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第53筆 邪神因子と三件同時スタンピード

 急遽、冒険者ギルドの事務室に動ける者たち全員が招集された。


 空気は張りつめている。そんな中、竜の角と翼を持つ男が、淡々と口を開いた。


「私は“炎天竜”ゼノバイシス様の右腕、ツカヤ。まず一件目。村周辺で魔物軍団1278体。大群だ」


 敵の数がかなり多い。しかも敵の数を正確に言えるのは、竜種が成せる技なのだろう。


「二件目。始まりの草原に侵食された火竜498体と理性がある火竜たちと交戦中。二件とも邪神因子の侵食を確認済み。民間人は、九割避難済み」


「邪神因子とは?」


「生物を狂わせ、邪神を増やす因子です! 侵食されて治らないと眷属になり、最後は邪神化します」


 リコの説明で納得した。この世界は早くも邪神復活の兆しがある。


「──そして、三件目。謎のオレンジ色スライムの捜索と捕獲だ。魔物進化に影響を及ぼしている可能性がある」


 ダルカスが怪訝そうに腕を組んだ。


「異議あり。スライムの捜索? そんなもん、今やる話じゃないな」


 彼は常識人なのだろう。この緊急事態にスライムも一緒に探せなんて、道楽か何かだ。


「もし、“特異点”だとしたら?」


 ダルカスの眉が動いた。これは明らかに普通の個体じゃない。


「なぁ、ツカヤ。それを先に言え。ならば、話は別だ。六聖神様を敵に回したくはないんでな」


 六聖神。この世界の六柱の神々のことだ。そして、“特異点”──その言葉が一番引っかかった。


 ある日のこと。斧神(おのがみ)グレン・ブラードが言った。


『“特異点とくいてん”。その名を聞いたら、必ず助けろ。言い伝えを信じるなら、世界のキーパーソンで、様々な運命を左右する存在らしい』


 ──決めた。

 その子を助けたい。仲間にしたい。


 多分、大きな力になってくれる。俺は頭の片隅に留めることにした。


「他に異議ありませんか?」



「⋯⋯⋯⋯無いようだな」



「では、冒険者ギルドは緊急クエスト三件を受理ッ!」


 リコが進行を補佐。

 魔法用紙(マギア・ペーパー)に慣れた手つきで小鬼族(ゴブリン)火竜(かりゅう)の挿絵を描いて、赤いハンコを押した。


「アタシ、支部長(ギルドマスター)シノの権限をもって、“魔物奔流(スタンピード)”と認定。これを南方大陸(なんぽうたいりく)の危機と判断した」


 仕上げに何か書き、皆に大きく提示した。


「合計報酬金を、二千二〇〇万(にせんにひゃくまん)リブラの山分けとする!」


 シノの宣言に周囲がざわめいた。


「お兄さま。合計報酬は、シャルトゥワ村平均年収の約九年分なのです」


 きゅ、約九年分……!? 山分けして安い額でも、数カ月は安泰な値段になるに違いない。


「──よし、出陣しよう」


 そう言って立ち上がったのは、ダルカスだ。彼は半透明な剣、槍、弓などを持っていた。その得物から異質な力を感じる。


「へぇ、 "万武の竜殺し" ダルカス様も行くのかい。目的は金か? ウーィ、ヒック。ゴクゴク……プハァーー!」


「うるせぇ、酔っぱらいジジイが! 村のためだ!」


「なぁに、水じゃよ。解毒魔法でアルコール抜いたわい」


 あのオヤジは⋯⋯さっきまで周りに酒瓶を散らし、呑んだくれていた髭むくじゃらのオヤジじゃねぇか!


 この人もいつの間にか、背中にブースター付きの大斧を背負っている。あの機構は、地球の技術に近い。


 赤茶色の髪に、みぞおちまである長い髭は、三つ編みで整えられている。彼なりの矜持だろう。


「見ての通り炎鍛族(ドゥミトフ)──ま、いわゆる地鍛族(ドワーフィム)じゃ。鍛冶と魔道の両方に通じた古の民よ」


 もしかして、イカイビトの俺のために、種族名を配慮した?

 ドワーフは訛り音で、ドワーフィムが本来の名。ドゥミトフは更に古い名だったな。


 興味深いヒトだ⋯⋯強めに握手した。


「ダルカスさん、ディルクさん宜しくお願いします」


「どうも……あのー、酒臭いです」


 ミューリエが苦い顔をするが、ディルクは自分の周囲を手で扇いだ。


「これでどうじゃ?」


 一瞬、ディルクの周囲の温度が上がった。直後、戦意を昂揚させるような──爽やかな香りが広がっていく。


 どうやら、アルコールを揮発し、瞬間的に香水を作成。それを振りまいたらしい。


「芳香魔法ですか? 珍しいのを使いますね」


「おや、わかるかね。だが、話は後じゃ」


 ミューリエが興味津々に聞こうとしているが、ディルクはリコの方を指差した。



「事態は火急。村周辺と草原の二組で殲滅します。切り込み班に参加する方は挙手を!」


 四人だけ残った。

 それに加え、ウィズムはカラーホログラムの腕を使い、カキアも肉球を掲げた。


「先、行っておくぜ。頼んだぞ」


 他の冒険者たちは、すぐに前線へ移動し始める。


「話し合いより早いから、くじ引きして下さい!」


 ──リコに従い、くじを引く。


 草原の火竜退治は、俺とカキア、ダルカス。


 村周辺の殲滅は、ミューリエとウィズム、ディルクになった。


「他に質問ありますか?」


 リコさんが皆に問うと、各々が色よい返事をしていった。


 五人と一匹とも意見が揃ったのだ。パーティー結成の瞬間である。


「暴走した竜と魔物は程良く抑制せねばならん。雅臣、おまえが決めろ」


 ダルカスが初めてのパーティー命名権を譲ってくれた。シンプルかつ、わかりやすく。


「〈竜魔の抑制者ドラゴン・サプレッサー〉で行きましょう。⋯⋯暴走を止め、未来を繋ぐために」


「決定だな。良いか、抑えるのは世界の崩壊。それを忘れずに行くぞ!」


 シノに案内され、緊急用の特別降下エレベーターへと乗り込む。


 昨日とは違う、本格的な実戦。胸が高鳴る一方で、不安もわずかに胸をよぎる。

 ──冷静に戦うんだ。そしてみんなを助け、必ず守る。

【次回予告】

第54筆 泣いた少女と泣かない私

《8月23日(土)19時10分》更新致します。


※次回、ミューリエ視点からスタートです。雅臣視点は数話後で更新されます。



【お知らせ】

9/1(月)より週四話の更新へ変更致します。


◉理由

連載開始日から読者反応を見ながら検討し、更新ペースと読者さんの読むスピードが噛み合っていないと判断。


更なるクオリティアップを図るためです。


そして、今まで指一つで五年構想し、書いてきた本作をiPadのキーボード執筆へと移行します。


私はブラインドタッチが出来ず、数分に一回打ちたいアルファベットを見失うほど下手ですが、己の成長のため決意しました。


執筆スピードは落ちますが、丁寧に物語を編み上げていきます。宜しくお願い致します。

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