第61筆 報酬金の重みは、感謝の重み
「やったぞォォォーー!!」
「いよっ、救世主っ!」
「イカイビト様、ばんざーい!!」
「イカイビト様によって、村が、村が救われたぞォォーー!」
気がつけば、俺は冒険者たちに担ぎ上げられていた。どうやら即席の神輿まで用意されたらしい。
ルゥもいつの間にか、俺の膝の上にちょこんと座っている。
「ちょ、ちょっと待て――わわっ!?」
「いいじゃねぇか、英雄さまァ!」
神輿から階段が設けられ、降りると、今度は青い髪の少年がレッドカーペットを敷いた。
良く見たらあの不良冒険者だった。
「もしや、ヴィセンテくんか!?」
「ウッス。ささ、お通りを。後で戦果を聞かせて下さいッス」
(あのヴィセンテが、スカウトしただけで、こんなに礼儀正しくなるか……? 何があったんだよ)
戸惑いながら冒険者ギルドに入った瞬間、目に入ったのは、魔力を用いた大型映像装置──魔力式画面が用意されていた。
すでに切り込み班の全員は揃っている。
「お帰り、雅臣。アンタは最後だから、呼ばれるまで待ってな」
(──何で最後なんだ?)
支部長のシノが大声で宣言する。
「これより、シャルトゥワ村周辺と始まりの草原でで発生した魔物奔流の報酬金、二千二〇〇万リブラと特殊報酬金を分配していくっ!」
これに冒険者全員が、割れんばかりの拍手喝采を送った。俺もつられて拍手する。
「リブラの額に応じて、布袋の色が変わります。銅が1百万、銀が百五〇万、金が三〇〇万、赤が特別用、黒が王国報酬専用ですね」
王国専用報酬とはいったい⋯⋯?
「順次呼びます。まず最初に、ダルカス・シュナイデ・ファルカオさん!」
「あぁ」
受付嬢リコに呼ばれ、彼は落ち着いた佇まいで、シノがいるカウンター前に立つ。
「雅臣の騎馬術指導と、全て一撃で十四体の暴走火竜を撃破。報酬として百五〇万リブラ支払う!」
「よっ、“|万武の竜殺し”っ! ヒューヒュー!」
「スライムのルゥちゃんとやらに魔晶魂食われたんだろ? コレクターなのに、かわいそうだな」
「うるせぇ。私は若者への投資を優先しただけだ……ハァ」
ダルカスはため息をつきながら、銀色の布袋を受け取った。
*
「お次にディルクさん!」
「おうとも」
あれ? 名字を呼ばないんだな。
「ゴブリン神官とゴブリン王の討伐フォロー。不死鳥ハウザーによるコボルト王の討伐を含め、報酬金として百五〇万リブラ支払う!」
「感謝する。しかし、なぜダルカスと同じ額なのじゃ?」
「おいおい、金持ちだから要らんだろ」
「黙れ、若僧が。儂のハウザーは世界一じゃ」
「はいはい、そこまで! いつもの小競り合いはやめて下さい」
腐れ縁なのだろうか?
ディルクが、「この程度にしてやるわい」と吐き捨てて、定位置らしき凹んだソファに座り込んだ。
*
「三人目、喚意庫のカキア=ウェッズさん!」
「うん? にゃあなのか?」
戸惑いながらもカキアはぽてぽて歩き、カウンターの上に座った。
「盾と短剣を使い、窮地を救われた報告多数。補給と回復薬で戦線を維持しながら、士気を向上させた。報酬金、百万リブラを支払う!」
「⋯⋯こりゃ嬉しいのう。にゃあは感謝するわい」
「きゃーっ、“お猫様”ッ! あの時、盾で守ってくれなかったら、死んでましたのー!」
「“お猫様”、貴方の回復薬で蘇生したり、腕がくっついた!」
カキアは女性冒険者からの歓声が多いようだ。
「礼はいらんにゃあ⋯⋯これで旨い飯を食える」
「あら、命の恩人さん。ご飯おごってあげるわ!」
カキアは少し笑い、銅色の布袋を咥え、背中のファスナーを開けて投げ入れる。
俺は行って良いと目配せして、その女性の元に座り込む。
──やっぱ、あいつ気まぐれ猫だな。
*
「四人目、ウィズム・リアヌ・トウゴウ・アカシックレコードさん!」
「はいっ。どうもなのです」
ウィズムが緊張で距離感を掴めておらず、カウンターテーブルに、彩幻映像が貫通していた。
「さりげない戦闘補助の数々により、生存率が急激に上昇。村人から『難読症が完治した』と緊急報告あり。ギルドより、百万リブラ。村より特別に五〇万リブラ。合計、百五〇万の報酬金を支払う──!」
「ねぇ、“キューブ様”って、新種の知導核なの? いや、陛下の知導王核とも違うし……」
どこかから、疑念の声が聞こえてくる。
このミゼフ王国には、ウィズムみたいな機械生命体がどうやらいるらしい。俺も気になる。
「アンタ、ウィズムの姿に言及は慎みな! 異世界の技術とだけ言っておく」
「すみません、ギルマス」
「頭固ぇぞ。キューブ様のおかげで生き延びたんだからよ!」
「キューブ様、バンザイ!」
ウィズムは魔力で銀色の布袋を持ち上げる。それを本体のコアに抱き寄せ、内部に入れ込む。
人生初の旅と報酬金──彼女の感動もひとしおだ。
*
「五人目、ミューリエ・オーデルヴァイデさん!」
「はい。私って、いくらもらえるかな?」
ミューリエは、礼儀正しくシノに一礼した。
「虚精霊なる存在を使った全員の戦闘援助。ゴブリン神官および、ゴブリン王の討伐。村の英雄と言って良いさね。報酬金を二百五〇万リブラ支払う!」
「えーーっ!? そ、そんなに?」
「“精霊お姉さん”のおかげで生き延びた! あざっす!」
「あの御業、“精霊お姉さん”しか出来ないよ!」
ミューリエは金色の布袋をたじろぎながら受け取る。中身を少し覗いて、手が震えていた。
Sランク冒険者として高難度依頼を受けていても、今回の金額は異常なのかも知れない。
*
「六人目、最後に東郷雅臣さん!」
「おぉ、待ってました! “バケモノ神”さま!」
ついに、俺か。
誰かがふざけて言ってくる異名やめて欲しいのだが⋯⋯はぁ、無理そうだ。
「雅臣さんは順を追って渡します」
「何ごと⋯⋯?」
リコからそう言われ、息を呑んだ。いくらもらえるのだろうか?
「まず、暴走火竜やその他の敵など推定八百体以上を抹消ッ!」
「抹消って、そんなに倒したっけ?」
「邪神の眷属が一種、禁魔合成混沌竜の討伐を達成した」
「雅臣は確かに成し遂げたさね。基本報酬金として、三百五〇万リブラ支払う!」
シノから渡されたのは金の革袋で、けっこう重みがある。これはきっと、感謝の重みだ。
「次点として、アタシの頭の上におる特殊個体のスライムのルゥを捕獲──いや、保護した。冒険者ギルド本部より、保護観察命令あり。特別報酬金を百五〇万リブラ支払う!」
今度は赤色の革袋を受け取る。ルゥはしっかり保護しておこう。
「本部からだってさ! やっぱ“バケモノ神”さまは違うなぁ⋯⋯憧れるよ」
もう、野次に応える気にもならない。無視することにした。
「最後に、村の全員は奇跡を目撃したかい?」
ギルド施設の入り口から顔をのぞかせた村人たちが、一様に頷く。
「シャルトゥワ村と農業地域、始まりの草原草原を、アンタは瞬時に修復した。ミゼフ王国の国庫より報酬金、三〇〇万リブラ支払う!」
黒色の布袋には、ミゼフ王国の紋章らしき意匠が白糸で丁寧に刺繍されていた。
とても重厚ながらも、まるで歴史そのものが詰まっているかのような気配さえ、纏っている。
「雅臣くん、国家からもお金貰ったなんて、結構すごいよ」
「お兄さまは、合計八〇〇万リブラもらったのです」
この村の年収に換算して、三年と数か月分。
普通に暮らしていたら、一生お目にかかれない額だった。
⋯⋯それなら、褒められてもおかしくは無いか。ちょっとだけ鼻が高い。
「これが冒険者の世界か⋯⋯凄えな、これ」
俺は独り言を言いながら、魔力式画面に列挙された金額一覧を見て考える。
カキア:計100万リブラ
ウィズム:計150万リブラ
ダルカス:計150万リブラ
ディルク:計150万リブラ
ミューリエ:計250万リブラ
マサオミ:計800万リブラ
(⋯⋯だけど困ったなぁ。使い道が決まらん)
実は何でも召喚で済ますので、食費と宿泊費以外、主な使い道がない。
絵画教室の開業費や画家活動費、“あれ”とかかな。
“あれ”は前世じゃ法的規制があったし、現世でも伝手が無さすぎるから、まだ先のことだ。
「みんなはどうする?」
「私は、魔法書と虚精霊たちにお礼しなきゃ」
「ボクはやっぱり、義体が欲しいから製造費ですね。百五十万リブラで足りるかな⋯⋯」
「にゃあは補給品と美味いものを買うぞい。むむ、美食の気配⋯⋯!」
──何やら、外から美味しそうな匂いがしていて、とても騒がしい。
「リコさん、これは一体?」
「まさか、気付いてないですか? 雅臣さんたち、“初代イカイビト広場”で『祝勝会』に“お呼ばれ”されてます。絶っ対に参加して下さい! みんな待ってますよ」
(ああ、あの場所か)
リコに背を押され、俺は観光ガイド少年バズと、いちご飴を食べた“初代イカイビト広場”へ行くことにした。
【次回予告】
第62筆 デウス・ルーベル祝勝夜宴
《8月31日(日)19時10分》更新致します。




