第68筆 万象は目覚め、始動する
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──???視点──
南方大陸、シュルハ法皇国の執務室。
「古き厄災の兆候じゃ。まさか、言い伝えの通りとはのぉ⋯⋯」
法皇は冒険者ギルドの連絡と、各地を襲った世界同時魔物奔流に震え上がった。
「六聖神様、生の神様、死の神様よ。我らに希望を示し給え。此度こそ、イカイビトの救いが現実とならんことを⋯⋯」
法皇は大聖堂に移り、祈りを捧げ始めた。
救世主の到来と、己にも救いの力が宿り、前線に出れることを。
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中央大陸、魔導国家エンシの玉座。
「世界が騒がしい⋯⋯眠れん」
深夜に目覚め、玉座に腰掛けた魔導王は呟く。
「抑制の楔──抜けかけている。守護の再構築が、間に合わん」
彼が世界を守るためにかけた大結界魔法が、また一つ破壊されていった。
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同大陸のある道場。
神棚の前に、若き青年が正座姿で啓示を受けていた。
「──はっ、“剣祖”様。必ずや、おれの代でイカイビトと共に邪神を討ち滅ぼします」
彼こそ、皆がよく知る剣聖をも超えた世界最高の剣技を誇る者、“剣神聖”である。
襲名して数年の若き天剣聖は、大きく震える剣を見て呟く。
「“聖剣”が騒いでやがる。イカイビトと邪神復活⋯⋯世界が動き始めたんだな。ワクワクして眠れねえぜ」
彼は薄く笑い、聖剣を握って素振りの鍛錬を始めた。
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東の果ての島国は、高瑞津国。
将軍が戦の昂り冷めぬまま、揺らめく行灯の炎に照らされ、手紙を書いていた。
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拝啓、冒険者ギルド本部へ
貴殿らの努力のおかげで、わが国は助かった。感謝申し上げる。
こちらの国でも海洋生物と鬼たちの凶暴化が見られたが、静めることができた。
世界は暗雲へ曇り始めた。
さりとて、希望の炎は消えぬ。偉大なる建国者にして先代イカイビト様は、邪神に弱点を追加した。
我々は諦めず、抗い続ける。共に精進しよう
将軍
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手紙を折り、将軍は八咫烏に託し、飛ばした。世界の真の平和の到来を勝ち取るために。
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とある辺境の島。
昨夜、雅臣とミューリエを襲った“黒衣の男”がビーチチェアでくつろぎながら、世界各地で揺らぐ反応を見てあざ笑う。
「クハハハハハッ! 塞は投げられた。わが計画は始まったばかりよ。人よ、魔よ、世界で踊れ」
影と同化し、にゅるりと消えていった。
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場所は戻って、冒険者ギルド本部の入口前。
月が煌めく夜中に、本部総帥と秘書ミトハの姿があった。
「ミトハ、これをやってくれ。シャルトゥワ村の全記録の収集と、歴代イカイビトや雅臣に関する全情報の開示請求をせよ」
「承知しました」
彼女は急いで手帳に書き留めた。ハルトリッヒは呟く。
「⋯⋯始まりの地は変われど、やはり導かれるのは“あの意志”か」
歴代イカイビトを導いてきた“大元の存在”がいることに、彼は気付いていた。
「あの青年の前に、全てが交差し始めている。今度こそ⋯⋯失わぬために動こう」
背中に搭載したジェットパックへ魔力を圧縮。両手からも魔力の奔流を噴出し、戦闘機のような動きで飛び立った。
目指すはシャルトゥワ村へ。
【次回予告】
第69筆 拳闘士は名乗らずに去る
《9月12日(金)19時10分》更新致します。




