第60筆 シャルトゥワ村、復興召喚される
火竜の暴走は鎮めた。
俺はシャルトゥワ村に帰る道中、俺は目を覆いたくなる事実を観てきた。
亀裂だらけな始まりの草原に、農業地域の踏みつぶされた作物の数々──そうだ、閃いた!
「召喚しちゃえば、良くない?」
逸る気持ちを抑え、俺はすぐに村へと到着した。
「英雄様のお帰りか! お疲れさま」
門番ゲルトが、喜色満面で俺の肩を叩きながら迎える。そして集まる村人たち。
「アンタのおかげで助かった」
「家畜や作物、ダメになったんだけど、命あるだけ救いだわ」
「おいバカ、やめろよ! すみません、うちの家内が⋯⋯」
涙ながらに語る麦わら帽子をかぶった夫婦に、俺は革命の火が灯った。
「その話、詳しく」
「え?」
「召喚しますから」
「はい?」
「百聞は一見にしかず。ウィズム、来てくれ!」
「はいっ! ここに」
ウィズムは本体のキューブ姿のまま、彗星の如き速さで俺の前に現れた。
「街とか国の修復用で開発してた〘再生召喚〙を今からする。3D環境データを召喚用画面に出力して。あと脳活性化の特殊電波も」
「承知しました。〘万象観測機〙──!」
描画距離は百kmは優に超えてるが、召喚まで10分ってところか。
これは、前世時代の戦争の経験から、街を元通りにしたい思いで、仕上げたウィズムとの合作である。
まず、人工物はハッキリしていて、描きやすい。
「よし、出来た」
そして、最も難しいのが、農作物や草原などの自然物だ。無限に等しいパターンで構成されているからだ。
しかし、心配無用。
〘画竜点睛〙は、術式の自動補正が俺の手に入る。何らかの意思を感じるのだ。
10分経過し、出来上がり、描き残しが無いか、確認。
「麗しき栄華よ、蘇り、復興せよ。〘再生召喚〙──!」
次の瞬間、景色全体が極彩色に包まれ、全員の身体がジャンプするほどの衝撃が入る。
隣には牧羊犬と豚や鶏、羊たちがいる。数頭だけ証拠としてこちらに召喚した。
「豚やコッコ鳥たちが生きてる! ⋯⋯あれ、こいつ、私の手の合図をちゃんと覚えてるわ!」
ある少女が、飛び跳ねながら喜んでいる。
「ソフィオ、ダメだって──あっ⋯⋯ふふ、またこの癖、死ぬ前と同じだ」
牧羊犬ソフィオに飼い主の女性が舌で顔をなめられ、涙を流していた。
(⋯⋯妙だな。再生召喚は形状データと魔力・神力因子による再構成のはず。けど、なぜこうも自然で、懐かしさすら漂う……?)
そして、青い髪の少女が心配そうに俺を見つめる。
「本当に、作物も元通りに?」
「風に乗って、麦の香りがしないか?」
「言われてみれば、本当ね! 焦げた匂いがしない⋯⋯貴方、神様みたいな人だわ!」
「それは嬉しいな。神様に憧れ、崇敬し、まだ届かない俺にとって、もっと頑張ろうって思う言葉だ」
もしや、自分の祖先に神の因子が混ざっていたりして?
(ま、考えすぎか。いまは復興が先だ)
ついでに、地球技術を転用。
移動用として魔力式浮遊二輪車や、同タイプの軽トラックも150台ほど召喚しておいた。
マニュアル付きで、自動運転や迎撃魔法も出来る優れものだ。
「魔導機械がこんなにいっぱい⋯⋯」
「ありがてぇ⋯⋯! これが召喚術。何でも出来るのか! おれら帰るから、これ、気持ちだべ」
俺は瀕死攻撃を一回無効化する、木彫りの身代わり人形を貰った。
実はこれ、3万リブラする高級品だ。
「ありがとうございます」
「コレ、なんだ?」
早速興味を示したのは、別の青年だった。
「軽トラックとスクーターです。説明書読んでみてください」
「わりぃ。おれ、難読症なんだ。文字が図形に見える」
難読症──文字の学習障害のひとつで、完治は難しいとされている。
「ウィズム医師、頼む」
「はいっ! ボクがイメージを転送するのです。脳特化型の周波数治療──完了。軽トラックなどのマニュアル各種アップデート──完了しました」
青年は俺が渡した紙を、涙を流しながら読み上げた。
「あれ、読める、読めるぞー! 悲願が叶った⋯⋯黒いキューブ様、ありがたや、ありがたや〜〜!」
「ボクの治療、もしかして、魂にも届いてるんでしょうかね? なんちゃって」
手をすり合わせて拝まれるのも無理はない。
なぜならウィズムは、呪い以外なら、脳の機能障害や、内臓の機能不全障害に基礎疾患。すべて周波数と電磁波で治せる。
唯一世界では波動医学の権威と呼ばれていた。
「ありがとよ〜、救世主様!」
彼ら村人は自分のやるべきことをするため、スクーターと軽トラックで帰っていった。
ずっと横目で見ていたダルカスは、複雑そうな面持ちだ。
「雅臣、村の救済は感謝する。だがな、程々にしとけよ」
「その理由は?」
「世界の均衡を崩すからだ。召喚の力に依存して、人類がお前なしで生きていけなくなる」
「⋯⋯覚悟のうちです。仕組みは少しずつ考えてますから」
「そうか。なら、中央大陸のオルレット工業国みたいな、機械融合主義国にならない事を祈ろう。アレは嫌いだ」
「俺は精神テクノロジー発達推進派ですから。その系統、自分も嫌ってます」
「良いか、魂の領域に踏み込むな。⋯⋯いや、何でもない。これは老婆心だ」
そうか、あるんだな。機械と人が融合した国が。忌々しい前世の記憶がよみがえるけど、今は気にすることはない。
「まぁ、今は討伐報告と祝勝会が先でしょう」
「それで良い。お前なりに探して、世界の救済をしろ。先代イカイビト随行者として、お前を信じてるぞ」
俺は頷き、冒険者ギルドはシャルトゥワ村支部に行こうとしたその時。
「いた! 英雄様、さっき絶対なんかしただろ!」
「さっさと連れて行くぞ! ソイヤッ!」
「え、えっ!?」
俺は男二人がかりで身体を掴まれて、神輿みたいなものに乗せられた!
「バケモノ神さまが通る。道を開けやがれぃ!!」
村人全員がふざけて、頭を垂れた。
そのまま神輿の座椅子に座らされて、冒険者ギルドへ前進していく。
ウィズムが「計画通り⋯⋯」と呟いた。
おい、こんの駄妹、絶対召喚時に、何か細工しただろ!!!
【次回予告】
第61筆 報酬金の重みは、感謝の重み
《8月30日(土)19時10分》更新致します。




