模写すれば良い。
「呼び名はこれにしよう。わが魂と共鳴せし者よ、共に歩み、時に導きたまえ。〘英霊召喚〙──!」
高速で描いた四人の似顔絵と注釈欄の情報が閃光を放ち、人の形を取っていく。
仕上げに極彩色の絵の具状の光が霊体を形作った。まるで魂の色彩がキャンバスに描かれるように──。
現れたのは、老獪そうな男性、戦士風の男性、指揮官風の女性、馬に乗った小柄な弓持ちの女性だ。
最初に近寄ったのは、老獪そうな男性だ。
長い白髪を結び、笑いジワのある目元。腰に大小無数の笛が絆の多さを物語る。
しかも肩には昨夜、俺が喚んだ鷹がいる⋯⋯!
名前と異名から動物に深い愛情を注ぐ者と、俺は推察した。
「はじめまして。自己紹介の前に──すまないが、ちょっと打ち合わせさせてくれんかね」
「どうぞ、どうぞ」
いきなり呼ばれたんだ。情報共有は必要だろう。
数分ほどの打ち合わせをして、だいたい共通したことを言われた。
「わたしら、雅臣くんの事を噂で知っておった。エリュトリオンの邪神討伐に挑む者でしょう?」
老獪そうな男性は、にこやかに呟く。
「英霊登録所でおれらは登録してきた。おまえのことは知っている。慈悲の刃を持つ者と」
木の幹に寄りかかり、腕を組んで話す戦士風の男。
「私も存じております! あなたの絵は霊界でも人気ですから!」
存在自体が楽器みたいな⋯⋯指揮官風の女性。
「あんた、神々と三年の修業をしたんだって? 根性あるじゃないか!」
そう言って親指を立てたのは、身長百二十センチくらいの豪快なおばちゃんだ。二股に分かれた耳だから、おそらくドワーフかも。
「──俺、霊界でもそんなに有名になってるのか。東郷雅臣です。絵画召喚師やってます」
老獪な男性は、不思議そうな顔をして問われた。
「この絵の具みたいなエネルギーの残滓。もしや、原始召喚術かね?」
「神々はそう呼んでいました」
彼は目を丸くした。
「こりゃ、たまげた。三人よ、雅臣くんは未来の英傑だ。原始召喚術は使い方を誤ると、即死するからね。みんな知っておいてくれ」
三人が青ざめた顔をしている。俺も自己蘇生できるとは言え、ちょっと怖いんだけど。
「わたしはクー・モリハナ。かつて動物心理行動学の権威と呼ばれておった」
クー・モリハナ、動物行動心理学と聞いて、心に引っかかった。似た名前をどっかで⋯⋯?
クーは空なんとか? モリハナはひっくり返すと──
「もしや、あなたは、花森空一朗さんですかっ!? 十年前に地球で亡くなり、動物との絆は右に出るものなしと言われたあの⋯⋯!」
「何だ、知っておったのか。花森空一郎改め、クー・モリハナだ。東郷雅臣くん、またの名をあずまたいよう。たった三年で日本一のイラストレーターと呼ばれ、“魂を宿す画家”と呼ばれた若き俊英よ。絵描きとして霊界でも有名だ。よろしく頼む」
「お会いできて光栄ですっ!」
ものすごい人に出会った。英霊名鑑をもう一度、確認すると、情報が解禁されていた。
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英霊ID.2053791215
名前:クー・モリハナ(本名:花森空一朗)
異名:“森羅に歩む獣師”
特徴:地球で動物行動心理学の“世界的権威”だった男性。現在は動物霊界にて恐竜や魔物との絆の構築を模索中。
経歴:花森プロジェクトの創始者。
それは、花森空一朗が立ち上げた人類都合による動物の絶滅を防ぐ──一大計画。
その保護活動は地球の動物の三割の現存数を増やし、七百種以上を復活させた功績を持つ。
ゆえに、数十体もの動物と同時に交信ができる。時折、人間霊界で人助けをしており人格者。
ガルダ=レグリス(本名:ガルダリケ=レグリス)とは、友人関係にある。
英霊登録所に登録・公認済み
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「わたしの登録情報は見たかね?」
「はい、見ました。動物と心を通わせ、人の心すら打ち解けるカリスマ術を教えてください!」
にこりと微笑んだクーの姿に、背筋が伸びた。肩に止まっていた鷹が飛び立ったからだ。
「カーカッカッ、鍛錬はすでに始まっている。各地に隠れた動物たちを見つけて、連れて参れ──!」
動物の心を読み、気配を読む。それが絆の紡ぎ方になるのだろう。
クー・モリハナとの鍛錬が始まった。
【次回予告】
第73筆 動物の心と共鳴せよ
《9月19日(金)19時10分》更新致します




