表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/88

第59筆 意志貫くイカイビト、喰らう混沌竜

 禁魔合成混沌竜エンシェントカースドラゴンの首筋は、隆起しながら既に再生していた。


 炎天竜ゼノバイシスは「やはりか」と呟き、残念そうに説明する。


「こやつは神器のみ通用する。我らの牙も爪も、魔法も、吐いた炎も効かぬ」


 試しに既に描き起こした大量の絵から喚び出す〘資料召喚アートリンク・アーカイブ〙で“雷の描写”を選択。


 奴の真上めがけて落雷させた。


 しかし、身震いしただけで効果はなかった。どうやら、簡易的に描いた現象の再現じゃ、到底倒せないようだ。


「⋯⋯うむ、よく耐えた。だが、これ以上は無理強いだな」


「⋯⋯?」


「下馬せよ。今ここで、“真の力”を見せろ」


 ──その一言で、縛っていた枷が外れた。


 馬上での戦いが認められたことで、胸の高鳴りが止まらない。俺は鞍から飛び降り、大地を踏みしめる。


 この邪竜一体も倒せない奴をイカイビトとは呼べない、と解釈した。

 並びに召喚師として、召喚獣との連携も見せるチャンスだろう。


「では、遠慮なく」


 地に足をつけた、その一歩が空気を変え始める。



 今から、本気を出す。



 周囲に烈風が荒れ狂い、〘天陽(てんよう)背輪(はいりん)〙は緩やかに回転しながら律動する。


「我が(うち)に燃ゆる太陽よ、いまこそ雷をも従えろ」


 俺は愛刀──霹臨天胤丸(へきりんへんいんまる)を呼び出し、ゆっくりと降ろす。


「初めに“いかずち”あり」


 柄を握った瞬間、積乱雲群の落雷が敵の残党に直撃した。

 しかし、麻痺する程度に留まる程度だった。


「まだいるのか。慈悲を以て滅せ」


 周囲の魔力を金色の神力へ変換し爆発。残党は断末魔を上げることなく、無言で一掃した。

 

 溢れ出る神力の奔流に大半は泡を吹いて気絶していく。

 残った皆は文句を言うも、ゼノバイシスのみが黙して見ていた。


「神域よ、広がれ」


 周囲数kmに、専用領域が自動的に組まれていく。やらなければ人は炭化し、土地が砕け散ってしまう。太陽の神力ですべてが破壊されるからだ。


「⋯⋯始まったな」


 遠くから、ゼノバイシスの声が響く。

 俺は微笑みながら重心を落とし、抜刀の構えを取る。


「まずは試し。刀神相伝、〘雷皇一閃〙」


 

 大地が抉れるほど強く蹴り、風は置き去りに。

刀に紫雷を纏わせて一閃を放つ。


「クゴゥアァァァァァ!!?」


 超音速を超える速度、左脇から右肩まで斬れ、周辺の景色ごとズレた。


「どうした、その程度なのか?」


 口程にもないと思っていたら、何か子どものような高い声が響く。


「きゅうぅぅぅ⋯⋯!」


 禁魔合成混沌竜エンシェントカースドラゴンの胸元から、オレンジ色のスライムが飛び出したのだ。


「そこにいたんだな」


 俺は即座にキャッチし、水色の瞳に星型の虹彩があるスライムを抱き寄せた。

 指笛を吹いて、赤兎馬の尊陽(ズンヤン)の背中に乗せる。


 呆気ない終わりかと思いきや──


「グギャアォォォォォッ!!」


 奴は無数の口が嗤いながら、身体を再生していた。あの口で高位の治癒魔法が使えるらしい。


「へぇ、手応えあるじゃないか」


 俺は、元から悪の存在に容赦をしない性格だ。ゆえに裁きの光と斬撃を下す。


尊陽(ズンヤン)──シンクロリンク、起動!」


 ──額飾りに埋め込まれた角型の装置が銀朱色に光った。


 ただの移動手段じゃない──戦力になりたいという、強い意志が伝わってきた。

 ⋯⋯そうか。君も、世界を救う覚悟と誇りを持っているんだな。


「ブルルッ!」


 ──禁魔合成混沌竜エンシェントカースドラゴンを睨み据えるように、尊陽(ズンヤン)の両目が鋭く輝いた。

 

 もう、互いに“相棒”として認め合っている。

 ──いつでも行けると、彼が目配せしてくれた。



「〘煌炎爆射(チェイス・レイ)〙のチャージ完了──撃て!」


 

 ズンヤンの口元から白熱のビームが迸り、空を裂いて両翼を爆砕した。

 霊子と神力で原理ごと破壊しているため、細胞の再生は不可能──これでもう飛べまい。


「次はもっと斬らせてくれ。試し斬りの相手、ずっと欲しかったんだ」


 俺は再び納刀し──

 そして初撃。抜刀と同時に、極彩色を纏った千の斬撃を加えた。

 身体の大部分がバラバラに切り裂ける。


「まだまだ!」


 続く刃、七色に輝く万の斬撃を加える。神経と筋肉が微塵切(みじんぎ)りになっていく。


「もう少し」


 追撃、三原色に煌めく億越えの斬撃を加える。チリ一つまで残さず、斬り伏せ──


(しま)いだ」


 終撃、黒白の閃光と共に十字の斬撃を刻み、納刀する。


「色の減衰とともに、相手が消失するまで斬り伏せる⋯⋯それが、〘八百万十条斬やおよろずじゅうじょうぎり〙だ」


 だが、ある“部位”だけ宙に残った。


 ──それは全径十メートルほどある赤黒い巨大なコア。


 どうやら、とても頑丈なようだ。

 この技の弱点は一撃ごとの威力が軽いことだな。改善しよう。


「面白い。穿つのみ」


 すぐに弓を背中から取り出し、壁臨天胤丸を矢として、弦を極限まで引っ張る。


「彩武流弓術、〘天穿(あまうがち)彗星一矢(すいせいいっし)〙」


 弓神・弦霞(げんか)の得意技を盗み、放った刀は青紫色に輝きながら、コアを真っ二つに割った。


「きゅううぅぅぅ♪」


 スライムが巨大化して大口を開き、コアを吸引。飴を砕くような咀嚼音のあと、ゴクンと飲み込む。


 すると全身が白く発光。

 左右が膨れながら腕と四本指が伸び、四枚の竜翼が背中からニョキニョキと生えた。


 ぎこちない飛び方ながらも、俺めがけて胸に飛び付く。


「きゅるぅぅ?」


「面白い子だ。君を光の神ルーにあやかり、ルゥと名付ける。俺と一緒に旅をして、世界を救わないか?」


 星型の虹彩を輝かせながら、頷いた。


「雅臣よ、討伐おめでとう」


 背後から拍手と歓声の声。

 振り向くと、ゼノバイシスが巨大な片腕で抱き寄せ、俺とルゥを労ってくれた。


「⋯⋯見事だった。連携は及第点だが、個人としては圧倒的である。火竜暴走の鎮圧および、特異個体ルゥの捕獲依頼、成功としよう」


 彼の鱗はゴツゴツとしているが、とても暖かい。褒美としては申し分ない。


「ありがとうございます。よっしゃ! 冒険者の初仕事、クリアしたぞーー!」


「雅臣──風とも、馬とも、空とも。絆とは、世界すべてに通じるもの」


「ツカヤさん。その真意、もっと理解を深めます。では、鎮魂を」


 天に昇る千を超える白光の数々。あれはこの世を去りゆく霊魂の輝きだ。


(俺は⋯⋯全員を救う)


 シャルトゥワ村と始まりの草原全域の魂をこっそり回収し、召喚用画面の中へ保存。希望者のみ蘇生させておいた。


 帰ろう。勇者(イカイビト)を迎えてくれるシャルトゥワ村へ。

【次回予告】

第60筆 シャルトゥワ村、復興召喚される 

《8月29日(金)19時10分》更新致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ